ニヤリと暗い笑みを浮かべた葛原は、我が気圧されている間に再び通信機を手に取る。
「各員聞こえているか?返事をしろ。」
「睦月、大丈夫です。」
「如月、聞こえてるわ。」
「弥生、問題ありません。」
「皐月だよ。ちゃんと聞こえてるよ。」
「ふ、文月です。聞こえてますよ。」
「三日月です。司令官、ご命令を。」
「宜しい。ではまず最初に言っておこう。今回の相手は陽炎型姉妹だ。スペックの差は全員理解しているだろう?」
葛原の問い掛けに応える者はいなかった。確かに性能差があるのは紛れもない事実であるが、それを睦月型姉妹に改めて突き付けなくても良いであろうに・・・
「だが喜べ、今回は勝てる戦いだ。」
「にゃ!?ど、どういうことですか!?」
「いくら艦隊が優秀でもそれを指揮する者が無能であれば、その艦隊は機能しない。ただそれだけだ。」
「え、えっと・・・相手は教官ですよね?」
「ああ、そうだ。だが一度奴の指揮を見たが、あんなものはただの妨害でしかない。」
「司令官・・・ずいぶんと自信があるみたいですね。」
「ああ、もちろんだ。お前達が指示通りに動いてくれれば勝てると確信している。」
「へぇ~僕達を勝たせてくれるのかい?うん、いいんじゃない?」
「どうやら勝つ心構えになってきたようだな。」
「うんうん、良い感じ~」
「うむ、これならば心配無用のようだな。」
「ええ、負けたくはありません!!演習とは言え戦いですから!!」
ほほう、艦隊の士気を上手く上げるものだな。だがそれだけで教官に勝てるものではないぞ?我はもっと凄い演説をしたのに敗北してしまったからなぁ・・・
「では作戦を伝えよう。とは言ってもやることはほとんど基本的な事だけだ。まず旗艦は長女の睦月に務めて貰う。戦闘開始後は速力は7割程度で軽く蛇行しながら航行し、敵に狙いを定めずらくしながら近付け。そしておそらく敵艦隊は全速力で直進してくるはずだ。射程圏内に入る前に狙いを絞って、射程圏内に入ったら睦月の判断で砲撃戦を開始しろ。」
「にゃ!?睦月の判断で良いんですか!?」
「ああ、初撃以降も睦月の判断でどんどん撃って構わない。その後魚雷の射程ギリギリまで近付いたら魚雷を発射して、即座に反転して牽制の砲撃をしつつ後退しろ。」
「そ、そんなギリギリの距離からだと避けられちゃいませんか!?」
「当たるから気にするな。魚雷が敵艦隊に命中したら、再度反転して敵を殲滅する。この時に敵の魚雷を避ける為に少し側面に回り込みながら砲撃するように。」
「そ、それで勝てるんですね?」
「ああ、だから自信を持って勝ってこい。」
「了解にゃしぃ!!よぉーし、睦月の艦隊、いざ参りますよー!!」
そう言って通信を終えて睦月達は初期配置へと向かって行った。その姿は司令官室のモニターから眺める事が出来て、カメラは睦月型姉妹を追い掛けて撮影してくれる。やはり睦月型は天使の集団であるな。荒んだ心が癒されてゆく・・・教官が指揮する陽炎型姉妹の様子は、こちらの指令室には映らないのが少し残念であるな。あちらもまた個性豊かで実に魅力的な艦隊なのだがなぁ。
「時に葛原とやらよ。なかなか斬新な指示を出しておったが、貴様はここ最近の授業で習った事を忘れておるのか?」
「はぁ・・・観戦は許可したが、口出しをして邪魔をするようならば、退室して貰うぞ?」
「ぬぅ・・・すまぬ・・・」
思いっきり睨まれてしまった・・・いや、別にバカにしているつもりはないのだが・・・
「分かったならそこで黙って見ていろ。」
「う、うむ。」
「・・・いや、それでは何も学べないか・・・そうなると教官の指令室に行った連中と同じになってしまうな・・・せっかくこちらの指令室に来たのであれば、向こうとは差別化を図るべきか?分かった、解説はきちんとしよう。ただし通信をする時は絶対に喋るなよ。」
「うむ、承知した。」
とりあえず我の疑問に答えてくれるとの事なので質問をしようかと思ったが、先に教官からの通信が入ってしまった。
「いつまでわしを待たせるつもりだ!?わしの艦隊はもう初期配置についているぞ!!」
「それが何か?演習前の準備時間終了までまだ余裕がありますが?」
「上官を待たせるなと言っておるのだ!!貴様には常識と言うものが無いのか!?」
「・・・まさかとは思いますが、教官は演習前の準備時間の意義をご存知無いのですか?作戦の立案と艦娘達に伝える為の時間ですよ?」
「わしを侮辱するつもりか!?そんな常識は知っておる。だが状況を考えてものを言え!!今回は駆逐艦しか居ない戦闘なのだぞ!?何を考える必要があると言うのだ!?作戦の入り込む余地など無い!!屁理屈ばかり言っていないでさっさっと準備をしろ!!」
「とりあえずこちらの指示は伝えて、既に初期配置へと向かわせていますが・・・今の発言はしっかり覚えておいて下さいね?この演習に勝利して必ず後悔させますので。」
「後悔するのは貴様のほうだ!!精々無様に負けて土下座で許しを乞う準備をしておけ!!」
乱暴に通信が切られたが、葛原は暗い笑みを浮かべておる。こやつわざと教官を煽っておったのではないか?
「な、なぁ葛原よ。今の通信も作戦の内であるのか?」
「ほう、意外と目敏いな。怒りは冷静さと思考力を奪う。特にああいう単純で無駄に自信とプライドを持っている相手には有効だな。指揮官が冷静さを失えば、当然艦隊にも影響が出る。やっておいて損は無い。」
「お、おう・・・なかなか悪辣な手を使うようだな・・・」
「戦場では誉め言葉だ。というかあの程度の煽りで理性を保てない方が悪い。」
うわぁ・・・心理戦を仕掛けるとは・・・恐ろしい奴である・・・うむ、我はこやつだけは敵に回したくない。
「むっ?我々の艦隊が初期配置についてしまったか・・・作戦の解説は演習後になってしまうようだな・・・」
本音を言えば解説とやらはとても気になるのだが、流石に指揮の邪魔をするのは良くない。
「何を言っている?私は演習を眺めながら解説をするつもりだぞ?」
「そ、そんな余裕があるのか?」
「そんな余裕があるから言っている。そろそろ始まるぞ?」
演習中に解説をする余裕があると・・・いくらなんでも教官を舐めすぎではあるまいか?だがとりあえずはお手並み拝見するとしよう。
煽りの呼吸!!壱の型!!それが何か?