押忍!クソ女飯   作:ヤマグティ

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天使くんもプリンシもマキマに全て捧げられたから死んだんじゃね?とかいう悪魔みたいな可能性にゆえゆえ泣いてるので続かないです。



それは誰だ 誰だ 誰だ

 

 

まだガヤガヤと様々な居酒屋から人の騒ぎ話す声が小さく響く夜の繁華街。

 

ぞろぞろと、少し早めに飲み会を切り上げた集団が居酒屋から出てくる。

 

「うぅ……もう解散なのぉ……まだ私飲めるのにぃ!ねぇ暁くん!!」

 

「全部アンタがぶち撒けたせいですよ。ホラ暴れないでください。」

 

ブンブンと顔面真っ赤の酒乱は貸された肩を振りほどこうとするが、その肩を無理やりに貸す早川は少しストレスのこもった力でしっかり抑え込んでいるので微動だにしない。

 

「あーん、暁くんにお持ち帰りされちゃうー!性行為されちょうよー!」

 

「しませんよ。」

 

え、しないの…?なんて隣の悲哀な顔に早川は見向きもせず、スンとした顔で佇む。

 

「君、ゲロ吹っかけられた相手なのによく送ってあげようと思えるね。」

 

「……まぁ、良くある事だからな…。勝手にピアス開けられたのに比べればあれぐらいは……。」

 

勝手にピアスを開けられた……? なんて、そんな淵瀬の顔にも目もくれず、これもまたスンとした顔で、早川は他の者よりは酔いが浅い頭で全員の確認を始める。

 

「淵瀬達は自分で帰れそうだが…破輪は少し酔いが深いな…小紅、確か破輪とは同じ団地に住んでるんだったよな?」

 

「えっ、えっ。それって…。」

 

「頼んだぞ。」

 

「………。」

 

「は!?ワシが住んどるのはリッチな豪邸じゃが!!?」

 

 

「あー、待って待って。女の子二人は危ないから俺らも付いてくわ。ね、荒井君。」 「うす!」

 

「我流さんっ……!」パァァ

 

「離さんか荒井!!さてはウヌ、誘拐犯かっ!!」

 

「オイ勝手に何処かに行こうとするなっ……うお強っ……!!我流さん!!ちょっと思っていた以上にコイツ強いです!!」

 

ワーワー、ギャーギャーと騒ぎながら遠くに去っていく四人を見送り、すっかり静かになったのを確認すると

 

「あとは……。」

 

早川は残った者に視線をやる。伝次、淵瀬、比無、不理…帰宅に支障の無さそうな各々の顔を見渡すその視線は、やがてある一人に止まる。

 

すっかりと酔いつぶれて、姫野程ではないが赤い顔。

 

「……。大丈夫そうですか、間木さん……。」

 

「……」ビッ

 

間木と、そう呼ばれた者はその酔と眠気に支配された涙目の表情でピースサインを作って無言ながらも平気だと主張する。

 

が、その表情。そしてフラリとしたおぼつかない立ち姿。一体どうして平気と言えるだろう。

 

いや、それ以前に平気な状態の間木はそんな表情も、ピースサイン等を作るような過度に気軽な応対もしない事を早川はよく知っている。

 

明らかにシラフとは違う間木の挙動は、彼女にも引率が必要だと早川に思わせるには十分だった。

 

「…どうするかな…。」

 

早川は隣にある真っ赤な顔を見つめる。

 

重度の酔っぱらい二人を同時に相手をするといった心労もそうだが、間木と姫野は住んでいる方面が違う。

 

一応理論上は可能だが……効率的とは言い難い。

 

誰かもう一人に引率を頼んだ方がいいだろう。

 

しかし淵瀬も、比無も、不理も、全員ことごとく彼女とは違う方面に……。

 

「……あ。」

 

各々の顔を再び見渡して、ふと早川は思いだす。今、自分がある1名をカウントしていなかった事に。

 

ある1名をカウントしなかったのは決して悪意があったとかではない。ただ単純に、忘れていたのだ。何せその者が飲み会に同席したのは今日が初めてだったからだ。

 

そして同時に、早川はその者が一番都合がいい事も思い出した。

 

「……お前、確か間木さんと同じ町に住んでるって前に言ってたよな?」

 

 

 

 

「伝次。」

 

 

 

 

 

 

 

「………お?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______

 

 

 

 

 

 

 

 

(やったーーー!!!)

