チョコレートエルフの愉快な日常   作:CanI_01

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以前短編として公開していた作品です


シアワセ大将軍の軍艦マーチ

2078年 JIS 関西スプロール 神戸地区

 

神戸地区の中心である三ノ宮駅にほど近い歓楽街。

夜になれば人は溢れ煌めくこの街も昼間はどこか間の抜けた平穏さをたたえている。

人通りはあるが皆一様に自身の用事に追われるように慌ただしく歩みを進めている。

そんな中のんびりとした足取りで買い物袋を下げて歩くエルフが1人。

褐色の肌の女性でウェーブのかかった髪が特徴的な整った容姿のエルフ女性だ。

流行のデザインのアーマージャケットとアンティーク調のブレスレットのミスマッチはあるが、彼女の美しさは誰もが認めることだろう。

手にした袋に入るロゴは天然物の酒を扱う店のものだ。

浮かれた顔から察するに良い酒でも手に入れたのだろう。

その時路地裏から重い物が倒れる音が響いた。

音に釣られるように視線を向けるエルフ女性。

まず目に入ったのは足だ。

路地裏の表から見えない場所に倒れているらしい。

一瞬の逡巡。その後良い酒を手に入れてご機嫌だったせいか助けてやることにする。

集中し周囲のマナを操作する。自らの反射能力を増加し、仮に犯人がいても逃げる事ができるようにする。

そして、警戒をしながら無造作に路地裏に踏み込む。

そこは平穏な昼下がりの歓楽街とはかけ離れた空間だった。

そこにいたのは男性が4人。

3人は青年で地に伏し、1人は老人で壁に寄りかかり体を支えている。

否、もう1人老人の背後に30代半ばに見える女性が呆然としている。

単純に考えれば女性を守って老人が三人の暴漢と戦ったのだろう。

 

「だ、大将軍?」

 

エルフの女性が間の抜けた声を上げる。どうやら知己らしい。

その声に反応して老人はエルフに目を向ける。

 

「なんや、ティターやないか。ひさしいの。でも大将軍はやめてくれへんか、隠居した身や」

 

ナガヤマ・タカシと言うのが、この老人の名前だ。

かつてシアワセの精鋭部隊部隊である神の武士を指揮し、影の世界で畏怖と恐怖を一身に集めてきた男だ。

当時誰ともなく呼び始めた名前がシアワセ大将軍。

ティターもかつてアレスのブラックオプチームにいた頃は様々な伝説を耳にし、直接痛い目に合わせられたこともある。

すでに引退しシアワセのブラックオプのコーディネートをしていると聞いている。

そんな伝説の存在が今目の前で力無く横たわっているのだ。

 

「あー、ご健勝そうで何よりです。後身の指導ですか、実戦形式の」

 

そうであって欲しい切実さの滲む声だ。

 

「おい、おい、ティターよ。希望で口開いちゃフェイスとしておしまいだぜ。俺を殺せたら卒業とか、うちはどっかの忍軍かよ」

 

ティターの願望は無惨に打ち砕かれる。

そして、見ないようにしていたが、この老人はすでに瀕死だ。

極限まで埋め込まれたサイバーウェアにより呪文を阻害されることを考えれば、治療呪文は期待できない。

シアワセの大物が辻強盗にやられたとは考えにくい。

仮にやられてもこんな街中だ。彼が契約している救急医療サービスが駆けつけ考え得る限り最高の治療を施すことだろう。本来であれば。

しかし、今この時点で救急車のサイレン音は響いてこない。

妨害が入っているか、ナガヤマが呼ばないようにしているかだろう。

それだけの影響力を行使できるのはどこかのメガコーポだろう。

メガ同士のシャドウウォーに巻き込まれ、しかもシアワセの大物が殺害される程シアワセを追い込めるのは他の10大メガコーポぐらいしか考えられない。

ティターが虎の尾を踏んだかと冷や汗をかいていると、ナガヤマがメモリースティックのようなものを投げ渡した。

支払い保証済みのクレッドスティックだ。

 

「そんなやばい話しじゃないから、手伝ってくれ。30万入っている」

 

