ドールズフロントライン ~ネゲヴちゃんの新婚日誌~   作:弱音御前

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ちらほらとセミが鳴きだして、暑くなりはじめた今日この頃。みなさん、いかがお過ごしですか?
当方はもうダメです。暑いのは苦手なもので。

ネゲヴちゃんの休暇のお話、お楽しみいただけてるでしょうか?
何事もなく過ぎていく日々なので、ちょっと退屈かもしれないですが・・・
適度にくつろぎながら読んでもらえたらいいなぁ、と思っています。

それでは、今回もどうかごゆるりと~


ネゲヴちゃんの新婚日誌 3話

 ごきげんよう。私はネゲヴ。巷では製造率が低いと噂のスペシャルな戦術人形よ。

 上層部からのご褒美として、長期休暇をもらった私たち一同は優雅なお休みを満喫していた。

 1日目、2日目、と私は指揮官と過ごす甘い一時を心ゆくまで堪能。メンタルまですっかり

トロけていそうなほどである。

 ・・・え? なに? 初日から見てるけど、あまり甘々に見えない?

 いいの! 私にとってはスィ~トな毎日なの!

 では、ぐうの音も出ないほどの甘い本日の一日をとくとご覧いただこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日目 午後

 

「そちらのチームが負けた理由。その大部分がアナタにあるという事、ちゃんと理解して

いらっしゃいますの?」

 

 苛立ちを隠そうともしないタボールのトゲトゲしい言葉が響き渡る、休暇3日目午後の

模擬訓練ルーム。

 

「はい・・・把握しています。申し訳ありません、タボール」

 

 その言葉を向けられたファマスはすっかり委縮してしまって、仁王立ちのタボールに向け、

ただ頭を下げて謝る事しかできないでいる。

 

「なら、先ほどの戦闘で自分のどういった行動が致命的だったか、私に説明していただけます

こと?」

 

「それは・・・えっと・・・」

 

 一方的な会話のやり取りを、私を含めた6人は傍で佇んだまま見守る。

 まだ口を挟むタイミングではない、と考えているのはみな同じようだ。

 さすがに3日間もダラけたせいで、そろそろ身体が落ち着かなくなってきたな~、という

ことで、私が模擬戦闘訓練を提案したのがこの状況の始まりである。

 私と特に仲の良いヤツ、及び、休みなのに訓練なんてしたがる物好きなヤツを募ったら、

私を含めて8人も集まってくれたので4対4のチーム戦とした。

 私が率いる〝アネモネ小隊〟はSAT8、ファマス、ヴェクター。

 MG4が率いる〝ベゴニア小隊〟はウィンチェスター、タボール、UMP9。

 普段の戦績を鑑みて、ちょうど良いバランスの戦力に纏められたと思う。

 そうして、コンベアや配電盤などの機械設備満載の廃工場を舞台に殲滅戦がスタートしたわけ

である。

 結果はタボールが言っている通り、ベゴニア小隊の勝ちで終わった。

 戦闘の内容はワンサイドゲームなどでは決して無く、お互いに同程度の消耗度で展開していった良い戦いだと私は見ている。

 ・・・ただ、アネモネ小隊のメンバーの脱落にファマスが絡みまくっていたのがちょっと

マズかった。

 最近では練度も上がってきたとはいえ、今回はベテラン揃いという事もあり、ファマスには少しツラい戦いだったか。

 それでも、自分にできる事を考え、行動し、戦力として活躍してくれていた。

 みんなそれが分かっているから、ファマスの事を責めたりはしない。むしろ、この経験が彼女の糧になってくれればそれでいいと思っている。

 なのに、タボールの奴ときたら、勝ったチームのくせにファマスに食らいついて全く離そうとしないのだ。

 

「ちゃんと自分の戦力を鑑みて動く事ですわ。これが実戦であったなら、指揮官様に眼もむけられない事態になっていたという事をお分かり?」

 

「はい・・・申し訳ありませんでした」

 

 タボールもファマスの事をイジメようとして噛み付いているわけではない。彼女なりに思うところがあってこういう風に言っているだけなのだ。

 しかし、これ以上は本当にイジメになってしまうので、そろそろ口を挟んだ方が良さそうな

タイミングだ。

 

「まあまあ、反省会はこれくらいにしましょうよ」

 

 とか思っていた矢先にSAT8が2人の仲裁に入ってくれた。

 

「私、夕食にピザを焼こうと思っているんですが、みなさんもご一緒にいかがですか?」

 

