ドールズフロントライン ~ネゲヴちゃんの新婚日誌~   作:弱音御前

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最近はマンイーター(鮫ゲー)で獲物を食い散らかす日々を送っております。
どうも、弱音御前です。

ネゲヴちゃんのお話も終わりに近づいてきました。
何気ないお話の内容で進めてきた今作、少しでもお楽しみいただけてればいいな~と思います。
それでは、今週もどうかごゆっくりと~


ネゲヴちゃんの新婚日誌 5話

 え~・・・皆様、ご機嫌いかがでしょうか? 私、戦術人形のネゲヴと申します(ペコリ)

 此度、7日間の連休を与えられた私達は各々、初めての休暇を満喫してきました。

 楽しい日々を過ごす者もいれば、私のようにやらかしちゃった者もいるわけで・・・

 今回は反省の意味を込め、こうして自重している次第です。

 長々とした前説もなんですので、連休5日目の様子をどうぞご覧くださいませ(ペコリ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5日目 夜

 

 カウンター席に腰かけ、今日一日の疲れを吐き出すように小さく息をつく。

 スプリングフィールドのカフェは休暇中の特別仕様としてバーに装いを変え、いつも以上の

賑わいを見せている。

 すでに出来上がっているヤツらも何人かいて少々騒がしさを感じるが、せっかくの休暇なの

だからこれくらい羽目を外してくれたって構わない。

 むしろ、その方が私の気分も無理やり引っ張られてくれるから都合が良い。

 

「いらっしゃいませ」

 

 私の来店に気付いたバーテン姿のスプリングフィールドがお手拭きを私の目の前に置いてくれる。

 

「いえ、どうぞお構いなく」

 

「ふふ、お構いしなければ店主の意味がありませんよ。昨日の事はもうあれで終わりですので、

どうかお気になさらず」

 

 スプリングフィールドの言う通り。昨日の事件がフラッシュバックしてしまって、私はつい

へりくだった言い方をしてしまった。

 彼女が昨日の事を気にしていないというのはその通りかもしれないが、私まで気にしないで済むかというと、それは無理な話だ。

 あんな失態を昨日の今日ですぐに忘れるなんて・・・ムリ。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

「ん~、いつものでいいわ」

 

「ミルクのチョコレートミックスですね。承りました」

 

「言わんでいい! 言わんで!」

 

 スプリングフィールドが復唱したせいで私の傍に座っている娘達が反応して、お子ちゃまとか、甘ちゃんとかヒソヒソ話している。

 バレていないと思ったら大間違いである。休暇が明けたら、指揮官には内緒でお前ら全員の査定を下げてやる。

 

「いえいえ、オーダーの確認は大事ですから。ジルちゃ~ん。3番のネゲヴさんにミルク

チョコレートお願~い」

 

 絶対に昨日のこと気にしてるよね。その復讐だよね、これ。

 指揮官がどこからかいつの間にか連れてきた、無口な紫髪のバーテンがグラスを私のもとへ

持ってきてくれる。

 グラスをごくりと煽って大きく一息。お気に入りを口にして少しは気が落ち着いたが、でも、

ブルーな気分である事には変わりない。

 本当は、今日は指揮官と一緒にお買い物に出る予定だったのだ。

 しかし、昨日の件・・・楓月ストーキング事件を起こしてしまった罰として予定はキャンセル。私は1人で謹慎という事と相成った。

 指揮官もスプリングフィールドも私を散々に叱って満足したのか、そこまですることはないと言ってくれたのだが、そのお言葉に甘えてはスペシャリストの名が廃るというもの。

 本日のコレは私が自身に化した罰なのである。

 指揮官と2人きりのお出かけを楽しみにしていた私だ。今日一日、ずっと憂鬱だったのは

言うまでもない。

 ・・・ただ、いつまでもしょぼくれて1日を棒に振るのは愚かしい。

 今日、指揮官と一緒に買い物に行ったときに実行しようと思っていたことを少し違うカタチで

実行してみたのだ。

 

(ん~・・・選んでみたはいいけど、こんなので喜んでくれるかな?)