 

 

すっかり人の往来の消え去った夜の歩道。その暗闇の静寂を真っ向から打ち消すかのような姿勢の跳躍がとある男の歓喜を全力で表す。

 

とある男、名を 犬飼 伝次。

 

非常にポジティブで、どんな時でも前向きであれるような男。

 

そんな彼の気分は、今夜は何時にもましてハイだった。

 

お酒が入っているからという事もあるが、それ以上に大きな理由が一つ。

 

伝次は視線を横にやる。

 

そこに居るのは赤く染まった頬、起きているのか寝ているのかも分からない瞳の表情、フラリフラリと歩くおぼつかない挙動。そんな女性。

 

しかしそんな状態でも、見るものは皆彼女を美人だと認識するだろう。

 

それほどまでに整った顔と豊満な身体をした女。

 

名を、間木 麻。

 

伝次の所属する部署にいる、彼の上司にあたる女性。

 

この状態からは少し想像し難いが、普段はとても冷静かつ優秀で、多くの逸話を持つ敏腕オフィスレディ。

 

そんな非の打ち所の見つけようが無い彼女の事が伝次は好きだった。

 

いや、正確には伝次が彼女を好きなのはそういった容姿や優秀さよりも、まだ右も左も分からない入社時期に受けた丁寧で抱擁的な、母性的な所なのだが。

 

というのも、この伝次という男。過去を語れば語るほど何故そんな前向きな性格でいられるのかと聞きたくなるような物ばかり。

 

父親からの児童虐待。

 

ペットの飼い犬だけが心の拠り所だった保護施設で過ごす青春。

 

父親の自殺、母親の蒸発によって行き場を失った腹違いの妹との出会い。

 

 

そして、母親の居なかった幼少期。

 

 

そんな彼にとって母性的な間木に好意を抱くのは運命的であり、必然的な物だった。

 

その為に今の、間木と二人きりという状況というのは只の引率だとしても彼にとっては俗に言うデートに限りなく近い非常に特別な物なのである。

 

 

「いやー、それにしても間木さんって案外酒弱いんすね。」

 

 

 

「……。……ンそぉまん……。」

 

 

 

「……そーま…?……そーめん??」

 

 

 

まともに話が噛み合わないが。

 

 

 

「そーめんが食べたいって事すか?」

 

 

「………違う……違う……。」

 

 

(……難しいなコリャ…。)

 

(……でも…。)

 

(かわいーーー!!)

 

先程から、ずっとこんな調子だった。

 

ちゃんと歩けますか。や、気持ち悪くないですか。と聞いてみても帰ってくるのは何かの単語を呟く声だけ。

 

普段の彼女をよく知れば知るほど、この状態になったギャップは凄まじいものだった。

 

だが、伝次は決して幻滅などはしなかった。

 

いやむしろ、意外な一面な知ることをできた為に嬉しくあり、そしてその酔い潰れた姿が可愛らしくも見えていたのである。

 

願わくば、永遠にこの時間が続けば良いいのにとさえ切に願っている。

 

「あ、間木さん。横断歩道でっ、あっ!!間木さん!!赤!赤!!」ガシッ

 

 

「…うぁ……。」グイッ 

 

伝次は咄嗟に赤信号を渡りかける間木の手を掴んで引き戻す。

 

夜深く、別に車が来ていた訳では無かったが、危機管理か、それとも規範意識的な物かが酔っているとは言えしっかりとあったのだろう。

 

「気ィつけて下さいよ間木さ………おっ!!?」

 

だがそんな秩序的意識は自らの状態に気づくと跡形も無く消え去る。

 

「……おっ……おぉ……。」ニギニギ

 

咄嗟だった事ですっかり意識していなかったが、引き戻す為とは言え、手を繋いでいたのだ。

 

