私はステイヤーズステークスに向けて、ゴールドシップとマックイーンはホープフルステークスに向け、それぞれトレーニングを行っていた。
ライスシャワーは、トレーナーにまだレースに出走できるほど、体が出来上がっていないと判断されたため、私達の手伝いをしながら体力作りに励んでいる。
そんなある日の事。
私とゴールドシップは、図書室での勉強を終え部室へと戻る途中であった。
「なんだ? やけに騒がしいな 」
ゴールドシップが向けた視線の先には、学園の廊下でたくさんの人々が誰かの周りを囲むようにして群がっていた。 手にカメラやら、メモ帳なんかを持っているのを見るに、記者さん達だろうか?
「なんか面白そうだし行ってみようぜ! 」
と言うと、彼女は私が有無を言う前に駆け出していってしまったので、私もその後を追いかける。
記者達の近くまで行くと、彼らが囲んでいた人物の顔が見えるようになった。
茶色の長い髪を腰付近までのばし、前髪の真ん中あたりにある白いラインのような髪が特徴的な彼女は、トレセン学園の生徒会長、シンボリルドルフだ。
彼女は絶対的な実力と、他者を魅了するような人望からトレセン学園のウマ娘代表として度々取材陣の前に立つことがあるのだが、彼女はついこの前会見を開いたばかりだ。 こんな短いスパンで取材を受けるとなると何かあるのかもしれない。
そう思い、記者陣に後ろから水をかけるというイタズラをしようとしていたゴールドシップを引きずり、シンボリルドルフの声が聞こえるギリギリのところまで離れて様子を伺うことにした。
ここら辺かな。 とゴールドシップの首根っこを離す。
この場所は廊下の角になっているため、記者陣の方からは見えないし、距離的にもシンボリルドルフの声が充分聞こえるくらいだろうと思っていたのだが、ここには一人先客がいたようだ。
「むー、ボクからカイチョーを取るなんて許さないからね 」
とふくれっ面をしているのは、久方ぶりに再会したトウカイテイオーだ。 彼女曰く、今日はシンボリルドルフとおやつを食べに行くと勝手に決めていたのだが、取材のため彼女に断られてしまい、その事がご立腹らしい。
まるで妹か何かに遊び相手の父親を取られた子供のようだ。
さて、イタズラを遂行できずに拗ねているゴールドシップと、シンボリルドルフを独占できずに機嫌を損ねているトウカイテイオーを尻目に、記者陣の取材が開始された。
「まず、本日は急な発表というにも関わらず、トレセン学園までご足労いただき恐悦至極です 」
そう言うと、シンボリルドルフはペコリと一度頭を下げる。
「本日は私から2つ、発表させていただきたい事があります 」
彼女がそう口にすると、記者陣からは少しのざわめきが起こる。 恐らく、今日発表される内容は一つだけだと考えていたのではないだろうか。
ざわざわとした話し声が止んだのを見て、シンボリルドルフが発表を再開する。
「1つ目ですが、現在私は今月末に控えたジャパンカップに向け、トレーニングに励んでいますが、更に来月末開催される有馬記念へと出走登録させていただくことを、トレーナーと話し合い、決めさせてもらいました。そして、この有馬記念を私のトレセン学園での最後のレースとさせていただくことにしました。 ここまでで何か質問はありますか? 」
記者陣からは、先程より大きなざわめきが起こる。 当然だ、“皇帝”の異名をとり、一世を風靡したウマ娘が今日、急に開いた会見で引退を……引退?
ざわめきが収まらず、やや混乱ぎみと言っても過言ではない状態の記者陣の中で、1人の記者が手をあげ、シンボリルドルフに質問した。
「“トレセン学園での最後のレース”と仰いましたが、学園を卒業後にどこか別の場所でレースに出走するおつもりなのでしょうか? 」
それを聞くとシンボリルドルフはフッと口元を緩ませ、即座に
「失礼。 こちらの質問への回答は、2つ目の発表内容に関わることですので、いったん保留とさせていただきます。 他に質問はございませんか? 」
誰も手をあげないのを見て、シンボリルドルフは「では 」と2つ目の発表へとうつった。
「先程、質問いただいたように私は有馬記念をトレセン学園での最後のレースにいたしますが、レースを引退するわけではございません。 私は、トレセン学園を卒業後、学園理事長である秋川やよい氏が設立する新リーグへと参入させていただくことが決まっており、その発表を本日させていただきます 」
さっきまでとは打って変わって、しーんと静寂が会見の場をつつむ。
まあ、確かにこんな学園の廊下でやるような会見で出てくる発言じゃないわな。 テレビ局をいくつも呼んで、全国放送で流すような重大な発表だ。 すぐにのみ込めないのも頷ける。
「この新リーグですが、高等教育を終了し、GⅠレースでの入賞経験があるウマ娘を対象にランナーを選定し、よりハイレベルな走りと、現在活動中のウマ娘達の新たな目標を提示するために設立を目指している、と理事長から説明を受け、ウマ娘レースの更なる発展のため、私自身も新リーグ設立とそれの参加をさせていただくことになった次第です 」
多くの記者たちは、いまだに話をのみ込めず目を見開いたままだ。 それはこっちも同じで、トウカイテイオーは驚きのあまり同じ表情のまま固まってしまっているし、ゴールドシップは手に持っていたルービックキューブを落としているのに、それに気づかず手を動かし続けている。
その後、ようやく我に帰った記者陣がいくつかの質問を行った。 それを聞いた限りだと、どうやら新リーグとやらは設立に向けてだいぶ計画が進められているらしい。
『高等教育を終了していて、GⅠレースに入賞経験のあるウマ娘』……。
私には無関係…とは言えない話だ。
ウマ娘達って引退後はどうやって生活するんでしょうね?