彼女たちはドリームトロフィーを目指していた。   作:瑞華

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ウマ娘の設定に対する独自の解釈で書いたものです。
その所どうかよろしくお願いします。


小林ヨネ

 ドリームトロフィー

 それはトゥインクルシリーズで大きい足跡を残したウマ娘だけが移籍する。

 例えばホール・オブ・フェイム

 ウマ娘としての能力を開花し始めたウマ娘たちはトゥインクルシリーズでどれだけ「抜きん出た」かを競い、そこでその実力が後世代々に語り継がれるに相応しいと認められたウマ娘はドリームトロフィーで、先代の数多い強者たちと競う。

 夢のレース、そこでは自分より先にトゥインクルシリーズで名前を刻んだ、先輩となるウマ娘たちが待っている。

 スーパーカーも・皇帝も・白い稲妻も・怪物も・名優も・帝王も、そこに居た。

 ドリームトロフィーは自分の名前を出バ表に残しただけで栄誉。

 だけど私には、そんな栄誉は身の程知らずだったようだ。

 

「先生、何してるの?」

 

 今日もパソコンの前でにらめっこをしていた私に、一人のウマ娘が寄って来た。

 立場の差が有るのにも私に馴れ馴れしく近づく、このような娘たちに私は未だにどんな距離感で接すればいいのか分からない。

 

「ちょっと、昔の事考えてたよ」

「昔?またぼーっとして。それより私タイム更新したよ? どう、すごいでしょう?レコードだよ」

「それは知ってたよ」

「えぇ?じゃぁもっと褒めてよ!」

「えぇっと」

 

 こんな甘えん坊に私は何を言ってやれば良いのだろう。

 この様な場合、担当トレーナーが言うべき事を私が代わりにする事も何か引っかかる。

 もしかしたら指導方針と異なる事を言っちゃうかもだし。

 でも、この娘はまだ発展の途中だ。

 私は私に出来る事を言ってやろうと決めて口を開く。

 

「レコードを更新したのもとっても大事な事だけど、タイムよりは走りの内容も大事だよ」

「特に、最近のみたいな高速バ場だと何日でレコード更新って事も有るし、逆にどれだけ手入れよくなったとしても雨の重バ場で走る時だって有るでしょう?その時に同じ実力を出せなきゃ意味が」

「ちっ、せっかく記録に私の名前を残して来たのに。自分の記録が残ってないからって意地悪だ」

「ち、違うよ……」

 

 私が慌てて否定すると、この娘はニヤリと笑ってみせた。この娘なりの冗談だと知りながらも、私はやっぱり不器用だ。

 先生と言う肩書に、私は相応しく振る舞ってるのだろうか。

 

「栗林先生」

「な、なに?」

「今日の午後トレーニングに一緒にチェックとかしてくれる?うちのトレーナー、神戸遠征中なんだよ~うちのエースがやっとお出ましなんだよね」

「そうだ、今週末が宝塚記念だったよね」

 

 宝塚は西のグランプリ。

 府中市のトレセン学園では同然遠征になるしかない。

 いや、トレーナーと出戦する娘は月曜から行って調整中かな?

 ここ最近、この娘が私に絡んできたのはこのせいだったのかとようやく分かった。

 

「でもごめんね、先生今日は約束が有って遅くまで見てあげられないんだ」

「はい、先生は私と先約が有ります」

 

 急に会話に挟んてきた声に、私達は目を向けた。

 教室の中に一歩入って来た彼女と目が合う。

 

「わぁ、先輩!今日は久々に学校に出たんですね」

「はい、今日はウインタードリームトロフィーの出走登録がありまして」

「そんなのはトレーナーはやってくれるんじゃないんですか?」

「私のトレーナーは宝塚記念の遠征で忙しいので」

「そうなんだ。私と同じですね」

 

 久しぶりの、制服姿の彼女は大きいなカバンを持っていた。

 多分、その中には着替えの服が入ってる筈。

 外で会う時は友達だから平気だけど、こうやって学校内で合うと、なんだか変な感じになる。

 彼女は、そんな私の事に気付いたのか、ペコリと挨拶してまた教室から去る。

 