呆然と目を開き、ついスティックを受け取る。

プロのランナーとしてあるまじき失態。

 

「お前が考えてる程やばい話しじゃない」

 

ナガヤマが同じ言葉を繰り返す。

 

「娘がCFDになっちまってな」

 

横で無感動に立ち尽くす女性を指差す。

 

「知ってるかも知らんが、今シアワセの取締役にいかれた野郎がいる。」

 

キムラ・ナオヒコ。シアワセのCEOシアワセ・タダシの隠し子とも噂される神道の神官だ。

対外的には今生帝に絶大な影響力のある神道教会との関係を強化するために神道教会を取締役に加えた。その神社の責任者が彼なのだ。

 

「そいつがCFDに罹患したら魂の死だ。肉体は社に献体しろと言っていてな」

 

CFO、記憶喪失を含む人格改変を起こす病気だ。

実際にはAIがメタヒューマンの肉体に自らをダウンロードする際に起きている事象だと言われている。

この際インプラントされたナノマシンにより本来の自我は“フォーマット”されるため、魂の死であると言う主張もあながち間違いではない。

更に言えば、中に入ったAIも、だいたいはダウンロードの際に機能障害を起こしている。

切り刻み自由に研究ができる対象と言えるだろう。

企業利益と言う観点からすれば正道と言える。

だが、人の感情はそう簡単に割り切れるものではない。

 

「それでついな。娘じゃないとはわかってるんだがな。ワシのシアワセ魂も地に落ちたものだ」

 

自嘲的に笑う。その生涯を社に捧げながら、最後は社命に背いた愚かな老人である、と。

 

「あー、人としては大変結構だとは思いますけどね」

 

渡されたクレッドスティックを振り言葉を続ける。

 

「で、あたしは何をさせて頂けばよろしいんですかね。いくら大将軍の依頼でもシアワセと正面から殴り合いはできませんよ」

 

笑みを抑え、ナガヤマが口を開く。

 

「すまんな、古馴染みに会えたのが嬉しくてな。おまえさんに頼みたいのは娘の護衛、いやスマグリング(密輸)や」

 

ティターの表情が引きつる。

 

「貸しのあるイーボのコーディネーターに話をつけていてな、娘の企業移籍の手続きは完了している」

 

「彼女がイーボに辿り着きさえすれば、ですね」

 

子供のような笑みを浮かべるナガヤマ。

 

「その通りだ。部下どもがもう少し無能なら神戸空港から飛ぶつもりだったが難しそうだ。で、次善策として六甲アイランドターミナルに密航船を手配している」

 

再度クレッドスティックを振るティター。

 

「これはロシアまでの護衛も含まれていると言うことですね」

 

「いや、密航船はイーボのものだ。船にいるミスターグリーンに引き渡してくれれば構わん」

 

何もなければ車で30分程度の距離だ。

シアワセのブラックオプチームの気合いにもよるが、これで30万は確かに美味しい仕事だ。

 

「わかりました。お引き受けいたします」

 

ナガヤマは娘に告げる。

 

「タカコ、そう言うわけだから彼女について行くと良い。元気でな」

 

タカコと呼ばれた女性はぺこりと頭を下げる。

 

「では、また。娘さん確かにお預かりします」

 

そして、二人の女性が三ノ宮の街に駆け出した。

 

ティターが誘惑を感じないと言えば嘘になるだろう。

30万ニュー円と言えば大金だが、契約不履行を正せるものはすでにいない。

タカミを見捨てて30万をポケットにいれる。

 

もう少しリスクを犯すなら彼女と大将軍をシアワセに届ける。

 

あるいはよそのメガに売る。

 

より儲かりリスクの少ない選択肢はいくらでもある。

 

しかし、彼女はタカミを逃がすために動き始める。

契約書など存在しない仕事だ。たからこそ、信用とは得難い資産である。

ゆえに信頼を裏切らない。

それも1つの要因だ。

 

プロとしての矜持もある。自分たちは金のためにだけ尻尾を振る犬ではない、と。

それもある。

 

だが、ティターは律儀なのだ。潔癖と言い換えても良い。

信頼には信頼で返したい。

だからこそ彼女はアレスのブラックオブチームを抜け、野に下った。

自らの価値観を護るために。

 

