白石競走記   作:華燈始

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49.ビワハヤヒデ

ゆっくりと引き戸を開けて、作り出した僅かな隙間から外にいる人物を覗く。

メガネをかけていて、私より目線が少し高い、長くてボリュームのある長髪を持った芦毛のウマ娘が戸の前で腕を組んでいるのが見えた。

 

「……どちら様でしょう? 」

 

隙間から片目だけ覗かせて私は尋ねる。

 

「そんなに警戒しなくても平気だ。 私はビワハヤヒデというのだが、ここにウイニングチケットはいるだろうか? 彼女に話があって来たんだ 」

 

すらすらと、やや早口気味に話す彼女の声が聞こえたのか私の後ろの方にいたチケットが反応して

 

「ハヤヒデ! どーしたのさ! 私に話って? 」

 

と大きな声をだしながら、小走りでこちらへ向かってきた。

 

そういえば前、チケットがハヤヒデという名前を出した時があったな。 と思い出した私は二人が話しやすいように少しだけ開けていた戸を全開まで広げた。

 

「チケット、君に一つ相談と言うか、お願いのようなことがあるんだ。 聞いてもらえないだろうか? 」

 

「もちろん! ハヤヒデの頼みなら私アタシ何でも聞くよ! 」

 

仲良きことは美しきかな。

友人間での相談事に部外者である私は邪魔だろう。 ビワハヤヒデも第三者に話を聞かれるのは嫌だろうから、私はトイレにでも行っておこうかな。

そう考え、この場を離れて二人きりの空間を作ろうとしたところ。

 

「待ってくれ、君にもぜひ聞いてもらいたい話なんだ。 今回の件、人手が多ければ多いほど良いと考えている 」

 

とビワハヤヒデに体操服の袖を掴まれ、呼び止められたので私の考えとは裏腹に私も話を聞くことになった。

 

とりあえず、立ち話もなんなので部室に上がってもらい、椅子に座って話をしてもらうことにする。

 

「チケットは知っていると思うが、私には妹のナリタブライアンというのがいるんだ。 あいつはレースの才能があって、シンボリルドルフ会長から直々に生徒会へ入るよう勧誘されるほどだった。 あまり真面目に活動はやっていないらしいが 」

 

ここまで聞くと、なんとも大層な妹さんを持っているんだなぁくらいしか思わないが、相談と言うからにはこの妹に何かあったということなのだろうか?

 

「そんなブライアンなのだが、実力と才能は誰もが認めるほどあるというのに、どういう訳か一向にデビューしようとしないんだ。 私は口を酸っぱくしてあいつには言ってきたんだが全く聞いてもらえず、仕方なく強行手段としてレース勝負をした。 私が勝ったら言う通りにデビューをするという条件でだ 」

 

嫌な予感、と言うか話の流れて的にビワハヤヒデはもしかして……

 

「恥ずかしいことに私はブライアンに負けてしまった。 その時あいつは言った。 デビューなんてしなくても私は強いと、しかし私はブライアンにもっと緊張感のある本物のレースで強敵と競い合ってもらいたい。 だが負けてしまった私の言うことにブライアンは聞く耳を持たないだろう 」

 

やっぱりか。 案の定といった話の展開だが、このナリタブライアンというウマ娘は相当強いのだろう。 それだけにビワハヤヒデも早く彼女をデビューさせたいのだろうが、年頃の娘は気難しい。

 

「私はこれまで様々なウマ娘にブライアンと闘い、勝って彼女を説得するよう頭を下げてきた。 本当なら彼女を見いだした一人であるシンボリルドルフ会長に説得してもらうのが手っ取り早いのだが、あの人は今新リーグの件で忙しく、学園にいる時間があまりにも短い。 ブライアンに構っている余裕はないだろう 」

「私達姉妹の問題に巻き込もうとしているのは重々承知だ。 その上で、二人ともどうかブライアンを説得してくれないだろうか。 この通りだ 」

 

そう言うと、彼女はテーブルに額があたるギリギリのところまで、深々と頭を下げた。

 

「頭を上げてよハヤヒデ! アタシとハヤヒデの仲じゃん! 困った時はお互い様だよ! 」

 

すぐさまチケットは頭を上げるよう促し、それに応えたビワハヤヒデはゆっくりとその頭を上げ

 

「恩に着る 」

 

と短い言葉ながら、最大限の感謝の意を伝えた。

仲睦まじい二人のやり取りに、接点の少ない私は置いていかれたような形となったが、もともと関わるつもりのない話だったので特段気にする必要はないだろう。

それよりも

 

「シライシは見てるだけでいいからね! アタシがブライアンに勝って、彼女をデビューさせるから! 」

 

いつにも増して、大きな声で堂々と宣言するチケット。 チームに入り、トレーニングを重ねてだいぶ自身がついたようだ。

下手に私がでしゃばるより、彼女に任せた方が良いだろう。 これも彼女がさらに成長するいい機会となるだろうし。

 

……私は、万が一があったら走ればいいんだ。

 

 

※※※

 

 

チケットとナリタブライアンの模擬レースは、いきなりの話だが今日行われることになった。

本来、模擬レースをするならレースに使うためのコースを前日から予約しておかないと使えないほど、トレセン学園のレース用コースは利用者が多いのだが、冬場でほとんどのウマ娘が体力作りのため長い距離を走っているということもあり、特別なことをせずとも、いきなりコースを確保することができた。

 

本当に急な話だったが、後からやって来たマックイーン達にも話をして了承を得た。

皆、二人のレースを観戦しに来ている。

今ちょうど、二人がスタートラインに立ったところだ。

ナリタブライアン、長い黒髪を頭の後ろで一つに纏めていて、鼻に白いテープのようなものを貼っているのが特徴的なつり目のウマ娘だ。

デビューをせず、ひたすらトレーニングを続けたという彼女がどんな走りを見せるのか、これもまた見物である。

 

さあ、スターター役のビワハヤヒデが合図を出す。

とうとうレースが始まった。

 

 

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