「…来ましたのね 」
急いでジャージに着替え、中距離レース場へ向かうとスタートラインに一人、マックイーンがたたずんでいた。
相変わらず、可憐な見た目をしているが今はいつもと違う覇気のようなオーラを感じる。
「覚悟は決まりましたか? いいレースを期待していますわよ」
流石と言ったところだろうかマックイーンは、動きも声も落ち着いている。
だが、私も負けない。彼女に勝って自分を証明してみせる。
今までのレースのなかで、一番力が入っていると思う。力んでいるということではなく、気持ち的にだ。こんなに負けたくないと思ったのははじめてかもしれない。
「準備はいいですわね? 始めますわよ。よーい……スタート!」
マックイーンの掛け声で負けられないレースがスタートした。
※※※
シライシさんが並々ならぬ思いでここまでやってきたことくらい私も理解している。
だからこそ、彼女を挑発までしてレースに引っ張り出したのです。 レースをするウマ娘なら、走りで語り合うのが一番だから。
しかし、私も手加減、忖度はしません。
全力でぶつかって、絶対に勝つ!! 本気でぶつかり合ったレースを通して、彼女が感じたことこそ尊重されるべきものだから。
「準備はいいですわね? 始めますわよ。 よーい……スタート! 」
私の合図でレースをスタートさせました。
中距離なら私は走り慣れています。先行と言わず、逃げきるだけのスタミナは十分あるはずです。
シライシさんは主に差しを得意とするウマ娘、スタートが苦手で中盤から後半にかけて一気にスパートをかけてくるのはリサーチ済みです。
だから!!
序盤からフルスロットルで逃げて、どうやっても追い付けない差をつくる!
私の読み通り、シライシさんはまだ体力を温存している。そうしているうちに差はどんどん開いている!
スタミナもまだまだ余裕がある。
このまま逃げ勝ってみせます!!
※※※
マックイーンは、スタート同時にほぼトップスピードで飛び出していった。
普通なら後半失速するようなハイペースだが、スピードとスタミナの両方に長けている彼女なら、落ちることなく逃げきれるだろう。
私とマックイーンの差はどんどん開いていくが、ここで焦ってペースを乱せば絶対に追い付けなくなる。彼女のペースに惑わされず、少しずつスピードを上げるべきだ。
勝負は中盤からだ。
※※※
コースのだいたい半分くらいまで来ました。
後ろをチラッと振り返ると、シライシさんが徐々にペースを上げてきているのがわかります。
しかし焦る必要はありません。
序盤にセーフティリードを稼げたので、今のペースを維持しつつ、最後の直線で伸びていける分のスタミナをとっておくのです。
私の思惑通り、シライシさんとの差は多少詰められましたが、十分距離を確保できています。
最終コーナーから直線に入りかかったこのタイミングで、ラストスパートをかける!!
その瞬間━━
背後から、飲み込まれるような感覚が全身を覆います。
呼吸のペースが乱れ、両足が石になったかのように重く感じる。
これが、ゴールドシップさんが言っていた“プレッシャー”
後ろを見ると、彼女は着実にスピードを上げています。
このままではマズイ。なんとか逃げきらないと。
そう思っても思うように足が動かず、ぜえぜえと息もあがってきます。
あと少し!!━━━━━
※※※
最後の直線に入り、ついにマックイーンの背中をとらえた。
その差も序盤ほどのものではない。全力でスパートをかければ抜ける!
1バ身……もう1バ身と遠かった彼女の背中がどんどん大きくなっていく。
絶対に負けない! 負けない!!
あと少し!!━━━━━
※※※
私とシライシさんのレースは、序盤こそ大きく突き放したものの最終的にはすぐ後ろまで詰め寄られ、当初の考えていた戦略を崩されましたが、僅差で私が勝利しました。
シライシさんの方に目をやりますが、その顔は今までのような曇った表情ではなく、負けてもどこか晴れやかな顔で胸を撫で下ろします。
「シライシさん、いいレースをありがとうございました 」
と手をさしのべれば、彼女はその手をとって握手で返してくれました。
「こっちこそ、ありがとうマックイーン。 こんなに負けたくないって思ったレースは生まれてはじめてだよ 」
やっぱり、彼女の中で何かが吹っ切れたようです。
そうなれば、彼女はこれらグングン実力をのばしていくでしょう。もしかしたら、天皇賞で闘うことになるかもしれませんね。
「今日のリベンジは公式戦で。ですわね 」
「もちろん、次は負けないから 」
そう言った彼女の言葉は力強く、人が変わったようにいきいきしているのが伝わりました。
上手くいきましたよ、ゴールドシップさん。