白石競走記   作:華燈始

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24.無茶

レースが終わり、一着でゴール板を通過した私は札幌レース場をいっぱいにうめる人々からの万雷の拍手を身体中に浴びていた。

興奮が覚めきらない頭に、大地が割れんばかりの大拍手を受ける様は、まるで夢の中の光景を見ているようにふわふわとしていて、ある意味幻想的な光景だった。

私はその大観衆を目の前にして、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

ウマ娘のレース後のイベントと言えば、ウイニングライブだろう。

今日のレースも例外無く、ウイニングライブが行われるため私は他のウマ娘達の後ろを着いていくようにして、自分の控え室へと戻ろうとしていた。

レース場と控え室を結ぶ長い通路の途中で、私の頭はレースの興奮から覚め、冷静さを取り戻した。 こうなると考えてしまうのは脳がはっきりとしてなかったときの自分の行動で、「拍手をくれた人たちに向けてもっとファンサービスした方がよかったんじゃないか 」とか「せめてもう少し、嬉しそうな顔をしておけばよかったんじゃないか 」などの後悔が、今ごろに成って押し寄せてくる。

ああすればよかった、こうすればよかったと自分の行いを悔やみながら歩いていると突然、ピタッと動かしていたはずのりょうあしが急に言うことを聞かなくなってしまった。

しかし、私はその場で静止したわけではなく、ゆっくりとした時間の中、脳の理解が追い付かないまま私の体はバタリと倒れ込んでしまった。

 

意識はある。 しかし、体全体が石にでも変えられてしまったかのように、ピクリとも動かせない。

なぜこんな状態になってしまったのか。 思い当たる原因なんて一つしかない。

先程のレースの影響だろう。

レースに向けて何度も練習したとはいえ、慣れない先行策で挑み、2000mを一度もスピードを緩めずに走りきった。

おそらく、レース中にも体は警告を出していたのだろうが、レースという大舞台で脳から分泌されたアドレナリンがそれを打ち消し、結果的にレースが終わった現在に影響が出たものと推察する。

さっきまでからは考えられないほどの脱力感。 声を出す気力すら湧いてこない程の疲労感。 もしかしなくても、私は相当な無茶をやらかしたらしい。

ただ、はやく現状を打破しなければウイニングライブの時間になってしまう。 ライブは私以外のウマ娘達だけでなく、レースを見に来ている人々、テレビやその他の情報媒体から見守るレースファンが楽しみにしているイベントだ。

16着とかなら兎も角、1着の私がいないと他の人にかけてしまう迷惑は計り知れない。 だが体が動かない。

精一杯、一生懸命という言葉のどれもが当てはまらない程、私には体力も気力も残っていないのだ。

手を前に、足を前にという思いすらわきたたない状態で四苦八苦していると遠くの方から誰かがこっちに向かってくるような足音と話し声が聞こえた。

 

「シライシさーん どこにいますの? 」

「おおーい! どこ行っちまったんだー? はやく出てこないとマックイーンの朝飯をイナゴの佃煮にしちまうぞー 」

 

聞こえてきた声は私を探すマックイーンと、なぜかそのマックイーンの朝食を人質にとるゴールドシップの声だった。

動けない以上仕方ない。 二人に助けを求めて控え室まで運んでもらおう。 そう考え私は腹の底から目一杯声を張り上げた。

 

「…ぁぁ…タスケ… 」

「きゃあああ!!? 」

 

通路内に響き渡ったマックイーンの悲鳴。 私の声に対して絶叫されるのはいささか心外ではあるが、今はそんな事言ってられない。 なんとしてでも二人に助けてもらう他ないのだから。

「マック…イーン…… 」

「イヤァァァ!!! 」

「おっ! シライシじゃねーか。 なんでそんなとこで寝てんだ? 」

 

またしても、マックイーンには悲鳴をあげられたが、彼女のとなりにいたゴールドシップは私の存在に気づいたらしく、反応を示してくれた。

二人に事情を説明し、控え室へと運んでもらいながらなぜ私を探していたのかを聞くが、その答えは単純明快。 レースに出走した他のウマ娘達が皆、各々の控え室に戻りライブの準備を整え終わったのに対し、私は行方不明になっており、他のウマ娘達が誰も私がどこに行ったのか見ていなかったからだ。

 

まあ、私は一番最後にターフを出たので誰も私が倒れたことを知らないのは頷けるが、まさか観客席にいた二人が探すほどの大騒ぎになるとは思ってもいなかった。

加えて、二人の話しによればもうライブまでほとんど時間がないらしい。

依然として、私は体を動かすことができず、ゴールドシップに体を拭いてもらい、マックイーンには私を見つけたことを報告しに行ってもらっている。

 

「オメー、ほんとおもしれーな 」

 

とゴールドシップにからかわれても、反撃も反論もできずただ彼女に体を預けることしかできない時間が20分程続いた。

カチャッとドアが開き、マックイーンが戻ってきた。

だが、控え室に入ってきたのは彼女だけではなく、真っ白な白衣を着た40代くらいと思われる男の人も入室した。

 

「医師の方を連れてきましたわ。 先生お願いします 」

 

さすがに大袈裟すぎないかと思いつつ、現状何もできないのでされるがままに腕や脚など、体の隅々まで検査された。

結果として、特に骨折などの大怪我はしておらず、緊張状態からの解放で力が抜けたのと、極度の疲労からだろう。 念のためしばらく体を休めて安静にするようにと言われた。

そのため、今日のウイニングライブは出られず、未だ体を動かせない私は二人のお世話になりながら新幹線に乗車して家まで運んでもらうことになっていまった。

まともに動けるようになるのは3日後のことである。

 

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