モルモットとふしぎな目覚まし時計   作:✿▽✿

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トレセン学園の購買は2種類ある。一つはウマ娘が使用する目的で、パンや果物などの食品が売られていたり、学生服の補修できるボタンや糸、教科書やノートなどの文房具なども売ってある。もう一つはトレーナーなどの職員用の購買である。飲料や食事などを始めトレーニングなどで使用する器具などもここで注文をするのだ。

 

そしてここには各社の新聞も売ってある。今日の見出しは昨日行われたダービーであり、ウィニングチケットの名前がデカデカと印字されていた。

 

(……ウマ娘のレースってのはぶつかる機会が少ない。そもそも4戦以下で引退する子もいる上に、シンボリルドルフだってURAファイナルズを除けば16戦しか走っていない筈だ。)

 

疲れない身体でどれだけレースに出れたってトゥインクルシリーズの3年で走れる回数は70にも満たないだろう。たかだか十何戦程度の世界で、一度の勝利とは非常に価値が高いものとなっている。

 

(ダービーだけにすりゃいいものの……なんでタキオンの話題を出すのかねえ……)

 

確かにタキオンはあの3人と走っても勝てると思う。しかしそれはあの3人のトレーナーもそうであり、自分のウマ娘を走る前から負けるなどと思わない。先ほども言った通り一つのレースの価値が高いのだ。だからこそダービーで接戦だったウィニングチケットに2バ身差を開けて逃げ切ったタキオンが強いのではないか。という推測もされるのもわかる。だがダービーというウマ娘の夢と言っても過言ではないレースを取り上げるのであれば諸手を挙げて讃えるだけでは駄目なのだろうか。

 

そんなことを考えつつ俺はトレーナー室へと急ぐのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

あと1ヶ月経てば夏合宿が始まる。そこでは約2か月間通常の環境とは異なる場所でトレーニングを積むことで大幅な基礎能力の上昇が望めるのだ。実際に合宿後に記録を計るとかなり伸びており、合宿というものが成長を促すものと理解すると共にライバル達も強力になってくるというのを菊花賞で実感したこともあった。

 

ああそうだ、菊花賞だ。

 

タキオンの求めるものなんかじゃあない、可能性の先になんかたどり着けない道筋(ルート)を選んでしまうのだ。己のエゴで強制させるということは良い事なのかと考えてしまう。

 

実際に俺はタキオンを変えてしまっている。得意な脚質は先行であった筈だが京都新聞杯では逃げ切った。それも逃げウマだと言われれば納得できるほどの練度であった。

 

「タキオン……今後についてなんだが……」

 

「夏合宿の予定かい?スカーレット君が来られないからいつものようにはいかないが……」

 

「いや、それについては問題ない。ただ……」

 

「───出走するレースについて、かな。」

 

「……!」

 

俺が言い淀んでいるとタキオンが心を読んだようにピシャリと言い当てられてしまう。動揺する様子を見せない為に何とか言葉を繋ぐ。

 

「……ああ。クラッシック───つまるところ残されたレースである菊花賞を目指している。だが……凄く、言い……難いんだが……」

 

───菊花賞を諦めないか。

 

 

 

何とか───何とか言葉を伝えることが出来た。俺の提案は棄却されるものだと考えていた。だが最善の未来を選択するにはこれしかなかったのだ。

 

(できる限り安全マージンを取り怪我を防ぐのが俺の()()だ。)

 

俺の想定ではタキオンの脚が問題なく耐え走れる距離は……1年後のURAファイナルズ開催程度の時期では凡そ2700m程度であると考えている。最もそれは一人で走るのであれば最長のGⅠレースである3200mは走り切れる筈だがかなり大事を取っての2700までと考えている。

 

(BNW……それに長距離ではマンハッタンカフェも警戒の対象だ。)

 

タキオンのライバル的存在……なのかはわからないが、クラッシックシニアと同じ時期を走り抜いたウマ娘だ。ちなみにタキオンはどちらかと言えば中距離で先行が得意であり彼女は長距離で差しを得意としている。更にお互いに紅茶と珈琲の好き嫌いも反対なのだ。何か運命めいたものを感じなくもないが、間違いなく長距離は彼女が大きな敵として立ちはだかるだろう。

 

「ふぅン……菊花賞を……ね。」

 

含みを持った言葉であった。……理解はできないだろう。自身の怪我の予防の為に夢を諦めろというのだから……

 

「菊花賞の代わりに『天皇賞』を出ようと思う。その為にステップレースである『オールカマー』を勝たねばならないが……これはあくまで提案だ。タキオンの判断でどちらに進むか決めてくれ。」

 

俺の些細な、それでいて不確定やもしれない目的よりもタキオンの"夢"を優先するべきだと思う。……だが───俺はもう一度タキオンを……

 

 

 

「……ああ。良いだろう、天皇賞。」

 

顔を上げた。タキオンの目を見た。お前は可能性を追求するという夢があるのではなかったのか?お前は───

 

タキオンの目は酷く澄んでいた。

 

後悔なぞ存在しない。自身の選択が最善だと信じてやまない───あの頃の俺に似た、愚かで、妄信的な目をしている。

 

()()()()()()()()()()。同じ目をしていた筈の俺は彼女のことが分からないのだ。

 

 

 

「天皇賞を出るにはオールカマーに出なければいけないんだって?」

 

「───……あ、ああ。オールカマーは9月にあるレースだ。そして天皇賞はその一か月後に開催される。」

 

「9月か。オールカマーに向けての夏合宿のメニューはもうできているんだろう?」

 

「……ああ、一応。」

 

「うん、なら良い。夏合宿までの日程は?」

 

「軽めにして夏合宿の練習に耐えうるように疲労を抜いてくようにするつもりだけど……」

 

「ん……分かったよ。今日は休みだろう?私はこれで失礼するよ。」

 

 

 

颯爽と去っていくタキオンを、俺はただ見送ることしかできなかった。

 

内にある疑問を抱えたまま───




トレーナーとタキオンは秋の天皇賞を目指すこととなった。シニアのウマ娘が跋扈するレースに出る為に、まずはオールカマーを勝つことを前提とした。

次回は夏合宿編へ

この物語を進めていく上でトレーナーの名前を出した方が自然なシーンが出来たのですが皆さん的にはどう思いますか?

  • 出してもいいよ
  • 出したらダメ
  • 自分で決めてくれ┐(´д`)┌ヤレヤレ
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