「では、仕事が終わり次第に駐車場の方へ来て下さい」

 

 

 駐車場でまた会った彼女は制服からまた何時の私服に着替えていた。

 こう見るとやっぱり大人の女性、私と同年代って実感すると共に、気まずくもなる。

 なんで私はこんなへなちょこな体なんだろう。

 

 私は彼女の車の助手席で、先の話をした。

 

「ドリームトロフィー、今度こそ優勝期待してますね」

「現実的にそれは難しいと思います」

「あははっ」

 

 彼女は何時もハッキリと言う。

 それは私とは全然違う所だけれど、違うからこそ友達で居られる気がする。

 

「でも優勝するつもりで出るんですよね?」

「それは勿論、マスターのご命令ですので」

 

 これもハッキリ答えるので、私は笑ってしまった。

 

「ブルボンさんが羨ましいです。何時も素敵で、強くてかっこいい」

「私も貴方が羨ましいですよ。私もシニアで足跡を残したかったんですが、それは出来ませんでした」

「そうですね、ハハッ」

「すみません、あまりにも無神経な事を言ってしまいました。あの菊花賞以来何年もかかってしまいましたが、ドリームトロフィーの舞台に戻れた私は運が良かった方でしょう」

 

 ブルボンさんは私の笑いを変に受け取ったらしい。私はそのつもりで言ったのじゃないのに。

 

「いいえ、私は何時も本音を言ってくれるブルボンさんが好きですよ」

「ありがとうございます、私が帰って来れたのには貴方のお陰もありました」

「いや、私は何もしてませんよ。全部ブルボンさんが頑張った事です。むしろ役に立てなくて申し訳ないです」

「そうですか、私も常に謙虚な貴方も好きです」

 

 私達は互いの為に何かをしてあげた事は無い。

 同じ世代の競争者だった私達は必然的に、奪い合う仲だった。

 でも、何て言えば良いんだろう。

 自分の為に走っていただけなのに、それが相手の為の事にもなったって言うのかな?

 何であれ、だからこそ私達はまだ友達で居られる。

 

 ブルボンさんは自分の為に走って、私の為にヒーローになってくれた。ドリームトロフィーで走る姿を見て勇気をもらった。

 私がURAからドリームトロフィーへ移籍する資格を貰って、最後にトゥインクルシリーズのファンの皆さんの声援に答える為に出た大会は宝塚記念だった。

 そこで私が足を怪我し二度と復帰できない体となった時、ブルボンさんは私のヒーローになってくれた。

 粉々になって壊れた私は二度とレースを見る事も嫌になってた。

 URAからドリームトロフィーの代わりにトレセン学園の教職を進められて、それを受け入れたのはブルボンさんが押しかけてたからだ。

 勿論、まだレース場の隣で人生を送る事になったおかげで未練がましくもなった。

 

 私だってマルゼンスキー先輩と一度は走ってみたかったのに。

 それが叶わぬ夢だって事は知ってる。

 私の足では

 

「ヨネさん」

 

 ずっと黙り込んでると、ブルボンさんの声が私の耳を叩いた。

 

「今も貴方の胸の奥では魂の名が燃えていますか? ターフの上を走りたいと」

「そ…それは」

 

 私がうじうじしてると、ブルボンさんは赤信号の前で車を止めた時、私の方を振り向いた。

 

「すみません、もう(くり)(ばやし) (よね)として生きる貴方に余計な質問をしてしまったようです」

 

 ブルボンさんの前で、私は今どんな顔をしてたんだろう。

 

「私も、もう全盛期は完全に過ぎました。私も、私だけの名前で生きる時が来たようです」

 

 ブルボンさんの口からでたその言葉に驚いて、私は何も言えなかった。

 ゆっくりと車を進め、ブルボンさんは話を続けた。

 

