我等は北条様の私室を訪れたのだが、生憎北条様は別の来客の対応中らしく、霞ママと一緒に控室で待機しておる。さらっと控室などと言ってしまったがここは士官学校の寮であって、北条様のお屋敷ではない。本来士官学校の生徒は二人一組で一部屋が与えられるのだが、北条様は私室・使用人室・控室の3つを使用しておる。北条工業の社長令嬢ともなれば、破格の待遇を当然のように受けておる・・・やはり世の中金で動いておるものだ・・・
まあ、北条様自身はとても美人で、我や盟友や小森嬢のような変わり者にも優しく、何かとお世話になることも多いので、北条工業万歳である。例えば士官学校から外出する場合は許可を取る必要があるのだが、普通は簡単に許可が出るものではない。しかし北条様と一緒に外出する場合は、ほぼ顔パスくらいの勢いで許可が出る。用事の内容がちょっと良いお店で外食したいとかであってもだ。もう北条様のやることに驚くのも飽きたのである。
「ふぅ・・・やはり北条様の出すお茶はとても美味い。」
「・・・はぁ。あんた人の部屋でくつろぎ過ぎじゃない?」
「我ほどの大物であれば、それ相応の態度というものが求められるのでな。」
「大物ねぇ・・・大きいのはその体だけじゃないかしら?もう少し痩せないと健康に悪いわよ?」
「ぬぅ・・・」
だ、大丈夫・・・わ、我は小太り程度のはずなのだから・・・デブではなくてふくよかとかそういう感じの表現が正しいはずなのだ・・・
「それにしても北条さんも葛原も、よくあんたみたいなのと付き合おうと思ったものよね。」
「ふっ・・・北条様は我の才能を見出だしてくれた恩人である。盟友とはそうなる運命であったのであろう。小森嬢は・・・我と北条様の事は怖がってしまうのでなぁ・・・盟友のほうが絶対に怖いはずなのだが、なぜか懐いておられるのだよなぁ・・・羨ましい限りである・・・」
「そういう目線で見てるから逃げられるのよ。」
「ぬぅ・・・だがそういう霞殿も逃げられておるではないか?」
「ぐぅ・・・い、良いのよ私は・・・こんな性格だからそういうのには慣れてるわよ・・・」
い、いかん!?霞ママが落ち込んでしまった。霞ママは口調が厳しくて避けられる事が多いのを気にしておられるのだ・・・しかし本当は優しくてとても世話焼きな最高の女の子だ!!
「ま、まぁ、霞殿の真価に気が付く者は少ないかも知れぬが、我等は霞殿にはとても感謝しておるのだ!!あの人付き合いが嫌いな盟友ですら、先程は霞殿の為になにかと便宜を図ろうとしておったではないか!?我も初期艦を士官学校の中から選べと言われた時に、迷う事無く真っ先に霞殿の所へ走ったものであるぞ!?」
「そ、そう・・・ありがと・・・」
そう言って霞殿はそっぽ向いてしまったが、後ろから見える耳が真っ赤である。どうやら機嫌を直してくれたようだが、あまりにも可愛いが過ぎるので、我の心臓がヤバいかも知れぬ!!霞ママで萌え死ぬのであれば、我が生涯に一片の悔い無し!!
「んんっ!!そ、そう言えば前から気になっていたんだけど、あんたはどうやって葛原と仲良くなったのかしら?」
「ほほう、我と盟友の出会いを知りたいと?ならば少し昔話をするとしよう。あれは我が士官学校に入ったばかりの事だ。」
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ふむ、提督になる為にはこの士官学校とやらに通わねばならぬと言われたから来たものの、なにやら小物ばかりであるなぁ・・・むっ!?なにやらただ者ではない気配を纏った者が居るではないか!?少し声を掛けてやるとしよう。
「そこのただ者ではないオーラを放つ者よ!!貴様も士官候補生の一員であるか!?」
我が声をかけた奴はこちらを一瞥するが、その目はなにやらどす黒い闇を秘めているような雰囲気である。この我が気圧されるとは・・・こやつ出来るぞ!?