「せっかくですけど、そんな気分ではありませんので私はお暇させていただきますわ。

御機嫌よう」

 

 SAT8がやんわりとまとめてくれようとしてくれたのに、タボールはそんな彼女の気遣いを蹴っ飛ばすと、踵を返し、つかつかと歩き出してしまう。

 いくら出身が同じで仲の良いタボールといえど、この態度には少しだけ腹が立つ。

 

「ちょっと、タボール。いい加減に」

 

「それじゃあ、私達とご飯に行こうよ。副官のチームに勝った祝勝会だよ!」

 

 話をしている私を無視して、UMP9がいつもの無邪気さでタボールに飛びつく。それと

タイミングを合わせたかのように、MG4とウィンチェスターが私に歩み寄って来た。

 

「少し言いすぎな点はありますが、タボールにも悪気は無いのです。後で角が立たないように注意しておきますので、私に任せてもらえないでしょうか?」

 

 優等生MG4にそんな風に言われてしまい、温まっていた思考が一気に冷える。

 周りがこんなに冷静でいるのに、私だけイラついてしまったのは副官としてちょっと情けない事だった。反省。

 

「ん・・・分かったわ。あのワガママお嬢様の事、お願いね」

 

「ありがとうございます、副官。ファマス、以前同じ部隊で任務に就いた時よりも良い動きができるようになりましたね。次に一緒に戦える時を楽しみにしています」

 

「は、はい! ありがとうございます! 頑張ります!」

 

 優しく微笑みながら言葉をかけてくれるMG4に向けてファマスが深々と頭を下げる。

 そういえば、MG4がこの基地に着任したての頃は今のファマスみたいだったな~、なんて

しみじみと思い耽ってしまう最古参のワタシ。

 

「ステージに置かれていたオブジェクトを利用して戦闘を優位に進めていたね? 良い戦い方だったわ」

 

 ぐっ、と親指を立てて見せるウィンチェスターおなじみの仕草に釣られてしまったのか、

ファマスも親指を立てて返す。その様子があまりにも似合わなくて思わず吹き出しそうになってしまった。

 こういう天然なところが可愛らしいくて、ついファマスの事を構ってあげたくなってしまうのである。

 

「私たちは4人で夕食に行きますので、ピザはまた次の機会に誘ってくださいね、SAT8」

 

「は~い。みなさん、お疲れさまでした~」

 

 ひらひらと手を振って、SAT8はMG4達を見送る。

 

「私も失礼するわ。今夜は先約があるの」

 

 MG4達が部屋を出ていくタイミングを待っていたかのように、ヴェクターが静かに歩き出す。

 

「あ、あの! 私の反応が遅れたせいでヴェクターさんに火力が集中してしまって・・・申し訳

ありませんでした」

 

「前衛が私のポジション。火力が集中するのは当たり前の事よ。いちいち頭を下げる必要なんて

ない」

 

 けっこう辛辣で有名なヴェクターがファマスに対してこれくらいしか言わなかったのだ。つまりは、ヴェクターも少しは納得できるくらいファマスの練度が上がっている何よりの証拠なのである。

 

「あらぁ、それは残念です・・・。 お2人はどうでしょうか?」

 

 5人が部屋を出ていき、残ったのは私とファマスとSAT8だけ。ちょっと寂しい人数ではあるが、今夜は指揮官と約束をしているわけではないので私はお呼ばれされても良いかなと思っている。

 なにせ、SAT8の自家製ピザは基地内で有名になっているくらいの美味なのだ。トマトソースを隠すようにチーズで覆われたマルゲリータピザの、あの味を思い出すだけでつい涎が垂れてしまいそうになる。

 

「えっと、私はぜひお呼ばれされたいと思っているのですが・・・」

 

 言って、ファマスが私に視線を向けてくる。

 SAT8の好意を断れないが、かといって自分1人では寂しいので私の出方を伺っている、

といったところなのだろう。

 そもそも、もう夕食はピザにすると決定していた私であるが、こんな不安げな表情を向けられて知らぬフリを出来るほど私は冷血な人形ではない。

 ファマス・・・可愛いヤツめ。

 

「ええ、私もご馳走になろうかしら」

 

「それは良かったです~。今日は好評のマルゲリータと新開発のテリマヨコーンを作ろうと思ってたんです。ぜひ感想を聞かせて下さいね」

 

 なんだろう、その異国の呪文のような名前のピザは?