ゆえに、誘惑は感じても彼女は迷わない。

自らの生き方を貫くために。

 

とはいえ、シアワセの本気具合にもよるが、メイジ1人で出来ることには限りがある。

幸いデイリーランにしては報酬は潤沢だ。

ティターは報酬とリスクを独り占めする程守銭奴ではない。

特に常々リスクを山分けできる相手を切望している。

 

今回の仕事でシアワセは特殊部隊を展開しているようだが、指名手配をしているわけではない。

つまり、敵の手数は限られているし、表立って重火器は使えない。

囮を使うしかないだろう。

矢継ぎ早にメールを打つティター。

その間も足を止めず移動し駅構内にあるファーストフード店、マックフュージに入る。

いくつか確認事項もある。

 

茫洋とした目でティターを眺めるタカミ。

 

「どれくらい自分のことは覚えてるの」

 

店に腰をおろすとティターがタカミに声をかける。

 

「ほとんど何も覚えてないんです。悪夢から覚めたら何もわからなくなったみたいで」

 

その時を思い出したのかぶるりと身震いをする。

 

「何とかごまかそうとしたのですが、すぐにばれて。旦那さんが先程のお爺さんに相談して今にいたる感じです」

 

大将軍の娘だ、旦那さんとやらもシアワセの人間だろう。

であれば、この旦那も社命を無視して彼女を逃がしたことになる。

シアワセ的にはともかくとして人間的に好きな部類に入る。

そんなことを思いながらティターは口を開く。

 

「じゃあ責任重大ね。幸せにならなきゃね」

 

「はあ」

 

タカミはよくわからなげに返事をする。

 

「で実務的な話だけとお金ある?」

 

タカミはクレッドスティックを取り出す。

 

「これですよね。お爺さんに渡されました」

 

「OKOK。コムリンクは?」

 

机の上にコムリンク、汎用的なタブレットのような端末、を出す。

可愛らしいデコレーションが施されている。

 

「電源を切るように言われて電源を落としています」

 

さすがに大将軍も即座に偽造SINは用意できなかったのだろう。

偽造SINがなければ、認証の必要な高セキュリティーエリアを避ければ電源を落としておくのが無難だろう。

 

「さすがそつが無いわね」

 

そんな2人に2mはある長身の黒人男性が近づく。

 

「またせたな」

 

男はコムリンクとメモリーを差し出す。

 

「さすがに早いわね。助かったわ」

 

ティターと男性は旧知らしく素直に受け取る。

ティターが依頼したのはコムリンクと偽造SIN。

調べられたらすぐに偽物とばれるぐらいに粗悪なものだ。

だが逆に考えれば調べられさえしなければバレない程度にはしっかりできているのだ。

 

「全く俺にわざわざお使い頼むかね」

 

肩をすくめながらぼやく。

 

「これを取りに行く余裕もないのよ。

で、悪いけどもうひとっ走りお願いできるかしら」

 

ティターは二人に今後の予定を説明し始めた。

 

関西スプロール 大阪エリア シアワセ本社

 

そこには10人以上のカンパニーマンが詰め、皆無言でデータ処理に集中している。

ここはシアワセ本社内にある作戦管制室。

現在ナガヤマ親子の追跡を指揮している。

大将軍の殺害には成功し、あとは娘だけである。

心なしか実働部隊からは弛緩した雰囲気が漂っている。

 

「隊長、ナガヤマ・タカコのSINがアクティブになりました。追撃に移ってよろしいでしょうか」

 

部下の問いに隊長が答える。

 

「放置もできまい。1班を対応に回せ」

 

部下に指示をしながらも隊長はわずかな違和感を感じていた。

確かにナガヤマ・タカコは一般人であり偽造SINの使用も思いつかないだろう。

であれば移動するには自らのSINをアクティブにせざるを得ない。

師匠であるナガヤマは常に言っていた。わかりやすい解答には罠がある、と。

 

「SINがアクティブ化された際に位置が交差した他のSINが無いか調べて見ろ」

 

