押忍!クソ女飯   作:ヤマグティ

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僕別にそんな食べる方じゃないので続かないです。



カレー・うどん

 

 

 

「もうすぐでお昼時間でしょ。」

 

「でも道中で何も買ってこなかった。」

 

「お昼時間は大体一時間半ぐらいで…。」

 

「うちの会社は食堂がないから…。」

 

 

「うん。どこか食べに行こう。」

 

 

 

 

 

 

 

サンサンと、春特有の心地よい日の光に照らされながら街道を往く。

 

私と同じように、何を食べるかまだ定まらない群衆達はウロウロと辺りを練り歩いている。

 

 

今日はちょっと人が多いね。天気が良いからかな。

 

うーん。この感じ、なるべく早めに決めないといけなさそうだね。じゃないとお店が混んできちゃう。

 

あれ、おかしいな。お昼の休憩時間なのに私は今生存競争の中にいるぞ。

 

仕方ないね。今辺りにあるお店の中から決めようか。

 

今日は特にこれが絶対食べたいって気分じゃないのが良かったな。

 

 

キョロキョロと、百八十度に視界を見渡す。

 

すると、前の横断歩道の先のうどん屋さんが目に止まった。

 

たまに良く行くうどん屋さん。コシがしっかりしてて、美味しいんだよね。

 

 

「…。」

 

「そうだ。あそこのカレーうどん、まだ食べたこと無かったっけ。」

 

 

一瞬いつも食べてるオーソドックスなうどんを頭に浮かべたけど、ふと、いつも先送りにしてたカレーうどんの事を思い出した。

 

いつもはそれを思い出すの、注文を終えちゃった後なんだよね。

 

だってカレーうどんの写真はメニューの後ろの方にあるんだもん。

 

メニュー開いて真っ先にスタンダードの美味しそうなうどんの写真をドンと見せられたら、それ選んじゃうもん。

 

よし、ここで気付けたのはきっと何かの縁だ。今日はカレーうどんに決まり。

 

そう決めて、入り込んだ横断歩道を渡ると、長年の需要を感じさせるような古びた引き戸をカラカラと開けてうどん屋さんに入る。

 

「いらっしゃい。」

 

調理場のおじさんの挨拶にニコリと笑顔で返すと、私はまだ結構空いてるカウンター席の一つについてカレーうどんを注文する。

 

メニューすら開かずにいつもとは違う物を頼む私におじさんは、(おっ。珍しいな。)なんて目を一瞬見せて、「カレーうどん一つね。」と元気に言う。

 

このお客さんの数だと、私のが来るのは大体10分位かな。

 

その待ち時間にスマートフォンを取り出すと、色々とネットニュース一覧を見る。

 

スマートフォンはとっても便利だね。

 

いや、正確にはインターネットかな。調べたい事はすぐに分かるし、人々や社会の情報が簡単に沢山手に入る。(真偽は別として。)

 

スマートフォン。インターネット。

 

この現代社会の便利な道具の数々。

 

この世界は、彼が消した筈の第二次世界対戦が存在していた事でとても文化水準が高かった。

 

最初こそ、この世界にそれや核兵器とかが存在してると知ったときには彼も彼の功績も消えてしまったんだと失望した。

 

でも、それらがあったお陰でこうして社会が発展して便利な道具や生活が作られてると思うと、一概に悪いからと言って消すのも考えものなんだなとは思う。

 

あ。でも、変だな。考えてみたら第二次世界対戦とかはあるのに死以外の結末やアーノロン症候群、第六感、粗唖とかはこの世界にも無い。

 

何が基準なんだろう。

 

 

いや、それ以前に。

 

 

この世界が一番変なのは、悪魔が存在しない所だ。

 

 

人の恐怖の具現化たる異形。

 

いつの世も人々を苦しめてきた筈の存在。

 

それがキレイさっぱりこの世界には居ない。

 

何でだろう。

 

もしかして悪魔の名を冠した悪魔が食べられちゃったりしたとか?

 

そう考えてみれば、地獄が無くなった事で私が悪魔として転生できなかったのにも、最強とて悪魔である彼が居ないのにも合点が行く。

 

いやでも、それって彼にとって自殺行為…。

 

それに第二次世界対戦やナチス、核とかはある…。あとうちの職場の事とかも考えると…。

 

おかしいなぁ…。何なんだろうこの世界。

 

もしかして、完全な別世界?