 

 私の上着のポケットには、苦心して選んだ指揮官へのプレゼントが入っている。

 本当は指揮官に何が欲しいのか聞いて、その場でプレゼントしてあげようと考えていたのだ。

 それを、指揮官が何を欲しいのか自分で考えて自分で選んだ。

 買ったときには、これで大丈夫だろうと腹を括ったのだが、時間が経つにつれて本当に良かったのだろうか? という不安が段々と募ってきてしまった。

 そうして、ついに自信も無くなってしまい、渡すタイミングも見失ってしまったのだ。

 ここに私1人でやってきたのも、指揮官から逃げてきてしまったという事実に他ならない。

 こんなにも臆病な自分が本当に恨めしい。

 

「こんばんは~、春ちゃん。お~! 夜のお店もすっごい賑わいだね!」

 

 コロンコロン、と店の入り口ドアのベルが鳴る音に混じって指揮官の声が耳に届く。

 こんな喧騒の中でも、指揮官の声だけはどれだけ小さくたって捉えられる私である。

 

(やばいやばい)

 

 今夜は基地に在籍している数の半分くらいの人形がこの店に来ているのだ、指揮官が来るかもしれないというのは予想していた。

 

「グッドイブニング、愛しのマイシスター達! 今夜は特別に私の奢りだ、存分に楽しむが

よいぞ!」

 

 人形達の大歓声に包まれ、指揮官は堂々とした歩みでカウンター席に近づいてくる。

 指揮官が来てしまった事を想定して入り口付近から見えない位置に座っていたのだが、念のため、カウンター席からも完全に死角になる一番奥、壁際のテーブル席にこっそりと移動する。

 途中、通り際の席に座っている娘達に不思議そうな目を向けられたが、酔っぱらっているので

どうせすぐに忘れるのだ。気にしない。

 

「いらっしゃいませ、指揮官様。あのような事を言って良かったのですか? 相当なお勘定になってしまいますよ?」

 

「へーきへーき。この前のイベント任務で臨時ボーナス入ったし、私じゃあロクな使い道なんて

ないんだし」

 

 遠目で覗き見る限り、指揮官はいつも通りな様子である。

 勝手に昨日の事を気にして指揮官から逃げ隠れしている私がちょっと惨めだ。

 

「ご注文は何になさいますか?」

 

「ん~・・・リンゴジュース。あと、ネゲヴが来なかった? 一緒に連れてきてほしいな~」

 

「ネゲヴですか?」

 

 考えるフリをしながらスプリングフィールドが私にチラリと視線を向ける。私の位置は

カウンターから死角になっているが、仕切りやラックの隙間、それこそ針の穴を通すようなラインで彼女と目が合う。

 

(黙ってて! 頼む!)

 

「来店された様子はありませんよ」

 

 アイコンタクトが成立し、スプリングフィールドが話を合わせてくれた。情けない事だが、また彼女に借りが一つできてしまった私である。

 

「そっか。もう気にしなくていいって言ったのに。しょうがない娘ね」

 

「ネゲヴなりのけじめというものでしょう。気が済むまで好きにさせてあげればいいですよ・・・と、リンゴジュースお待たせいたしました」

 

「うん、ありがとね春ちゃん」

 

「お疲れ様です、お姉さま! かんぱいをしに来ましたよ~」

 

「えへへ、41ちゃんに連れられて私も来ちゃった」

 

「おっと? こんな時間にバーに来ちゃったのかい、マイ・リトルシスター。そんな悪い娘達は・・・私が美味しく食べちゃうぞ~!」

 

 指揮官のもとにG41とUMP9が加わり、店内の喧騒に混ざっていく。

 周囲の空気に引っ張られて自分の気分も少しは晴れるだろうかと思ったが、やっぱり来なければよかった。

 指揮官と楽しそうにしている周りの娘達が羨ましく見えてしまって、自分がどんどん惨めになっていくだけだ。

 

(これ飲んだらどっかで頭冷やしてこよう)

 

 さっさと飲んでお暇しようと決心するが、こんな時に限ってミルクはキンキンに冷えているしチョコレートの比率が多くて甘いしでなかなか喉を通ってくれない。

 ゴクリと煽っては喉を落ち着け、を繰り返してようやくグラスの底まであと少し、というところ。

 指揮官の周囲がまた少し騒がしくなった事に気が付く。

 