「また公の場にはしてませんけど、私も引退を考えています。今年を最後にするつもりでマスターと日程の調整をしてますが、こういうのはやっぱり疲れますね」

 

 なんだか、一緒なのに寂しくなる。

 ターフを去ってから長い時間が経った私にもその感情がよく伝わる。

 

「そうですか、私達の世代はもう完全にレース場を去るんですね」

「毎回自分が一番に引退するというふうな言い草だったナリタブライアンが残ってます。まだ勝利も取ってますし」

「あははっ」

「それでですが私の引退式、正確な日付はまだですが場所だけは決めています」

 

 ブルボンさんは引退という単語を口にしても平然と話を続けた。

 

「京都競馬場、そこで行われるウインタードリームトロフィー予選を選ぼうとしています」

「京都……」

 

 京都、私はその名前に固まってしまった。

 京都競馬場は私に取って多くの意味を持っている。

 何故なのかはブルボンさんも知っている筈だ。

 

「私がこんな事を言い出す自体が、ヨネさんをいじめるってのは知っています」

「よりにもよって今の時期ってのもそうですし、全部振り切ってる筈がありません」

 

 ブルボンさんは私をよく知り過ぎだ。

 何時もはどうって事ないけれどこの時期、夏が近づく事を感じると、足がしびれる。

 

「でも、ヨネさんには宝塚が残した怪我以上に、菊花賞と天皇賞で得た喜びも有るはずです」

 

 そうだった、私は淀の地ですべてを味わった。

 栄光も、悲しみも。

 淀に咲いて淀に散る。

 

「頼みがあります、ヨネさん」

「はい、何でしょうか?」

「私がもらう予選が何日かはまだ知らないので日程はまだ未定ですが、その日一緒にターフに出て下さいますか?」

「は、はい? で…でも」

「ご心配には及びません、貴方をウイングライブの舞台に出させるつもりはありませんから」

 

 私はそういう事を心配しているんじゃなのに……

 ブルボンさんは変だ。

 

「ただ、一緒に出て欲しいんです。栄光のG1勝利の喊声がまた聞きたくなりました」

 

「あの日のダービー、菊花賞の時みたいに、思いっきり私を刺し抜いて下さい」

 

「他のウマ娘達には申し訳無いですが、私の前に立ちはだかるウマ娘はだた一人だけです」

 

 

「でも私は」

 

 迷う私に、ブルボンさんは真面目な顔で変な事を言い出した。

 

「勝負服なら、まだ体型が変わってないようなので大丈夫だと思いますが」

「は、はい? その勝負服も着なきゃだめですか?」

「G1のファンファーレ響くターフに立つウマ娘たるもの、勝負服を着るのは同然の事です」

 

 ドリームトロフィーもG1だったかな?

 それでも一応引退するウマ娘が式で勝負服を着てファンの前を思いっきり走るのは知ってる。

 でも、ブルボンさんの引退式でなんで私なんかが。

 

 また一人で長く考え込むと、ブルボンさんは信号の前で立ち止まった時、私を見た。

 

「スキャンの結果、バスト・ウエスト・ヒップ、全て表立った変化なし」

「ひええええ」

「メカジョークです」

 

 ハンドルを握ったまま、ブルボンさんは空を見上げた。

 

「これからの人生、まだ決めた事は何もありません」

 

「でも、ウマ娘としての最後だけは、私が決めたようにしてもらいます」

 

「ライスシャワー、私のヒーロー」

 

「最後に、私と一緒に走ってください」

 

 そうだった。

 私はこの人に救われたんだった。

 

「ライス、お久しぶりにクリーニング屋、行かなきゃだめですね」




ウマ娘は引退後に魂の名ではなく、人間としての名前で生きるのかと、想像してみました。
ライスシャワーは「栗林 米」くりばやし よねにしてまみました。
ブルボンは「美浦野 泥」みほの なずみとか良いんじゃないでしょうかね。
ウマ娘を通してライスシャワーの事を知って、語る続けようと思います。
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