白石競走記   作:華燈始

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32.アルバイト

とある休日のことである。

 

その日、私は一人で多くの店がたち並ぶ駅の方面へと出掛けていた。

事の発端は数日前、トレーニングの前にチームのメンバー、ゴールドシップ、マックイーン、ライスシャワーとストレッチを行っていたときだ。

「今年のクリスマスはよぉ、みんなで部室に集まってパーティーしねぇ? 」

 

ゴールドシップが何気なくした提案に、マックイーンとライスシャワーが賛同し、クリスマスパーティーの計画が練られることになった。

話し合いの結果、飲食物とプレゼント交換用の物を1つ各自が持ち合わせること、部室の飾りつけはゴールドシップとマックイーンが行うことに決まった。 しかし、私は実家からの仕送りとアパートの管理人さんを含む様々な人々からのお裾分けで生活している。 要するにプレゼントと適当な飲食物を買うお金なんて無いのだ。 だからといって、チームメンバーである私が準備に参加しないというのは、みんなに迷惑がかかることだし、角がたつことだろう。

何とかしなければと管理人さんに相談したところ、ちょうど知り合いが経営している露店でアルバイトを募集しているということで、そこに紹介してもらえることになった。

店長さんへの連絡は、管理人さんが済ませてくれたので、私は特に面接などをせず、アルバイトとして働かせてもらえることになったのだ。

店の方も露店ということで、特段複雑なことをするわけでもない、ただのよくあるたい焼き屋らしい。

私は昔から『鯛』関連のものが好きで、刺身に寿司、鯛めし、お茶漬け、天ぷらなどなどよく食べていた。 まあ、たい焼きに鯛が入っているわけではないが、関係なく好きになったので地方にいたときにも1度だけ、たい焼き屋の手伝いをしたことがあるので、たい焼きを焼くことだってできるのだ。

ただ、今日のバイト内容はレジ打ちと接客だから焼ける焼けないは関係ないが…。

 

駅近くの、大きなショッピングモールの外に露店は開かれていた。 私は店長さんに声をかけ、今日私がやる仕事内容を教えてもらう。

客が来たら注文を聞き、それを店長さんに伝えて会計をするという単純な仕事だ。

よしっと拳を軽く握って気合いを入れる。 パーティーを行うためにも頑張らなくては。

 

 

 

※※※

 

時計の針が9時をさすと、ショッピングモールの店舗がポツポツと開店され、駐車場に入ってくる車も少しずつ現れはじめた。

休日ということもあり、親子連れから学生まで幅広い年代の人びとがショッピングモールに訪れており、たい焼きを買っていってくれるお客さんも多いため、それなりに忙しくしていた。

その中には時おり、トレセン学園のウマ娘達も混じっていて、食欲旺盛な彼女たちはたくさんたい焼きを注文していってくれた。

 

噂をすればなんとやら、2人のウマ娘がメニュー表の前で立ち止まった。

片方は頭の両側に三葉のクローバーのような髪飾りを着けた、朗らかな娘で、もう片方は…黒いツンツンとした髪の毛の、人相の悪いウマ娘だ。

見た感じ対照的な2人のウマ娘は、メニュー表を目の前にして仲睦まじそうに話している。

 

「シャカール見て見て! “たい焼き”だって。 私“たい焼き”なんてはじめて見た! どんな食べ物か食べてみていい? 」

「あぁ!? さっきクレープ4つも食ったばっかだろうがよ!? まだなんか食う気なのかよ… 」

「いいじゃんいいじゃん、だって私の知らない美味しそうな物いっぱいあるんだもん 」

 

驚くべきことに、朗らかそうなウマ娘が人相の悪い方を振り回していた。 人もウマ娘も見かけによらないものだ。 クレープを4つ食べたと言われていた彼女は、たい焼きのこしあん、つぶあん、カスタード、ウグイス、お楽しみ(からし)をそれぞれ1つずつ買った後、近くにある焼きそばの露店の方へと行ってしまった。 恐ろしい限りだ。

 

他にもウマ娘達は何人か来店したが、やはり皆人より多くのたい焼きを注文していく。

お昼ごろからおやつ時になるとウマ娘の来店数が増え、みるみる内にたい焼きの材料が無くなっていった。 そして太陽が傾きかかった頃、遂にたい焼きの材料も焼き貯めておいたストックも完売したため、今日の営業は終了となった。

今日働いた分の賃金を店長さんから受け取ったが、これだけ働いて5000円とちょっと、プレゼントまで買うにはあと数回アルバイトをしなければいけないだろう。

だが、12月の頭にはステイヤーズステークスが控えている。 しばらくはトレーニングに集中して、出走し終わったらアルバイトを入れよう。

少しだけ厚さを増した財布をバッグに仕舞い、私は帰路に着いた。

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