伝次は生来まともに女性と交流·接触した事が無かった。いや、正確には何度か試みようとしたが環境がそうさせなかった為に、マトモに社会に出れるようになるまでは殆ど諦感してきていた。

 

なので女性と、そして意中の人の手を繋ぐのは、多分これが初めてだった。

 

「…あっ…あのっすいませ」 パッ

 

ドサッ

 

「あっ倒れると危なっ‥おおおっ!!?」 ムニュウ

 

手を離すと、今度は倒れかけたので支えようとし、豊満な胸の感触が引きよせた腕に伝わってきた。

 

そして互いの顔の距離が限りなく近くなる。

 

その酒に酔いつぶれたとしか言いようのないほんのり赤い顔。なのにどうにも。いやそれともそれ故か、その顔は色気しく、艶かしく映る。

 

「……あっ……えっ……と…。」

 

伝次は自分から湧き上がる情欲の情報量に硬直して動けなかった。

 

アルコール如きとは別のものだが、彼もまた間木と同じように、それ以上に顔が赤く染まった。

 

それから、どれくらいその状態でいただろう。

 

気まずいような、恥ずかしいような、それともまた、違うような。

 

ただ自分からは絶対に、この体勢からは動けずにいた。

 

それから何秒後か、いや何分後か、はたまた何時間後か、ふと自然に間木がフラリと離れて、先に歩き始める。

 

「あっ……えっと、だ、大丈夫そうですか間木さん……?」

 

 

「………。」

 

 

返事はなく、歩き続けている。

 

ただ、左右の方向に少し向かいかけた歩行をしている辺り、まだ意識は朦朧としている事は分かった。

 

恐らく、ある程度の並行感覚を取り戻した事で自然と動き始めたのだろう。

 

嫌悪から離れたわけではないと安心したのか、それともまだたどたどしい動きが不安だからか、伝次は彼女の後を追い始めた。

 

そうして、ちょうど追いついて、そっちは駅じゃないと言いかけた時の事だった。

 

ブゥゥゥン!!

 

ふと、遠くからでも大きく響いてくるエンジンの吹かす音がした。

 

恐らくはバイクの音だろう。それも昼夜問わず、敢えて大きくエンジンを立てて走り回るような厄介な者。

 

ほんの一瞬、バイクが何処かを通り過ぎた一瞬の音だった。

 

ただそれだけの事だった。

 

少なくとも、伝次にとっては。

 

「…………ちぇ………ぉ……まん。」

 

「……?…間木さん?どうし」

 

 

「う…ゔぁぁぁぁぁぁあん!!チェンソォマァンッ…!!」

 

 

「…っ!!?間木さん!!?」

 

一体何が原因なのか。突然に間木は歩みを止めて泣き始めた。

 

「ゔっ……たすけてちぇんそおまん……ちぇんそぉまん………。」

 

 

「…チェーンソーマン…?」

 

「一体なんすかそれ

 

 

「ちぇんそーまん!!」バキィ

 

 

「ごあっー!?」

 

どうやら呼び方が何かの逆鱗に触れたようで、伝次の頬にストレートなグーの一撃が入ってきた。

 

「間木さっ………ちょっと待っ

 

 

「ちぇんそぉマンはねっ!喋らないし服も着ないのっ!!」ズドド

 

 

「うぉぉおっ!?格闘センスが凄いよぉ~!?」

 

不安定な間木を何とか落ち着かせようと近づくが、今度は腹部に高速の連撃を喰らう。

 

その連撃のスピード、威力たるやは並の素人のそれではなかった。

 

だが伝次は間木の視界がまだ朦朧としている事に気づき、地面に伏せ込んだ。

 

読みどおり間木は伝次をしっかりと見ていなかったようで、伏せ込まれた事で見失ったようだった。だが探す気は無いのか、特に動かずまた嗚咽し始める。

 

「うーん………。」

 

一方伝次はどうすればいいかと考え込む。酒の入った人間からの暴行には悲しいが馴れているので至って冷静だった。

 

どうやら間木のフィジカルを女性だからとかなり過小評価していたようだ。

 

真っ向から押さえ込もうとすれば多分一方的にボコボコにされて終わりだろう。

 

