逆行メスガキ直哉ちゃん(♀)   作:宿儺の左手薬指

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第1話

 

 

 

「悪い」

 

 

 ……違う。

 

 

「もう一回言ってくれ」

 

 

 オマエやない。

 

 

 

 アッチ側に立つんは俺や。

 

 オマエなんか、甚爾君の紛い物のくせに。

 

 

 

 あの人と同じ目でーー

 あの人は、俺に見向きもしなかった目で。

 

 

 やめろ。

 俺を、見下ろすなや……!

 

 

 今さら同情でもしとんのか?

 哀れな男や思っとるんか。

 

 最悪やわ、こんな女と甚爾君を重ねてまうとか。

 オマエは偽物や。

 

 

 

 でも、俺はそんな小娘に……

 

 

 

 

 負けたんや。

 

 

 

 ああ、

 

 

 

  雑魚の罪は強さを知らんこと

 

 

 

 遠いなあ……

 

 

 

  誰も甚爾君を理解してへんかった

 

 

 

 全然届かんかったわ。

 

 やっぱりーー

 俺も甚爾くんのこと……

 

 知っとる気になってただけの、弱肉やったな。

 

 

 

 

 

「その傷、どうせ助からねえだろ。……せめてもの情だ、介錯してやる」

 

 

 近くで紛い物が、何か振り上げとるような気配がした。

 さっきの獲物やろか。

 真希ちゃん、仕事が早いなぁ。

 いつの間に拾ってきたんやろ。

 

 そんなどうでもええ思考が、ゆっくり俺の中で回転しとる。

 一回もう助からん思うたら、案外気楽なもんやな。

 

 

「悪く思うなよ」

 

 

 散々殺し合っといて、今更悪く思うなも糞もないやろ。

 やっぱオマエは甚爾君やない。

 偽物や。

 くだらんコッチ側に気ィ取られて、しょーもない感傷に浸って。

 

 

 『人の心とかないんか?』

 

 

 これは、俺がかけた言葉やったか。

 

 アイツが持ってってもうた?

 よお言うわ。

 売り言葉に買い言葉や言うても、大嘘やんけ。

 

 辛うじて、頭だけ持ち上げて。

 せめて潰れんかった左目で、最期にそのツラ拝んだろうと思ったのに……とんだ興醒めや。

 

 

 

 

 そんな辛気臭い顔するんやったら、最初から皆殺しなんかすんなや、この半端モンが。

 

 オマエのせいで後味最悪やわ。

 

 

 

「……全部壊してって言われたんだよ」

 

 

 

 これで終わる?

 ざけんなや、そんなん認めるわけ……

 

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 

  天才なんやって

 

 

 

 ……?

 

 

 

  父ちゃんの次の当主はーー

 

 

 

 なんや、コレは。

 

 

 

  落ちこぼれがいるんやって

 

 

 

 ……走馬灯か?

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 ……して……

 

 

 

 

「……しっかりしてください!カナオ様!」

 

「どわぁ!?なんや急に!」

 

「あ、お気づきになられましたか!夕飯のご用意はさせておりますが、お食べになられても大丈夫そうでしょうか?」

 

「……いや、夕飯はええんやけど。カナオって誰やねん」

 

 反射的に出た言葉に、固まる女中。

 どこやここ、実家っぽいけど。

 真希ちゃんに粉々にされてた気がするんやけど、無事な所もあったんか?

 

「も、もしかして記憶が……!?大変だわ、お医者様と直毘人様をお呼びしないと……」

 

 どたばたと慌てて出て行く女中。

 何を騒いどるんや、この女は。

 親父を呼ぶ?

 アホか、とっくに死んどるやろ。

 

 ……いや、今思い出したわ。

 あのツラ見たことあるわ、昔世話役やってた女中や。

 ウン十年前に呪霊に襲われて死んだんやっけか?

 

 つまり、親父もこの女も死んどるはずや。

 なんかおかしないか?

 

 いや、そもそも俺は真希ちゃんと戦っとったはずやねんけど……

 

「カナオ、大丈夫なのかっ!?俺がわかるか!?」

 

 もの凄い勢いで駆け込んで来た親父に、肩を掴んで揺さぶられる。

 いきなり何やコイツ、そんでカナオって誰やねん!

 

「だからカナオって誰やねん糞親父!」

 

 おっと、口に出てたわ。

 なんか知らんけど、やたらショック受けたみたいなツラして固まっとるな。

 コイツのこんな表情初めて見たわ。

 

「く、糞親父……」

 

「カナオ様!直毘人に向かってなんて言葉遣いを!」

 

 あーあ、怒られてもうたやん。

 ごめんちゃい♡って言えばええんか?

 もう知らんわ。

 

「で、さっきから言うとるカナオって俺のことなん?……イマイチ状況が掴めへんのやけど」

 

「ああ、カナオ様がすっかりご自分を見失ってしまって……もしかして、甚爾さんに何かされたんじゃ!」

 

「なにィ!!?」

 

「……甚爾君はそんなことせえへん」

 

「甚爾『君』だとぉ!?父ちゃんは認めんぞ、あんな粗暴な男!」

 

 声でっか、親父ってこんなキャラやったか?

 見た目もやたら若いし、感覚おかしなるんやけど……

 

「とりあえず、直毘人様のことはわかってらっしゃるようだけれど……カナオ様、本当にご自身のお名前がわからないのですか?」

 

 いや、わからん言われてもなあ。

 ……と思ったけど、なんか普通に思い出せそうやわ。

 せや、さっき甚爾君と……

 

 

 

  皆言っとる

 

 

 

 

 

 

  父ちゃんの次の当主は『うち』やって

 

 

 

 

 ……

 

 ん?

 

 

 

  女のうちでも

 

  当主になれるって言われてんのに

 

  男のくせに

 

  呪力が1ミリもないんやって

 

 

 

 待て待て、ちょっと待てや。

 

 何か流れがおかしないか?

 

 

 

  どんなショボくれた人なんやろ

 

  どんな惨めな顔しとんのやろ

 

  どんな……

 

 

 

 ……

 

 

 

 ……なんや、コレは?

 

 

 

 いや……

 

 なんや、コレは!!

 

 

 

 と、とりあえず、一旦整理しよか。

 

 禪院哉直(カナオ)、7歳。

 禪院家当主、禪院直毘人の娘で、性別以外は大体昔の俺と一緒や。

 

 そう、性別以外は、俺と一緒や。

 

 は?

 なんやコレ?

 呪いにしたってタチ悪いやろ。

 

 俺、いつの間に女になったん?

 親父もなんか若返ってる……てか、時間も巻き戻っとるみたいやし。

 

 何がおかしいって、7年間カナオとして生きてきた記憶はしっかりあるんよな。

 勿論、27年生きてきた俺の記憶もしっかり残っとる。

 せやから余計に訳がわからん。

 

「思い出したけど、何が何かわからんわ……」

 

 あかん、キャパオーバーや。

 何や、俺の記憶がおかしいんか?

 何も……何もわからん……

 

「カナオ様!?お気を確かに!?」

 

「カナオ!?おい、しっかりしろ!」

 

 二人には悪い……いや悪ないけど、ちょっと寝かせてくれ。

 頼むから。

 

 起こそうとすんな糞親父!!

 




わかりにくい表記を訂正しました。
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