元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第十話、箒sideになります。




Let's 大本営

 朝5時。鎮守府の正門に、幾ばくかの荷物を背負った箒と神通の姿があった。二人は時計を気にしつつ、共に大本営に向かうあの艦娘が来るのを待っていた。

 

 「遅いな……大方緊張で寝られなくて寝坊してしまった、と言ったところか?」

 「恐らくそうでしょうね。あの子は朝に随分弱いようですし……ですが提督、そろそろ出発しなければ会議に間に合わなくなります」

 

 それは充分に理解しているので、箒は軽く頷いて合流を待つ。すると、

 

 「おーい提督ー!連れて来たぞー!」

 「ほら、急いで急いで!」

 

 正面玄関から隼鷹と松風が飛び出してきた。松風は荷物を、隼鷹は艦娘を背負っている。

 

 「来たか。すまんな隼鷹、松風。こんな朝早くから動いてくれて」

 「良いって良いって。大事な会議なんだし、文句なんて言ってらんないよ」

 「ごめんよ、まだ寝惚けてて準備が遅くなっちゃったんだ……ほらふみちゃん、しっかりしないと」

 

 隼鷹に背負われていたのは、文月だった。出発が朝早くという事で松風に起こして欲しいと頼んでいたのだが、きちんと起きられなかったようだ。松風が慌てて準備しているところにたまたま隼鷹が通りかかったのだろう。

 

 「むにゃあ……まだ眠いよぉ……」

 「まったく……まぁ良い。眠いならもう少し寝ておけ、私が背負って行く。神通、時間は大丈夫か?」

 「今からならまだ間に合います。提督、急ぎましょう」

 「あぁ。神通は文月の荷物を頼む。隼鷹、松風、皆によろしく伝えておいて欲しい」

 「あいよ。お土産楽しみにしてるよ、提督」

 「隼鷹さん、これは大事な会議なのですから……」

 

 呆れた表情の神通を箒が「まぁまぁ」と宥める。

 

 「では行ってくる。泊まり掛けになるから、帰りは三日後だな……それまでは龍田達にここを任せるから、そのつもりで」

 「なんであたしじゃないのさぁ?」

 「酒癖が悪いお前に頼むのはちょっとな。出来る限りで良い、五十鈴や龍田達を皆でサポートしてくれ」

 「うぐ……分かったよ、あたしも出来る限りサポートするよ」

 

 観念したのか隼鷹はそう言って文月を箒に預けた。松風も荷物を神通に手渡す。

 

 「では行ってくるぞ」

 「気を付けてー」

 

 箒と神通は荷物と文月を背負うと猛ダッシュで駆けていってしまった。三人を見送りながら、隼鷹がふとポツリと呟いた。

 

 「……あんだけの荷物と艦娘背負ってあのスピードって、うちの提督ヤバすぎるんじゃないのか?」

 「……隼鷹さん、それ今更だと思うよ」

 

 朝の正門に、松風の寂しげなツッコミが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒達がいる宿毛湾から首都に置かれた大本営に向かうには、一旦四国から本州に出る必要がある。深海棲艦が彷徨く海路など使える筈もない(艦娘が最低限しか連れて行けない為)上に、大本営まで結構な距離があるので、出来る限り移動は迅速に行わなくてはならない。

 箒達は鎮守府から離れた場所にある駐車場へと全力疾走した。滑り込むように駐車場に飛び込むと、まだ迎えの車は来ていないのか駐車場は車の一台も無かった。

 

 「良かった、迎えには間に合ったか……」

 「そうですね……ですが提督、考えてみれば鎮守府には買い出し等で使われる車が置かれている筈では?」

 「私は無免許なのだ。だから使えん」

 「え?では今までの買い出しは……」

 「全部自転車の全力立ち漕ぎだ」

 

 死んだ魚のように濁った瞳で箒は言う。相当大荷物で大変だったのだろう……と神通は考えたのか、それ以上は何も聞かなかった。すると駐車場に一台の軍用車が入ってきた。駐車場の一角に止まると、車から年季の入った軍服を着た体つきのガッシリとした壮年の男性が降りてきた。

 

