元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編) 作:神羅の霊廟
それでは始まり始まり~
プロローグ 異形との出会い
この世には、様々な物語がある。
バトル、恋愛、ホラー、冒険、謎解き、日常、その他etc.……。
そして物語にこれだけの種類があるように、世界もまた多くの種類がある。
では、この世界の物語はどうかーー?
「旗艦、大破です!」
「くっ、そんな……!皆、輪形陣で旗艦を守りながら後退しなさい!」
ここは日本の太平洋側の領海内。その海上では、何やら戦いが起こっていた。戦っていたのは、片や漆黒が目を引く艤装に身を包んだ人形や鯨のような何かが海上を埋め尽くす程に沢山、片や鈍色の艤装に身を包んだ女の子達が数人。それらが艤装の砲から弾を撃ち合い、飛行機を飛ばして戦い合っている。が、戦況は誰が見ても分かるように、数で優位な前者が押している状態だった。後者は旗艦である女の子をやられ、指示もなかなか行き届かない有り様である。
「提督、聞こえますか!?旗艦大破しました!直ちに撤退の許可を!」
旗艦であろう女の子が、インカムのような物で何処かと通信を行う。が、
『駄目だ、撤退は許可できない。そのまま交戦し、敵をその場に足止めするのだ』
「そんな……!今私達の中で戦えるのはほとんどいません!このままでは全滅します!」
『そんなの知った事ではない。お前達の役目は、ここで命を賭けてでも深海棲艦共を駆逐する事だ。泣き言は許さんぞ』
「提督!」
『くどい!動けんならば、そのまま奴等に特攻でも仕掛ければ良いだろう!貴様らの代わりはいくらでも用意出来るわ!』
そこまで言って通信は一方的に切られてしまった。
「……っ、あの疫病神が!」
通信をしていた女の子は、信じられない命令に通信器を乱暴に切る。その表情は憎悪に満ちていた。
「五十鈴さん、司令官は……?」
その様子に、側に控えていた銀髪の少女が問い掛ける。
「……そのまま特攻しなさい、ですって。私達は、あいつに見捨てられたみたいだわ」
「そ、そんな……!」
「……響。あんた達はこの海域を早く脱出しなさい。ここは私が抑えておくわ」
「な……無茶だよ五十鈴さん!一人でこの大軍を相手するなんて……!」
「ごめんだけど、もうまともに動けるのは私と貴女しかいないの。でも一人でも多く生き残る事が出来れば、まだ希望はあるわ。早く行きなさい!」
「……っ、ごめんなさい」
響と呼ばれた少女は五十鈴と呼ばれた女の子に謝ると、近くにいた仲間達と合流し、そのまま後退を始めた。
「響がいれば大丈夫よね。さぁ、ここからが五十鈴の戦場よ……かかって来なさい!」
五十鈴は両手に持った単装砲を構え、迫り来る敵に対し応戦を始めた。突っ込んできた鯨のような見た目の怪物を蹴飛ばし、そこへ至近距離で弾を当てる。更にその後ろから現れたもう一体の怪物にも蹴りを入れ、艤装に付けられた副砲をブチ当てる。弾を当てられた怪物は爆発炎上し、ズブズブと海中へ沈んでいく。
一方空からは髑髏にも似た見た目の飛行機が爆弾を落とそうと飛んできた。五十鈴はそれを単装砲で次々と撃ち落としていった。しかし飛行機の数は多く、五十鈴一人では焼け石に水。撃ち落としても撃ち落としても、次々と数は増えていった。
「ちっ、やっぱりろくに整備されてない艤装じゃ無理があるわね……!」
「五十鈴さん!」
とそこへ、後退していた筈の響が中破・大破した仲間と共に戻ってきた。
「響!?あんた後退した筈じゃ……!」
「……退路を完全に塞がれたよ。もう逃げる事もできない。瑞鳳さん達も私も、被弾して中破や大破だ、もう逃げられるような状態じゃないよ」
「……万事休すってやつね。けど、ただではやられないわ……!」
「手伝うよ、五十鈴さん。私も、最後まで戦う」
「ええ、行くわよ!」
二人はそれぞれの砲を構え飛行機に対して砲撃を行おうとした。その時、空を飛んでいた敵の飛行機が次々と黒煙を上げて墜落し始めた。
「っ!?何!?敵の艦載機が、次々と……!」
「援軍?いや、援軍が来るにしては早すぎる……五十鈴さんの電探にも反応なし……なら一体……?」
二人が困惑していると、にわかに敵の様子がおかしくなり始めた。しきりに後方を気にし始め、やがて敵軍はそのほとんどが後方に向け進行方向を変え始めた。彼女達への包囲も段々と解け始めている。
「後方で何かあったのかな……?五十鈴さん、どうしますか?」
