有馬記念。
出走登録を行ったウマ娘の中から、ファン投票によって選ばれた16人のウマ娘たちが走る国内最高峰のレースだ。
この特殊な選出方法のから、有馬記念は人気と実力を兼ね備えた真のウマ娘が勝利するレースとして多くのウマ娘たちの目標となっている。
他のレースと比べても、頭1つ抜けて高い注目を集めるこのレースだが、今年の有馬記念は例年以上の盛り上りを見せていた。
まずは、なんと言っても『皇帝』シンボリルドルフのトレセン学園ラストランだということ。
彼女はこのレースをもって引退するのではなく、新たなレース機構発足後、そこに所属することが会見で明らかにされたが、前回の会見以降、詳しい説明がなされていないため、ファンの間ではどれくらいの期間、『皇帝』の走りが見れないのかと不安の声があがっている。
そして、『芦毛の怪物』の異名で知られるオグリキャップの選出も大きな話題となった。
地方からトレセン学園に転入してきた彼女は、中央でさらなる実力をつけ、直近ではマイルカップとマイルチャンピオンシップのGⅠを2連勝して有馬記念に挑む。
そんな彼女は、次世代の筆頭としてシンボリルドルフとの対決が注目されている。
他にも、菊花賞を制した『高速ステイヤー』スーパークリークに、秋華賞で『女帝』エアグルーヴと激しく争った『女傑』ヒシアマゾンなど、次世代を代表するようなウマ娘達が数多く選出されているのも、高い注目度を集めている要因の1つだ。
まさに、“誰が勝ってもおかしくない”といったメンバーの中から他を抑えて勝利を手にした者こそ、現 レース環境での最強ウマ娘といっても過言ではないだろう。
そんな最強が誕生する瞬間をこの目で収めるためにも、多くの人々が中山レース場へと足を運んだ。
※※※
私は観客席から、中山レース場のターフの上に立った16人のウマ娘達が、スターティングゲートに入りきるのを眺めていた。
今回のレースは、多くの人々に注目されているため、チケットの競争率も信じられないほど高かったのだが、なんとか私とゴールドシップ、マックイーン、ライスシャワーと4人分の席を確保できた。
4人共、携帯にイヤホンを繋ぎ、レース中継の音声を聞きながらスタートを待っている。
スタンドの人々は、言葉を発することなくただじっとゲートの方を見つめているため、異様とも言える静寂が辺りを包んでいる。
そして、スターターによって全てのゲートが一斉に開かれた。
レースは序盤、スーパークリークを先頭に4人のウマ娘が縦に並んで先頭集団を形成した。
そこから1バ身間があいて、5番手にシンボリルドルフ。 6番手にオグリキャップが続く。 ヒシアマゾンは殿だ。
2コーナーをまわったところで、先頭のスーパークリークが後ろを離して前へと飛び出す。 まだスピードを抑えているのだろうが、まるで逃げかのように2バ身リードをつける。
ずっと後方では殿だったヒシアマゾンが少しずつ上がってきている。
シンボリルドルフは3番手、オグリキャップはそのすぐ後ろだ。
3コーナーのあたりから、3番手だったシンボリルドルフがぐんぐん上がってきて先頭に立つ。 場内から「おお!! 」と歓声が湧く。 シンボリルドルフが半身リードして先頭。 2番手スーパークリーク。 3番手にオグリキャップ。
中山の直線は短いため、多くのウマ娘達が勝負に出る。
スーパークリーク、シンボリルドルフに並びかけるもルドルフがかわす。 そのままルドルフ伸びていく。 あっという間に2バ身、3バ身とリードをつけた。 オグリキャップもスーパークリークを捉えて加速して抜き去る。 先頭はシンボリルドルフ。
シンボリルドルフか、オグリキャップか。 スタンドからは大きな歓声があがる。 レース前の静けさなど吹き飛ばし、今年1番の大歓声だ。
オグリキャップがスピードを上げる。 しかし、シンボリルドルフとの差は縮まらない。
リードを保ったまま、3バ身のリードのままシンボリルドルフが1着でゴール!
万雷の拍手の中、自らの髪をたなびかせシンボリルドルフが右手を高々と突き上げた。
地鳴りのような歓声と、誰かが吹く指笛が最強へと至ったウマ娘へ贈られる。
レースを制したシンボリルドルフを笑顔で出迎える人々はいても、涙を流す人は少なかった。
皆、ルドルフ伝説がまだ終わらないと信じている証拠だろう。 今日の勝ちはエンディングではなく、伝説の1ページなのだと確信しているのだ。
レースインタビュー、ウイニングライブが終わると、シンボリルドルフによる記者会見が始められた。
そこでは、新リーグ発足のために多くの企業が出資を行い、順調に計画が進められているということ。 そして、天皇賞(秋)をラストランと公表していたシンボリルドルフの同期、マルゼンスキーの新リーグ移籍が発表される。
『皇帝』のさらなる伝説を求めるファン達は、新リーグの話が現実味を帯び始めたことと、自分達の期待を裏切らない絶対的な彼女に再びわき上がった。