彼女たちはドリームトロフィーを目指していた。   作:瑞華

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ウマ娘の設定に対する独自の解釈で書いたものです。
その所どうかよろしくお願いします。


渡邉タカミ

 ココ最近はとっても暇でしょうがない日々でした。

 まぁーウマ娘にとって夏という季節は、もともと家でゴロゴロする暇な季節ですから、しょうがないのは承知の上ですけどね。

 下半期に目当てのG1が有って、出走する為に勝ち星稼ぎに急いでるんじゃなきゃ、夏合宿の日程以外は暇なもんです。私達ウマ娘にとっては当たり前な季節。

 けど、ターフの上を気持ちよく走るに、ぴったりな天気なら話は別です。

 パリの青空は今日も晴々で、外に飛び出したい気分になります。

 だけど、もう走らない私はそんな理由では走ったりしません。

 

「よいしょー」

 

 いつの間にか、出かける支度をしなきゃいけない時刻になりました。

 ガチの走りはしなくなったとしても、人生は止まるとこなく流れます。

 社会人は時間を常に厳守するべし、迎えに行く方が遅れるなど有ってはいけないもんですからね。

 

 私には世界制覇と言う大事な使命があります。

 私が割と早めにドリームトロフィーから引退したのは、その理由もあります。

 それは夢のレース、輝かしい道ですけど、あくまでドリームトロフィーは日本国内の大会で、世界と張り合うのは出来ません。

 私には世界に楽しい出会いが待っているんです。この世にはきっと私だけがやり遂げられる仕事がいっぱいで、それを探したい。

 ですが、ここ何年はフランスから出ていないのです。

 意外かもですけど、着実に仕事をやっていますよ?

 私は、父がアメリカで母との運命の出会いを果たしたように、世界を回りながらバリバリ働いて運命の人と出会いたいんですが……。

 気づきました? 何を隠そう、世界を制覇すると言う夢は、それが本当の目的なのです。

 世界の何処かで、私の運命の人はきっと私が来るのを待ってるんですよ。

 でもここでの日常が馴れて来てるし、似た日々が長く続いてると、ちょっと不安になります。

 たまには現役で走りを続けた方が良かったのかなーと思う時も有りますが、後悔はしません。

 車と対等の高速で走るウマ娘がターフでの走りをし続けると、怪我をする可能性もまた非常に高くなります。それを心配するお父さんに申し訳無いのも有りましたし……。

 パパは本当に過保護なんですから……私の事になると心配性です。

 まぁ、それは仕方ありません。今は今の仕事に情熱を捧げて運命の出会いまでの日を待つだけです。

 

「では、行ってきます〜!」

 

 出かける前に、留守をしてくれるマンボへ挨拶を忘れません。

 それじゃ最後に、玄関に飾ったお父さんのマスクから勇気を充電します。

 今の私は、マスクをしなくても勇気いっぱいになれます。

 

 

 まず、今日の行き先はパリから少し離れたのシャルル・ド・ゴール空港です。

 すこーし遅く出発したのですが、羽田からの11時到着の便に間に合いました。

 今日はなんと、日本から心強い仲間がひとり合流するので、そのお出迎えに参りました。

 

「スミレちゃんー!」

「名前で呼ぶな」

 

 おぉっと。

 1年ぶりに会ったスミレちゃんは、愛想のない顔で私を睨み付けました。

 久しぶりに会ったのに、いきなり怖い声で言い放つだなんて、この娘は相変わらずですね。

 

「何で怒るんですか?スミレちゃん」

「同然だろう、一度も名前で呼ばれた事の無い相手に名前にちゃん付けだ?」

 

 長く溜息をつくスミレちゃん

 

「アンタも初対面でいきなりタカミちゃんとかで呼ばれたら困るだろう、やめてくれ」

「アタシは平気ですよ?是非タカミちゃんでお呼びください!」

「ハァ……話にならんな」

 

 ほほう、スミレちゃんは以外とデリケートな性格をしてました。

 そう思っていると、スミレちゃんは腕を組んでは首を横に振りながら話を続きをします。

 

