白石競走記   作:華燈始

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19.仕送り

 

いつも通り、トレーニングを終え帰宅し、夕食をとっていると外のインターホンが鳴った。

この時間帯はさすがに管理人さんでも訪ねられたことはなく、少し不審に思いつつドアを開けると、配達業者の男の人が大きな段ボール箱を持って立っていた。

何か頼んだかな? と記憶をたどりつつ、とりあえず荷物を受け取ってベッドまで運ぶ。

 

箱をよく見てみると、送り主の名前が母であることに気がついた。

カッターナイフで封を切り、段ボールを開けると、中にはニンジンやとうもろこし、キュウリ等といったいくつかの野菜と小さな紙袋が入っていた。

紙袋の中身は気になるが、傷む前に冷蔵庫の野菜室へ中身を移す。 一人暮らしというのもあって、うちの冷蔵庫はあまりものが入らないため、半ば強引に押し込んでおいた。

 

さて、問題の紙袋である。

実家からの仕送りと言えば、手紙が同封されるイメージがあるが、紙袋には詰めないだろう。

そうなると、何か使いやすいような日常品という選択肢もあるが、紙袋は私の片方の手のひらに収まるような小さいものである。

この中に入れられる日用品と言ったら、爪切りくらいしか思い付かないが、わざわざ野菜と一緒に爪切りを送ってくるとは思えない。 そもそも日用品ならド田舎である実家よりもうちの方が手にいれやすいだろう。

 

いくら考えても答えがでないので、紙袋の封を切り中身を取り出すことにした。

 

出てきたのは、一枚の葉っぱの装飾がついた小さな金色のヘアピンだった。

「この葉っぱ……フタバアオイかな? 」

 

フタバアオイというのは、名前の通りハートのような形の葉を二枚つけた草だ。実家の周りの山に生えていて、私が小さい頃、山で遊ぶときはよく、そこら辺に生えていたフタバアオイを引っこ抜いてずっと持っていた思い出がある。

 

でもこのヘアピン、どこかで見たような気がする……。

私は子供の時から髪を短くしていたので、自分のヘアピンを持っておらず、着ける日は母のものを借りていたのだが、母はこんな派手な色のヘアピンを持っていなかったはずだ。

じゃあ、誰が持っているところを見たのだろうか?

「…… 」

 

幼い頃の曖昧な記憶を、一生懸命掘り起こすと一人の人物との会話を思い出した。

 

~~~

 

 

『シライシちゃんはどういうヘアピンが好きなの? 』

『……これ? 』

 

『そうね、シライシちゃんはフタバアオイが好きだもんね 』

 

『…え? いいわよ。 但し、シライシちゃんがもっと大きくなったら、ね? 』

 

 

~~~

 

そうだ。 間違いない。

このヘアピンは、あの人が持っていたものだ。

そこまで思い出すと、どんどん昔の記憶がよみがえってくる。

あの人は、髪飾りや身だしなみ道具が好きで昔からよく集めていた。

彼女の一番のお気に入りは、漆塗りの真っ赤なクシだった。

金色と黒で、マリや菊の花が描かれていて、オシャレなものに無頓着な私でも、その美しさに目を奪われた。

彼女はそのクシをずっと愛用していて、レースの前にもクシで髪をとかしていた程だ。

「髪についたホコリと一緒に、悪いものも落としてくれる 」と言って、いつも持ち歩いていたのだ。

 

このヘアピンは私が幼い頃、彼女のコレクションを見せてもらった時に、幼い私が気に入ったヘアピンのはず…。

結局、彼女から譲ってもらえる事は無いまま別れてしまったのだが、それをなぜ母が送ってきたのだろう?

今日はもう夜遅いが幸い、明日から週末のため学校は休みだ。

明日の朝、電話で母に直接聞いてみることにしよう。

 

手に持ったヘアピンをテーブルの上に置き、布団をかぶって眠りについた。

 

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