・架空のレース場、架空のレースが登場します。
今から五年程前、私は小さい頃から遊んでくれていたある一人のウマ娘の影響でレースの世界へと飛び込んだ。
彼女は自信家で、その志もとても大きいものだったが、彼女には実力も人望も備わっていたので誰もその夢を笑う人はいなかった。
私もそんな彼女に憧れて、いつか同じ場所に立って走りたいと夢見て毎日トレーニングをしていた。
彼女はよく私に声をかけてくれたから、私は彼女を慕うウマ娘達とも出会えて、毎日いろんな人達に囲まれて笑いながら過ごしていた。
そんな生活が一年くらい続いたある日。
彼女はどんどん上のステージへと進んでいった。 GⅡレースでもどんどん成績を伸ばしていって、一歩一歩着実に夢へと近づいていた。
GⅡで初勝利してから立て続けに二勝目もあげると、いろんな学園からスカウトも来るようになった。
彼女は高等部にあがるタイミングで転入を考えると言って、毎日トレーニングに励んでいた。
唐突にその日はやって来た。
GⅡ三連勝がかかると共に、彼女の中等部最後のレース。 これが終われば彼女は地方から中央へと行ってしまう。私達からすればお別れのレースだった。
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二月も後半に差し掛かり、日に日に太陽の出ている時間がのびはじめた季節。
今日は昨日から降り続ける雨のせいで、真冬の寒さに逆戻りしたような日だ。
パラパラとまばらに雨が降る中、静岡レース場の観客席がいっぱいになるほどの人を見ると、今日のレースの注目度がうかがえる。
なんと言っても、今日は県内では有名な彼女のGⅡ三連勝がかかると共に、地方での最後のレースだ。
彼女の勇姿を一目見ようと押し寄せたレースファンも少なくないだろう。
今までに見たこと無いほどの人々の大群が、今か今かと待ちわびるなか出走するウマ娘達が順々にスターティングゲートへと入っていく。
彼女が入ったのは三番ゲートだ。
場内の騒然としたざわめきが、だんだんと収まった刹那。スターティングゲートは開かれ、ウマ娘達が一斉にスタートした。
レースは序盤からハイペースな争いを展開する。
多くの人の予想通り、出走ウマ娘達は皆、逃げか先行策をとったため、先頭集団では熾烈な攻防を繰り返す。
抜いて、抜かされ、また抜いて。 激しい順位の奪い合いを繰り返しながら先頭のウマ娘がとうとう最終コーナーへと入った。
後ろの先行グループもジリジリと距離を詰め始め、また順位が大きく動き始めた時、彼女は一気にギアを上げ内側から一歩、二歩と前へ出た。
コーナーも七割曲がりきり、最後の直線へ向けてウマ娘達が少しずつ加速をいれていくとそれに比例するように観客席のボルテージは上がっていき、皆の興奮が最高潮に達した。
その時だった。
先頭をキープしていた彼女は、コーナーの最後で体制を崩し、トップギアの勢いそのままに転倒した。
先程までの歓声がどよめきへとかわる。
私も、私の周りで応援していた先輩達も思わず声が出た。
後ろを追っていたウマ娘達が彼女を抜き去り、激しい先頭争いを繰り広げても、彼女が起き上がることはなかった。
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結局、そのレースは彼女の後ろ、外側につけていたGⅡ初出場のウマ娘が勝った。
そして、レース後に病院へと搬送された彼女が目を開けることは二度となかった。
彼女の事故をうけて、何人かの先輩はレースを引退してしまったが、私はまだ走り続けていた。
彼女のことはもちろん悲しくて、その日から数日間は泣き続けていたのだが、混乱気味の感情が落ち着いた時、私がいつものように走っていたら、トレーニングしていたら彼女が声をかけてくれるのではないかと思って、ふといつものメニューを行った。
それから黙々と走り続けるうちに、現実を受け止めて前に進まなければいけないことに気づき、いつしか私は彼女の夢の続きを追い求めるようになった。
でも、私と彼女は違った。
私は彼女のように強くはなかった。
デビュー戦も三戦目でやっと勝利した。彼女みたいにとんとん拍子で上手くいかなかった。
それでも、できると、やるんだと自分に言い聞かせて走り続けた。
GⅢで二連勝したとき、地方新聞やらラジオ局やらのインタビューで、私は彼女の後継者だと言われた。
その時なぜだか、言い知れぬプレッシャーのようなものを感じたのだ。
今まで、彼女の想いを継ぐつもりで走ってきたのに。いざ、そう言われたときに自分と彼女の違いに目がいってしまった。
そして次第に、自分でいいのかと。彼女のかわりが務まるのかと疑い始めた。
今まで勝てていたGⅢレースで勝てなくなっていき、その度に自分への不信感はどんどんどんどん大きくなった。
昔はあった自信がだんだんと薄れていき、レースに対する気持ちも、他のウマ娘達に対する闘争心も萎れていった頃に、たまたま、一、二番人気のウマ娘が体調不良で揃って欠場したため、久しぶりにGⅢレースで勝つことができた。
私は自分の実力で勝った気は更々なかったけど、トレーナーは手を叩いて喜んで、「GⅡもいける! 」と言っていた。
言われるがまま、GⅡレースに二度出走したけど惨敗。これで私は本格的に彼女と自分の実力の差を痛感した。
私には才能がない。 彼女のように上手くはできない。
トレセン学園に来た今でも、その考えは変わらないままだ。