白石競走記   作:華燈始

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45.苦手

学園の廊下を歩いていると、窓に雨粒がぶつかるパラパラという音が耳に入る。

外の景色に目をやると、夏のバケツをひっくり返したような大雨程降っているわけではないが、グラウンドやダートコースに水溜まりができるくらいにはザーザーと降っている。

こういう雨の日のトレーニングは、ぬかるんだコースを利用して足腰を鍛えるか、室内のトレーニング施設を利用するかの2択となるのだが、本日は後者が選ばれた。

 

という訳で、私は現在学園内に存在するとある施設の更衣室にいる。

本来なら室内トレーニング場でトレーニングをする予定だったのだが、あそこは人で溢れかえっていて、とても私達5人が利用できる状態ではなかった。

そのため、本日は普段私達があまり利用していないトレーニング施設でトレーニングを行うことになったのだ。

 

冬用の制服と比べ、肌の露出が多い薄着に着替えたが、特段寒くは感じない。 室内の温度が快適な具合で保たれているのだろう。

スーっと息を吸うと、独特な塩素臭が鼻を通る。

そう、私達が今日トレーニングに利用するのは、学園のプールである。

このプールは外のグラウンド同様、体育の授業でも利用されているが、年中トレーニング用の施設として開放もされている。

水泳は短い距離でも体力を多く消費するし、体全体の筋肉をバランスよく鍛えられるため、今日のような雨の日以外にもプールを利用するウマ娘は少なくない。 むしろ私達が他と比べて使っていなかったのだ。

 

「なあ? マックイーンさん? 本当に、プールでトレーニングすんのか? 」

 

妙に下手に出ながら話すゴールドシップ。

何かふざけているのかと思っていたのだが、それにしてはなんだか本気で焦っているような感じがして、変に思える。

 

「いっでもプールサイドにいないで、はやくお入りなさい。 それとも、体調が悪いんですの? 」

 

「いや…そういうわけじゃないんだけどよ…… 」

 

やっぱり様子がおかしい。

いつものゴールドシップは、トレーニングが嫌なら堂々と逃げ出すはずなのだが、今日はなぜかコソコソとしている気がする。

 

「ほら! ゴルシも一緒に入ろうよ! 」

 

ウイニングチケットは、自分より10cm以上も身長が高いゴールドシップの腰に手を回して持ち上げると、ドボンッとそのままプールに飛び込んだ。

瞬間━━━

 

「ギャアアアーーっ!! ムリムリムリ!! 沈む! 溺れる! ヘルプ! マックちゃんヘルプ!! 」

 

悲鳴と共に、彼女の情けない声が室内プール場の中に響き渡った。

 

 

 

※※※

 

 

その後、私は悲鳴をあげながら、バシャバシャと音を立てて暴れるゴールドシップを捕まえてプールサイドへと運んだ。

現在、彼女は落ち着きを取り戻しており、両足だけ水に入れて座っている。

 

「もう、泳げないならはじめからそう言ってください 」

 

少し呆れ気味に話すマックイーン。

対するゴールドシップは、やはりいつもより低いテンションでしょんぼりと耳を垂れさせて聞いている。

泳ぐのが苦手なのか、プールが嫌いなのか、はたまたその両方か定かではないが、普段どんな時でも基本おちゃらけているゴールドシップが、そんな様子を一切見せないところを見ると、彼女が相当拒絶しているのがわかる。

 

「それにしても、困りましたわ……。 そこまでプールが嫌となると、今日のトレーニングは見直した方がいいかもしれません」

 

顎に手を当てて、頭を悩ますマックイーン。

確かに、あまり嫌なことをやらせるのはこっちだって気が引けるし、ゴールドシップの負担にもなってしまう。

今日のところは、別のメニューに変えた方がいいのかもしれない。

 

そう考えていると、ウイニングチケットが何かを思い付いたように

 

「わかった! 」

 

と いつにも増して大きな声をあげた。

 

「ビート板を使えばゴルシも泳げるんじゃない? 」

 

「なるほど……どうです? ゴールドシップさん 」

 

ウイニングチケットの言う通り、ビート板を使えば泳ぎが苦手人でも滅多なことをしない限り溺れず、泳ぎの練習をできるが、ゴールドシップは気が進まなそうな顔をしている。

 

「アタシ、ゴルシと一緒にトレーニングしたい! 外でも一緒にやってるじゃん! ねぇ一緒にやろうよ! 」

 

ぐいぐい迫るウイニングチケット。 キラキラと輝いた希望に満ちた目で、ゴールドシップに訴えかける。

それを見て、ついに決心したのかゴールドシップは立ち上がり、

 

「わかった、わかったよ。 泳げばいいんだろ? ゴルシ様に不可能は無いってとこ見せてやるからな 」

 

そう言うと、彼女はビート板が置かれている棚から一枚取ってくると、「よし…… 」と覚悟を決めて、ゆっくりとだが自らプールへと入った。

 

「へ? 」

 

そんなこと間の抜けた声が飛び出したのは、ゴールドシップがプールの底に足をつけた直後のことである。

 

「なっ、なんだよ、全然浅いじゃねぇかよビビらせやがって…… 」

 

トレセン学園のプールは、深いところでも水深は1,3m。 170cmの身長を持つゴールドシップなら余裕で水面から顔が出るだろう。

 

「フフッ、あなたの慌てようが見れて楽しかったですわ 」

 

いつもはゴールドシップにからかわれているマックイーンも、今日はその立場を逆転させたようだ。

 

「なっ!? やってくれるじゃねぇか、マックちゃんよぉ……」

 

「あら? 仕返ししたいのなら、捕まえてみなさい 」

 

煽るマックイーンに、追いかけるゴールドシップという構図は本当にいつもの真逆で、ぎこちない動きで泳ぐゴールドシップをマックイーンは翻弄し続けていた。

 

……そういえば、何か忘れているような。

 

「ライスシャワー、どこ行った? 」

 

2人の追いかけっこを尻目に、私とウイニングチケットでライスシャワーの捜索を行った。

数分間の捜索の末、プールの更衣室にあるベンチの下で、頭を手で守るようにして小さくなっているところを発見された。

どうやら彼女もゴールドシップと同じく、泳ぐのが苦手らしいが、水深が深くないところでビート板を持たせることで、彼女もトレーニングを行うことができた。

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