雨が減り、夜でも蒸し暑くなるような日が増えてきた。
外での走り込みや、他チームのウマ娘達との模擬レースも増え、マックイーンとゴールドシップは本格的にホープフルへと動き出している。
だが、私だっていつまでも二人に置いていかれている訳じゃない。 “自分の目標”をたててそこに向けて毎日トレーニングをしている。
そして、《シリウス》のメンバーとしてはじめてのレース出走も決まった。
8月に行われる札幌記念だ。
いきなりのGⅡ出走に戸惑いがないわけではないが、公式レースはまだ未勝利戦しか走ってない二人がGⅠに出るんだ。それと比べたら対したこと無い。
何より、昔と違って今の私は誰にも負ける気は無いのだ。どんなウマ娘が立ちはだかろうとも、立ち止まる訳にはいかない。
私の夢はGⅠウマ娘になることだ。
※※※
「……速くなったな 」
一心不乱にターフを駆け抜ける彼女の姿を見て、思わず言葉がこぼれた。
やっぱりゴルシ様の目に狂いはなかったんだと確信する。
それにしても、マックイーンは上手くやってくれたものだ。
彼女がいなかったら……アタシじゃあれ以上どうしようもできなかっただろう。
こんなに面白いヤツとおさらばしそうだったなんて、考えたくもないな。
兎も角、マックイーンにシライシ、この二人とアタシは同じチームでもいずれ絶対闘うことになるだろう。もしかしたら三人で一つのレースに出ることだってあるかもしれない。
いつの話になるかはわからないが、そういう事を想像してると……無意識のうちに口角があがってくる。
「しばらくは退屈しなさそうだな 」
※※※
「ふぅ 」
と一息ついて額の汗を拭う。
ここのところ気温が真夏並みに高いため、外でのトレーニングはなかなかにハードだ。
今日なんて、トレセン学園の外周を何度も何度も走って、ジャージは汗でずぶ濡れになっている。
マックイーンは途中でサボってどこかに行ったゴールドシップを探している。 私も手伝おうかと聞いたが、彼女は自分の手で見つけ出して、今日という今日はきっちり反省させると意気込んでいた。
なので私は一人、部室へと戻っている最中な訳だが
「━━━━━━ 」
はて? 辺りには誰もいないはずなのだが、どこからか声が聞こえる。
茂みの中に中等部のウマ娘が隠れて、イタズラでもしているのかと思ったが、どこにもそれらしき姿はない。
「━━━━━━━ 」
こうやって探している間にも、主の見当たらない声は聞こえてくるのだ。
近辺をくまなく探しまわっていたところで、どういう訳だか私の目がピタリと引き付けられた物があった。
「…三女神の像……? 」
それは、トレセン学園の校舎前に置かれている三女神の像だった。
石像が声を出すなんてあり得ない。 そう思った瞬間━━
「!!?━━ 」
目の前がまばゆく輝く白い光に包まれ、私はとっさに目をつぶった。
※※※※※
ここはどこだろうか。
手足は動かすことができず、目も開かない。暑さや寒さも感じない空間でふわふわ浮かんでいるような感覚だ。
「━━━━━━━ 」
さっきまで聞こえていた声が、今度は耳元でする。
相変わらず何を言っているのかわからないが、なんだか懐かしい声のような気がする。
「━━━━━━━ 」
一体、誰の声なのだろうか。聞いてみたくても声を出すことができない。
「━━━━━━━ 」
なぜだろう。 この声を聞いていると、知らないうちに目から涙がこぼれてくる。
「━━━━━━━ 」
もっと一緒にいてほしい。 そう思ったが、また眩しい光が現れて、意識が遠のいていく。
もしかして…この声の主は………
※※※※※
ハッと意識が舞い戻る。
確かさっきまで、どこからか声がしてその主を探していたはず……。
その後にも何かあった気がするが、なんだったか思い出せない。ただ、とても不思議な体験をしたような…それに、なぜだか身体中から力がわいてくる。
今までじゃ考えられないような力が。
原因不明のパワーアップに喜んでいると、不意に右の頬を熱いもの何かがつたっていった。
「…あれ? なんで涙なんて…… 」
すぐに拭き取ったらもう流れてくることはなかった。目にゴミでも入ったのだろうか。
なんだか今日は可笑しな日だ。