 

うーん…。

 

「……。」

 

「あ。」

 

 

 

「あの映画続編作るんだ。」

 

先程までの熟考は、画面に写しだされた一つのニューストピックに追いやられてしまった。

 

と言ってもこの世界への疑問はもう今まで何度もしてきたが答えが見つから無かった物なので、とっくの昔にふと思い出した時に考えてみる程度の物になっている。

 

「…続編か。あれで十分完結してると思うけど…。」

 

「…。」

 

「あ、監督違うじゃん。あんまり変な事はしないで欲しいんだけどな。」

 

そのトピックを開いて詳細を見ると、眉をひそめて今度はその事に うーん…。と悩み始めた。

 

 

映画の無理な続編製作には、ホント勘弁して欲しいね。

 

まず利益に目がくらんだって感じが否めない。

 

いや、まぁ企業として儲けたいと思うのはごく自然なことだろうけど。

 

でも続きを作ってシリーズ物で儲けたいなら、それはあらかじめ長編のストーリーを作ってやるべきだと思う。

 

一作で完結させるプロットの映画を無理矢理続かせるからどれもこれも変になっちゃうんだ。

 

もっと映画企業には面白い映画を作る。って気概を真剣に持って欲しいね。

 

それこそこの映画のテーマなんて有終の儚さを描いた物なんだから続きなんて………。

 

 

 

「カレーうどん。一丁。」

 

 

 

 

「あっ。ありがとうございます。」

 

そんなことを考えている内に、うどんは出来上がっているようだった。

 

頭の中の映画論を一旦切り上げて、思考をそちらの方に向ける。

 

 

ゴトリと、器は置かれると重量感溢れる音を出す。

 

そして作りたての沸き立つ湯気がその威厳を更に引き立てる。

 

そしてその湯気と共に沸き立つカレー特有の、香辛料の香りと言うべきかそれが鼻腔を刺激する。

 

もしかしてこのカレー、思ってるより辛いのかも知れない。

 

だが、目に映るホカホカとしたうどんの前にはそんなのは些細な憂慮に過ぎない。

 

いただきます。と、手を合わせ。

 

それから割り箸を割って、今日の昼食を始める。

 

その箸でコシがありながらも柔らかい麺を千切らないように慎重に、けれど滑り落ちないように強く、これを食べる時以外では使わないような調整された力で掴みあげる。

 

そうしてズズ…と啜る。

 

先程の予想は当たっていたようで、結構なピリリとした辛さが口に広がる。

 

だが、いいね。それがおいしい。

 

柔らかな口当たりを意識して作られたであろうこの麺をカレーと合わせるなら、これくらいの辛さがちょうどカレーうどんとしての需要を満たしている。

 

成る程、どんなカレーが合うかに工夫をしたんだね。

 

そう思い、調理師のおじさんの方を見る。

 

既に満席になった注文量をこなす為にせっせとうどんを茹でているから私の視線には気付いていないようだが、それでも私は心の中でしっかりと敬意を送った。私がまだ支配の悪魔だったら、この人は支配できないかも知れないね。

 

そうして、食事に戻って再び啜る。

 

うん、やっぱりこのカレーがおいしいね。

 

いや、カレーうどんだからカレーの味がメインなのは当然なんだけど、でもこの麺との良くあった感じがカレーのおいしさを余計に引き立てているように感じる。

 

そう考えてみると、やはりカレーは何かと合わせる事が本領なんだなってと再確認する。

 

米。パン。麺。

 

ルー単品では全く物足りないのに、それら炭水化物トリオと合わせて食べた時のおいしさは異常だ。

 

カレーはルー単品ではなく、何かと掛け合わせたときに初めて一つの料理になっている。

 

その側面から見ると、カレーはいわばソースの類なのかもしれないね。いや、むしろもう独立した一つのジャンルかもしれない。

 

何にせよ、これを作り上げたインドの人々は偉大だね。うんうん。きっと彼らも支配できない。

 

 

そうしみじみとしながら、熱くなった口を冷ますために水を飲むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした。」

 

食べ終えると、そう言って食べ始めるときと同じようにまた手を合わせて、この料理になった食材と。そしてこの食との出会いに感謝を込める。

 

そうして、お会計でしっかりこの満足感との等価交換を終える。

 

カラカラと戸を開けると、外の風が少し涼しく心地よく感じた。カレーを食べて体があたたまってるからかもね。

 

「うん。おいしかった。もっと早くから食べてれば良かったなぁ。」

 

心地良い風に当たりながら、今まで先送りにしてた事をちょっと後悔する。

 

「今日はカレーうどんにして正解だったね。」

 

満足そうに自分にそう言うと、時間を確認しようと腕時計を見ようとして、

 

固まった。

 

 

「……あー…。」

 

 

あぁ、しまったね。工夫されたおいしさやカレーへの熱い語りに夢中になっていて、すっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

カレーうどんが、社会人にとってかなりリスキーな食べ物だったという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白いスーツの胸元には、カレーの飛びちったシミが付いていた。

 

 

 

 





マキマさんって好きな食べ物とかあったんですかね?
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