北条様と別れた後で挨拶をしておきたい者を探して、霞ママと共に士官学校を歩き回る。寮や食堂付近にも居らぬし、広場や木陰にも居らぬ。となるともしかして屋根裏部屋であろうか?
「むぅ・・・ここにもおらぬか・・・」
「ねぇさっきから気になってたんだけど、もしかして妖精さんを探してるの?」
「いかにも。特別仲の良かった者がおるので、旅立つ前に一声かけておきたいのだ。しかしあやつは気紛れなのでな、お気に入りの場所をあちこち探しておるのだ。」
「そう、まあ、良いんじゃない。」
霞ママは素っ気ない態度を取ってはいるが、これはちょっと嬉しそうな雰囲気であるな。艦娘にとって妖精さんは非常に重要な存在である。もちろん提督にとっても重要な存在であり、提督になる条件も妖精さんが見える事という事実がなによりの証拠である。だが一般人には見えない存在であり、提督の中にも艦娘を重視して妖精さんを軽んじる者も居る。無論我は全ての艦娘を愛する者であるが、妖精さんを蔑ろにする事はない。彼等もまた我の良きパートナーなのだからな。
「それで?あんたが妖精さんと仲が良いのは知ってるけど、特別に仲が良い娘が居たのね?どんな娘なの?」
「ふっふっふっ。聞いて驚くが良い!!なんと我にはその妖精さんの声が聞こえるのだ!!」
「はぁ!?本気で言ってるの!?」
「うむ、事実である。」
「それが本当なら凄い事じゃない!?妖精さんの声が聞こえる提督なんて滅多にいない才能の持ち主なのよ!?」
「ふっふっふっ。霞殿もようやく我の才能に気がついたようだ。なんせ我はかの第六天魔王織田信長の子孫である!!特別な才能を持って生まれるのはむしろ必然と言うものである!!」
「う・・・そうなのかしら?あたしがいないとなんにも出来ないようなクズにそんな才能が?でも嘘つくやつじゃないと思うし・・・」
ふむ、突然の事で霞ママも混乱しておるようだな?良かろう。ならば早急に妖精さんを探して証拠を見せてやろう!!
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屋根裏部屋でようやくお目当ての妖精さんを見つける事が出来た。屋根裏とは言いつつもここは士官学校の壁に設置してある大きな時計の裏側であり、時計の整備の為の部屋なのでもちろん人が入れる作りだ。しかも外に出て作業をする為に大きな窓もついておるので存外日当たりも良く、人気も少ないので休憩するには良い場所である。
「おぅ、ここに居られたか。探したぞ。」
昼寝をしていた妖精さんに声をかけるとゆっくり伸びをしてから、こちらに振り向く。
「にゃー」
「・・・え?」
ふむ、霞ママが見慣れぬ妖精さんの姿に驚いておるようだ。ならば紹介しておくべきかな?
「紹介しよう。この者こそ我の親しき妖精さんであり、人前には滅多に姿を現さぬ幻の妖精さんなのだ!!その名も『猫吊るし』殿だ!!」
「にゃー!!」
猫吊るし殿はその名の通り猫を持っている妖精さんである。小さな妖精さんがさらに小さな猫を持っている姿はとても可愛らしく、猫の前足を持って吊るしておる事から、我が猫吊るしと名付けた妖精さんである。ちなみに先程からにゃーと鳴いておるのは吊るされておる猫であり、妖精さん本人は全く喋らぬ。
「ちょっと待って・・・えっ!?あたしこんな妖精さん初めて見たんだけど!?でも確かに妖精さんよね!?じゃあ何を司る妖精さんなの?」
「何を司るとは?」
「はぁ!?妖精さんの役割に決まってるでしょこのクズ!!士官学校で何を勉強したのよ!?」
「す、すみません・・・」
我、座学はあまり好きではないので、教官の話などほとんど覚えておらんのでな・・・
「よく聞きなさい!!妖精さんにはそれぞれ役割があるものよ。私達の艤装を制御するとか、工廠で働くとか、鎮守府の建築や改装をするとか、妖精さんには何かしらの役割があるものなの。だからこの娘はどんな事をする妖精さんなのかって聞いてるの!!」
猫吊るし殿が普段何をしておるかか?難しい質問であるな・・・
「うーむ?昼寝?」
「はぁ・・・つまり何も知らないのね・・・」
「少なくとも我は猫吊るし殿が働いておる姿を見た事はないぞ?」
「にゃ・・・」
猫吊るし殿が若干落ち込んで居られる・・・すまぬ猫吊るし殿・・・でも我はお主が昼寝しておるところしか見た事が無いのだ・・・
「しいて言えば我の話を楽しそうに聞いてくれるぞ?だから我も暇な時は猫吊るし殿に話を聞いて貰っておったものだ。」
「ふーん?この娘の言葉がわかるのね?私にはにゃーって鳴いてるだけにしか聞こえないけど。」
おお!?霞ママが猫の鳴き真似をしてくれるとは!?こんなレアで可愛い姿を見られるとは、今日はなんと良い日であるか!!
