彼女たちはドリームトロフィーを目指していた。   作:瑞華

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『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』では「ダイサンゲン」の名前で出た「ダイユウサク」
大三元は、リーチ麻雀にて最も点数が高い役満のひとつです。


大三元、ダイユウサク

 東京は何時いかなる時だって道が混んでいるのが普通の状態だって、あたいもよく知ってる。

 北海道生まれだけど長年東京で過ごしたんだし、中央トレセン学園で青春を送った選ばれしウマ娘たちなら、よく知って同然だよね。

 あたいもその一人だったから。

 でも驚いた。同じ東京とはいえ西側の府中市と東京の核とも言える港区となると流石の大違いだったから。

 Mリーグスタジオが在る港区、これからはここがあたいのテリトリーになる。

 府中よりは品川の大井で活躍した娘ならもっと耐性が有ったかもだけど、残念ながらあたいは関東では東京と中山しか通ってなかったんだ。

 なのにタクシーでは無く、馴れてない地下鉄を使うような真似をしたのが間違いだったのかも。

 乗り換え間違いちゃったし、無駄な体力と時間を使ってしまったの。府中市から千葉の船橋市までなら迷わず行けただろうけど、港区と言う見知らぬ所に来るのに、結構な時間が掛かってしまった。

 だけど、ウマ娘なら生まれ持った足は頑丈で何キロでも行ける!

 トゥインクルシリーズで活躍した時期の様なスピードは出ないだろうけど、これでも十分有り余る!

 なんとか目的地に日が暮れる前には着く事が出来たの。

 

「当分はここに泊まるんだ……」

 

 目的地のホテルに到着したあたいは、前に来た事は無いけれど、親会社グループの名前だけは見慣れたホテルの入り口で嬉しいというには微妙な表情になってしまったよ。

 来月から新しく世話になる事になったクリブチームからホテルまで用意してくれたからには、わざわざ断るのも変だったので二つ返事で受け入れたけど、今になると微妙な気持ち。

 

「……行くか」

 

 独り言の後でエントランスに足を運ぶと、早々あたいの目に入ったのは、盾のような大きい置物だった。それはあたいもよく知っている形をしてる。

 特大のサイズが目障りな飾りが、このホテルのシンボルだよ。

 数年前トゥインクルシリーズを走った「ダイユウサク」は手に入れられなかった盾。

 グランドメジロ東京、ここのオーナー一家はこれを何個も持ってるんだった。

 噂によるとグランドメジロは東京に天皇賞(秋)の盾を・京都には天皇賞(春)の盾を置いてると、聞いた事が有る。

 これはそのレプリカだろうね。

 なんだか、オーナーのこだわりを感じるな。

「ダイユウサク」に、ここは……勿論良いけど、嫌な所でもあるんだ。

 特に未だに独り身のウマ娘としては、一心同体の聖地なのが特に気に入らない。

 ちょっとオーナーの価値観をお客に押し付けるの変じゃない?お金持ちって皆そうなの?厳密に言えばあたいはお客じゃないけど。

 考えてみれば同然だった。なんでもする大企業のスポンサー様が取ってくれるホテルなんて、同然系列社に決まってるよね。

 滅多に泊まる機会も無い最上級のホテルに1ヶ月近く住めるなんて十分いい事だと自分に言い聞かせながらチェックインを終えたあたい、元ダイユウサク・橋本(はしもと)(さち)は、部屋に入って仮眠を取る事にした。

 

「疲れた……」

 

 そう元気の無い声で独り言を放ったあたいは、早速ベッドの上で横になった。ふわふわなベッドで生きかえる気持ちになれるなんて幸せは格別だね。

 グランドメジロで一番良いところだとしたら、それはやっぱりベット。メジログループには厳しいあたいも、これだけは一品だと認めているよ。

 だが、その理由も想像が着くからまた変な気持ちになるのが問題なの。

 ふわふわで柔らかい寝具、体を優しく抱いてくれる弾性が絶品のベッド、全部オーナーのこだわりだね。

 一心同体の相手と、うまうまでぴょいぴょいな夜を満喫して、朝はすきだっちとうまだっちで始めるとか、あたいはそんな相手無いのよ!