では背後から不意打ちを仕掛けるか。

 

…。それは、可能だとしても伝次は選択肢に入れたくなかった。

 

伝次は間木を一切に傷つけたくないのだ。それこそ先程理不尽に殴ってきたのだとしても。

 

となれば、何か別の方法で鎮静化させるしか無い。

 

だがどうすればいいだろう。伝次は自分の間木に対して知っている限りの事を振り返り、考える。

 

しかし思い浮かぶのは「ここ好き」な場面ばかり。呑気だなぁ、と伝次当人も気を遠くする。

 

が、それらの中にふと一瞬。間木を大人しくさせるのに思い当たるような節を見つけた。

 

伝次は辺りをとにかく見渡し、コンビニも何も無いことを悟ると、藁にも縋る思いで自分のカバン·ポケットをも手当たりに「何か」を探し始める。

 

……果たして、その「何か」はあった。

 

少しサイズというか量が心もとないが、もはや気にしてなどいられない。

 

伝次は伏せた体勢のままカサカサと間木の背後に回り込むと、バッと、敢えて気づかせるように立ち上がる。

 

「オメェから貰ったもんだったが……悪ぃ那由多!!」

 

そう伝次は誰かに謝ると、手に持つ「何か」を振り返った間木の顔面目がけて振り下ろした。

 

 

それから、2、3秒……。

 

 

間木は、すっかりと大人しくなった。

 

伝次は間木の顔を見やる。その口からは、細く白い棒状の物が咥えられていた。

 

 

チュッパチャップス。

 

 

一昨日だったか帰宅した際に、仕事の労いの気持ちからと妹から貰った物だったが、これが思い付く限り唯一持ち合わせていた「食べ物」だった。

 

間木は何かを食べている時、どれだけ話かけても返事が返ってこない事がある。

 

それを思い出した。

 

「……ぜぇ…間木さん……、俺が分かりますか…?」

 

そう言って手を眼前で振ってみる。

 

が、応対はなく、コロコロと先端の飴玉を舐め回している。

 

「………。」ニギッ

 

手を握ってリードすると、付いてきた。問題無さそうだ。

 

伝次は駅を目指して歩き始める。

 

体の芯にまだ残る華麗に殴られた痛みと、今手にある柔らかく暖かな感触が、何だか不思議な気分にさせた。

 

 

 

_____

 

 

 

「えと……じゃあ俺ァここまでっすね、ここからなら一人で帰れそうすか?」

 

電車に揺られ、自分達の町に帰ってきた伝次は間木に帰れるかどうか問う。

 

「……」ビッ

 

間木はピースサインを作って無言ながらも大丈夫だと訴え、歩き始めた。

 

正直伝次は少し不安だったが、生憎間木が何処に住んでいるのかなんてプライバシーを知っている訳がないので、彼も自分の家を目指して歩き始める。

 

すっかり深夜になってしまった。妹はもう寝ている頃だろう。用意しておいた夜ご飯はちゃんと食べただろうか。それに自分が居ないからと夜更しなんてしてないといいが。

 

そんな事を考えながら時間を確認しようと携帯を取り出そうとしてポケットに手を入れて、何か別の物を手に取る。

 

先程のチュッパチャップスだった。

 

そういえば電車を降りた時にはいつの間にか無くなっていた。

 

何故ここに入れたのか。…と思ったが、酔っぱらいが何を考え、何をするかなんて見当もつかない事は幼少期の経験上何となく分かっているので、深い意味も考えも無いのだろうと結論づける。

 

しばらく、最初に比べて質量の減った飴玉を眺めると、それを勿体無いからと銘打って咥える。

 

……。

 

初めての間接キスは、なんだか変な味だった。

 

けれどそこに特に失望も諦感も無く、いつか酔ってない間木さんと…なんて考えると持ち前のポジティブさが湧いてきた。

 

よし、今度は酔ってない時をデートにでも誘ってみよう。

 

そう勇気と決意を新たにし終える。

 

「………そういやぁ…。」

 

それから暫く歩いて、ふと何かを思い出すと、独り言のような事を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……チェーンソーマンって、何だぁ…?」

 

 

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