白石競走記   作:華燈始

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43.ミホノブルボン

「チケゾーさんとゴールドシップさんにはライバル関係になってもらいます 」

 

というマックイーンの言葉通り、ウイニングチケットはチームへの加入が決まったその日から、ゴールドシップと2人で同じトレーニングメニューをこなすことになった。

 

「正式に決定したわけではありませんが、ゴールドシップさんはクラシック3冠を狙えるよう調整するとトレーナーさんと話してありますの 」

「チケゾーさんが日本ダービーを狙うとなると、必然的に2人は闘うことになりますわ 」

 

これは昨日のマックイーンの言葉だ。

いずれ闘うことになるだろう2人を、日頃のトレーニングから競い合わせることが狙いだと言う。

 

「私は春秋天皇賞制覇を目指してトレーニングしています。 ライスさんも最近やっと天皇賞(春)を目標にすると決めましたわ」

「シライシさんも、具体的な目標を立てておいた方が調整しやすいですわよ? 」

 

……目標か。

以前の私だったらこの2文字だけで頭を抱えていただろう。

目標。

トレセン学園に来たばかりの私だったらなんて答えるだろうか? あの人の背中を見ていた私ならなんて答えるだろう?

今となっては、考えられない。 それほど私がこの半年間で変わったということなのだろうか。

当初掲げていたGⅠで勝つという目標。

当時の私からしたら、夢のような話だったが、菊花賞を経てそれも手が届く、現実のものへと近づいた。

もっと強く、もっと速くなるためにはもっともっと先を目指さなければ。

 

「そうだね……それじゃあ、有記念を目指そうかな 」

 

レースファンによって、世代を越えて人気と実力を兼ね備えたウマ娘が選ばれるレース。

そこでもし、勝てることができたら……私の強さを、走りを本物なのだと認められるのではないだろうか。

私に残されたチャンスはあと1年。

今まで地方にいた分、あの人の背中だけを追いかけていた時の分まで今年はより先の景色を目指さなければならない。

 

 

※※※

 

ウイニングチケットの正式加入が決まってから数日の時間が過ぎた。

今日も彼女はゴールドシップと2人きりでトレーニングをしている。 今日のメニューはパワー強化らしい。

マックイーンはスタミナメニューということで、トレセン学園の外周を1人黙々と走り続けている。 1人でも決して手を抜かず、自分を極限まで追い込み続ける彼女には流石としか言いようがない。

私とライスシャワーは、トップスピードを上げるために芝コースをひたすら走っている。

ライスシャワーはチーム加入時から体作りのため、基礎トレーニングを中心にメニューを組まれていたが、先日スプリングステークスへの出走が決まったため、彼女も本格的なトレーニングを開始したのだ。

スプリングステークスには、彼女の友人であるミホノブルボンというウマ娘も出走が決まっているということで、ライスシャワーはいつも以上に張り切り、一生懸命トレーニングに励んでいる。

 

まあ、そのミホノブルボンが最近ライスシャワーと一緒にトレーニングしているというのも大きいのかもしれないが。

彼女はチームも違うし、基本ライスシャワーとトレーニングを共にしている私と面識がないはずなのだが、数日前一緒にトレーニングさせてくれと頼んできたと思ったら、その日からずーーっとライスシャワーにくっついて走っている。

ライスシャワーのデータを集めるのが目的なのだろうか?

そもそも、他のチームのウマ娘と毎日毎日一緒に走っていてトレーナーなんかに怒られたりしないのだろうか。

 

という訳で、私はトレーニング後にミホノブルボンについて調べるべく、あるウマ娘の元へやってきた。

トレセン学園に2つ存在する寮の内の1つ、栗東寮のアグネスタキオンの部屋だ。

しかし、私が用があるのはタキオンではなく同室のウマ娘。 アグネスデジタルの方である。

ミホノブルボンについて知りたいと、アグネスタキオンに相談したところ、ウマ娘のことに関しては彼女が1番詳しいということで紹介してもらった。

ピンク色っぽい長髪に、大きな赤いリボンを着けた小柄なウマ娘だ。

 

「ということで、君の持っているデータを見せてくれない? 」

 

自分で言っておいてなんだが、ずいぶん図々しいお願いだと思う。 しかし、情報戦というのはそういうものだ。 情報を手に入れるにはギブアンドテイクが必須だろう。 私もここに来る前から腹をくくっている。

 

「はっ、はいぃぃ…ブルボンさんのデータはこのノートに取ってありますぅ…… 」

 

のだが、思っていたよりあっけなく見せてもらえることになった。

いやしかし、後から何か要求されるかもしれない。 万が一無理難題を押し付けられないように、今のうちにリターンを聞いておいた方がいいだろう。

 

「ありがとう。 ……えーっと、何かお返しした方がいいよね? 何がいいかな? 」

 

「そっ、そんな! デジたんはただ、趣味でウマ娘ちゃん達のデータを集めてるだけなんで…大したこと書いてないと思うんですけど、好きに使っちゃってください 」

 

……彼女がそう言うなら好きに使わせてもらうことにするか。

少し慎重になりすぎていたのかもしれない。

 

ということでペラっとノートをめくると、まさに女子といった丸っこい可愛い文字でびっしりとノートのページがうめられていた。

誕生日などはわかるが、身長、体重、スリーサイズ、靴のサイズまで細かく書き連ねられている。

ただ、今日のところはそういった情報を置いておいて、ミホノブルボンのレースに関する情報を確認する。

 

ノートには、ミホノブルボンの公式から模擬レースまでの着順、着差、タイムまで書かれており、驚きを通り越して若干引くレベルだが、ありがたく見させてもらおう。

だいたい書いてある内容を要約すると、

 

・どの距離にも最低限対応可能

・スピードをいかした逃げるレースが得意

・トレーニング量が他のウマ娘と比べて非常に多い

・クラシック3冠路線を進むと予想されている

 

といったところだろうか。

彼女が実力のあるウマ娘だというのはわかったが、いまいちライスシャワーにつきまとう理由が見えてこない。

どこかに関連した情報がないか、ペラペラページをめくって流し読みしていると、ミホノブルボンの人間関係について書いているページを見つけた。

無論、ライスシャワーとの関係についても書かれている。

ライスシャワーからの印象として、友人、よくトレーニングを一緒にする、休日もたまに会うなどと書かれているが、ミホノブルボンがライスシャワーに抱いている印象の欄には

 

『気になっている』

 

と端的にか書き記されていた。

それを見て、私は即座に察してノートを閉じる。 深く詮索するのは無粋だと判断したからだ。

2人共、ウマ娘でありながら年頃の女子でもある。 トレセン学園はウマ娘しか通っていないから実質女子高生。

つまりそういうことだ。

 

「ありがとう。 ……参考になったよ 」

 

アグネスデジタルにお礼を言い、ノートを返した私は何も考えず自宅へと帰った。

明日のトレーニングの時も、ミホノブルボンがライスシャワーとトレーニングしに来たらと考えると、今から肩身の狭い気持ちになる。

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