「ごほん・・・すまぬ、良く聞き取れなかったのでもう一度言って貰えるか?」
「だからあんたにはこの娘が言ってる事がわかるのよねって確認したのよ!!ちゃんと聞きなさいよね!!このクズ!!」
むぅ・・・本当はもう一度猫の鳴き真似はをして欲しかったのだが・・・まあ、罵倒されるのも悪くはないから良しとしよう。
「猫吊るし殿はにゃーとしか鳴かぬぞ?」
「はぁ!?あんた妖精さんの声が聞こえるって言ってたでしょ!?どういう事よ!?」
「だから我には猫吊るし殿の鳴き声が聞こえるのだ。こんな妖精さんは他に見た事がないので、凄い発見ではないか?」
「確かに凄い事だけど・・・話が出来るわけじゃないのね?」
「猫吊るし殿は我の話を理解してくれておると思う。我は猫吊るし殿の鳴き方でなんとなく喜怒哀楽が分かる程度である。」
「にゃー♪」
この鳴き方は機嫌が良い時なので、猫吊るし殿も肯定してくれておるようだな。
「はぁ・・・もういいわ・・・さっさと挨拶済ませてしまいなさい。」
「うむ、では猫吊るし殿よ、我は明日鎮守府へと着任し、覇道への新たな一歩を踏み出す事となったのだ!!そして今日は我が盟友の元へと赴き、固い契りを結ぶ事と相成った!!故に我はこの士官学校から旅立つので、我が友である猫吊るし殿と言葉を交わしに来たのだ!!」
「にゃー!!」
「そうか!!祝福してくれるか!!ではここに誓おう!!我は数多の艦娘達と絆を紡ぎ艱難辛苦を共に乗り越え、数多の海を征する伝説の英雄として歴史に我が名を刻む!!我の覇道に大いなる祝福を与えたまえ!!」
ふっ、決まった。我のカッコいい姿に霞ママも惚れなおしたのではないか?チラチラと霞ママの様子を伺ってみるが、あまり変化はなさそうである・・・おかしいな?あ、霞ママの紹介をしておらんかったな。
「そしてここに居るのは我が覇道を切り開く我の右腕!!霞殿だ!!我が覇道は独りで歩むものに非ず!!多くの艦娘や妖精さんや我が同胞の提督と共に歩むものである!!しかし!!我の隣で我を支えてくれるのはこの霞殿だ!!我等の絆こそ我が宝剣!!闇を切り裂き世界に光をもたらす希望である!!」
「は!?はぁああ!?ちょ!?なに恥ずかしい事言ってんのよ!?このクズ!!」
ふっ、今度こそ霞ママの心に響いたようであるな。照れる霞ママもとても可愛い。ん?猫吊るし殿が背伸びをしてより高く猫を吊るしておられるぞ?
「にゃあああああ!!!!」
「ぬお!?」
猫を高く吊るしたかと思えば、突然大声で鳴くと同時に辺りが謎の光に包まれる。謎の光はすぐにおさまって、そこには得意気な表情の猫吊るし殿の姿があった。よく分からんが猫吊るし殿なりの祝福であろう。
「ふむ、祝福を受け取ったぞ我が友よ!!ではさらばだ!!我等の活躍を見ていてくれ!!」
「にゃー♪」
別れを告げ颯爽と立ち去る我等の背を猫吊るし殿の嬉しそうな声で送り出してくれる。これでもう恐れるものはなにもない!!
謎の妖精さん猫吊るしの正体とはいったい?
謎の伏線だけ残して、たぶんきちんと回収はされないかも?