大将軍が何か仕掛けているならわかりやすい情報は全て罠の可能性がある。

だが、この電子認証社会で電子的な痕跡を残さずに移動はできない。

整理し洗い出し可能性を減らしていく。

思考と動作。その合計が目的に間に合うかどうかでしかない。

迅速に確実に。微笑みを絶やさず。それがシアワセマンの矜持と考え、彼は自らの師匠の娘を追い込む網を編んでいく。

そこには一片の迷いもない。

 

関西スプロール 神戸エリア シアワセ電鉄車中

ウェーブのかかった髪の黒人エルフと日本人形のような女性が観光ガイドを手に車中で楽しげに会話している。

海外からの旅行者を案内する日本帝国人といった雰囲気だ。

ティターとタカコである。

監視カメラの顔認証にかからないように顔を変化させている。

偽装は最小限にし、ただ人ごみに紛れる。

そして、仲間のデッカーには無関係な同業者の足跡を不自然に見えるように消させる。

リガーのブラックシュートにはまるでタカコが切り換えたように見える偽造SINを持って走ってもらう。

タカコの本物のSINはヤマト運輸に任せた。

行き先は熊本城にしている。

もちろん意味はない。

 

不自然な痕跡を洗えば2人が浮かび上がる。そして、人員がそちらに割かれている間にティター達は船に到着すると言う寸法だ。

 

もちろん、シアワセの対応がティターの予想よりも遅ければではあるが。

 

「次は六甲道、六甲道」

 

社内にアナウンスが鳴り響く。

六甲道は未だに昔ながらの酒造りが息づく場所だ。

それを買えるのは一部の特権階級層のみだが、文化事業として広く一般に開かれている。

当然観光客も多い。

 

紛れてしまえば偽造SINが特定されていなければ逃げきることは容易い。

 

現在の六甲アイランドは液状化が激しく危険区域として閉鎖されている。

以前はいくつかあった陸路はすでに倒壊しており役にたたない。

だが、そんな地区だからこそスマグラー御用達の港となっており、スネに傷持つ者が隠れ潜むスラムとなっているのだ。

そのため適切な伝手があれば漁船を使って渡ることは難しくはない。

 

そう普段であれば。

 

電車を降り、ブラブラと海辺を目指すティターの下に続々と凶報が届く。

 

曰く、ヤマト運輸に預けたコムリンクが干渉された。

曰く、足跡を消したランナーにシアワセが接触した。

曰く、ブラックシュートが壮絶なカーチェイスを行い、警察に確保された。

 

もちろん、仲間達がティターのことを話すとは考えていないが、急拵えの偽造SINであるタカコの偽造SINからある程度の絞り込みを受けている可能性はある。

更にタカコと合流した場所も問題だ。

三宮から安住の地を目指すなら空路か海路が妥当だ。

正規ルートにもフェイクは仕掛けているが、恐らくすでに潰されているだろう。

 

じわりじわらと包囲網が狭められている嫌な感じがある。

 

そして、、有名なスマグリングポイントである六甲アイランドもノーマークとは考えにくい。本土と人工島の間を封鎖、もしくは監視していると見るべきだろう。

そもそも、六甲アイランドは立ち入り禁止区域なので理由を説明せずに警備を強化するように圧力をかけるぐらいは容易い。

そうすれば、カンパニーマンを割り振らずに網を張れるわけだ。

かの推測が正しければ海上封鎖をしているのは神戸市警となる。

精鋭化された組織とは言えSWATチームを投入しているとは考えにくい。

 

この間隙を縫うしかあるまい。

 

「タカコさんは泳ぐの好き?」

 

世間話の延長で問いかけるティター。

 

「どうなんでしょうか。泳いだことはないのですが」

 

怪訝そうなタカコとにっこり微笑むティター。

 

「苦手じゃないっての良い情報ね」

 

「お、およぐんですか?」

 

海水浴場でない以上水着にはなれない。

そして、度重なる環境汚染により海は綺麗とは言えない。

だが、ティターは当然のように応える。

 

「そうよ。選択肢ないし」

 

ティターの感覚としては状況は詰みかけている。

だが、まだ詰んではいないし、ここで逃げるようならランナーなどと言うヤクザな商売をしてはいない。

 

