白石競走記   作:華燈始

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15.目標

日本全土で梅雨入りが発表されると、空一面を雲が覆う天気ばかり見るようになった。雨と曇りが交互にやってくるこの時期は、なんだか代わり映えがしなくて退屈だ。

 

最近は雨のせいで全くと言っていいほど外でトレーニングできず、数少ない曇りや晴れの日に外で模擬レースなどの実践を意識したトレーニングを行い、雨の日は室内で体力と筋力アップにいそしんでいる。

今日もまた、ザーザー降りの大雨のためコースを使えないのだが、マックイーンから部室に集合するように連絡を受けたので、室内トレーニング場ではなく傘を差してそっちに向かっている。

 

「お二人とも、お集まりいただきありがとうございます。このように部室に集まっていただいたのは“これ”をお二人に書いてほしいからです 」

 

と言ってマックイーンはテーブルの上に二枚のアンケートシートを置く。

 

「これは《シリウス》のメンバーとしてやっていく上でのアンケートです。昨日トレーナーさんから書いて提出するようにと渡されたのですが、他の方に見られたくないと思うかもしれないのでここで配らせていただきました。記入事項はそこまで多くないので明日回収いたします 」

 

ゴールドシップはアンケートシートを顔の前でヒラヒラ揺らしながら「え~ 」声をだし、不満げにしている。

ただ、マックイーンの言ったとおりアンケート用紙にある記入欄は二つだけだ。

だが私もこのアンケートにはあまり乗り気じゃない。と言うよりか、私の場合は答えが出せないと言った方が的確だろう。

アンケートシートに書かれた質問は

 

・自分が最終目標とするレースは何か

 

・その理由は何か

 

だったからだ。

 

 

 

※※※※※

 

「目標…か…… 」

 

自宅のテーブルに置かれたアンケート用紙を睨み付けながら、ポツリとそう呟く。

私の目標……あの人の夢を…そんな事、今の私が言ってもいいのだろうか? あの人には遠く及ばないどころか、あの人の立っていたステージで満足に闘えない自分が……

 

昔は自信を持って言えていたのに、今迷うということは身の程を知ったからだろうか。

あの人が受けていた期待や羨望、その一部ですら背負うことができない私が、あの人の夢を叶えるなんて大層なこと気安く口にしていいはずがない。

それに、トレセン学園にいるウマ娘達はみんな才能と実力を兼ね備えている。そのなかでしのぎ合い、高め合っているというのに、私がそこにいていいのだろうか? 自分の目標も見つけられず、力だって無い私に、あの人どころか彼女達と同じステージに立つ資格は無いんじゃないだろうか?

地方の娘達だって、彼女達なりに夢や目標を持って走っていたのに。私は彼女達のように走ることができなかった。なのに私はトレセン学園に来てしまった。

何もかも、最初から間違えていたのかもしれない。

 

グルグルと思考が頭の中を駆け巡り、考えがめぐる度胸が苦しくなった。

アンケート用紙には一文字も記入できないまま、気がつくと時計は5時30分をまわっていた。

 

「いつの間に…… 」

 

あっという間に過ぎていた時間に困惑しつつ、立ち上がろうとしたが、上手くバランスがとれずにうつ伏せに倒れ混んでしまう。

それだけじゃなく、頭もひどく痛むし少しだけだが吐き気もする。

 

「はぁ……散々だな 」

 

ベッドまで床を這うように移動して、体温計を脇に挟むと37.7と表示された。

 

「学校には行けないな… 」

 

数時間経った後、学校に電話で欠席の連絡を入れ横になった。

病院には行かず、その日は目が閉じるまで掛け布団の中でうずくまっていた。

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