「何にせよ、私はまだ引退してないから私の事はいつも通りナカヤマフェスタで呼べ」

「スミレちゃんって名前、すっごく可愛いからワクワク期待してたのに……」

「勝手に期待しても困るだけだが。引退なんて、まだまだ先の事だ。今はやめておけ」

「はいはい、そんなにギチギチに反応するようじゃ相当引退を急かされてるようですね、Fiestaちゃん〜」

 

 まぁ、その気持が理解出来ないってのもないですし、パリジェンヌになった私のフランス語でからかってあげましたが、真剣な表情をして腕を組んだスミレちゃんはマジギレの目線を送りました。

 

「その口を叩く前に、静かにしろ」

「いやいや、先輩への態度が全くなってないのは相変わらずですね」

「誰が先輩だ」

「世界舞台の、ヨーロッパの、凱旋門賞の先輩デース!」

 

 私がそう言うと、スミレちゃん事ナカヤマフェスタは、私の腕を握って一気に関節技をかけました。

 あ、イタタタ! これはパパにも匹敵する瞬発力!

 相当痛いので悲鳴が出てしまい、降参するしかありませんでした。

 反抗的なスミレちゃんも、やっぱり可愛いですね。

 賑やかな再会もまた楽しいもんです。

 でもでも、お楽しみはここからですよ!

 

「では、行きましょう!」

「ああ、疲れたしな。宿舎はどれくらいかかるか?」

「チッチッチッー、違いまーす!決まってるじゃないですか?凱旋門賞を輝かせたウマ娘なら、まずは凱旋門に行くデース!」

「私達は観光客じゃないだろう?仕事をしろよ」

 

 ふっ、やれやれです。先が思いやられますね〜。仕事は後で良いんですよ。

 と、言うつもりでしたのに、フェスタちゃんから先に言い換えました。

 

「まず食事からな、腹減ってる。機内食、食べてから結構時間経ってるし」

 

 ほほう、これはニヤリと笑いが出ます。

 

「フェスタちゃんは食いしん坊さんですね。先行策は得意になりましたか?」

「うっせえな……コイツ」

 

 で、そのお頼みを聞き入れた優しい私は行き先を変えました。

 フェスタちゃんの願いに応じて、私達が合流するチームが正式に発足するまで二人で泊まる寮、即ち、私の家に帰り荷物だけ置いて食事にするです。

 

 そうそう、私達が合流するチームとは今年の凱旋門賞に出走するトレセン学園ウマ娘達の遠征チームです。

 今年は期待がかかる娘たちが出走を予定してますから、ナカヤマフェスタは凱旋門賞出走経験の有る上級生として、その引率かかりの学生代表です。

 一方、今の私はURA所属のインストラクターで働いてます。

 全世界のウマ娘たちが夢見る舞台であるヨーロッパ、その制覇を狙い挑戦するトレセン学園のウマ娘達をサーポートする為に結成する遠征チームを、ここパリで支援する仕事です。

 日本とは違うヨーロッパのバ場に馴染む事から始まるウマ娘たちの現地適応を、私の経験と知識を生かしてサポートします。

 先人の知恵ってもんですね。これも私だからこそ、やれる仕事ではあります。ヨーロッパ舞台で得た経験と知識は、まだ貴重なもんですから。

 これは誰でも持ってる能力では有りません。ヨーロッパのウマ娘はここをよく知っていても日本のバ場を知りませんから日本のウマ娘たちに的確なアドバイスが出来ません。

 日本とヨーロッパ、両方で活躍した優秀なウマ娘だけに出来る仕事って訳ですよ。

 

 そうです──。

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園のウマ娘の中で、世界制覇に一番近かったウマ娘

 日本で歴代最高、ワールド・ウマ娘・ランキングによるレート"134"のウマ娘

 それがアタシ、電光石火の"怪鳥"──"世界最強"エルコンドルパサー事、渡邉鷹美です。

 

 世界を走った私はヨーロッパ最高の夢と言っても良い凱旋門賞で、フランスダービーとアイルランドダービーを勝った"ブロワイエ"と張り合い、世界から日本のウマ娘としては歴代最高の評価を得ました。