ティターは渡し守と呼ばれる相手をコールする。

 

「近くまで来たけど、どう?」

 

「あかんな。今日は神戸市警のラッキーデイや。日改めてもキャンセル料はいらへんで」

 

鼻で笑うティター。

 

「悪いけどあんまり時間ないのよね。追加で支払うから無線操作できるモーターボートを貰えるかしら」

 

「そらええけど。あいつら警告無視したら撃ってくるで」

 

ティターは華のような微笑を浮かべ告げる。

 

「鉛玉が怖くてランナーなんてできないわよ」

 

渡し守から借りたモーターボートが低重音のエンジン音を響かせ始動する。

当然網を張っている警備部隊は周囲を見渡すが、その姿は見えない。

透明化の呪文だ。

 

「魔法使いか。音をさせちゃ意味がないな」

 

彼は即座に赤外線及びエコーカメラを向ける。

透明化の呪文は視覚を騙すための呪文であり超音波の跳ね返りを画像処理で表示するエコーにたいしては効果を持たない。

 

「5秒数える間に停船せよ。さもなくば発砲し強制的に停船する」

 

もちろん、不可視のモーターボートは停船しない。

警備船より火線がほとばしる。更に数秒逃走を続けた後に船舶は停船する。

エンジンを撃ち抜いたのは間違いないが搭乗者の状態はわからない。

未だに透明化は解除されていない。

更に銃弾を叩き込むべきか迷っていると不審船が姿を現した。

船底に横たわる人影が1つ。

警備船の隊長の胸に嫌なしこりがひっかかる。何かがおかしい。

慎重にモーターボートに警備船を近づける。

先ほどの超音波カメラでモーターボートに隠れている相手がいないかを探る。

 

「人じゃないぞ。精霊だ!」

 

その瞬間地面に倒れていた人影が跳ね起きる。

そして、人類には不可能な程口を開く。

 

「外れだ!」

 

唖然と精霊を凝視する警備隊を尻目に精霊は楽しげな笑いをあげて姿を消す。

それに連動するようにモーターボートは静かに沈んでいく。

 

少し離れた波間にポッカリと不自然に空いた穴が2つ。

完全透明化により姿を消したティター達だ。

ティターの手持ちの呪文では完全な偽装はできない。

荒事になり神戸市警に本気を出されると勝ち目はない。

仕方なくモーターボートを囮にして自分たちはライフジャケットをつけて泳ぐことにしたのだ。

近くで見れば不自然な水のくぼみも少し離れてしまえば波間のイタズラに見える。

幸い時間に余裕はある。

 

その後特別なトラブルもなく、疲労困憊こそしたものの、六甲アイランドに辿り着いた。

ティターの六甲アイランドでの友人に迎えに着てもらい埠頭を目指す。

埠頭ではすでにイーボの船が停泊しているはずだ。

埠頭につくと積み込みの指揮をする全身緑の男がいる。

それなりに名の売れたイーボのジョンソン、ミスターグリーンだ。

ティターとも旧知の関係である。

 

「やあ、ティター。将軍から話は聞いてるよ」

 

怪訝な顔のティター。

 

「将軍から聞いた? いつよ」

 

「今朝だったかな。都合が悪くなったから荷はティターに任せると」

 

タイムスタンプはティターに出会う前だ。

 

「もしかして、あたしと合流するつもりであそこにいたわけ」

 

「確かに父はティターさんとお会いする前から一緒にいくのはここまでだと」

 

唖然とするティター。

 

「怖ろしい爺様だこと。タカミちゃんもJISで何か用があったら声をかけてちょうだい。」

 

タカミは微笑みを浮かべ応える。

 

「はい、また相談させていただきます」

 

船に消えていく2人を見ながらティターは関係各所への支払いを処理する。

友人たちも全員無事のようだ。

とりあえず、六甲アイランドで呑んでほとぼりをさますことにしよう。

 

「渡辺さん、悪いけど着替えを調達してもらえるかしら。で、今回迷惑をかけたみんなに奢りたいんだけどセッティングお願いしてもいい?」

 

遠く輸送船の汽笛が六甲アイランドの廃墟に響き渡る。

 


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