白石競走記   作:華燈始

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史実とは違う点もありますが、この小説の世界観での話ですのでご了承ください。


29.菊花賞

もっとも強いウマ娘が勝つと言われている菊花賞。 そして、レースの1月前の時点でほとんどの人々から1番人気として騒がれるスーパークリーク。

私は彼女に勝ち、夢のGⅠ勝利を手にするためトレーニングの合間をぬって、彼女の情報を集めていた。

まず、簡単に集められたのは彼女の戦績だった。

彼女はデビュー戦惜しくも2着で敗れるも、続く未勝利戦を一着、その後長いトレーニング期間を経て、2月に阪神のすみれステークスに出走し一着。 日本ダービーに出走予定だったがトレーニング中に発生した怪我によりこれを回避。 春、夏とリハビリと実践トレーニングを続け、今回菊花賞に挑むらしい。

戦績だけみれば3戦2勝、GⅠ初挑戦となる彼女だが、多くの人々から支持されているのには理由がある。 それはトーニング期間中に彼女が行っていた模擬レースの結果である。

彼女の模擬レースの相手は、今年の天皇賞(春) を制した“皇帝”シンボリルドルフと熾烈な争いを見せた“白い稲妻”タマモクロスや世代最強の呼び声高い“怪物”オグリキャップ等の強力な同期と互角のレースを繰り広げたのだ。

…まあ、私が言うのもなんだが、今年の菊花賞には名の知れた有力ウマ娘が出走せず、天皇賞(秋)へと注目が集まっているのも原因の一つだろう。

今年の天皇賞(秋)は前述したタマモクロスと、1世代上でシンボリルドルフと並び活躍、圧倒的なスピードで他者を寄せ付けない走りを見せる事から巷では“スーパーカー”とも呼ばれているマルゼンスキーのラストランとされているのだ。

今世代の最強格と前世代の最強格の闘いという事で、天皇賞(秋)は例年以上の注目を集め、ビッグネームの出走が無い菊花賞はあまり注目を浴びない結果となっている。

ただ、前予想6番人気の私がどうこう言えた話でもないし,GⅠレースであることには変わらないため、私は菊花賞勝利へ向けて更に自らの体を追い込んだ。

 

 

※※※※※

 

それから月日が流れ、菊花賞当日。

前予想通り、マークしていたスーパークリークは1番人気に推されるなか、私は少し上がって4番人気として紹介された。

レース場内に設置されたスピーカーから流れる実況と、それに沸き立つ大観衆の声。 GⅡレースとは比べ物にならないほどの人々で京都レース場は埋め尽くされていた。

「わぁ…こんなにたくさんの人に見られると、緊張しちゃいますね 」

 

と全く緊張など感じさせない穏やかな口調で話すのは、今日の1番人気で、目の前に広がる大観衆からもっとも注目を受けているであろう、スーパークリークだ。

奇しくも私と彼女はゲートが隣り合わせに決まったため、出走前にこうして会話している。

そうしているうちにも、大半のウマ娘達がゲートインを済ませ、私とスーパークリークも続くようにゲートへ入った。

とうとうGⅠレースが始まる。

だと言うのに、私は不思議と緊張しておらず、なぜだか落ち着いていた。 ゲートに入る前まで響いていた観客の騒然とした声も、全て聞こえなくなったかのように気にならなかった。

昔と違って、レースだけに本気で向き合えている証拠だろうか? なんであれ、今確かに言えることは、私は今日のレースを待ち望んでいたということだけだ。 GⅠの舞台で闘うことを待ち望んでいた。 GⅡよりもっと強い相手を待望していた。

 

目を閉じる。 穏やかに流れる秋の風が私の髪を揺らしたのを感じて、キッと前方を睨む。

目指すのは1着のみ。 改めてそう心に刻み込む。

18のゲートは一斉に開き、菊花賞の火蓋がきって落とされた。

 

レースの序盤から私達の前には坂が立ち塞がった。

ここで先頭集団と後方集団がはっきりと別れ、下り坂へと入っていく。

私は後方集団の前から2番目に陣取り、スーパークリークは先頭集団の3番手に控えている。

4コーナーをまわった後の直線では、先頭集団での激しい順位争いが繰り広げられているが、スーパークリークは依然自分のペースを保っているように見える。

この間に私は少しスピードを上げ、後方集団の先頭から一歩飛び出した位置に着けた。

それから特段動きの無いまま、先頭集団は最後の坂へと突入して行く。

 

足の感覚、体力のペース配分共に良好。 私は順調にレースを進められている。

そして、先頭集団に続いて私も坂へと入った時、私のレースは開始された。

他のウマ娘達が坂へ入るにつれスピードを緩めるなかで、私はぐんぐん前へと進む。

京都の上り坂でスパートをかけると、ロングスパートになり体力が持たないと言われているが、私はあえてここでスピードを上げて一気に先頭へと躍り出た。

もちろん、勝算無しにこんなことしている訳じゃない。

むしろ逆で、私が菊花賞で勝つにはこうするしかないのだ。

私の卑下を入れない真っ当な自己評価は、『スタミナ、パワーは平均以上だが、トップスピードは平均以下 』というものだ。 そのため、坂をくだりきった最後の直線でスパートをかけても、私より前を走る先頭集団、ましてやスーパークリークには追い付けないと判断した。

だから私は、無謀とも言われている上り坂からのスパート策をとったのである。

狙いどおり、私以外のウマ娘達は軒並みスピードを落としたため、私は先頭をキープできている。

3コーナーの下り、ここの前で加速をつけているとその遠心力のせいで大きくふくれあがり、体力を消耗してしまうと言われている。

しかしそれは他のウマ娘であればのこと。 私のストロングポイントはスタミナとパワーだけじゃない。 同じチームであるゴールドシップやマックイーン、ライスシャワーよりも遥かに強い脚の筋力だ。

片足を地面に突き刺すように力強く踏み込み、そこを軸にして無理やり体を内側に倒しスピードにのったままカーブする。

他のウマ娘には絶対にできない。 私だからできる走りだ。

 

こうして私は、スピードと先頭を維持したまま最後の400mの直線へと突っ込んだ。

後ろに一瞬、チラッと目をやると4バ身ほどの差をつくっていた。

だがしかし、その一瞬で私は確かにそれを捉えた。

下り坂から一気に加速し、前を走るウマ娘を撫で斬るように飛び出してきたスーパークリークを。

私も歯を食い縛ってさらに足を前に出す。 しかし、私のトップスピードでは振り払えない。

じりじりとその差を詰められ、そして遂に並ばれたその時。

 

私達はゴール板を通過した。

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