扉を抜けると、雪国であった。
そんな一文が頭を掠める。たしか川端康成の小説だったような…。
そう、目の前は一面の銀世界なのだ。
林に挟まれた一本道には、雪が降り積もっていてきれいな景色になっている。
前世では都会に住んでいたわけで、なかなかこんな景色を見ることはできなかったから新鮮だな。
「…ってか、寒っ!なんでだ!」
『熱変動耐性の機能が低下してるようですね。身体は人間のものですし、風邪をひく前に着替えたほうが良いのでは?』
なるほど。
数々の能力制限の一つだったのか。道理でこんなに寒いわけだ。
『虚数空間』から黒いコートを取り出し羽織る。ついでに手袋も取り出し身に着ける。
これで寒さは緩和できるかな。
《ちなみに、『虚空之神』の時空間支配に組み込まれている断熱牢獄を使用すれば、寒さを感じることはありません。》
早く言えよ!
なんでそれ着た後にいうんだよ、嫌がらせか?
《いえ、せっかくの雪景色にふさわしい恰好を、と思いましたので。》
な、なるほど…。
納得できるけど、釈然とはしないな。
そんなこんなで、目の前の一本道を進む。
森に分け入ったところで、モンスターのいるところにたどり着けるとも思えないしな。
しんしんと降る雪がきれいだな。
しばらく進んでいると。
(…ん?見られてる気がする?)
どことなく周囲に気配を感じる。
だが変だ。
気配の位置がランダムだし、複数人いるという感じでもない。
まるでワープしまくっているかのような気配の位置なのだ。
(シエル、これ見られてるよね)
《どうもそのようですね。熱源感知は使用可能なため、周囲を探知していますが、どうも反応がありません。ランダムな小規模転移を繰り返しており、まるで霊子を彷彿とさせますね》
へえ。
霊子を扱える存在がいるのか。
今交戦することになると、少々厄介かもしれない。
ザクザクと道を踏みしめながら、前方に見える橋を目指す。
突如、後ろに気配を感じた。
それまで林の中からこちらをうかがっていたそれが、何の前触れもなく自身の真後ろに現れたことに、思わず硬直してしまった。
ジャパニーズホラーの風味を感じる。
海外のホラーはグロッキーで、いきなり目の前に現れるというビックリを売りにしたホラーで、日本のホラーは、静かに後ろから忍び寄ってきた、肝が冷えるタイプのホラーだと勝手に思っている。
「おい ニンゲン。はじめて あうのに あいさつも なしか?こっちをむいて あくしゅ しろ。」
警戒しつつゆっくりと振り返る。
そこには、青いパーカーを着て、スリッパをはいたスケルトンがいた。
アダルマンかな?
でもアダルマンはパーカーを着ないし、室外でスリッパをはくほど非常識な奴でもないはずだ。
握手しろ、ね。
害意は感じられない。応じても大丈夫か…?
[ブー]
…は?
「 ハハ…ひっかかったな。 てに ブーブークッション を しかけといたんだ。おやくそくの ギャグ だよ。それはそうと アンタ ニンゲンだろ?ははは ウケるな」
なんというか、程度の低いジョークだな。
初対面の奴にそれやるか普通?
「ていうか ニンゲン。おまえ かんが するどいな。おれが こえを かけるまえに おれに きづいた だろ」
「気のせいじゃないか?たまたま立ちどまっただけだよ。ていうか、こんな悪戯、会う人みんなにやってるのか?」
「おとうとには うけてるんだけどな。まあいいや。 オイラは サンズ。みてのとおり スケルトンさ。ニンゲンが こないか ここで みはってろって いわれてんだ。っつっても…オイラてきには ニンゲンつかまえるとか どーでもいいけどな。でも おとうとの パピルスは…すじがねいりの ニンゲンハンターだぜ。あ うわさをすれば… パピルスが きたっぽいな。そうだ…とりあえず このゲートっぽいのをくぐれよ。ふつうに とおれるだろ?パピルスが つくったんだけどさ イミないよな。」
スケルトンーーーサンズは目の前にある木で組まれたゲートのようなものを指さしてそういった。
ニンゲンハンター…。
トリエルは言っていた。アズゴアに殺されないでと。
ニンゲンハンターの親玉だろうか。
というかニンゲンを捕まえてどうするのだろう。
過去の軋轢の憂さ晴らしだろうか。
だとしたら、相当根深い問題だな。
パピルスというモンスターも十分注意が必要だな。