 でも、疲れてる今はどうでもいい。

 

「人は良いのにな……」

 

 オーナーの事はもう忘れよう。

 昔のいい思い出だけ考えてやろうと思うし。

 それより明日からは忙しくなるから準備して置かなきゃ。

 早速監督との面談に、多分練習試合もするだろうし、正式に入団したからには取材来るかも。

 マスコミと言うやつらはネタになる事だけを追い続けるのだから。

 トゥインクルシリーズから離れて、そっちの記者たちはましだって分かってきた。あたいがウマ娘ってだけをネタにする奴らは本当嫌い。

 でもあたいはプロだから、記者と話すと元気が吸い取られるからいやでも……それでもやらざるを得ない事だよね。

 だから今は体力回復が先決だ。

 その為にも食事はルームサービスで済ませて早めに寝よと思ったあたいは牌譜に目を通しておくのは明日にすると後回しにして、ベッドから起きた。

 そう土壇、急に電話が掛かってきた。

 これも噂をすれば…かな?

 知らない番号だけどその正体がすぐ分かっちゃった。

 

「はい、橋本です」

「こんばんわ。どうです?うちのホテルは?」

 

 本当久々だけど、この声はすぐ分かる。

 

「御無沙汰してました、マックイーンさん」

「マックイーンはよしてください」

 

 メジロマックイーンは、いや、本人の希望も有るからもうメジロマックイーンと呼ぶ事はやめておきましょうか。

 

「まぁ、分かりました」

「敬語もよろしいでしてよ。昔みたいに気軽に話してください」

「それでいいの?良かった。じゃぁ気軽にしていいよね?あたいは堅苦しい喋り方はやっぱり馴れないんだ」

「ふふ、切り替えはお早いんですね」

 

 昔は競い合ったトレセン学園のウマ娘同士だったけど、今はプロ雀士とチームのオーナーだし、喋り方には注意するつもりだったけど、マックちゃんは相変わらずいい子だったよ。

 今はお互いターフで張り合った頃は大昔の思い出なのにね。

 

「明日は監督と合う予定でしたね?どうです?お祝いで食事でも」

「それは後にして。まわりから変なこと言われたくは無いし。もうネットからはしょせんウマ娘同士のコネとか言われてるよ?」

 

 あたいがそういうとマックちゃんの声が急に低くなった。

 

「それは困りましたね」

「メジログループとしてはイメージの問題だよね?でもあたいはそれでいいよ。ウマ娘の根性と魂を証明するだけだし」

「……橋本さんがそれでいいのなら、私も手は打たずに待ちますよ」

 

 何か不穏な意味が読み取れるんだけど……?

 

「なんかするつもりだったの?」

「まぁ、橋本さんは気にしなくてもよろしいですわ」

 

 いや、気になるよ……。

 でも仕方ない、この話題はもう触れない事にしよう。

 

「まぁ、あたいが勝てばすべて解決だし。ダービーは勝てなかったけど運はあるから勝つよ」

「ふっ、頼もしいですね」

「麻雀だってウマ娘が劣ってるんじゃなくて、興味を持たなかっただけって知らせるんだ」

 

 

 

 

 

 

「いよいよ初の挑戦になりますが、どうですか?緊張とかはありませんか?」

 

橋本「ないですね。不利だとか劣ってるとか、批判的な世論の中で戦うのは昔から馴れていますから、どうって事は有りません。むしろ期待しています」

 

「発足して長くはないMリーグですが、ウマ娘の選手は橋本さんが初めてって事で大注目のようです。このシーズンで一番の話題と言っても過言ではないでしょう。その意気込みをお聞かせください」