 とはいえ、ピザマイスターであるSAT8の作るピザにハズレなどあろうはずもないので、心配は無用である。

 そうと決まれば、さっさと訓練場の後片付けを済ませてSAT8の部屋に向かう。

 道すがら、指揮官に夕食は済ませて帰るという旨の連絡も忘れずに入れておく。どうせなら

指揮官も呼んでしまってもいいかな? とも思ったが、今回は戦術人形水入らずという方針にしておいた。

 SAT8の部屋に増設されていた超本格的なキッチンテーブルと竈に驚いたり、頭上で高速回転しながら広がっていくピザ生地に目を輝かせたりしているうちに、ファマスの表情にもいつもの

笑顔が戻ってきていた。

 ・・・しかし、それはやはり私たちに気を遣ってのものだったようである。

 ピザ生地を竈に滑り込ませると、SAT8は焼き上がるまでつきっきりで火の番をするとの事なので、私とファマスは先にリビングで休むことに。

 ジュースが注がれたグラスを煽って一息。それからファマスに目を向けてみると、彼女の顔には再び暗く沈んだ表情が張り付いている。

 どうやら、真面目な性格をしている娘というのは立ち直るまでが難しいものであるらしい。

 

「まだ模擬戦の内容に納得いってないの? 昨日の今日でいきなり強くなれるようなヤツなんて

いやしないんだから、みんなアナタみたいに一歩ずつ着実に進んできたのよ」

 

 もちろん、中には飛びぬけた強さを持つ人形も存在する。例えば、そう、戦闘のスペシャリストであるこの私のように。

 ただ、話の腰を折りかねないのでそれは言わないのがお約束だ。

 

「自分の戦闘能力に関してはもう納得ができています。私がこれまで以上に研鑽を積んでいけば

良いだけの話ですから」

 

「んじゃあ、なんでそんなシケた表情してるのよ?」

 

「これは・・・先ほどの件でタボールに心底嫌われてしまったのではないかと心配になってしまっていて・・・」

 

 自分の事というよりも相手の事で真剣に悩んでいるところなんかが、いかにも彼女らしいところである。

 

「以前、タボールと仲良くなってみてはどうか、という提案を私にしてくれたことを覚えていますか?」

 

「うん、そんな事も言ったわね」

 

「それ以来、頑張って話しかけてみたり食事に誘ってみたりと試みていたのですが、あまり好意的ではない様子だったんです。それでさっきのように言われてしまったので。・・・はぁ~」

 

 私だって、2人は絶対に気が合うという確信があって言ったわけではない。お互いにブルパップ式だし、図鑑ナンバーも・・・みたいな軽い気持ちで薦めてみただけだ。

 どうしても噛み合わない相手だというのなら、無理して仲良くなる必要なんてない。

 変ないざこざを持ち出されるのは副官である私としてもノーサンキューだ。

 しかし、相手が機嫌を損ねて出ていってしまった事を気にするような娘だ、何らかの手応えを

感じているからタボールを気にかけているのだろう。

 ファマスなら上手くやってくれるだろうと信用できるので、私が2人の事をとやかく言う必要もない。

 

「副官はタボールとどうやって仲良しになったのですか?」

 

「私たちは出身が同じだからね。自然と一緒にいる事も多かったから、それでなんとなく仲良くなってたって感じ」

 

 ファマスはタボールが自分を避けているという風に話していたが、正確には、あの娘は銃としての年式が古い相手に対して素っ気ない態度をとる傾向にある。

 傍から見ればそれは、最新式という自分の肩書を利用して相手を見下しているようにしか見えないのだろう。

 でも、決してそうではないと私は声を大にして言える。

 最新式であるからこそ、他の人形達よりも一層に堂々と、一層に活躍しなければならない。

そんな重圧を勝手に感じて、それ故のあんな態度なのだ。

 なにも、自分で自分の生活を窮屈にすることなんてないのに。生真面目さでいえば2人は同じ

くらいのレベルで、本当に気が合うんじゃないかと思える。

 

「あんな風に言われたからって怖気づかないで、今までと同じようにあの娘に接してあげて。そうすれば、あの娘の方から寄ってきてくれるようになるわよ」

 

「・・・・・・ありがとうございます。副官の期待に沿えるよう頑張ります! 自信はありませんが」

 

「アンタはやればできる娘なんだから、もっと自分に自信を持ちなさいよ。そういうの、アンタの悪いところよ?」

 

「ぁ、はい・・・善処します」

 

