私の菊花賞への出走が決まり、札幌記念の時のようにチーム一丸となってトレーニングに取り組みはじめたある日の事。
体の動きや、体調面共に好調を好調を維持して日々過ごしていた私だったが、菊花賞に向けて懸念点と呼べる不安の種が一つだけあった。
それは勝負服のことである。
勝負服とは、ウマ娘が、GⅠないしはそれに相当するような重要なレースに出走する時に身につけるレース用の服の事で、勝負服を着ることによって、ウマ娘の力をさらに引き出すことができる服の事だ。 勝負服を着ることができるということは、GⅠクラスの大きなレースに出走できるだけの実力あるウマ娘と認められたようなもので、着用できるだけで名誉とする人もいるくらいのもの代物だ。
だがしかし、私はこれまでのレース人生でGⅢ、GⅡレースの出走経験はあれど、GⅠレースへの挑戦は今回はじめてなわけで、必然的に勝負服をまだ持っていないということになる。
GⅠレースには勝負服の着用が必須とされているため、このままでは出走を取り消しにせざるをえないような状況なわけだ。
といったようなことをマックイーンに相談したところ、すでにトレーナーにこのようなことは報告済みで、トレーナーも勝負服の手配を既に行ったらしい。
私はホッと胸を撫で下ろし、トレーニングへと戻った。
※※※
その件から数日がたった日。
学園宛に私の勝負服が配送されたということで、私達はそれを受け取りに行ったマックイーンを、部室のパイプイスに腰を下ろして待っていた。
本当は私が直接受け取りに行きたかったのだが、
「せっかくの勝負服なんだから、サプライズ要素マシマシで行こうぜ 」
というゴールドシップに抑えられ、またその意見に賛同したマックイーンが生徒会室まで私の勝負服を取りに行くこととなってしまった。
ちなみに、新しく加入したばかりのライスシャワーに支持を求めたのだが、
「ライスも…サプライズは、大事だと思う…な 」
となぜかゴールドシップ側の意見であったため、あえなく私の淡い希望は霧散するかたちとなってしまった。
マックイーンを待っている時間は、ほんの十数分だけだったのだが、体感だと小1時間くらいかかったのではないかと思うほど、とても長く感じた。
ガラリと戸を開いたマックイーン。 彼女は厚さのあまり無い、白くて正方形の箱を片手で抱えている。 おそらくあの箱の中に私の勝負服が入れられているのだろう。
「さあ! 箱を開けて中を見てみてください! 」
そう言ってマックイーンは抱えていた箱を私の方に突き出し、中を見るよう催促した。 なんだか少し強引な気がすると思い、彼女の方を見てみると、マックイーンの尻尾は左右にブンブンと振られ、両目はキラキラと輝いている。
たぶん、マックイーンも気になるんだろうなと結論づけ、彼女から箱を受け取り、蓋を開けて中のものを取り出す。
中から出てきたのは、1着のワンピースだった。
黒を基調としたそれは、丈の長い服を上から重ねたようなデザインをしており、スカートは白金色、黒、白金色の三色をもちいていた。 さらに首もとには浴衣の衿元のようなラインが金色で彩られていて、重ね着のような部分の肩にかかっているところからも金色のラインがスカート部分までのびいる。
黒、金、白金と可愛らしいデザインとは裏腹に、どこか武骨さを感じされるような色使いがなされていた。 それになんだか派手なような気もする。
「おおー! スゲーカッチョイーじゃねぇかよ! 」
まじまじと取り出した勝負服を眺めていると、ゴールドシップが声を上げた。
「そう? 」
と彼女に聞き返したら
「あったりめーよ! だって金だぜ、金! この色使っといてダセーなんて他でもネー、このゴルシ様が許さねぇーぜ! 」
と力強く話した。
確かに彼女の名前は“ゴールド”シップだものな。 自分の名前についている色を、彼女のような性格のひとが好きにならないわけないか。
興奮するゴールドシップに目を配り、もう一度持っていた勝負服を見つめる。
彼女の話を聞いていたら、なんだか愛着がわいてきたような気がする。
「良いじゃないですか、きらびやかで、それでいてどこか落ち着きもある色合い。 シライシさんらしいですわ 」
とマックイーン。
「ライスも…とっても素敵だと思うよ? 似合うと思う 」
ライスシャワーもそれに続く。
「……そうだね。 確かにいいデザインだ 」
不意に頬が緩んだのはなぜだろう。
最初は派手すぎると思っていたこの服を、いつの間にかこれでこそと思うようになっていたのはなぜだろう。