「いよぅ、指揮官! お言葉に甘えてご馳走になってるぜ~」

 

「ど~おし~! ハ~ラショ~!」

 

「16ちゃんにモシンちゃん、おっつかれ~。随分と楽しんでいるみたいでなにより」

 

 妹達とイチャついていた指揮官に絡んできたのはM16とモシンナガンの酒飲み筆頭2人組だ。

 2人揃ってジョッキとショットグラスを手にすっかりご機嫌な様子だが、足取りはしっかりしているようなので、まだまだこれからが本番なのだろう。

 

「ねえ、同志? 私ね、こんな優秀な指揮官のもとでお仕事ができて、ほんっと~に幸せな人形だと思ってるのよ~」

 

 酔っ払い2人の乱入で少し怯えてしまった41と9を自分の右側、酔っ払い達とは反対側にさりげなく避難させるあたり、本当に指揮官は優秀な人だと思う。

 

「そうそう! んで~、そんな優秀な指揮官様のもっとカッコいいとこ見せてもらいたいな~

って2人で話してたんだよ」

 

「? というと?」

 

「この場で見せるカッコいい事なんて決まってるじゃないの。コレよ、コレ」

 

 指揮官に寄り添うように座ったモシンナガンは、テーブルに置いたショットグラスを指で軽く

弾きながら答える。

 つまり、指揮官と飲み比べをしたいという事か。

 

「あ~・・・ごめんね2人とも。私、お酒は飲まないのよ。その代わりにこのグラスで乾杯って

ことでひとつ」

 

 お酒を飲めないというのは初耳だ。思い返してみれば確かに、指揮官がお酒を飲んでいるところを見た記憶はない。

 飲みそうな性格してるので、ちょっと意外な事実である。

 

「せっかくの席なんだから、そんな硬いこと言わないで。ちょっとだけ、先っちょだけだからいいでしょ? ね?」

 

「なんだったら、あたしが指揮官用に弱めの酒を作ってやるからそれを飲めばいいさ。

えっと・・・スプリングフィールド~。ウィスキーとテキーラあるか~? ボトルで」

 

「もう、16ったら。その2つを混ぜたら薄まるどころか強烈なのが出来上がっちゃうわよ~」

 

「あぁ~そっかそっか、飲めない奴には余計キツイ酒になっちまうか~。にゃははははは~!」

 

 2人ともいかにも酔っ払いらしく、何が面白いのか分からないことでゲラゲラと笑っている。

 指揮官はそんな2人に付き合って笑顔でいるが・・・私は指揮官を小バカにしているような2人の態度がちょっと気に喰わない。

 

「ほらほら、指揮官様がご迷惑していますよ。ウザ絡みもほどほどにしてくださいね2人とも」

 

 そう言ってスプリングフィールドは2人の前に透明の液体が注がれたグラスを置いた。

 いい加減にしなさい、という意味を込めた冷たい水である。

 

「オーケーオーケー、分かったよ。邪魔したな、指揮官」

 

「今度、気が向いたらお相手して頂戴ね、同志」

 

 スプリングフィールドにまで文字通り水を差されてしまっては敵わない、と2人は指揮官のもとから離れていく。

 何事もなかったことを遠目に確認できて一安心・・・とはいかなかった。

 酔っ払い2人組は次に絡む相手を求め、キョロキョロ周囲を見渡しながら私の方に向かって歩いてくる。

 そうして、案の定である。

 

「おや? 副官じゃないか。こんな隅っこボッチで何してんだ?」

 

 出来るだけ関わらないよう目を逸らしていたが、私を見つけるやM16に絡まれてしまう。

 

「同じお店にいるのに、なんで同志と別の席に? 喧嘩でもしたのかしら?」

 

「そんなんじゃないわよ。一人で飲みたい気分なだけだし」

 

 負け惜しみを言ってグラスを煽る。

 

「んな甘っちょろいもん飲んでないでよぉ、アタシ達に付き合ってくれないか?」

 

 4人かけのテーブル席に1人で座っていた事が災いし、酔っ払い2人は私の正面に鎮座。早いところ撤収しようとしていた矢先に全くもってツイていない。

 

「これを飲んだらお暇しようと思ってたの。悪いけど、他をあたってもらえる?」

 

「ツレない事いうなよぉ~。さっき、お前さんの〝コレ〟に振られたばっかりでさぁ」

 

 小指を立てながら私に食い下がるM16。

 

「そうそう。そんな硬いこと言わないで、ちょっとだけ、先っちょだけだから。ね?」

 

 さっき指揮官に言ってたのと同じことをのたまうモシンナガン。

 これだから酔っ払いの相手はイヤなんだ! 酒臭いし!

