「まったくあの人は!! 」
小さく狭い部室の中に、マックイーンの怒号が響き渡る。
真冬の寒さのなか、びっしょりとかいた汗の気持ち悪い感覚が全部吹き飛ばされるような勢いだ。
マックイーンが怒りを感じている対象はゴールドシップなのだが、彼女は現在部室内にいない。
本日のトレーニング開始前、ゴールドシップは私とライスシャワーの2人と一緒に部室まで来ていたのだが、不意に何かを思い出したかのように駆け出していき
「ゴルシちゃん、今日ちょっぴし遅れるわ 」
と言い残してどこかへと行ってしまった。
その事をマックイーンに伝えると
「何か事情があるなら仕方ありませんわ 」
とマックイーンは特に気にしていないように振る舞ったが、彼女の握られた拳は僅かに震えていた。
ゴールドシップはここ1週間、毎日のように遅刻やサボりを繰り返していたのだ。 この時点でマックイーンは相当頭にきていたはずだが、なんとか思い止まっていた。
ゴールドシップからは一応、遅刻の連絡をされたので、私達3人は先にウォーミングアップの学園外周ランニングを開始した。
このウォーミングアップは、今月に入ってから毎日行うとチーム内で決めたものなので、ゴールドシップも私達が外周を走っているのを知っていたはずだが、彼女は結局私達の前に姿を見せなかった。
遅刻にしては、あまりにも遅すぎるため、3人で話し合い一旦、部室へ戻ってゴールドシップを待つことにした。
彼女が部室で待機している可能性もあるため、私達はすれ違いにならないよう、急いで部室へと戻った。
部室には、ゴールドシップの姿は無かったが、かわりに1枚の紙がテーブルの上に置かれていた。
「アタシの中のゲートボーラーの血がスタンドアップしたので、夕日に向かってバックホームすることになりました。 探しちゃ嫌よ。 みんなのゴルシちゃんより 」
この意味不明な文章を目にした時、マックイーンの堪忍袋の緒がとうとう切れ、怒鳴りをあげたというわけだ。
現在、ライスシャワーは校舎内を、マックイーンは学園の外を、私は校庭や中庭などをそれぞれ手分けして探している。
ただ、私は神出鬼没のゴールドシップを下手に探すのではなく、彼女が戻ってくるのを待っていた方がいいと思うのだが、怒りが頂点まで達したマックイーンに意見するのは流石に怖いので素直にゴールドシップを探すことにした。
まずは学園内に数ヶ所存在する中庭からだ。
ここではサボり癖のあるウマ娘達が、よく昼寝をしているという噂があるため、他の場所より優先して行ってみたのだが
「確かに、昼寝してるウマ娘は見るけど、ゴールドシップはいないな…… 」
本当は、探す途中で会ったウマ娘に聞き込みを行う予定だったのだが、中庭で昼寝をしているウマ娘は気持ち良さそうな表情を浮かべながら、無数の猫に囲まれて眠っていたので、声をかけずにスルーしておくことにした。
冬場でも、もふもふの毛並みを持った猫達がいれば温かく眠れそうだと考えながら、中庭を後にする。
次に私が向かったのはグラウンドだ。
ここは、主に体育の授業で使う他、外での筋力トレーニングや軽いランニングなどで使われている。
今日は、中等部のウマ娘達がグラウンドを使ってトレーニングをしていた。
とりあえず、休憩中だと思われるウマ娘にゴールドシップを見ていないか聞いてみたのだが
「ゴルシ先輩っスか? 見てないっスね 」
「私もゴルシ先輩は見てません 」
等々。
数人に聞いてみたのだが、皆ゴールドシップを目撃したというウマ娘はいなかった。
これ、ひょっとしてゴールドシップは学園の外に 行ったんじゃないか?
と思い、一旦部室にゴールドシップが戻ってきていないか確認しようと戻る道中。
「お! いいところに現れたな。 ちょっとこれ運ぶの手伝ってくれよ 」
1,5mほどの小さな植木を鉢ごと1本担いだゴールドシップに出くわした。
彼女にいろいろ質問する前に、植木の鉢の方を持つ。
すると、ゴールドシップは「サンキュー 」と一言礼を言うと、自らどこへ行っていたのかと、なぜいなくなったのかを話してくれた。
「実はよ、商店街で八百屋やってるおっちゃんに、クリスマスパーティーで使うツリーを今日、受け取りに行く予定だったんだけどよ、おっちゃんとこに行ったら親戚の家にあげちまったって言うんだぜ? 」
「かわりに、仕立て屋のおっちゃんがツリーをくれるって言われて、仕立て屋に行ったら店閉まってておっちゃん探すのに苦労したぜ 」
「そんで、おっちゃんがくれたツリーもちゃんとしたやつじゃなくて店に置いてあったそれっぽい植木だしよ。 ゴルシちゃん参っちゃうぜ 」
やれやれといった具合で話すゴールドシップ。
それに対して、「お疲れ様 」とねぎらいつつも、マックイーンが怒っていたことを伝えると
「まあ、しょうがねぇーな。 最近は商店街の人たちにパーティーの準備手伝ってもらう関係で、トレーニングは遅刻に欠席ばっかだったもんな…… 」
珍しく落ち込んだ様子でそう語る。
少なくとも、最近だけじゃなく普段からサボっているのも原因だと思うが、彼女に悪気がないなら責め立てる道理はないだろう。
植木を部室まで運び、私はマックイーンとライスシャワーにゴールドシップを見つけたと連絡を入れた。
2人が部室へ戻って来たのはそれから15分程後だ。
「……事情はわかりました。 ゴールドシップさん、ではなぜはじめから正直にそうおっしゃらなかったんですの? 」
「ゴルシちゃんだって、そーいうのが恥ずかしいお年頃なんだからね! 」
「あなたという人は…… 」
「でも、ゴールドシップさんになにもなくてライス安心した 」
「あったり前よ! なんたってアタシはゴルシ様だからな! 」
いつもの調子で笑いながら話すゴールドシップを見て、私も一安心する。
もしかすると、さっきの落ち込んだゴールドシップはかなりレアなのかもしれない。