逆行メスガキ直哉ちゃん(♀)   作:宿儺の左手薬指

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今後の整合性などを理由に、前話を大幅に改稿しております。


3話

 真希が次々に『禪院』を壊していく。

 剣の中という特等席で見る、憎まれ役達のスプラッタショー。

 それは最初、性格の悪い私にとって非常に気持ちの良い光景だった。

 

 父親から始まって、躯倶留隊、炳とあれだけ恐怖の対象だった連中が細切れにされ、扇状的なまでの殺戮によって、たちまち物言わぬ躯となっていく。

 不倶戴天の血は留まることなく流れ続け、炳焉とした憎しみによる、完膚なきまでの破壊。

 その根源が私への弔いだと思い出せば、場違いにも満足感すら抱くほど。

 

 多少手こずったようだったけど、あの不快な男すら下して、母を斬り、化粧の途中だった女中を斬った時。

 その時に、鏡に映った真希の顔。

 それを見て、見てしまって。

 

 私は全てを後悔した。

 

 無意識に、真希も自分と同じ気持ちだと、思い込んでいた。

 この殺戮を楽しむまではいかなくても、多少の高揚くらいは感じているものだと。

 ……いや、同じだからこそ?

 私の真希は生きてそこに居る。

 居ないのは私だけ。

 だからこうやって、ある意味呑気なまでの自棄に浸れていたけれど。

 今の真希には何もない。

 私の残した呪いだけ、それだけを背負って無意味な殺戮に興じて、僅かに残った心を砕いている。

 

 その事に気づいた瞬間、私の復讐劇は……最愛の姉の、凄惨な処刑へと変わっていた。

 

 ……だから、

 

 

 

「……このままオマエも巻き添えにしたる……!」

 

 

 

 これは、真希にかかった呪いを解く、最期のチャンスだと思った。

 ここで『私』が消えれば、真希は立ち上がれなくなる。

 

 でも、それでいいの。

 とっくに手遅れだとしても、それでも真希が完全に『壊れて』しまう前に、この悪趣味なショーは中断される。

 一欠片、そう一欠片でも生きる希望があれば……

 なんて、希望的観測よね。

 私が真希の人生を台無しにしてしまった。

 こんな出来損ない、最初から居なければ……

 

 

 

「真依、真依っ……!!!」

 

 

 

 あぁ、ほんと最悪。

 もう一度やり直したいなんて、厚かましい願いまで抱いて。

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、それでも。

 願うことぐらいは、許されたっていいよね?

 

 もし次があるなら。

 今度こそ真希には、自分のために生きてもらうんだ。

 禪院なんかすっかり忘れて、私なんか居なくても生きていけるように。

 もうみっともなく引き留めたりはしない。

 その資格もない。

 だって私は……

 

 最期に見た、あの表情がフラッシュバックする。

 絶望と、不安に塗れた真希の顔。

 

 ああそうだ、もう一つあったわ。

 

 お姉ちゃんにあんな顔させたアンタは……

 私がこの手でぶっ殺してあげる。

 自分と親の次ぐらいには、許せない存在だもの。

 

 ねぇ、直哉さん。

 

 

 

 

 

 

 

「聞いたか?扇さんのところに双子が生まれたそうだ」

 

「…………へぇ、興味ないわあ」

 

「チッ、このガキ……」

 

 こんな時間までご苦労さんやなぁ、ってひらひら手を振ってやると、後ろから舌打ちが聞こえた。

 

 はーーー、イラつくんやったら話しかけてくんなやカスが。

 何とかして取り入ろうと思ってるんやろうが、その内心見下しとるような目つき辞めんと一生無理やろ。

 もしかしてアホなん?

 フクロウもオマエのことアホー、言うて鳴いとるで。

 関係ないけど。

 

 

 

 それにしても、感慨深いなあ。

 ……そうか、もう生まれよるんか。

 

 あの偽物が。

 

 ぐっと握りしめた拳が軋む。

 あの雪辱、1日たりとも忘れたことあらへん。

 

「今度こそ、お前は踏み台や」

 

 空に煌めく月。

 オマエが月やったら、今の俺はスッポンか?

