スペシャルウィーク、彼女は数多いレースで感動のドラマを作った名実共にトゥインクルシリーズの伝説の一人。
きらびやかな記録の持ち主である彼女は「日本1のウマ娘」と成るという夢を叶え、このトゥインクルシリーズに偉大なる足跡を残したウマ娘である。
かつては日本総大将呼とも呼ばれた強いウマ娘で、その親近感溢れる可愛さと共に長年ファンに愛され続けた。
その皆が大好きなウマ娘は後輩に抱きつかれ大泣きする、ただの女の子になっている。
「ふえぇーん!!シーちゃん!」
「はいはい、分かりました。もう泣かないで下さい。ね?」
扉の外にまでハッキリと聞こえる日本総大将の泣き声と、それを慰める後輩の声。そのはしたなく仕様もない所を見かけたブエナビスタは生徒会室扉の前で強張ってしまった。
広い生徒会室に、ひとりの後輩と、ひとりの先輩がビッタリとくっついてる。
だが、何かが逆だ。
「え……何、何なの?」
ブエナビスタがそう短く聞くと、スペシャルウィークを慰めるのに一苦労を掛けていたシーザリオは困った時の笑いを浮かべた。
「それが……あれだよ、あれ」
あれ?
ブエナビスタにはシーザリオが言う「あれ」とは何か考える余裕も無しに、スペシャルウィークは部屋に入って来た人気を耳で補足した。
人気の方角を振り向いた、スペシャルウィークの涙でウロウロになってる目にあやふやに映ったのは、扉を仕舞いながら周り確認するブエナビスタ。
愛する後輩ブエナビスタの顔に、スペシャルウィークの泣き声はもっと大きくなる。
「ブーちゃん!私……わたし…ふええぇんー!!」
悲劇の主人公にでもなったのか、泣くことをやめないスペシャルウィークはソファーから飛び上がり、今度はブエナビスタに抱きつかれた。ブエナビスタが両腕で持っていた紙の資料が床に散らばってる事など全然気にせず自分の泣き顔をブエナビスタの胸に押し付ける。
ブエナビスタは訳の分からないこの事態に脳がついて行けない。
これが何の状況がさっぱり分からなかったブエナビスタは、シーザリオに助けを求める。
「シー姉、スペ先輩ど…どうしたの?」
やっと開放されたシーザリオは、ブエナビスタの代わりに床に散らばった資料を集めながら説明する。
「選ばれるウマ娘があれば、落ちるウマ娘もあるから」
「あ……そうか」
ブエナビスタはやっとこの状況が理解出来た。
そう、今年も日本総大将スペシャルウィークは顕彰ウマ娘に選ばれなかったのだ。
報道されるのは選ばれたウマ娘に対するニュースだらけだったし、そのせいで今日は忙しくなったので、スペ先輩の事は完全に忘れてしまっていた。
何時ぞやか「どうせまた落ちるだろうし、そうなったらシー姉と一緒に慰めてあげよう」とは言ってた覚えがあるが、こんな騒ぎまで起こすくらいにショックとは全然予想出来なかった。
(でもでも、それってこんなに騒ぐ事?いや、騒ぐのまでは理解するけど、こんな騒ぎはしないよ普通……)
子供のように泣く先輩を前にしてブエナビスタは内心そう思ってしまう。
なのに両手はこのどうしようもない先輩の体をがっしりと支えていた。
心の中から尊敬の気持ちが消滅してしまうのをギリギリの段階で止めて、ブエナビスタはスペ先輩の肩を捕まえる。
そして、ちゃっと自分の足で立たせた。
「投票くらい大した事ないですよ!しっかりして、スペ先輩」
「でも……でもでも!」
「私だって悔しいのは分かります」
まぁ、ブエナビスタだってその気持ちまでは理解出来る範囲だ。
ブエナビスタも顕彰ウマ娘の候補として乗っているし落ちるのは何度も経験した。毎回苦い味は感じる自分の事を考えると、スペ先輩が抱いてる顕彰ウマ娘への思いが強いのも分かる。
特に今年だけは落ちた時の衝撃もその重みも全然違うだろう。
だからまぁ、今年に限っては少しの騒ぎくらい大きく見てあげるつもりも有った。
「確かスペ先輩が候補に乗れるのは今年で最後でしたね」
「うん……」
だが、みっともないスペ先輩はごめんだ。
「なら、もう駄目だから潔く諦めましょう!」
「ひどい!シーちゃん、ブーちゃんが意地悪する!」
スペシャルウィークはシーザリオに言いつけて見るけど、シーザリオは笑うだけ。
「ブエナなりの慰めですよ、スペ先輩」
「こんな慰めって有る?」
とにかくスペ先輩にだけ絡んであげるのも出来ないので、ブエナビスタはシーザリオから資料を受け取り生徒会長のテーブルに置いた。
二人は落ち込んでるスペシャルウィークをソファーに放置して、会議の準備についた。泣き騒ぎは一段落したが、スペシャルウィークは相変わらず落ち込んでる顔のままだ。
「シー姉、今日は3人だよね?カナロアは?」
「そろそろ来ると思うけど。じゃ、スペ先輩ももう帰って下さい。これから会議なので」
「やだやだ!シーちゃんとブーちゃんと一緒に居る!」
