白石競走記   作:華燈始

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2.地方のシライシと嵐の黄金不沈艦

額を流れる一滴の汗を右腕で軽く拭い、左手に持っているスポーツドリンクを一口、渇いた喉へと流し込む。

「ふぅ 」と一息ついて顔をあげると、目の前に広がる人の海が目に入り、心の中でため息が出る。

前々から想定していたとはいえ、いくらなんでも多すぎないか?

二、四、六…………十四人はいると思われる若いトレーナー達。 平均年齢は30前半と言ったところだろう。

それもそうか。年を喰っていて経験豊富な人や、若くて優秀なトレーナー達はすでに他のウマ娘と契約ができているであろう。

この時点でウマ娘と契約できていないようなトレーナーなど大した人物はいないのだろう。

聞こえてくる言葉も、だいたい似たり寄ったりの甘く聞こえのいい言葉ばかり。

「私となら……」とか「君の実力は……」とか正直地方で飽きるほど聞いてきた言葉ばかりだ。

 

トレセン学園。

学問、レースの両方で全国トップクラスのレベルを誇るこの学園に私は元々入学するつもりなどなかった。

人の少ない田舎で生まれ、両親に可愛がられて育った私はいつの間にかレースの道へと進んでいた。

何をしても誉められる環境で私は、いつの間にか自分のやりたいことも他者に対する闘争心も失っていた。

ただ、親に言われたからと言う理由でなにも考えず走る。

そんな私でもレベルの低い地方ではそれなりに強かった。

三月の頭頃だったか。

数人の先輩に併走の約束をしていた私は、いつも練習していた小さな運動公園ではなく、少し栄えた街の大きめの運動場まで電車で向かい、ひとっ走りした。

その時、旅行の中継地としてたまたま立ち寄った街の運動場を散歩していたトレセン学園のスカウトに見いだされて私はここに入学することになった。

一緒にその話を聞いていた先輩達は大盛り上りで、まるで餌を投げ込まれた池の鯉のようだった。断るつもりだった私も、先輩達の勢いに押されしぶしぶ話を家まで持ち帰る羽目になり、家では家で両親が手を叩いて喜んで、外はもう真っ暗なのにも関わらず、ご先祖様々にお伝えせねばと家を飛び出して行ってしまったものだから、結局断りきれずに今日を迎えてしまったのである。

 

トレセン学園学園に来て、ここの生徒と走ってみて改めて中央のレベルの高さを感じた。

今日一緒に走った娘達は皆地方なら上位層を狙えるような力を持っている。

果たしてこの先やっていけるのだろうか。と考えつつ、人の大群を抜けたところで一人のウマ娘が待ってましたといわんばかりに仁王立ちしていた。

 

「よう!お疲れさん 」

 

初対面の私にいきなり馴れ馴れしく話す彼女は、私とは対照的に長くて白い髪をしたウマ娘だった。

 

「アタシもレース見てたんだけどよ、お前すげぇな!見てたこっちのスピリットがファイヤー越えてボンバーだったぜ!」

 

なんだかよく分からない言葉を体全体を使い、ダイナミックに表現する彼女を見ていると、遊園地に来てはしゃぐ子供のようだと感じてしまう。

……要するに私の走りを見て、興奮したという事で良いのだろうか。

 

「この胸の高鳴り!衝動!押さえるなんてできねぇ! アタシはゴールドシップ! あんたアタシ達のチームに入ってくれねえか? 」

 

ゴールドシップと名乗った彼女は、依然として興奮した様子でそう続けた彼女のテンションは最高潮にまで膨れ上がっていた。

ここで彼女に流されてしまっては、前と同じ失敗をしてしまう。なんとかここは断らなくては。

 

「素敵なお誘いだけど、私は転校してきたばかりでトレーナーも決まってないんだ。だから色々落ち着くまではチームのことは考えてないんだ。申し訳ない 」

 

「そうか……わかった! んじゃあ明日の放課後正門のところで待っててくれ! ゴルシちゃんこれからチェス野球のお稽古があるから遅れるわけには行かねぇんだ。じゃあな!」

 

そう言ってゴールドシップは駆け足でその場を去っていった。

まるで嵐のように現れ、過ぎ去って行った彼女を思い返すと心労のようなものが溜まったような気がする。

 

上手く断れただろうか?




ゲームをやっているときはゴルシってとんでもない娘だなぁと思っていましたが、ゴルシのセリフを書くときはなぜだか筆が乗りました。
つくづく不思議な娘です。
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