茶髪のウマ娘から併走の指名をうけて、私は部室からトレセン学園の敷地内に備え付けられた中距離用コース(2000m、芝)に移動することになった。
無論のこと、私は彼女に反対をした。見ず知らずのウマ娘といきなり併走なんて突拍子が無さすぎるし、何より私なんかと併走トレーニングをしたところで、レベルの高いトレセン学園のウマ娘のためになるとは考えられないからだ。
ただ、いくら私が断りをいれても「いやだ! 」「もう決めたんだ! 」の一点張りで全く聞き入れてもらえず、彼女に引きずられるような形でこのコースまで連れてこられた。
今はけが予防のために軽い準備体操を行っているところだ。
それにしても、トレセン学園に来てからというもの、なんだか厄介な話しに巻き込まれがちな気がするのは気のせいだろうか?ゴールドシップしかり、彼女しかり……。 今度の休みあたりにお寺にでも行って見てもらった方がいいのではないだろうか。
そんな考えを巡らせていると、茶髪のウマ娘はおおかたの準備が整ったのか、前屈の姿勢をといてぴょんっと立ち上がり、スタートラインの方へと足を進めたので、私もゆっくりと立ち上がり二回、三回軽くジャンプをして彼女の後を追った。
「それじゃあ、スタートの合図は僕がするからね! 」
相変わらず機嫌良さそうに彼女は話すと、右足を一歩後ろへ引き
「3…2…1…スタートッ! 」
と高らかにトレーニングの開始を宣言した。
スタートの合図と同時に彼女はものすごいスピードで走り出した。
地方なんかじゃ見たことのない。これこそが全国のレベルなのだと瞬時に理解した。
しかし、私が引き受けてしまったのは模擬レースではなく、併走トレーニングであり、私は彼女と並んで走らなければならない。このまま感心して置いていかれてはいけないのだ。
グッと両足に力を入れて、普段2000mを走るペースより断然速いスピードでなんとか彼女に追い付こうとする。
が、まだまだ彼女には届かない。
私がスピードを上げても、彼女とペースが同じになっただけで、スタートからつけられた二バ身程の差は縮まらないままだった。
結局、彼女との併走トレーニングでは彼女の横顔を見ることはかなわず、終始背中だけを追いかける羽目になった。
「ふぅ~、走った走った! 楽しかったよ! 」
コースを走りきった後に、彼女はそう言って私の方に駆け寄ってきた。
トレーニングの内容が内容だっただけに、嫌味にも取られかれないセリフだが、彼女の顔には天使のような満開の笑顔が広がっており、彼女がただ単純に走りを楽しんでいたことをうかがわせた。
「マックイーンと走るときは隣にマックイーンがいるんだけど、後ろから追いかけられる併走もなかなか新鮮でいいねぇ!」
少し心に刺さる言動だが、全て事実なので文句の言い様がない。それに彼女は、単に自分の感想を話しているだけなのだ。
「私が相手でトレーニングになった? 」
そんなことより大事なのはこっちだ。はっきり言って私が想像していた以上にハイレベルな彼女にとって、私なんかとのトレーニングは時間の無駄だったのではないだろうか。
「充分充分!この僕が言うんだから全然平気だよ!それに、最後の直線で君が出してたプレッシャー!すっごく良かったよ!」
と、彼女は腰に手を当てて話す。
とりあえず、彼女が充分だと思うなら良かったのだが。
私たちは一時休憩も兼ねて、一度《シリウス》の部室まで戻ることにした。
※※※
部室に入ると、マックイーンとゴールドシップがテーブルを挟んで対面するように椅子に座っていた。
二人の手には何枚かのカードが握られており、テーブルには数字やマークがかかれた赤や青のカードが小山のように重ねられていた。
いわゆるUNOと呼ばれるカードゲームである。
UNOに熱中しているのか、二人は入ってきた私たちに気づいておらず、しびれを切らした茶髪のウマ娘がマックイーンへと飛びかかった。
「もー!!マックイーン!なんで僕との約束すっぽかしてUNOしてるのさ! 」
「キャー!!? てっ、テイオーさん?約束って…私はすっぽかしていませんわ! 」
なにやらマックイーンとテイオーと呼ばれた彼女との間に、見解の相違があるようだ。
マックイーンの返しに予想外だったのか、困ったような顔をして首をかしげてしまっている。
「この前した約束の時間までは後二十分ありますわ。私は先程までウォーミングアップのために軽いランニングをしていたところを、ゴールドシップさんに捕まったのです 」
どうやらテイオーの方が約束の時間を間違えていたらしい。私の骨折り損じゃないか。
その後、マックイーンとテイオーは約束通りに併走をしに行った。
「ごめんね、付き合わせちゃって。僕、トウカイテイオーっていうから。またあったらお礼させてね! 」
そう言い残された私は、マックイーンのかわりにゴールドシップのUNOの相手をすることになったのだった。
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