「……ひとまず様子を見るわ。私達の包囲を解くという事は、私達の撃破よりも重要な何かが起こったという事かもしれない」
五十鈴はそう言って接近してきた鯨形の怪物を単装砲で撃ち抜いた。
「響。あんたは皆を連れてすぐに撤退できるようにしておきなさい。もしもの時は五十鈴が殿を務めるわ」
「……了解」
残党と交戦しつつ、五十鈴は敵が向かった方向を気にするのであった。
そして残党と交戦し続ける事数十分。苦戦したものの、なんとかその場にいた敵を五十鈴と響の二人で全て倒す事が出来た。
「これで全部かしら……ソナーに反応はなし。海上も至って静かね」
「五十鈴さん、簡単にだけど皆の治療終わったよ」
「ありがと。敵が戻ってくる事もあり得るし、私達は急いで鎮守府に戻るわよ」
「了解」
「おーい、そこの二人!ちょっと待ってくれないか!」
突然響く声に、二人は砲を声のした方向へ向け警戒した。見るとそこには、
「ふぅ……久々に深海棲艦の相手をしたな。ところでお前達、何処の鎮守府の艦娘だ?」
美しい白髪をポニーテールにまとめ、剣と銃が合体したような武器を持った一人の女性が立っていた。彼女の目は蒼と薄緑のオッドアイになっており、服は何処かの学校の制服のようであった。
「あんた何者?人間?」
「だとしたら私達のように海上に立てるのはおかしいよ……もしかして新種の深海棲艦かい?」
「奴等と私を一緒にするな、侵害だ。少なくとも、私はお前達の敵ではない。むしろ奴等から私に攻撃してきたのだ、私はそれに応戦しただけだ」
「応戦って……あの数を一人でかい!?」
「それで無傷って……あんた本当に何者!?」
「私か?そうだな……元人間、と言うべきか」
白髪の女性は、余裕綽々な笑みでそう答えた。
そしてこちらは大西洋の中央あたり。
「Hey、ピッド!制空は!?」
「No!不味いわ、制空権損失ギリギリよ!」
巨大な砲が目を引く艤装をつけた女性と、何やら甲板のような物と銃のような物を身につけた女性が共に戦っていた。彼女達の後方には戦闘で重症を負ったのか、小型の艤装をつけた三人の少女と、三人を守るように立つ甲板のような物を身につけた一人の女の子の姿があった。
「くっ、長かったOperationが終わってようやくHOMEに帰れると思ったのに……!なんでここにこいつがいるのよ!?」
「アイオワ、そんな事考えてる暇ないワ!援軍を呼ぶalarmは鳴らしたけど、これじゃいつ来るか……」
「そうね、イントレピッド。Me達でなんとかするしかないワ!」
悪態をつくアイオワという女性とそれを嗜めるイントレピッドという女性。二人は目の前にいるたった一体の怪物の前に翻弄されていた。
「キャキャハハハ!オ前達、ナカナカ楽シメルナァ!モットアタシヲ楽シマセテクレヨォ!!」
その怪物はフードを被った小柄な少女のような見た目であったが、特筆すべきなのはその少女の後ろから伸びた尻尾のような艤装だろう。その尻尾の艤装から少女は弾を放ち、魚雷を撃ち、飛行機を飛ばすのだ。一人三役とも言えそうな器用さに、二人は追い詰められ始めていた。
「キャキャハハハ、モットモットアタシト遊ボウzーーブゲッ!?」
「!?」
「What!?」
と、突如怪物少女の顔が弾け、吹き飛んだ。怪物少女はなんとか体勢を立て直し海上に着地する。そして元々自分がいた方向を見ると、
「……随分楽しそうじゃないか。次は俺が相手だ」
そこには漆黒の袴に紫の軽装の鎧を身につけた青年が立っていた。青年は背中に背負った薙刀を抜き、怪物少女にその刃を向ける。
「オ前、誰ダ?……マァ何デモ良イヤ、楽シメレバネ!!」
怪物少女はその青年に飛びかかるが、
「……フッ!!」
「ボゲラッ!?」
青年はその顔面を鷲掴みにすると、そのまま海面に叩きつけた。そしてそのまま頭を踏みつける。そして少女を引っ張り起こすと、
「そおいっ!!」
「ビャアアアアアア!?」
自身の後方へ放り投げた。怪物少女は変な声を上げながら彼方へ飛んでいってしまった。それを確認し、青年は置いてけぼりだった二人の女性に近寄る。
「あー……Are you all right?で良いのかな……?」
「えっと……No problem。ところで貴方は誰?」
「んー……異形……あー、Variant、かな?」
たどたどしい英語で青年は答えた。
さて、この世界は、どんな物語が待っているのかーー。
とまあ導入はこんな感じです。
質問、意見は常時受け付けてますのでジャンジャン送って下さい。
それではまた!