 

「もう~、戦闘部隊のトップ2名が揃いも揃ってお酒も飲めないなんて、恰好が付かないと思わないのかしら?」

 

 いや、別に酒を飲める飲めないは関係ないと思う。

 思うのだが、指揮官の事を舐めているような言い方が私はやっぱり気に入らない。

 

「副官の~♪ ちょっとイイとこ見てみたい~♪」

 

 2人が私を焚きつけているのは明白だ。こんな挑発に乗るなんて、それこそ愚か者のやる事。

 そして、私は愚か者で構わない。大好きな指揮官の事を小バカにされっぱなしで黙っていろだなんて、私にはどうしたって無理な事だ。

 

「分かったわよ! 付き合ってやるわ! その代わり、やるなら飲み比べ勝負よ」

 

「そうこなくっちゃね! んで、勝負ってことは何かを賭ける?」

 

「私が勝ったら、さっき指揮官に絡んだ事をちゃんと頭下げて謝ってきなさいよね」

 

「? 私達、何か失礼な事を同志にしたのかしら?」

 

「ん~・・・覚えてねえ。でもまあいいさ、それで受けて立つぜ」

 

 自覚してないというのがまた失礼な話だが、行かせる前に私がちょっとばかり説教してから

行かせればいいだろう。

 

「じゃあ、アタシ達が勝ったら、そうだな~・・・それ貰うぜ」

 

 M16が私のおでこの辺りを指さす。

 なんだ? 私の首でも欲しいというのだろうか? と、指さす先に手を触れてみてM16が何を欲しがっているのかが分かった。

 私、ネゲヴの象徴ともいえる六芒星の髪留めである。

 

「私達、飲み比べで負かした記念に相手のシンボルを集めてるのよ。副官のその髪留めなんか

とってもちょうどいいわね」

 

 打ち取った敵将の首を・・・みたいなものか。

 これくらい、くれてやることになったって構わない。スペアがメンテナンスルームに転がってるだろうし、無かったらダミーから剥ぎ取ってやればいいんだ。

 

「良いわよ。そっちが勝ったらあげるわ」

 

 髪留めを外してテーブルに置く。

 

「オーケー、早速始めるか。ショットグラスを3人で同時に飲み干していって、先にダウンした奴の負けだ。こっちはアタシとモシンナガンのどっちかがダウンした時点でネゲヴの勝ちってことで良いぜ」

 

 M16はテーブルに小さなグラスを3つ並べると、懐から取り出した中程度の大きさのボトルの中身を注いでいく。

 薄い琥珀色の液体が表面一杯まで注がれ、グラスが私の正面に置かれた。

 

「・・・」

 

 さっきは頭がヒートしていて大口を叩いてしまったが・・・実は私はあまりお酒を飲めない。

お酒の苦い味が嫌だし、甘く調合したお酒であっても、そもそも、アルコールへの耐性が低いようですぐに酔ってしまう。

 この事は口外していないので、知っているのは私と仲の良い娘達と指揮官だけ。M16とモシンナガンは知らずに私に絡んでしまったのだ。

 そんな私がこの基地でトップクラスの酒飲みとやり合おうというのだから、結果は火を見るよりも明らか、というやつである。

 

「は~い、まず1杯目~」

 

 モシンナガンの合図で3人揃ってグラスを持ち上げる。

 これがどれだけアルコール度数の高い酒なのかは知らないが、もう匂いを嗅いでいるだけでちょっと頭がクラクラしそうになる。

 

「「「かんぱ~い」」」

 

 キィン、と3つのグラスが小気味良い音を鳴らす。

 2人がグラスを引いた流れのまま一気飲みしたのを見届け、私も意を決してグラスを思いっきり傾けた。

 