 一旦持ち上げてから落としてやったことで、またしょぼくれるファマスだが、その表情には先ほどのような陰りは見えない。

 どうやら、副官として的確なアフターケアをしてあげられたようで私もご満悦である。

 

「もうすぐ焼き上がりますので、テーブルの支度をお願いしても良いですか~?」

 

「はい、お任せください!」

 

 SAT8の言葉に機敏に反応してファマスが立ち上がる。

 私は焼き上がりのピザがテーブルに運ばれてくるまでゆったりくつろぎつつ、グラスに注がれたジュースをクピリ。

 

「いよぅ、大将! もう焼き上がってるか~い?」

 

 そんな矢先、突如として部屋にやってきた闖入者・・・もとい、指揮官の声を耳にして、驚きのあまり口からジュースを吹き出してしまう。

 同時に鼻からもちょっと出ちゃったせいで、鼻がツ~ンとして涙が滲んでくる。

 

「いらっしゃいませ、指揮官様~。もう少しですので、お席について待っていてくださいね~」

 

「そんなツレないこと言わないで、お誘いしてくれたお礼にちょっとくらい手伝わせてよ~。

ああん、もう! サっちゃん髪モフモフでき~も~ち~い~♪」

 

 サっちゃん、基、SAT8が指揮官にもお誘いをかけていたとは知らなかった。食事は人数が多いほど良いものだが、よもや、誓約を交わしている私のすぐそばで他の娘とイチャつくとは良い

度胸だ。

 

「うふふ。こんな私は好きですか~?」

 

「スキスキ大好き~!」

 

 あぁ、本当に良い度胸してやがる。

 

「あ、あのあの! どうか落ち着いてください、副官! せっかくの会食なのですから、ね?」

 

 立ち上がり、ゆらゆらとキッチンに向けて歩みを進める私をファマスはうろたえながらも

宥める。

 自分でもなんとなく分かるが、きっと今の私は目に見えるくらいのに濃い憎しみのオーラを纏っている事だろう。

 

「す~は~す~は~。髪の毛イイ匂い~・・・・・・」

 

 SAT8の大ボリュームな髪に顔を埋めて恍惚の表情に浸る指揮官が、ふと、キッチンの向こう側に立っていた私に気が付く。まるで、人間の接近に気が付いた猫のようにピタリと体が固まった。

 そうそう、それくらい戦慄してくれなければ、私がわざわざ怒りを露わにしている甲斐が無いというものだ。

 

「ハロー、ネゲヴちゃん♪ 今夜はお外で食事をとるって言ってなかったっけ?」

 

「そうよ。だからここにいるんだけれども?」

 

 何事もなかったかのように笑顔で挨拶してくる指揮官に向けて私も笑顔で返す。

 

「あらあら? お2人とも、もうすぐお食事なのにケンカを始めてはダメですよ~」

 

「そうだそうだ! 少しサっちゃんと仲良くしたからってそんな怒ることないじゃんか!」

 

「は?」

 

 SAT8を盾にしてイキがる指揮官をジロリと睨みつけてやる。

 ここが基地内で私たちは銃器を使えないという事で随分と強気なようだが、これは少しだけ思い知らせてやる必要がありそうだ。

 

「助けて、サっちゃん! 鉄壁理論アクティブ!」

 

「あっそ。シールド展開してんなら、遠慮なくやっちゃっていいわよね?」

 

 そうして、割といつものようにああでもないこうでもないと口論を始める私達。

 そんな私達の様子を初めはオロオロしながら傍観していたファマスだったが、しばらくしたところで、それがちょっとした戯れだと気付いてくれたのか、少しづつ笑みを零してくれた。

 私も指揮官も、それが確認できればもう十分。焼き上がっていたピザが冷めないうちに、揃ってなんとなく示し合わせ、口論を綺麗に締め切った。

 こんなめんどくさいマネをしてファマスを宥めてあげるなんて、指揮官はバカみたいに人が良すぎる人間である。

 ・・・まぁ、私も一緒になってやってたんだからヒトのこと言えやしないか。

 

 

 

 PS SAT8が焼いた新作のピザはそのあまりの美味しさに満場一致でグランドメニューに加えられましたとさ。

 




当方の過去作を読んでいただいている方はお気づきと思いますが、別支部のファマスとタボールのやり取りですね。
やはり、この2人がいないと気がノらないというかなんというか。
今後の展開もちゃんと考えていきたいところですね。

それでは、来週の投稿もどうかお楽しみに。
弱音御前でした~

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