「日本総大将の名が泣いてますよ」
子供のようにわがままを言うスペシャルウィークに、ブエナビスタはむしろ自分が泣きたい気持ちだ。
「私の中から先輩への尊敬の心が消えちゃうよ……」
「仕方ないですね」
ブエナビスタはもう限界みたいだけど、シーザリオはまだ保っているらしい。
スペのわがままが続いてるな中、もう一人の生徒会役員が扉でポツンと首を入れる。
「あの……入ってもいいでしょうか?」
「あら、カナロア」
二人がスペ先輩をあやすのに夢中だった時、入って来たのは会長代理のロードカナロアだった。
「随分と重役出勤ですね」
「カレンチャンに今週末のデートで行きたい所を聞きに行ったんだ。ごめん」
「どうせデート自体を断られたでしょう?」
「ぎく!」
図星だったらしい。
人気者のロードカナロアは、カレンチャンにだけは何度も何度も報われない哀れなウマ娘なのだ。
欠けているのはカレンチャンからの愛だけの完璧なウマ娘ロードカナロア。
スペシャルウィークは、その気に入らないやつに冷たい目線を送った。
「誰?」
「副会長のロードカナロア……って自己紹介要ります?」
「知りませんよ、そんな名前。顕彰ウマ娘とはお話なんかしません」
「知ってるじゃないですか!」
どうやら今日のスペシャルウィークは、顕彰ウマ娘とは話さないつもりらしい。
だから自分のチームでは無く、シーザリオとブエナビスタの所に来たのだ。
生徒会長は理事長と共にURAへ行ってるので、今日の生徒会はこれで全員だ。
副会長のロードカナロアとブエナビスタ、相談役のシーザリオは、スペシャルウィークをソファーに転がせたまま会議の準備を始める。
今日の議題は、4年ぶりに出た顕彰ウマ娘へのお祝い準備。
シーザリオがスペ先輩を会議前に帰らせようとした理由だ。
圧倒的なトゥインクルシリーズの成績だけで数々の偉大なる先輩達を退け選ばれたのも快挙であるキタサンブラックの顕彰ウマ娘は、このスペシャルウィークも認めざるを得ないくらいだ。
でも悔しいのは悔しい。
「私だって顕彰ウマ娘になりたかった……」
溜息がでる先輩の姿に、ブエナビスタは一言う。
「一緒に落ちてる私が言うのもなんですだけど、あくまで記者投票ですよ?記者だからってトゥインクルシリーズファンの代表って訳じゃないし、多くのファンや私達にはスペ先輩が一番だから元気だしてください」
「そうですよ、記者投票のみで選出する今の顕彰ウマ娘制度自体が可笑しいので有って、スペ先輩にその資格が無いのではありません」
「ブーちゃん、シーちゃん……」
真心込めたその言葉に、やっとスペシャルウィークの顔が明るくなると共に、目はまた涙でウロウロになってる。
「だからもう忘れて、後でご飯にでも行きましょう!」
「ありがとう……私、これからも頑張るよ」
「そうそう、スペシャルウィーク先輩の意志は永遠に継がれると、この龍王の名にかけて断言する」
その瞬間感動の涙で丸く収まろうとしたスペシャルウィークは、ロードカナロアを方を睨みつけた。
どう考えても悪意を持ってる目つきに、ロードカナロアは固まる。
後ろを向いたスペシャルウィークの耳は、分かりやすく完璧に敵意を表していた。
「え…えっと」
「君に発言の許可はしていません」
聞いた事の無いスペシャルウィークの言葉遣いが怖いけど、ロードカナロアはもう一度口を開く。
「では発言の許可をいただけるでしょうか……」
「あげません!」
「カナロア……あなたは今何を言ってもスペ先輩には逆効果だよ……」
「あなた?今、貴方って言ったの!?ブーちゃん、何時からあの小娘にそんな呼び方したの!?」
「え……?」
目つきが完全に変わったスペシャルウィークは、止める時間も与えず猛獣そのものになって、ロードカナロアを襲いかかる。
「このお父さんは絶対に認めないわよ!娘は絶対にあげません!」
「ひええええ、助けてブエナ!!」
「先輩!八つ当たりは良くないです!」
「もう、何が何だか……」
ブエナビスタのやる気が下がった。
賢さが5下がった。
「片頭痛」になってしまった。
コンディション獲得…
片頭痛
・
無事にスペシャルウィークを家に帰らせたその日から数日後。
スペシャルウィーク、シーザリオ、ブエナビスタの3人は、スペシャルウィーク顕彰ウマ娘に成れなかった記念パーティーを開いた。
その日、シーザリオの財布を空になったのは敢えて語る必要も無かろう
「こうなったらブーちゃん、来年はブーちゃんが顕彰ウマ娘になってね!約束だよ?」
「うん、頑張る。なってやるよ、顕彰ウマ娘!!」
そして時間は流れ、また1年後
顕彰ウマ娘投票結果の発表が有った日
「スペ先輩ー!!私……ふええぇぇーん!」
ブエナビスタは121票を得て、落ちた。
スペシャルウィークは顕彰ウマ娘に相応しい素晴らしいウマ娘だと思います。