「~~~~~~っ!」

 

 常温の液体を飲んだはずなのに、身体の中を流れていった道筋が灼けるように熱い。

 味だってやっぱり苦いしなんかクスリっぽい風味がするし、私はどうしたって好きになることができない飲み物だ。

 

「うぇ~、何これ? 鉄血人形の冷却液だってもっと上品な香りよ?」

 

「いやぁ~、これが何度も飲んでるとクセになってくるんだよ。今じゃあすっかりアタシの常備酒さ」

 

 2人はまるで水でも飲んでいたかのようにケロッとしているが、私はまだ声も出せない状況である。

 なんだか視界もすでに霞みはじめているように感じるのは気のせいだと思いたい。

 

「はい、2杯目~・・・って、大丈夫かよ、ネゲヴ?」

 

 次をグラスに注ごうとしたM16に頷いて返す。

 

「16が変な酒を飲ませるからよ。別のお酒に変えましょうか? ウォッカとか」

 

 それ知ってる。かなり度数の高い酒だ。今飲んだ奴よりも段違いに強かったら困るので、

とりあえずモシンナガンの言葉には首を横に振って答えておいた。

 

「吐かれたら困るから、あんまり強がるなよ?」

 

 心配してくれつつも2杯目を注がれる。

 合図と共に2人に合わせてそれも一気に飲み干すが・・・

 

「はふぅぅぅ~~・・・・・・」

 

 もうどうしたって限界だった。

 頭の中がぐわんぐわんとシェイクされるような感覚に耐え切れず、おでこをテーブルへと着地させる。

 木製のテーブルの柔らかな感触とヒンヤリした温度がとても心地良い。

 

「お~い、ネゲヴさ~ん? 大丈夫ですか~?」

 

「ん~、平気~。まだやれるお~」

 

 頭をツンツンしてくるM16に言葉だけ返すが、頭はすでに鉛でも詰められたかのように重くて上がらない。

 

「もうダメね、これは。お酒弱いのなら無理に付き合わなくて良かったのに」

 

「せっかくの席だからネゲヴも気を遣ってくれたんだろうさ。でもまあ、勝負っていう話だったから、もらうもんはキッチリともらっとくぜ?」

 

 睡眠薬でも入っていたんじゃないかと疑うほど酷い眠気に襲われ、勝負続行の意思を示すことも出来ない。

 私の負け。

 指揮官の為に勝負に挑んだというのに、私は手も足も出せずに敗北を喫してしまった。

 なんて情けない。もう、いっそのこと回収分解されてコアから出直さざるをえない。

 

「ちょいちょい! どうしたのよ、ネゲヴ?」

 

 などと、私が酷い焦燥感と吐き気と戦っている最中、耳鳴りに混じって指揮官の声が聞こえた。

 私たちが騒いでいるのを感知して駆けつけてきたのだろう。

 

「いやぁ、ネゲヴが酒に付き合ってくれるって言うから飲み比べしてたんだが、もしかして、

ネゲヴって酒弱い?」

 

「ほとんど飲めないようなものよ」

 

「そうだったのね。ごめんなさい、同志。私達、そのこと知らなくて・・・」

 

「この娘がやるって自分で言ったんでしょ? あなた達のせいじゃないわ。んで、そのテーブルに乗ってる髪留めはもしかして景品のつもり?」

 

 そうだ、とM16が答えると指揮官が大きく溜め息をついたのが聞こえる。

 もう、顔を上げる力も無いので見えないが、きっと呆れた表情をしている事だろう。

 

「そんなのを景品にしたらダメよ? あなたを象徴する大事なモノなんだから」

 

 指揮官が髪留めを拾い、私の顔の横に置いてくれる。

 でも・・・こんな状態ではあるが、私はその好意に甘えるわけにはいかなかった。

 

「ぅ~~~やらぁ! これはけ~ひんで! あらしはまけたからこれをあげんの!」

 

「だからダメだっての! 大体、お酒飲めないくせになんだって賭け勝負なんてしてるのよ?」

 

「あらしはぁ! ひきかんがしゅごいんだっていうのをわからせてくってぇ~! こぉのふたりにあやまってもらおうとしたの! れも! まけちゃったろよぉ~~」

 

「な、何を言いたいのか全然分からないんだけど・・・」

 

 多少呂律が回っていなかったが、自分なりに言いたいことはしっかりまとめて言ったつもりだ。

 それがなぜ伝わらないのか?

