逆行メスガキ直哉ちゃん(♀) 作:宿儺の左手薬指
真希が次々に『禪院』を壊していく。
剣の中という特等席で見る、憎まれ役達のスプラッタショー。
それは最初、性格の悪い私にとって非常に気持ちの良い光景だった。
父親から始まって、躯倶留隊、炳とあれだけ恐怖の対象だった連中が細切れにされ、扇状的なまでの殺戮によって、たちまち物言わぬ躯となっていく。
不倶戴天の血は留まることなく流れ続け、炳焉とした憎しみによる、完膚なきまでの破壊。
その根源が私への弔いだと思い出せば、場違いにも満足感すら抱くほど。
多少手こずったようだったけど、あの不快な男すら下して、母を斬り、化粧の途中だった女中を斬った時。
その時に、鏡に映った真希の顔。
それを見て、見てしまって。
私は全てを後悔した。
無意識に、真希も自分と同じ気持ちだと、思い込んでいた。
この殺戮を楽しむまではいかなくても、多少の高揚くらいは感じているものだと。
……いや、同じだからこそ?
私の真希は生きてそこに居る。
居ないのは私だけ。
だからこうやって、ある意味呑気なまでの自棄に浸れていたけれど。
今の真希には何もない。
私の残した呪いだけ、それだけを背負って無意味な殺戮に興じて、僅かに残った心を砕いている。
その事に気づいた瞬間、私の復讐劇は……最愛の姉の、凄惨な処刑へと変わっていた。
……だから、
「……このままオマエも巻き添えにしたる……!」
これは、真希にかかった呪いを解く、最期のチャンスだと思った。
ここで『私』が消えれば、真希は立ち上がれなくなる。
でも、それでいいの。
とっくに手遅れだとしても、それでも真希が完全に『壊れて』しまう前に、この悪趣味なショーは中断される。
一欠片、そう一欠片でも生きる希望があれば……
なんて、希望的観測よね。
私が真希の人生を台無しにしてしまった。
こんな出来損ない、最初から居なければ……
「真依、真依っ……!!!」
あぁ、ほんと最悪。
もう一度やり直したいなんて、厚かましい願いまで抱いて。
ああ、それでも。
願うことぐらいは、許されたっていいよね?
もし次があるなら。
今度こそ真希には、自分のために生きてもらうんだ。
禪院なんかすっかり忘れて、私なんか居なくても生きていけるように。
もうみっともなく引き留めたりはしない。
その資格もない。
だって私は……
最期に見た、あの表情がフラッシュバックする。
絶望と、不安に塗れた真希の顔。
ああそうだ、もう一つあったわ。
お姉ちゃんにあんな顔させたアンタは……
私がこの手でぶっ殺してあげる。
自分と親の次ぐらいには、許せない存在だもの。
ねぇ、直哉さん。
「聞いたか?扇さんのところに双子が生まれたそうだ」
「…………へぇ、興味ないわあ」
「チッ、このガキ……」
こんな時間までご苦労さんやなぁ、ってひらひら手を振ってやると、後ろから舌打ちが聞こえた。
はーーー、イラつくんやったら話しかけてくんなやカスが。
何とかして取り入ろうと思ってるんやろうが、その内心見下しとるような目つき辞めんと一生無理やろ。
もしかしてアホなん?
フクロウもオマエのことアホー、言うて鳴いとるで。
関係ないけど。
それにしても、感慨深いなあ。
……そうか、もう生まれよるんか。
あの偽物が。
ぐっと握りしめた拳が軋む。
あの雪辱、1日たりとも忘れたことあらへん。
「今度こそ、お前は踏み台や」
空に煌めく月。
オマエが月やったら、今の俺はスッポンか?
でも太陽を目指すんやったら……
月ぐらい、堕とせんかったら話にならんやろ。
チュンチュン……
ああ、朝か。
なんや体が怠いなあ……風邪か?
今日の鍛錬は軽めにしよか、とか何とか思いながら身を起こそうとして……下に、布が濡れとるような感覚が……
…………
「……はぁああ!?マジかクソが!」
もう10は超えとんのに、この歳になってオネショ……いやちゃう、これ下痢か!?
尚更ヤバいわ、こんなん周りにバレたら恥ってレベルやない……!
冷静になれば、前世では嗅ぎ慣れた臭い。
あまりの焦りにそれにも気づかんまま……
俺は万一にも人と出くわさんように、術式まで使って便所に駆け込んだ。
「はぁッ……最悪や……」
扉を閉めて、便座に座り込む。
食あたりでも起こしよったか?
……いや毒もあり得よるか。
最近落ち着いてたとはいえ、3年前に暗殺未遂とかもあったわけやし。
あれこれ考えながら、ズボンを脱いで……
べり、と乾いたような音と、鉄臭い臭いがした。
「……ひっ」
『聞いたで真希ちゃん。オトナの階段登ったんやて?』
『……っ』
ああ、懐かしいなあ。
『女中も噂しとったわ。ああ、これからシンドい日あったら言うてや?その日はイジメんでおいたる』
ニヤニヤ笑う俺を必死に無視しようと、顔を真っ赤にして足早に歩き去っていく。
やたら恥ずかしがりよるから、俺以外にもイビっとるやつも居ったっけなあ。
昔の記憶や。
懐かしい、せやけど……
「流石に、ちょっと……あん時の真希ちゃんの気持ち、わかった気するわ……」
周りに聞こえんように、ひとりごちる。
前世も含めて、最悪に近い気分やった。
これより酷いんはくたばった日と……悟君が封印されて……恵君に当主の座が渡った時ぐらいか?
俺は天才や何やと持て囃されてる、ぶっちぎりの当主候補や。
元から誕生席みたいな所に座らされとるのも相まって、膳に盛られた赤飯がまるで俺を晒し者にしとるみたいに見えよる。
親父の前やから大人ししとるけど、男衆は心ん中で小馬鹿にしとるんやろうなぁ、これ。
……クソが。
上機嫌で酒をかっくらいながら、「お前も一人前の女になったのだからーー」とか何とか講釈を垂れる親父に、空いた器を投げつける。
「ブッハッハ、元気があって結構!塞ぎ込まぬか心配だったが杞憂だったか!」
親父なりに気遣っとんのはわかるけど、それを公衆の面前で言うなやクソボケが!
俺が自分の『女』嫌がっとるんわかっとったら、一人前云々とか、この『お赤飯』も白々しいお祝いもやめさせろや!
双子の出産祝いも兼ねとるって?
じゃあそっちだけでええやろが。
女中どももニヤニヤしよって……いくら男に憧れとっても、オマエもいずれ女になる日が来るってか?
ざけんなや!
『真依ちゃんは立派やね。強がっとるけど自分が女やと心底理解しとる』
確かに、自分が言うた言葉や。
せやけど、何で今更これが頭によぎんねん……!
身から出た錆ってか?
呪いは廻る?
アホか、俺は禪院家当主やぞ。
そんなアホな話が……ああ、クソ!
立ってションベン出来へんのが一番屈辱やて?
戻れたら戻る?
んな悠長なこと言うとった昔が懐かしいわ。
「クソカスが……!」
「ん?何か言うたか、直哉よ」
……絶対。
ぜっっったい、男に戻ったるからな!!