変化とは連鎖する物だ。
変わりなき日常に突如としてもたらされる大きな変化とは常に些細な所から既に始まっている。
例えば、仕事の帰り道にデザートを求めた時、ふと何となくコーヒーも買ったとしよう。
すると夜すぐに寝れなくなるので、そんな時間に昔から好きな映画を久々に見る事にした。
そんな時、どうしてかスマートフォンの電源をオフにした。
なんでかは本当に自分でも分からない。が、多分「劇場内では携帯電話の使用をお控え下さい。」を無意識的にやってしまったのかも知れない。
映画を見終わり夜深くになると眠くなってくる。だからそのまま映画の余韻に浸りながら、クッションを枕に眠った。
そしたら翌朝、起床の時間が30分もズレた。
原因は就寝の時間がズレた事、そして普段アラームをつけているスマートフォンを、電源をオフにしたまま眠ってしまった事だ。
電車の時間に間に合わない。反省よりも先に、その危機に急いで身支度を終えて駅に向かって走り出す。
急ぐと注意力が散漫になるものだ。だからこそ普段なら間違えないような事も平気で間違えてしまう。
だが余裕の無さというのは負の連鎖をするもので、その間違いに気付く事もできない。
運命の分岐点はあった筈だった。いつもの駅の小売店のおばさんが(今日は珍しいな。)なんて顔をしていた事に対して、少しでもそれが一体何故かと考えるべきだったのだ。
だがそうはならなかった。
時間にギリギリ間に合うか否か。
表向き淡々とした顔で、それ以外の事は何も考えていなかった。
ちょうど電車のやってくる一分前に、ホームには間に合った。
そこでようやく安心して、冷静に考える余裕が戻ってくる。
この朝ごはんのカツサンドは、向こうについてから、会社に向かう道中に食べよう。
そういつもの様に、取り戻した余裕で淡々と臨機応変をした、そこで、やっと、ようやく気付くのだ。
自分のこの手は、ホットドッグを持っている事に。
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昨日何となく買ったコーヒーが、私の朝食をいつものカツサンドからホットドッグに変えてしまいました。
何を言ってるか分からないと思いますが、じっくり事の因果関係を考えて、要約したらそうなりました。
一体誰に向けた何の為かの反省文を、電車に揺られるだけの暇な時間に頭の中で連ねると、適当にモニターに映る広告に合わせていた視線を下の手に持つ物に向ける。
うーん。これはやっぱりホットドッグだね。間違いない。
もう3回くらいはじっくり見たけど、やはりこれはカツサンドとは言えない。
一応肉が挟まっているパンという構図は文字に起こせば同一するが、それは事実であれど真実ではない。
なんて言葉のアヤだ。詐称は許されないよ。
そうあたかも被害者のようにホットドッグ相手に睨みつける。
いつからか始まった毎朝カツサンドのモーニングルーティンがこうもアッサリ終わるとは。
下らない事とはいえ、いやなまじ下らない事だからこそ積み重なってきた事実が一瞬で崩れ去るというのは変に哀愁を漂わせる。
例えるならそう、魚の骨をキレイに取り除き気分良く食べ終わる所に、最後の一口でチクッした感覚が一瞬だけして、その上別に刺さってないときの気分に近いと言えばいいかな。
うん。よく分からないね。
こんな例え方するなら無駄にスケール大きくてもいいから前世の死因でも引き合いに出すべきだったろうか。
ゴウン
車体が小さく揺れる。視線をモニターの方に戻すと、ちょうど私が降りるべき駅の名が各国語に表示されていた。
駅の改札を余裕な態度でサッと通り抜け、外に降りる階段を下り始めると、早速にホットドッグの袋を開ける事を優先し始める。
それを見つめる瞳は先程の私怨込めて睨む物ではなく、澄みきっている。
勘違いしないで欲しいが私は別にホットドッグが嫌いという訳ではない。
ただ、さっきのはルーティンを破壊したという事に対しての責任を問いていただけ。食べる食べないとか、それとこれは話が別。
今朝は走ってきて疲れてるんだ。さっさと何か食べて元気を出したい。
袋を開けると、眺める時間も惜しくなって早速にかぶりつく。
最初の一口は特に何も考えて無かった。今は兎に角空腹で、胃に入ったという実感さえ手に入ればそれで良かったからだ。
よく噛み、喉に通し、胃に入れる。
その感覚をしみじみ実感すると、ようやく今日一日がいつものペースに戻ったという安堵感を得る。
最初の一口で結構食べてしまったな。もう3分の1くらい消えてる。もうちょっとゆっくり食べよう。まだ会社まで5分位はある。
少しずつに食べ進めながら、肉厚なソーセージの食感を楽しむ。
カツサンドと気付けなかったのはこの厚みある肉の挟まった手触りが似ていたからだろうか。
買う工程はルーティンと化した流れ作業だったせいでよく見てなかった。視覚に頼らない悪い癖が出ていたね。
あぁそう考えてみると、ちゃんと包装って密閉されてるんだなぁ。匂いさえあれば絶対分かったもん。絶対に。負け惜しみじゃないよ。
味はシンプルにケチャップとマスタード。いやシンプルというか、そもそもホットドッグにこれ以外の味つけってあるのかな。
探してみればまぁご当地だったりお店のオリジナルとかはあるとは思うけど…。
…考えてみれば、一般的なバリエーションの多さを持つ料理というのは存外多くないな。
それにはまだ可能性の余地があるのか、試行錯誤の末に至った、たった一つの結論なのか。
うーん…。基本食べる専門だからまだ良くわからないね。本格的に作る側に回ってみれば見える世界も変わってくるかもしれない。
ふと頭の四隅にそんな事を考えてみると、近くに迫り見えてきた本社の、ガラス張りの高い標高を眺める。
今の仕事を捨てるのはハッキリ言えば惜しい。
だが自分のお店を持ってみたいという野望が微かながらあるのも事実だ。ペットカフェとかやりたい。
今まで何も考えずに生きてきた。一番の目的を失ったせいで何もやる気が起きなかった。
ただなんとなく下回らないようには頑張って、ただ取り敢えず与えられた期待にはそれらしく応えて、ふと気がつけば今。ただそれだけだ。
辛くはないが、充実してるとも言い難い。
今私は、ようやく何か目標を見つけるべき時にいるのかも知れない。
あぁ、そうか変化だ。今もまだ変化の連鎖の中に私はいるんだ。
昨日今日一連の小さな連鎖が、昨日買ったコーヒーが私にそう考えさせている。
それがチャンスなのか、それともただの気の迷いなのかは分からない。
ゴクンと最後の一口を意気揚々に飲み込むと、時間には全然間に合うのに、少し早歩きに会社に向かう。
今日、部長にちょっと相談してみよう。是非人生経験のある人の意見がほしい。
まぁ、私の方が総合的に見ればずっと長生きだけど。
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「“個人的な用事”で少しの間転勤する事になった。」
「まぁ一週間かそん位で戻ってこれるだろうから、あんまり重大に考えなくていい。」
「俺がいない間の代わりは“駆足”に任せる事になってる。」
「やけに快く引き受けてくれた。まぁ仲良くやれ。」
出会った開口一番にそう言ったので、思わず「あの。そんな急に」とそう言いかけたが、岸辺部長は視線を上げた時にはもう既に消えていた。速い。
私は空きになった部長のデスクを眺めると、うーん。と考え込んだ。
“駆足”部長かぁ…。嫌だなぁ…。
誤字報告あったらしろ♥