 

「まあ、ネゲヴが酒弱だったとはいえ、ひとまず双方同意の上での勝負だし、景品は頂きたいところなのだが」

 

「そうね。いちおうこちらもリスクを背負っていた勝負なのだし」

 

「ん~・・・・・・分かった。そういう事なら仕方ないわね」

 

 指揮官も諦めてくれたのか、私の髪留めを拾うとM16とモシンナガンに手渡してくれた。

 そう。それでいい。私は負けたのだから、敗者が失うのは当然の摂理だ。

 

「はい、じゃあこれでネゲヴとあなた達の勝負は終わり。んで、次に私があなた達に勝負を申し

込むわ」

 

 そして、指揮官が何か言い出したが、もう会話の内容を理解するのも難しくなってきた。

 

「おお!? アタシ達と飲み比べしてくれるってのは願ってもない。景品はこれかい?」

 

「もちろん。私が勝ったらネゲヴの髪留めを返してもらう。私が負けたら・・・そうね、2人が

欲しいモノなんでもあげるわ。何が良い?」

 

「な、なんでもいいのかしら!? ・・・じゃあ、指輪でも?」

 

「良いわよ。2人にひとつずつあげるわ」

 

「マジか!? イイねイイねぇ! 燃えてきたぜ~!」

 

 今の会話はなんとか理解できた。

 それはちょっとヤだな、と思ったが瞼が重くて視界が段々と暗く染まっていく。

 指揮官が私の真横に腰を降ろした。

 視覚と聴覚がおぼろげになっているせいか、指揮官の香りがとても良く感じられて余計に眠気を煽ってくる。

 

「3人同時にショットで1杯ずつ飲んでいく。先にダウンした奴が負けだ。こっちは2人がかりだから、どっちかがダウンした時点で指揮官の勝ちでいい」

 

「オーケー。始める前に、もう2人ともそれなりに飲んでいるでしょ? それだと不公平だから

私も相応のアルコールを飲むわ」

 

「私たちに合わせたら結構な量を飲むことになるけど、平気なのかしら?」

 

「勝負はフェアにいかないとね。春ちゃ~ん。この店で一番強いお酒、瓶で持ってきて~」

 

 指揮官達の勝負の噂を聞きつけたのだろう、いつの間にか周囲には人だかりができていた。

 そんな見物客を縫って、スプリングフィールドが透明なボトルを1本抱えてやってくる。

 

「忠告はしましたからね。ウザ絡みはほどほどに、と」

 

 M16とモシンナガンに諭すように言ってボトルを置くと、スプリングフィールドは多くを語らずにカウンターへと戻っていった。

 

「これ、1本飲んだらちょうどおあいこになるかな?」

 

「は!? それ、〝デスペラード〟だろ? ちょうどいいどころか、アタシ達が飲んだ量の数倍に相当するぞ?」

 

 M16が言い終わる前に指揮官は栓を開けると、躊躇もせずにそのままボトルをラッパ飲みしだす。

 真正面に座る2人を含め、ギャラリーからもどよめきが上がるが、なんでみんな騒いでいるのか私にはよく分かっていない。

 ゴクリゴクリ、と勢いよく飲み込む音が止み、空っぽのボトルがテーブルに戻される。

 

「うえぇ~・・・苦いしマズイ。さぁ、これで条件は五分って事で勝負開始よ」

 

 ついに寝落ちする寸前。やっぱり私の指揮官は男らしくてカッコいいなぁ~、なんて暢気な感想を漏らして私は心地よい眠りにつくのだった。

 

 




酒飲み対決になった今回のお話。
モシンナガンとM16は当然として、ネゲヴが酒弱というのはなんとなく決めちゃいました。

次回はネゲヴちゃんの新婚日誌、最終話になります。
結局、大した展開もないですが、どうぞお楽しみに!
弱音御前でした~

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