モルモットとふしぎな目覚まし時計   作:✿▽✿

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メイクデビュー

 

最も行われたレースであろうこのレースは、数々のウマ娘の第二の登竜門、もしくは関門だ。ここで勝たねばOPやPre-OPのレースにすら出走を許されない。大成することができないのだ。実際に一度も勝てず地方のトレセン学園に転属するウマ娘もいれば、心折れて引退するウマ娘もいる。

 

そんな閻魔大王かのような(この場合勝っても天国とは言えないが)レースだが、俺の担当ウマ娘であるアグネスタキオンは今日出走する。

 

(パドックで他に有力そうなウマ娘はいなかった。そして一番人気となっている。───やはりこのレースは勝てる。)

 

全てが想定内。計算通りに進み、俺は心のなかで余裕を保っていた。

 

 

 

───ゲートにつき、スタート。

 

出遅れ無し、良好なスタートダッシュ決めてタキオンはいの一番に()()()()

 

『おっと!?3番アグネスタキオン!良いスタートダッシュだ!既に後ろとの差は1/4バ身だぞ!?』

 

「マジか───!」

 

決して本気のスタートダッシュではない。ゲート練習の時で全体の4割程度の回数で決めれたレベルのスタートダッシュだが、他のウマ娘は誰も追いつけておらず、それどころか2位と半バ身程度の距離を空けている。

 

(これは……!)

 

『リードを保つアグネスタキオン。2位との差は変わらず半バ身です。』

 

『これは掛かっているのでしょうか?彼女は先行策が得意のはずですが……』

 

(いやアイツ(タキオン)は掛かってなんかいない。)

 

たかが2ヶ月。されど2ヶ月。ここまででトレーニングによって鍛えられたスタミナとスピードは最早メイクデビューで戦うには狭すぎるほどだったのかもしれない。あれほどの走りができるのならばOP(オープン)を超えてG3レベルの重賞ならば勝てるのではと思える走りを見せている。

 

(だが……タキオンとて逃げが向いていないことは一番分かっているはず……)

 

どうして得意の作戦を捨てて勝負をしているのか。まさか……タキオンは、あいつは自分の身体にある異常を分かっていたようだった。まさかとは思うが、一気にトレーニングの強度を強くしすぎたことで既に限界を迎え始めているというのか……?だが昨日の簡易的な検査では何も問題はなかった。

 

(とりあえずこのレースが終われば体の調子とタキオン自覚していることを聞き出そう。あとしっかりとケアを行って……大事をとって明日は体を使う練習はやめにして座学のみを行うことにしよう。)

 

URAを勝ってほしい。あの大きな舞台でタキオンを勝たせてあげたい。その目標を叶えなければいけない。チャンスはあと4回しかないのだから。

 

『アグネスタキオン逃げる逃げる!最終コーナーを曲がってもまだ誰も追いつけないぞ!』

 

『この展開は予想外でしたね。超光速と言われた末脚は見れませんでしたがこのままのペースだと逃げ切れるでしょう。』

 

『もう後ろとの差が何バ身かわからない!強いとしかいえないその走り───今大差でゴールイン!!!』

 

『これが伝説の幕開けかもしれません。このウマ娘の今後が非常に期待ですね。』

 

(一先ずは一勝……だが。)

 

少々無茶をしたヒーロー称える為に俺は観客席から控室へと降りるのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「アッハッハッハッハ!トレーナー君、今日の走りはとても良い走りだったんじゃあないかなあ!?」

 

「ああ。確かに良かった。」

 

「トレーニングをこなせば勝つ……新人だとは思えないふざけた激励だったが、ふふ、なるほど君の言う通りだったよ。」

 

ここまでの過程で特にどこかを悪くしているということは見られない。実験に成功したかのような顔で腕を組んでウンウンと頷くタキオンにスポーツドリンクやストレッチなどのクールダウンの重要性を説きつつ少しだけ常温に近付けたドリンクを渡した。タキオンはそれを一気に飲み干し、ウィニングライブの為に着替えるというので俺を追い出した。

 

(……注意はやはりしておく必要がある。念には念を、どれだけ慎重になっても怪我を防げるのであれば損はない。)

 

ライブまでの時刻はあと40分程度だ。これくらいならば余裕を持って席を取れるとスタンドの更に外にあるライブ会場へ向かう途中、緑色の制服を着た女性───そう、トレセン学園理事長の秘書の駿川たづなさんである。彼女は俺に気付くと「初勝利おめでとうございます」と言った。初勝利という単語を不思議に思って返答が少しだけ滞ったものの、自身がまだ新人であったことを思い出した。