「ああ、そうだが?」
「ふふっ、我こそは第六天魔王織田信長の子孫にして、いずれはこの世界の覇権を握る漢!!織田信雄である!!」
ふっ、決まったな。
「・・・そうか、葛原だ。」
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「それだけ言って盟友はその場を去ったのであった。」
「えっ!?それで終わりなの!?」
「確かに短い邂逅ではあったが、我等の間には余計な会話など無用であったのだ。」
「そ、そうなの?これって普通に避けられただけじゃ・・・」
「い、否!!断じて否である!!そ、それに盟友と本格的に関わりを持ったのは1ヶ月は先の話である!!」
「え・・・そんなにも先なの?」
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「ぬぉぉぉおおお!!何故だ!?何故我がこんなところで負けるのだ!?」
「艦隊指揮もまともに出来んひよっこが、厳しい戦いを潜り抜けて来たワシに勝てると思っておったのか!?思い上がりも甚だしいわ!!」
「ぐ、ぐぬぬ・・・」
今日が初めての演習だとは言え、このようなモブ顔の教官に遅れを取ってしまうとは・・・まさかこの戦闘はチュートリアルではなく、負け確イベントであったのか!?
「貴様は何故負けたのかきっちりと反省文を書いて提出しろ!!そして今後は大人しく我々の指示に従う事だ。他の者は今日の演習を見た感想を提出するように!!以上だ!!解散!!」
な、なぜ負けたのかだと!?今回は駆逐艦だけの簡単な編成同士の戦いであるし、以前教官共が演習した時のように細かく的確な指示を出したはずなのだ!?戦いもお互いに堂々と正面からぶつかって、敗因は時の運としか言いようが無いのではなかろうか・・・これが経験の差とでも言う事なのか?
翌日になっても原因が分からなかったので、反省文に『時の運を得られなかった。』とだけ書いて教官の元に持って行こうとしたところ、なにやら揉めている様子である。あれは・・・葛原とかいう目に闇を宿した奴ではないか!?
「貴様ぁ!!これはなんだ!?」
「昨日の演習を見た感想ですが?」
「感想ですが?ではない!!この内容はなんなのだと聞いているのだ!?」
「はぁ?感じたままに書いただけですが?」
「『下らない茶番を見せられて退屈でした。』だと!?貴様なめるのも大概にしておけ!!」
「・・・では他に何を書けと言うのですか?あんな見るべきところもない演習で・・・」
「分かった、貴様のその腐った根性を叩き直してやる!!予定変更だ!!今すぐ演習で叩きのめしてやる!!」
「・・・ほう?それは面白そうですね。」
ほほう、今度はあの葛原とやらが教官に挑むのか?これはなかなか面白くなって来たぞ?
その後士官候補生が全員演習場に呼び出され、昨日と同じく駆逐艦同士での戦いをする事になったのだが・・・こ、これは!?
教官組
陽炎 不知火 黒潮 浦風 磯風 浜風
葛原組
睦月 如月 弥生 皐月 文月 三日月
「昨日の織田の時と同様に駆逐艦同士での戦いである。条件は昨日と同じなのだから、精々退屈しない程度の戦いは見せて貰わんとなぁ?」
これで昨日と同じな訳がなかろう!?昨日は吹雪型と綾波型であったから差は無いと言えたのだが、性能の高い陽炎型と燃費は良いが戦力で劣る睦月型の戦いなのだぞ!?条件が互角な訳がなかろうが!?
「ええ、本気で潰すつもりでやりますので、覚悟して下さい。」
「・・・その言葉、必ず後悔させてやる!!」
ど、どういうつもりなのだ!?まさかあやつはこの戦力差に気が付いておらぬのか!?これは我が忠告してやらねばならぬのか!?あやつは我の敵討ちをしてくれようとしておるのだ。我が力を貸さずになんとする!!
葛原と教官がそれぞれ別の指令室へと入り、士官候補生達は客席のモニターで観戦するか、教官の指令室に入って観戦するようだ。葛原の指令室には誰も向かわないのを良いことに、我はすぐさま葛原の指令室へと駆け込んだ。
「・・・何をしに来た?」
「我はここで観戦したい。構わぬか?」
「物好きな奴だな・・・まあ、客席かどちらかの指令室で観戦するのがルールだ。邪魔しないのであれば構わない。」
葛原はそれだけ言うと興味が無さそうに通信機へと手をかけようとする。
「うむ。それで一つお主に忠告があるのだ。」
「・・・陽炎型と睦月型の戦力差の話か?」
「なんだ!?知っておったのか!?」
「それくらいは当然の知識だ。」
「ではなぜ文句を言わぬ!?」
「実戦では手元にある戦力で勝つ必要があるからだ。戦力で劣っているから勝てませんでは話にならないからな。それに・・・」
「それに?」
葛原の奴は軽く笑みを浮かべたが暖かさは一切感じず、なにやら深い暗闇を覗き込んでしまったかのような凄みを感じる・・・
「あの教官を潰すには充分な条件だ。」
霞ママ成分の補充も終わって、過去編へと突入です。
放置されてしまった北条様・・・