 負けたんですけどね。

 もう大昔の事で自慢話だなんて、お恥ずかしい気持ちです。

 あれこれ有って、私は世界を飛ぶより走ります。

 

 パリの景色の中でフェスタちゃんとあれこれ昔話を咲いてると、昔の事で頭がいっぱいになりました。

 私が出走する為にパリに来た時は、観光とか全然出来ませんでしたからパリの景色もあやふやですけど。

 試合後の記憶で残ってるのがスペちゃんに電話掛けて泣いてたのだけなのは、やっぱり恥ずかしいから秘密にして置きます。

 それよりは楽しいお話です。

 例えば、スペちゃんのドジっ娘ぶりとかがいいですよね。

 食事中の雑談にはスペちゃんの話が打って付けです。

 

「それでですね、スペちゃんとブロちゃんの話が食い違ってて本当笑いが止まりませんでしたよ」

「そう──」

 

 スペちゃんとの思い出話をしたんですが、聞くだけだったフェスタちゃんが気にしたのは他に有りました。

 

「アンタ、本当にブロワイエと仲いいんだな」

「そうですか? 別に皆と同じく接しているつもりですけど?」

 

 普通にそう答えましたけど、フェスタちゃんはそれ自体が意外っていう顔になりました。

 フェスタちゃんを連れてきたここも私のおすすめの店ですか、元を辿ればブロワイエから教えてもらった場所なんですよね。

 でも、フェスタちゃんはそれが理解出来ないようです。

 

「私ならワークフォースのやろとはアンタみたいに馴れ馴れしいの絶対出来ない。アイツとは何時か真の決着をつける。有るのは真剣勝負だけだ」

「ほほうー、そうですか?」

 

 私も知ってるお名前が出てきました。

 ワークフォース、面識は有りませんが、私は前からあの娘が走る姿を観かける時に、運命的な何かを感じます。

 イギリスの凱旋門賞ウマ娘で、日本のウマ娘で凱旋門賞に一番近かったウマ娘、ナカヤマフェスタを凱旋門賞で負かしたウマ娘です。

 フェスタちゃんとは2回も凱旋門賞でぶつかってて、その2度とも二人はゴールを通過する時に並んでました。まぁ……2回目の凱旋門賞ではナカヤマフェスタ11着、ワークフォース12着でしたけど。

 多分、二人はお互いが運命的な好敵手なんでしょう。

 

「何だよ……?」

 

 ふっと温かい目線でフェスタちゃんを観ていると、私の母のような気持ちに気づいたようです。

 

「ふうん……それじゃ、ワークフォースさんも呼び出して遊びましょう!」

「……勝手にしろ」

 

 これはこれは、嫌とは言わないのですね?

 あ、でも考えてみると私、ワークフォースさんとは会った事も無かった。

 

「アタシ、ワークフォースさんの連絡先無いから、フェスタちゃんから電話してくれますか?」

「バカか?するわけねーだろう」

「ふうん、困りましたね」

 

 きっぱりと断られた私は、早速脳内関係図を開いて誰を通れば連絡が取れるか、何人かの繋がりが有る娘たちを探りました。

 そして完成、ちょっと複雑だけど正解はあるもんですね。

 

「じゃぁ、ちょっと面倒だけど、スペちゃんに電話して、ブエナビスタちゃん通じて……まぁ、デインドリームまでは連絡取れるかな?そっちに頼んで連絡するしかないですね」

 

 私の素晴らしい解答に、フェスタちゃんも驚きのようです。

 

「バカだ、バカが居る……」

 

 いや、違いました。

 フェスタちゃんから、道端に転がる空き缶に送りそうな目線を受けました。

 ちょっと手間はかかるけど、これなら確実なのに。

 でも、私がめげそうにないからなのか、フェスタちゃんは優しく代案を言ってくれます。

 

「ヴィクトワールピサだったあるだろ? 私と凱旋門賞に出た」

「はっ、そうでしたね。でも私はブエナちゃんの方が上から目線で言いやすいし、そっちにします」

「……わけわからん」

「ブエナちゃんは生徒会だから、私の頼みなら喜んで聞いてくれる筈ですよ?」

「しょうもない事にコネ使うなよ」

 

