白石競走記   作:華燈始

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48.早く来た

本日分の授業が終了し、いつものように体操服へと着替えた私は1人、シリウスの部室へと向かった。

ポケットに手を突っ込んで、マックイーンから渡された合鍵を取り出し、プレハブ小屋の扉を解錠して中へと入った。

 

部室に鍵が掛かっていて、私より前に誰も来ていないためなんとなく予想はついていたが、時計を確認すると案の定、いつもの集合時間より早く来てしまっていた。

この時間だとおそらく、しばらくの間は誰もこないだろう。 だからといって、皆が来るまで特にやることもない。 暇である。

1度椅子に腰を下ろして考えてみたが、やっぱり何も思い付かないので、仕方ないなと立ち上がりトレーニングの準備を今からはじめてしまうことにした。

 

席から数歩歩いたところで準備体操の屈伸のような姿勢でしゃがみ、目の前にある白い引き戸棚を開ける。

ここには、チームメンバーが普段使っている飲み物関係の物、例えば紅茶のパックだったり、コーヒーの粉、非常時の飲料用水などが入っている。

その中から私は、水に溶かして飲む粉末タイプのスポーツドリンク粉と、片方の手のひらから少しだけはみ出すくらいの大きさの、小さな木箱を取り出し、2つを持ったまま部室内に設けられたシンクの方へと進んだ。

シンクの隣に置いてある、食器乾燥機から私がいつも使用している白いスクイズボトルを手に取って、水、スポーツドリンクの粉、木箱の中に入っていた黒い粉を一緒に入れて蓋を閉め、中身がちゃんと混ざるように力強く上下にボトルを振る。

この黒い粉に一応触れておくと、決して法外の怪しい物ではない。 私の趣味で作った生薬の1つで、漢方薬のような物で、体に疲労が溜まりにくくなるという薬だが、気分がハイになったり、体が突然光だしたりなんて絶対にしないし、この効能も体感で「全然疲れないぜ! 」という程強いものでもなく、飲んでも飲まなくても変わらないような、単なる気休め程度にしかならない。

ならなぜ、そんな物を一緒に入れているのかと疑問に思われるかもしれないが、私も別に理由があるから入れているわけではない。

子供の頃、祖母から教わりずーっと続けてきた癖みたいなもので、毎日のルーティーンだと私は考えている。

生薬なんて趣味にしている人は、そう多くないだろうから変に思われるが、私からすればこれは、某スポーツ選手が毎朝カレーライスを食べるのと同じようなイメージなのだ。

 

……そろそろ頃合いだろうと感じ、ボトルを振るのを止めてほんのちょっぴりだけ口に含んで味を確認する。 私はスポーツドリンクを他の人より濃い目に作るのだが、今日のこれもいつも通りの濃さだ。

 

特製スポーツドリンクの味に満足しつつ、再び時計を見て現在時刻を確認すると、いつの間にか集合時間15分前になっていた。 今日は時間にだいぶ余裕があったからか、ずいぶんのんびりとドリンクを作っていたらしい。

普段は皆、だいたい集合の5分前にはきっちり集まっているので、早めに到着してしまったという娘なんかはそろそろ来るような頃合いだ。

 

噂をすればなんとやら。

ガラッ! と勢いよく引き戸が開かれる音と共に誰かがやってきたようだ。

 

「あれ? 今日はアタシが1番乗りだと思ってたのに、シライシ早いね! 」

 

元気いっぱいという言葉を体現するかのような、明るい声色で話す彼女、ウイニングチケットがやって来た。

 

「今日は早く来すぎちゃってね。 そう言うチケットもどうしなたの? 」

 

「そうそう! 昨日やっとこの前の反省文を書き終わったんだ! それで、今日からトレーニングに参加できるって考えたら楽しみで! 今日は急いで来たんだ! 」

 

終始笑顔を崩さないで話す彼女に対し、表情を強ばらせてしまった私はそれとは対照的な小さな声で「なるほどね…… 」と返答をする。

彼女の言った“この前の反省文”とは、マックイーンを甘やかす計画の最終段階に使う数量限定モンブランを買いに行く途中で、無許可外出が生徒会副会長のエアグルーヴにバレてしまったため彼女が書かされていたものである。

この件に関しては、ウイニングチケットが曲がったことのできない一直線な性格だというのをわかっていながら、彼女に見つかりにくい場所から外へ出ろとか、外周を走ってくるという嘘をつくようになどの細部の指示をだせなかった私に責任があると言えよう。 すでにチケットには謝罪を行い、彼女から許しを得たとしても、反省文を書くために彼女が日々楽しみにしているトレーニングの時間を潰さざるをえないことになってしまったため、いまだに申し訳ない気持ちが抜けずにいる。

もちろん、この事は表情に出さない。 私の心の中にとどめておく。 いつまでも前のことを掘り返していたらキリがないからだ。 それに彼女もそれは嫌だろう。

 

チケットは私に、クラスでの話をよくしてくれる。 今日もまた、クラスメイトの尻尾を触っていたら思いっきり蹴られたという話を楽しそうに聞かせてくれている。

相づちをうちながら、彼女の話を聞いていると、コンコンっと部室の扉をノックする音が一緒に聞こえてきた。

チケットもそれに気づき、反応を示したので私の勘違いではなさそうだ。

 

「はーい。 今開けまーす 」

 

と私は外の人に対して返事をし、早歩きで戸を開けに行く。

私がチームに入ってから、うちの部室に来客というのは滅多に無いことだ。 一体誰が、何の用で訪れたのだろうか。

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