 

「祝言ありがとうございます。次に向けて頑張りたいですね。当面の目標はオープン戦で勝つことですかね。」

 

とまあこのような回答でいいだろう。彼女も満足した回答であったのか、それとも順調な滑り出しを見せたからかはわからないが笑みを浮かべていた。そのまま別れて会場へと向かおうとしたが、どうやらたづなさんはウィニングライブを見る予定だったらしく折角ですし、ということでご一緒することとなった。

 

「トレーナーさんは初めてのウィニングライブですよね?」

 

「ええ。そりゃあ。……あ、それとも初めてのライブ観戦ってことですか?」

 

「いえ、トレーナーになって初めて。ということですね。」

 

(トレーナーになって初めてということならば初なのだが……いかんせん時が戻る前の記憶があるからなぁ……)

 

毎度のことながらつい言いそうになる()()()()()を飲み込んで初めてだと答えた。「そうですよね。」と返し、次に彼女はこう語った。

 

「ウマ娘にとってウィニングライブはどんな想いが籠められているのか知ってますか?」

 

「想い……ですか。」

 

自分があまり目立ちたいという欲求がないのでウィニングライブという行為についてはレースで応援してくれたファンへの感謝の念を込めて行うという、お手本のような教科書程度の知識しかない。タキオン曰く「データが取りづらいから少し面倒」だと言っていた。他もどこまでもデータを求めるような発言ばかりだったが、思い返すと不思議と踊ること自体は嫌ってはいなかったようであったように思えた。

 

「是非───トレーナーさん自身が見てその娘の想いを分かってあげてください。」

 

「……って、結局答えは言わないんですか?」

 

「はい。その方が担当ウマ娘のタキオンさんも嬉しいと思いますから。」

 

(……自分で見つける……か。)

 

そういえばタキオンがダンスレッスンをしていたのは有馬記念の時が最後だっけ……ああ。そうだ。今思えばおかしかったのだ。ダンスレッスンは自分でやるからなんて言われたから任せっきりだったけど、URAのウィニングライブは練習している姿を俺は見ていない。……決して、タキオンは誰にも言わずに隠していたわけでは無かった。ただ、俺が"起こり"を見逃してしまっただけなのだ。あの時……俺が有馬記念───引いてはURAファイナルズの出走を止めて怪我の発生を防ぐことに専念していれば……

 

また胸に襲い掛かるあの感覚が、自分を許せぬあの感覚が襲い掛かろうとする気配を見せたが、それはライブ会場内の明かりが消えることでふっと消えてしまった。

 

(過去は……振り返らないようにしよう)

 

そうだ。大切なのはタキオンを無事にURAを勝たせることだ。

 

俺はそう決心して、ポケットからプラスチックの棒───サイリウムを取り出した。

 

そして檀上にタキオンや他のウマ娘たちが現れ、楽曲が流される。それに合わせて熱烈なファンの間で流行っているダンス、所謂ヲタ芸を披露するのであった。

 

 

 

ライブ後、たづなさんには驚かれ、タキオンはあまり自分の名前をコールしないでほしいと言われてしまった。




作者の解釈

主人公級ウマ娘(育成キャラ)
とても強い。その中でもやっぱり最強と呼び声高いのは会長。勿論スペちゃんやテイオーさまなど他の娘達もクソつよですよ。トレセン学園所属数2000人程度に対してひとつの重賞レースで最大18人までしか出れないのにそんな中で1位を取りまくるのはやっぱり選ばれた人種(ウマ種)なんやなって……

モブウマ娘
レースに出てくる彼女ら。ピンからキリまで色々ですがやはり主人公級に比べると見劣りします……とは言ってもまあ固有あるかないかとステータスが一回りくらい下という程度の違いなんで十分に勝てるチャンスはあります。

地方のウマ娘
中央よりもかなり弱いってことはURAファイナルズレベルで大体全てDかEランクくらいのステータスでしょうか。特待生でも中央には届かないなんて聞きますし……
しかしこの物語ではトレーナーの脳内くらいでしか出てこないと思います。多分

目覚まし時計を使ったあとのアフタートーク的なのいる?(BADENDと原作キャラ曇らせ)

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  • 自分で考えろハゲ

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