 この娘ったら平気に失礼な事を言いますね。

 

「いやいやいや、アタシは悪くありませんよ?帰国子女の扱いは微妙だったくせに凱旋門賞2着のアタシを看板娘にしたURAが悪いんです」

「それ関係有るか?」

「当たり前デース!」

「名前でパワハラするだけだろ」

 

 多分……まぁ?それです。

 世代交代を果たした今の生徒会には、もう私に文句なって言える娘は居ません。

 いや……そうでもないかな。今の生徒会長は特にちょっと……ブエナちゃんが居て良かった。

 でもあの娘は凱旋門賞3着だし!アタシの方が上……ですよね?

 

「……このアタシの偉業が偉大過ぎるのも困りますな」

 

 だって、アタシは最強ですからね。

 

「誤解されたら困りますし、今回だけは善処します」

「お前な名前がいつまでも通るとは思うなよ」

 

 これは聞き捨てなりません!

 この私は最強のエルコンドルパサーだったんデース!

 絶対無敵、それはエルの為だけの言葉なのです!

 

「アタシだって好きでやってるんじゃないですよ?負けて悔しい気持ちのまま世界最強って言っても楽しくありません……」

 

 あ、アタシ変な事言っちゃってる。

 もうアタシはエルコンドルパサーじゃないのに。

 

「フェスタちゃんがあの時、凱旋門賞勝ってたら良かったじゃないですか」

 

 だめ、弱虫で泣き虫でいじけ虫のエルエルに戻れちゃった。

 

「そしたらエルなんか忘れ去られて、凱旋門賞2着とか言っても自慢話にすらならないし、むしろ楽になれたのに……」

 

 いつまでも私はこの名前と後悔から逃れられない運命ですよ。

 私の魂の名前ですから。

 

 めちゃくちゃな言葉を吐き出したら、フェスタちゃんの顔がアタシの目に入りました。

 

「アンタが弱ってるのは別にいいけど、そんなんじゃ後輩達は育てないぜ」

 

 冷静なフェスタちゃんの言葉に、私は動揺して、やっと正気に戻れました。

 顔が真っ赤になっちゃってるのが、鏡を見なくても私の顔からの熱気で分かります。

 恥ずかしい……。

 両手で顔を隠しても、耳や尻尾が勝手に動いてます。制御不可能です。

 

「すみません、アタシが変にムキになりました。情けないですね」

 

 ただ、恥ずかしい……です、本当。

 素顔だから恥ずかしいと思ったのは久しぶりです。

 何年も前に卒業した筈なのに。

 

「まぁ、なんだ……アンタは十分にやり遂げた。自信を持て」

 

 フェスタちゃんは、似合わなく優しい声で話してくれました。

 影のある顔なのに、優しさが見えるくらいです。

 

「エル……いや、タカミは強いよ。今もな」

「フェスタちゃん」

「なんだ?」

「ありがとうございます」

 

 私がゴクリと首を下げると、フェスちゃんは笑ってくれました。

 

「別に良いさ、凱旋門賞敗者の仲間だろ?」

「流石に言いたくない関係性ですね。でも気に入りました!」

「なぁに、今度こそトレセン学園で凱旋門賞を勝つウマ娘を出させてやれば良いだけだ」

 

 その通りですね。

 人生に後悔を残さないだなんて無理ですが、補う事は出来るかも知れません。

 アタシは出来なかったし、弱虫のアタシでも、ここからでもちゃんとやります!

 

「今年こそ凱旋門賞で勝つのは……!」




 渡邉はエルの馬主から、鷹はコンドルです。
 コンドルは鷹とはちょっと違いますけどタカ目だし……

 ナカヤマフェスタは宝塚とのあれこれでスミレです。

 ワークフォースの事ですが、エルコンドルパサーの父、ワークフォースの父父がKingmamboで、両方とも母父はSadler's Wellsです。
 ウマ娘的に、運命的な何かを感じてもおかしくないと思います。

 新しい生徒会長は日本競馬の至宝の,あのウマ娘です。
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