白石競走記   作:華燈始

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44.ミホノブルボン(2)

これは案の定というべきか、ミホノブルボンについてアグネスデジタルから情報を得た次の日も、変わらず彼女は私とライスシャワーに混じってトレーニングをしていた。

私からしてみれば、こんなの気まずい限りでその日のトレーニングはいつもの2倍くらい余計に疲れたような気がした。

 

夕日が真っ赤に輝いて、空もそれと似たような色に染め上げられた頃。

私はチームトレーニングを早めに切り上げ、河川敷の堤防まで走ってきていた。

追加のトレーニングという真面目な理由ではなく、無駄にたまった心労を癒すための、単なる気分転換のためだ。

この時期は夕方となるとけっこう冷え込んでいて、家からそこそこの距離を走ったが汗はかいていない。

ゆっくりと足を緩めて、堤防の傾斜に立つと私はそこで横になった。

 

「ふぅ…… 」

 

口からため息のようなものが漏れる。

アグネスデジタルの情報が、間 正確ではないという可能性も捨てきれない。 しかし、仮に本当だとしたら……。

マックイーンにでも話して、トレーニングメニューを別々にしてもらう方がいいだろうか? 彼女のことを考えたらあまり他の人に話さない方がいい気もする。

 

うっすらと開いた目で、落ちていく夕日を眺めながら頭の中でぐるぐる、ぐるぐると思考を巡らせていると、サッサッと堤防の芝を踏むような音が耳に入る。

河川敷周辺は様々な人の散歩コースや、ランニングコースとして使われているので、誰か人がいることに驚きはしない。

耳を傾けても、特に振り向いたりせず、もう一度思考の海に潜っていると、足音の主から声をかけられた。

 

「シライシさん……ですね? 」

 

抑揚の感じられないような声でそう尋ねられる。

「どちら様? 」

 

まだ顔を見ずに答える。

正直な話、今は誰かに構っていられるほど余裕がない。 目の前の事案にどう対処するか、私の頭はそれでいっぱいなのだ。

しかし、私を訪ねた彼女の次の言葉で巽南考えは一気に吹き飛ばされることになった。

 

「ミホノブルボンです。 今日はあなたに相談があって来ました」

 

ほぼ、半開きだった目を見開いて思わずバッと飛び起きる。 同時に彼女の顔も視認した。

間違いなく、いつも私達と一緒にトレーニングをしている。 私の悩みの種であるミホノブルボンがそこにいた。

 

「…そ、相談ね? はいはい、力になれる範囲なら協力しよう」

 

心中は大慌ての大混乱だが、それを表に出さないよう必死に押さえ込んで落ち着くよう、何度も自分に語りかける。

そんな事情を知らないミホノブルボンは、私に構わずどんどん話を進めていく。

 

「ありがとうございます。 その…ライスさんの話なのですが」

 

「えっ!? 」

 

思わず声が出てしまう。

まさかとは思っていたが、よりにもよって私に相談するのか…。

私は絶賛あなたとライスシャワーの件で頭を悩ませているというのに。

 

「? どうかしましたか? 」

 

「いっ、いや何でもない何でもない。 どうぞ続けて 」

 

よく考えるんだ。

仮に、ここで私がいいアドバイスをしたとしよう、そしてミホノブルボンとライスシャワーの関係がさらに進展したとしたら……。 私の肩身はさらに狭くなる一方じゃないか。

逆に私が的はずれなアドバイスをしたら? 2人の関係が悪化して、間違いなくミホノブルボンは私を恨むことだろう。 何より私の良心が痛む。 わざとそんなことするなんて私にはできない。

 

「了解しました。 実は…… 」

 

来る!

ごくりと唾を飲み込みんで、身構える。

こうなってしまっては、2人を後押しする他無いと決めた。 いつでもこい。

 

走っていた時には流れなかった汗が、つーっと頬をつたって顎からポトリと地面に落ちる。

「実は……その、ライスさんと…友人になりたいと思っているのですが……何かアドバイスをいただけないでしょうか 」

 

…。

……。

………?

 

はい?

一瞬で頭の中が真っ白になった。

は? 何? 友達?

この人今、ライスシャワーと友達になりたいって言った?

あんなに毎日仲良く走って、しゃべってるのに、この人まだ友達じゃないつもりでいたってこと?

 

唖然。

言葉が出てこない。

肩に入っていた力もへなへなと抜け、 塞がらない口から吐息が漏れる。

「ゴールドシップさんからいただいたアドバイス通り、トレーニングを一緒に行うようにしてから、少しは親しくなれたと思うのですが、次の1手を決めかねていました。 再度ゴールドシップさんに相談したところ、『シライシに聞いてみろよ、あいつお前と一緒でなかなか表情表に出さないからけど、お前と違って仲いいやつそこそこいるからいいアドバイスくれんじゃね? 』と聞きました。 どうか私に何かアドバイスをしてくれませんか? 」

 

…つまり?

最近私とライスシャワーのトレーニングに彼女が混じっていたのも、今日それについて悩んでいる最悪のタイミングでミホノブルボンと会って心労を蓄積させるはめになったのも、元を正せばゴールドシップが原因ということか?

もちろん、私が不確定な情報を元に考察していたというのもあるが、そもそもミホノブルボンが不自然にトレーニングに参加しなければそんなことなかった話で……。

 

沸々とゴールドシップに対する怒りが沸いてきた。

しかし、ミホノブルボンを放っておくわけにはいかない。 しっかり彼女の案件に対処してからゴールドシップは成敗するとしよう。

 

「…ライスシャワーは君のことを友人と認識していたから、特に何かしなくていいんじゃないかな? 毎日仲良さそうにしているわけだし、とっくに君はライスシャワーと友人だと思うよ 」

 

「ほっ本当ですか? ライスさんがそのように? 」

 

「友達じゃない人と毎日笑顔で話したりしないでしょ? ライスシャワーも君といる時に気を張っているなんて感じはしないし、大丈夫だよ 」

 

「そうですか……。 私とライスさんは友人…… 」

 

「それじゃあ、私は用事ができたから行くね。 これからもライスシャワーと仲良くしてあげてね 」

 

「はい…今日はありがとうございました。 感謝します 」

 

 

 

※※※

 

 

トントン

ドアをノックする音が聞こえる。

誰だろうか? 寮長なら声をかけてノックするから違うし、誰かと約束でもしただろうか?

 

「はーい、ゴルシちゃん今行きまーす 」

 

扉を開けると、そこにはアタシよりほんの少し低い目ところに目線がある、黒いショートヘアーのウマ娘、シライシがいた。

シライシは寮生じゃなくて一人暮らししていたはず……。 なぜアタシの部屋に来たのだろうか?

それに

 

「なっ、なあ? なんでずっと怖い顔して黙ってんだ? ごっ、ゴルシちゃん足震えちゃーう 」

 

……。

ふざけてみたのだが、反応がない。

やべぇ、気まずい。 こういう時どうしたらいいんだ?

 

冷や汗をかきそうになりながら、必死にこの重たい空気を取り払う方法を探していると、無言のままシライシはアタシの部屋へと入ってきた。

 

「おい、どうしたんだよ? 」

「ゴルシちゃん、なんかしちゃったか? いけねぇいけねぇ、またアタシの知らないところで内なるゴルシが出ちまったみてぇだな 」

「いや、待て、ちょっ! たっ、助けて! ヘルプ! マックイーン!! 」

 

「ギャァァァーーーっ!!!!! 」

 

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