 

橋本「ファンの皆さんからの関心が高まるとは嬉しい事です。ご期待に答える為にも、まずは無敗で1勝目から着実に行こうと思います」

 

 インタビューの始終、彼女はまだ器量が証明されてない若者にしては自信満々な答えをした。

 ウマ娘は後ろに隠してる尻尾と立派に立っている耳から気持ちが出ちゃうから、それは本音だって事も伝わって来た。

 

「橋本プロには敏感な質問になりますが、一角ではやっぱりウマ娘の雀士は不利とも言われています。それに付いてはどう思いますか?」

 

橋本「私も、皆さんがどの点を不安視しているのか分かっているつもりです。ですがそれは問題ありません。それを、これから証明するつもりですのご期待ください」

 

 そう答えた彼女はすぐ耳と尻尾の動きを止めて見せた。

 感情が出ると言う事は麻雀を含めたゲームに置いて欠点である。トゥインクルシリーズのパドックでなら生き生きしてる調子を見せる方が取り柄だったろうけど、生憎手の内を見せてはいけない麻雀に置いては駄目だ。

 橋本プロは自分もそれをよく知っていると、言うようだった。

 

「楽しみですね。完璧に対策を練ていると見てよろしいでしょうか?」

 

 橋本プロは軽く笑いながら首を横に振って答えた。

 

橋本「完璧って言うのは矛盾かもですね。私自身は意識しないようにしていますが、それでも私はウマ娘でした。頑丈で強い体ほどに精神も強いのではありません。ただ私はそれにこだわりません。私は皆さんが今まで見てないのをお見せします」

 

「橋本プロが見せたいのはズバリ、何でしょう?」

 

橋本「具体的なのは戦略的に秘密にしますが、敢えて言わせてもらうとしたら、それはウマ娘だけの精神力です。私は精神力でメジロマックイーンに勝ちました」

 

「メジロマックイーンですか。トゥインクルシリーズで大活躍したレジェンドのウマ娘ですね」

 

橋本「すみません、ちょっと関係の無い話でしたね。有馬記念を制したグランプリウマ娘のダイユウサクではなく、プロ雀士の橋本幸の話には合わないかも知れませんが、すこしお話をしてもらいでしょうか?」

 

 彼女は話す前に「面白くなかったらカットしてください」と付け加えた。

 

橋本「どんなに強いウマ娘だろうとも体の能力だけではレースに勝てません。何より大事なのは精神です。自分より強いウマ娘と戦う時には先頭でゴールを駆け抜ける為、相手に比べて身体能力で劣っている差を、誰にも負けない精神力で補います」

 

「麻雀でも、そのウマ娘だからこそ持っている精神力をお見せしたいと言う事でしょうか?」

 

橋本「そうですね、最初はあくまで数少ないウマ娘の雀士で話題になるのが嫌いだったんです。でも、だんだんウマ娘としての自分が見えて来ました」

 

 橋本プロはウマ娘のダイユウサクではなくプロ雀士の橋本幸として、成長したいと言って、最後にはこう言った。

 

橋本「私は、ウマ娘も皆さんと同じだって事ではなく、ウマ娘はこんなにも素晴らしい可能性を持っていると、世に知らせてあげたいです」

 

 

『MEJIRO キッカナイツの新人、橋本幸プロ特集』

彼女は「大きい幸せを作る」ウマ娘、ダイユウサク




「橋本」はダイユウサクの馬主からです。
ダイユウサクは、孫の名前「幸作」から「ダイコウサク」にするつもりだったという話で、「幸」はそこから取りました。

ちょっと、麻雀の話にして張り切っちゃったかも。
元ネタがマイナー過ぎるからちょっと書いて置きます。
Mリーグはプロ麻雀リーグです。港区のMリーグスタジオで行われます。
その実在するチームのKADOKAWAサクラナイツから、MEJIROキッカナイツ

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