 「やぁ、君が篠ノ之箒少佐で合ってるかな?」

 「はい、そうです。貴方は?」

 「や、挨拶が遅れたね。僕は龍瀬宗次郎(たつせそうじろう)、階級は准将だよ。定藤元帥の命で君達を迎えに来たんだ」

 「そうでしたか、元帥が……態々ありがとうございます」

 

 箒は文月を背負ったまま会釈する。本来なら失礼にあたるが、龍瀬は気にせず「いやいや、こちらこそ」と返した。

 

 「ご苦労様です、龍瀬准将。二ヶ月前の演習以来ですね」

 「やぁ神通、久しぶりだね。どうだい、新天地の生活は慣れたかな?」

 「はい、お陰様で。今日はよろしくお願いいたします」

 「こちらこそよろしく。さぁ、積もる話は大本営に向かいながらしよう。とにかく乗って乗って」

 

 龍瀬に急かされ、二人は荷物を車に積み込み、自分達も車に乗り込む。箒が助手席に、神通と文月は後部座席に座った。三人の乗車を確認し、車はゆっくりと目的地目指して動き出した。

 

 

 

 

 

 

 大本営に向かう道中、箒は龍瀬と今回の会議について等、様々な話をしていた。ちなみに文月はまだ眠っており、神通も到着まで仮眠を取り始めている。

 

 「そうですか、龍瀬准将は沖縄基地にお務めで……」

 「そうだよ、だから噂程度には君の話を聞いてる。宿毛湾と沖縄はよく海域奪還作戦で同じ役目を担う事になるから、情報共有がよく行われるんでね。勿論、今回の事も」

 「なるほど、では今後もお世話になるかもしれませんね」

 「だろうね。ところで篠ノ之少佐は、大本営での会議がどのような時に行われるか知ってるかな?」

 「はい、主に大規模な奪還作戦及び防衛作戦を行う際や海外への新規ルートの開拓、それに各鎮守府の提督や艦娘の人事を中心に会議が行われる、と教えられています」

 「うん、まぁそんな認識で良いよ。この会議は他にも艦娘や深海棲艦に関する新しい情報が入った時や、各国の艦娘達と連携する際にも開かれるんだ。覚えておいてね」

 

 龍瀬は車を運転しながら会議について説明した。

 

 「ちなみに今回は何をするかは?」

 「申し訳ありません、そこまでは……」

 「あー……そうだったね、まだ着任して間もなかったんだね。どうだい、鎮守府での生活や提督の仕事には慣れてきたかい?」

 

 龍瀬のこの質問に、箒は少し考えてから言った。

 

 「まだ何とも……艦娘達とはだいぶコミュニケーションが取れているので問題はありませんが、書類仕事がなかなか……」

 「あっはっは、やっぱりそうか。まぁ新任の提督は皆そうさ、沢山こなして慣れていかなきゃね。秘書艦はもう置いたのかな?」

 

 聞き慣れぬ単語に箒は首を傾げる。

 

 「秘書艦……ですか?」

 「あ、これは知らなかったか……簡単に言えば、君達提督の普段の仕事をサポートする役目を持った艦娘の事さ。大抵の鎮守府ーーまぁうちの鎮守府もそうだけど、大淀って娘が務めてるけどね。とにかく秘書艦は決めておいて損はないと思うよ」

 「そうですか……分かりました、鎮守府に戻ってから艦娘達と相談してみます」

 「そうすると良い。さて篠ノ之少佐、大本営までまだ距離があるし、しばらく仮眠でも取ってはどうかな?」

 「宜しいのですか?」

 「僕は別に気にしないさ。護衛の二人は既に夢の中のようだしね、朝早かったから当然だと思うけど」

 「……分かりました、ではお言葉に甘えて」

 

 箒はスッと目を閉じる。これから大本営で、どんな出会いがあるのか、またどんな話が持ち上がってくるのかーーそんな思考を巡らしながら、箒はゆっくりと夢の世界に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらい眠っただろうか。

 

 「篠ノ之少佐、起きて。大本営に到着したよ」

 