 でも太陽を目指すんやったら……

 

 月ぐらい、堕とせんかったら話にならんやろ。

 

 

 

 

 

 

 

 チュンチュン……

 

 ああ、朝か。

 なんや体が怠いなあ……風邪か?

 今日の鍛錬は軽めにしよか、とか何とか思いながら身を起こそうとして……下に、布が濡れとるような感覚が……

 

 

 

 …………

 

 

 

「……はぁああ!?マジかクソが!」

 

 もう10は超えとんのに、この歳になってオネショ……いやちゃう、これ下痢か!?

 尚更ヤバいわ、こんなん周りにバレたら恥ってレベルやない……!

 冷静になれば、前世では嗅ぎ慣れた臭い。

 あまりの焦りにそれにも気づかんまま……

 俺は万一にも人と出くわさんように、術式まで使って便所に駆け込んだ。

 

 

 

「はぁッ……最悪や……」

 

 扉を閉めて、便座に座り込む。

 食あたりでも起こしよったか?

 ……いや毒もあり得よるか。

 最近落ち着いてたとはいえ、3年前に暗殺未遂とかもあったわけやし。

 

 あれこれ考えながら、ズボンを脱いで……

 べり、と乾いたような音と、鉄臭い臭いがした。

 

「……ひっ」

 

 

 

 

 

 

『聞いたで真希ちゃん。オトナの階段登ったんやて?』

 

『……っ』

 

 ああ、懐かしいなあ。

 

『女中も噂しとったわ。ああ、これからシンドい日あったら言うてや?その日はイジメんでおいたる』

 

 ニヤニヤ笑う俺を必死に無視しようと、顔を真っ赤にして足早に歩き去っていく。

 やたら恥ずかしがりよるから、俺以外にもイビっとるやつも居ったっけなあ。

 昔の記憶や。

 懐かしい、せやけど……

 

 

 

「流石に、ちょっと……あん時の真希ちゃんの気持ち、わかった気するわ……」

 

 周りに聞こえんように、ひとりごちる。

 前世も含めて、最悪に近い気分やった。

 これより酷いんはくたばった日と……悟君が封印されて……恵君に当主の座が渡った時ぐらいか?

 

 俺は天才や何やと持て囃されてる、ぶっちぎりの当主候補や。

 元から誕生席みたいな所に座らされとるのも相まって、膳に盛られた赤飯がまるで俺を晒し者にしとるみたいに見えよる。

 親父の前やから大人ししとるけど、男衆は心ん中で小馬鹿にしとるんやろうなぁ、これ。

 

 ……クソが。

 

 上機嫌で酒をかっくらいながら、「お前も一人前の女になったのだからーー」とか何とか講釈を垂れる親父に、空いた器を投げつける。

 

「ブッハッハ、元気があって結構!塞ぎ込まぬか心配だったが杞憂だったか!」

 

 親父なりに気遣っとんのはわかるけど、それを公衆の面前で言うなやクソボケが!

 俺が自分の『女』嫌がっとるんわかっとったら、一人前云々とか、この『お赤飯』も白々しいお祝いもやめさせろや!

 双子の出産祝いも兼ねとるって?

 じゃあそっちだけでええやろが。

 女中どももニヤニヤしよって……いくら男に憧れとっても、オマエもいずれ女になる日が来るってか?

 ざけんなや!

 

『真依ちゃんは立派やね。強がっとるけど自分が女やと心底理解しとる』

 

 確かに、自分が言うた言葉や。

 せやけど、何で今更これが頭によぎんねん……!

 身から出た錆ってか?

 呪いは廻る?

 アホか、俺は禪院家当主やぞ。

 そんなアホな話が……ああ、クソ! 

 

 立ってションベン出来へんのが一番屈辱やて?

 戻れたら戻る?

 んな悠長なこと言うとった昔が懐かしいわ。

 

「クソカスが……!」

 

「ん?何か言うたか、直哉よ」

 

 ……絶対。

 

 ぜっっったい、男に戻ったるからな!!

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