白石競走記   作:華燈始

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27.2戦目

私が部室に到着した頃には、すでにマックイーンによる説得は終わっており、ライスシャワーの《シリウス》加入が決定されていた。

彼女がどのような手口を使ってライスシャワーを説得したのかはわからないが、結果良ければ全て良しという言葉がある。 深く詮索せず、ライスシャワーの加入を素直に喜ぶことにしよう。

マックイーンは、ライスシャワー加入の正式な手続きを行うためトレーナーに連絡をし、ゴールドシップは「お米万歳! 」と奇声をあげながら、どこからともなく取り出したジェンガをテーブルの上に積み上げはじめた。

…まあ、ゴールドシップなりに喜びを表現しているのだろう。 多様性が受け入れられる社会。 これも彼女の個性なのだと自分に言い聞かせているうちにも、彼女はジェンガを積み終え、二つ目をそのとなりに積み上げはじめた。 今度は声を出さず、真剣な眼差しで、舌を出しながら積み上げている。

そんなゴールドシップを見て、私と同じように困惑の表情を浮かべるライスシャワー。 ただ彼女の顔が見せた感情は戸惑いだけではなく、どこか楽しんでいるようにも見えた。

 

 

 

※※※※※

 

ライスシャワーの加入が決まってから、数日の月日が流れたある日。 私にとって、事件と呼んでも過言ではない出来事が起こった。

 

この日はトレーニング終わりに、私の次のレースに関する指示がトレーナーからおりたという事で、いつも通りマックイーンのもとへ集まっていた。

「シライシさん。 トレーナーさんからのメッセージを読み上げますわ 」

 

彼女はそう言うと、体操着のポケットから一枚の紙を取り出し、それを広げてこほんっと咳払いした。

その場には静寂と、痺れるような緊張感がほとばしり、私は思わずごくりと息をのむ。

 

「最近のトレーニングでの動きや、模擬レースでの状態、脚部への疲労に、メンタル面などの総合的なコンディションは全く問題ないと評価しています。 ですので、少し急な話しかもしれませんが次の出走予定を来月の末に取りました 」

 

これだけでも充分驚くべきことだった。

普段全くと言っていい程その顔を見せないトレーナー。 マックイーンとゴールドシップは会ったことがあるらしいその人は、いつもマックイーン経由でチームと個人へ指示を出している。

マックイーン曰く、トレーニング風景や、模擬レースの様子などを撮影したデータを送り、諸々の判断を仰いでいるらしいのだが、一見するとこのような状態でチームを管理できるのか疑問に思われることだろう。

しかし、トレーナーの指示は確実にして的確。 それを私はこの数ヶ月間で身にしみて感じていた。

マックイーンが右足首を痛めたとき、彼女の模擬レースの映像を送ると、右足への若干の偏重心を指摘。 バランスよく走れるよう、体幹トレーニングを取り入れてから彼女の症状が再び現れることはなかった。

ゴールドシップは、ほとんど完成された肉体、その筋肉量の伸び悩みを相談していた。 するとトレーナーはインナーマッスルのトレーニングを指示。 以降、彼女の体はレースでのキレを増し、更なる飛躍へと繋がった。

 

このような事例から、私達は顔を合わせる機会がなくとも、トレーナーに全幅の信頼を置いている。

そんなトレーナーから、私の現状を高く評価されているというのは喜びを通り越して、驚愕の感情へ達することなのだ。

 

だが、こんなことなどこの後のトレーナーからのメッセージと比べたら、ほんの序の口程度のものでしかなかった。

それは

 

「出走登録したのは10月の末、京都で行われる菊花賞だ。 そこに向けてより一層トレーニングへ励むように 」

 

とマックイーンは続けた。

あまりの衝撃で、頭の中が一瞬真っ白になった。

それは私だけの話ではなく、はじめから一緒に聞いていたゴールドシップとライスシャワーも両目を大きく見開いて、唖然としていた。

 

きっか…? きっかしょう?

ぐるぐるとその6文字が頭の中を飛び回り、ゲシュタルト崩壊が起こりそうなほど6文字の羅列を意識した。

 

「言わずもがな、GⅠレースですわ。 トレーナーの言葉通り、より一層頑張らなければいけませんね 」

 

マックイーンのその言葉で、やっと我にかえった。

…GⅠレース……。

やっとGⅡに勝ったばかりの私が…あの人でも届かなかったレースに出れる……。

なんの意識もせず、じっと見つめていた私のみぎの手のひらは、小刻みに震えていた。

私にとって、未知のレースとも言えるGⅠに恐怖や緊張は感じていなかった。 むしろ、今までより更に上のレベルで闘えることによる喜びで、私の心は埋め尽くされていた。

昔より何倍も強く、速くなった自分がGⅠという最高峰の舞台でどれだけ闘えるのか。

一番強いウマ娘が勝つと言われる菊の舞台で、どれほどのレベルのウマ娘と対峙することができるのか。

そして、今の私の実力でGⅠに手が届くのか。 あの人が届かなかった場所に、私は。

 

開いていた手のひらは、自然と閉じられ力強く握られる。

そして、次のマックイーンの一言で、私の炎々と燃える闘志は更にその激しさを増すことになった。

 

「今年の菊花賞。 あの“高速ステイヤー”スーパークリークさんの出走も決まっていますわ 」

 

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