 龍瀬の呼び掛けによって箒は夢の世界から引き戻された。重たい瞼をゆっくり開けると、目の前には宿毛湾の建物よりも圧倒的大きさと広さの建物が聳え立っていた。車内から辺りを見回すと、目の前の建物には及ばないながら結構な大きさと広さの工廠とおぼしき建物も見えた。他にも大小様々な建物があちこちに建てられている。

 

 「ここが大本営……」

 「はい、その通り。よく眠れたようで何よりだよ」

 

 龍瀬はニコッと笑うと、車から降りて自身の荷物を下ろし始めた。箒も目を擦りながら車から降りると、既に神通と文月が荷物を下ろし終えていた。

 

 「しれーかん、おはよぉ~」

 「おはようございます。よく眠れましたか?」

 「あぁ、ぐっすりとな。荷物を下ろしてくれてありがとう、重かったろ?」

 「いえ、これくらいなら問題ありません。艦娘の力は伊達ではないので」

 

 神通は自身の荷物と箒の荷物を軽々背負って余裕の表情だ。流石艦娘、と言うところだろう。

 

 「ではここからは正面玄関の受付に向かって、そこで指示を受けてほしい。僕はこれから別の用事があるので、ここで一旦失礼するよ。また会議の時に会おう」

 

 龍瀬はそう言うと、荷物を背負って先に大本営へと入っていった。その後ろ姿に箒は「ありがとうございました」と一言。

 

 「では提督、ここからは私が案内します。ついて来て下さい」

 「分かった。文月、行くぞ」

 「は~い」

 

 三人は神通を先頭に、大本営の建物へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 受付は神通が箒の代わりにやってくれたお陰で、何も問題が起こる事なく建物に入る事ができた。そして三人は係の人の案内で併設された提督と艦娘用の宿泊施設にやって来た。案内された部屋は純和風と言った赴きで、三人が雑魚寝しても充分な広さがあった。

 

 「わ~い、お泊まりだお泊まりだ~♪」

 

 あまりに嬉しかったのか、文月は荷物もそこそこに部屋を走り回っている。

 

 「こら文月、あまり騒ぐなよ。他の部屋にも泊まる人がいるんだからな」

 「はぁ~い」

 「それでは会議までごゆっくりどうぞ」

 

 ここまで案内してくれた係の人はそう言って戻っていった。

 

 「さて、0900か。会議まで時間があるが、どうする?」

 「私は元帥の所にご挨拶に向かいます。提督と文月ちゃんはどうしますか?」

 「私は迷惑にならない程度に大本営を見て回ろうかと思うが……文月、ついて来るか?」

 「行く行く~」

 「では1030に大会議室で合流しましょう」

 

 こうして一旦神通と別れ、箒は文月を連れて大本営をあちこち見て回る事にした。

 

 

 

 

 

 

 「うわぁ~スッゴ~い♪」

 

 艦娘として生まれて初めて訪れた大本営。見た事のない艦娘、見た事のない装備、見た事のない景色……文月の目や体は右へ左へ忙しなく動く。箒が手を繋いでいるお陰で勝手に何処かへ行ってしまう事はないが、それでも危なっかしい。

 

 「あまりチョロチョロ動くものではないぞ、文月。誰かにぶつかったりしたら大変だ」

 「はぁ~い……でも見た事ないのばっかりだから、どれもこれも気になっちゃうよぉ」

 「まぁ確かにな。私も初めてここに来たが、なかなかどうして、素晴らしい所だな」

 

 箒も周囲を見回しながら文月に賛同する。食堂や娯楽施設、資料室に工廠。他にも様々で、何処も宿毛湾のそれより大規模で豪華で充実していた。

 

 「それにしても、本当に人や艦娘が多いな」

 

 人や艦娘犇めく廊下を縫うように通りながら、箒は大本営に集う人達の多さを実感している。宿泊部屋からそれなりな距離を歩いてきたが、事務員や大本営直属の艦娘以外にも、今日の会議の為にやって来た他の鎮守府の提督や艦娘の姿もあちこちで見かける。皆あちこちで挨拶を交わし、名刺を交換しあい、交流を深めていた。

 

 (私もいずれはああいう事をするのだろうか……いや、しなければならんだろうな。鎮守府運営の事も考えると)

 

 「あっ、しれいか~ん!あれ、何々!?」

 

 文月の呼び掛けに箒が目を向けると、文月が指差した先には仮設のテントがあり、そこに多くの提督と艦娘が列を作っていた。よく見るとテントの出入り口に『鎮守府対抗単独演習 受付』と看板があり、その横に艦種別のトーナメント表が張り出されていた。ほとんどが既に出場艦娘の名前で埋まっており、空きはもう少ししかない。

 

 「そうか、これだな。文月、お前が出場するのはこれだぞ」

 「ほぇ?」

 「忘れたのか、今日お前がついて来た目的を」 

 「文月、あれに出るの?」

 「そうだ。さぁ、受付を済ませておこう」

 

 箒は文月をつれて受付に向かった。受付には黒の長髪に白の鉢巻、改造されたセーラー服を着た艦娘が忙しなく受付を進めていた。二人は受付の前にできた列に並び、順番が来るのを待つ。

 

 「お次の方、どうぞ」

 

 そして遂に、自分達の番が来た。声に導かれて二人はテントの中へ入る。

 

 「初めまして、鎮守府対抗単独演習の受付をしています、『大淀』と言います。今回はどの艦種の部へ出場しますか?」

 「駆逐艦の部への出場だ。この文月が出場する」

 「はい、睦月型駆逐艦七番艦の文月ちゃんですね。失礼ですが、鎮守府はどちらですか?」

 「宿毛湾泊地だ」

 「はい、分かりました。ではこちらの用紙に必要事項を記入して私に提出して下さい。ペンはあちらのテーブルにご用意してあります。提出し終わりましたら、くじを引いていただきます」

 

 大淀は笑顔でそう言うと、テーブルに置いていた用紙を一枚取って文月に渡した。

 

 「その用紙への記入事項は、必ずしも全て記入する必要はありませんが、最低限必要な情報に関しては赤線で示していますので、そこは必ず記入をお願いします」

 「分かった。文月も理解したか?」

 「だいじょーぶ!」

 「ふふ、可愛いですね。では頑張って下さい♪」

 

 一旦場所を変え、文月は大淀から渡された用紙に必要事項を書き込んでいく。拙い文字ではあるが、文月は一生懸命にペンを動かしている。それが可愛らしくて、箒は思わずクスッとなった。

 

 「しれーかん、書けたよ~」

 「よし、じゃあ大淀さんに提出してくじを引こうか」

 

 用紙を握り締めて、文月は大淀の元へと駆けていく。そして用紙を彼女に渡すと、「ありがとうございます」と言って大淀はくじの入った箱を文月に差し出した。

 

 「この箱から一枚引いて下さいね」

 「はぁ~い」

 

 くじ箱に手を突っ込み、しばらくゴソゴソしていた文月。そして、

 

 「んぅ~……これっ!」

 

 箱からくじを一枚取り出した。それを大淀が受け取り、トーナメント表に文月の名前と鎮守府の名前を書き込む。そして大淀は更に別の箱を取り出して、そこからピンバッジを一枚文月に手渡した。

 

 「それを制服に分かるように付けておいて下さい。招集する際にそれを付けていないと出場出来なくなります、お気をつけて」

 「はぁ~い、ありがとうございま~す!」

 

 文月はバッジを制服の襟に付けると、箒を引っ張ってトットコ行ってしまった。それを見送り、大淀はため息をつく。

 

 「……大丈夫かしら。あんな可愛い娘が、こんな血生臭い大会に出るなんて……しかも相手は最悪よ……」

 

 さっき自分で書き込んだトーナメント表にチラリと目を向けながら、大淀は文月を心配していた。

 

 (横須賀鎮守府所属、白露型駆逐艦二番艦の『時雨』。数多いる我が日本海軍の駆逐艦の中でもトップクラスの駆逐艦が相手なんて……しかも試合がトップバッター。なんて運が悪い娘……)

 

 また何も知らない駆逐艦が蹂躙されサンドバッグにされるのだろう……この時の大淀はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 それが根本的に大きな間違いである事には、当然全く気づく事もなく。

 

 

 

 

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