元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第十一話、箒sideです。




会議風景/その頃のふみぃ

 時刻は1020。大本営をぐるりと一回り見学してきた箒と文月は、会議参加の為に大会議室へとやって来た。

 

 「お待ちしていました、提督。ちょうど良い時間ですね」

 

 大会議室の扉の前には神通が既に待機しており、二人を見つけるとサッと駆け寄ってきた。

 

 「ああ、時間厳守だからな。私も提督の端くれだ、その辺りはしっかりしておかなければな」

 「当然ですね。あ、そう言えば朝言い忘れていましたが……提督、単独演習の受付は済まされましたか?」

 「大本営の見学中に受付を見つけたから済ませておいた、問題なく出場出来るぞ」

 「そうですか、良かった……連絡を忘れていて申し訳ありませんでした」

 

 神通の謝罪に、箒はその肩にポンと手を置く。

 

 「なに、結果的にきちんと受付出来たから良しだ。が、今後は気を付けるようにな」

 「はい、以後気を付けます。では提督、ここからは私がご案内致しますので、会議室へお入り下さい。文月ちゃんはあちらの控え室で待機をお願いします。くれぐれも他の艦娘の皆さんにご迷惑をかけないようにして下さいね」

 「は~い」

 

 文月は会議室から少し離れた場所にある控え室へトットコ走っていき、そのまま中へ入っていった。

 

 「さぁ、入りましょう。既に他の提督の皆さんがお待ちです」

 「あぁ」

 

 ギィィ……と重厚な音を立てて開かれる扉。神通に促され、箒は神通の後を追って大会議室に入っていく。

 

 大会議室には既に多くの提督が入っており、まだ提督に成り立てであろう気弱な提督とか、この道何十年と提督を務めているらしい威厳のある提督とか様々であった。それらの提督の目線は、皆一様に今入ってきた箒と、箒と共にいる神通に向けられている。しかし箒は意に介す事もなく、また神通もそれが当たり前のように会議室内を歩き、箒はちょうど空いていた後方の席に、神通は定藤元帥の所まで小走りで向かいその隣に座った。

 

 「さて、今ので全員揃ったかねぇ、神通や?」

 「はい、先程の篠ノ之少佐で全員になります」

 「はいよ。それじゃ時間は早いけど、大本営会議を始めようかね。まず会議の前に、今回新しく提督に着任した娘がいるから紹介しようかね。篠ノ之少佐」

 

 定藤元帥に呼ばれ、箒はスッと立ち上がり周囲に一礼する。

 

 「今月から宿毛湾泊地の提督に就任した篠ノ之箒少佐だよ。篠ノ之少佐、何か一言挨拶をおくれ」

 

 定藤元帥が自分で持っていた物とは別のマイクを神通に渡すと、神通は素早く小走りで箒の元へ向かい、箒にマイクを手渡した。

 

 「定藤元帥のご紹介に与りました、篠ノ之箒と申します。一般より提督となった身ゆえ、先輩方に遠く及ばぬ事が多々ありますが、少しずつ提督としての知識を吸収し、皆様のお役に立てるよう粉骨砕身して参ります。これからよろしくお願い致します」

 

 挨拶を終え、箒は神通にマイクを返して椅子に座り直す。

 

 「ふん、貴様のような一般上がりの馬の骨に艦隊運営が出来るのか?」

 「全くだわ。私達が大本営で育てた提督候補生達を差し置いて、どうしてこんな素人を宿毛湾のような大事な場所に置くのかしら?意味が分からないわ」

 

 先頭に座る提督達から侮蔑や罵倒の混じった声が上がる。それを皮切りに他の提督からも次々と文句の声が聞こえ出す。

 

 「黙るんだよ、馬鹿者共が」

 

 しかしそれらの声は、定藤元帥の圧を籠めた一言で強制的に止められた。

 

 「せっかく見つけた貴重な逸材を、お前さん達の下らない罵詈雑言でガラクタにするもんじゃないよ」

 「ほう。では定藤元帥、彼女はどんな逸材なのかご説明願えますか?」

 

 さっきまで箒に侮蔑の言葉を吐いていた一人の初老の男が定藤元帥にそう問い掛ける。定藤元帥は「やれやれ」と小声で呟きながら立ち上がり、マイクを握り直した。

 

 「今紹介した篠ノ之少佐はね、今のご時世では珍しい『はっきりと妖精が視認出来る』提督なんだよ。これを貴重と呼ばずして何て呼ぶ気だい?」

 「ほう!それでは妖精とも会話が出来るのですか?」

 「あたしも詳しくは知らないからね。どうなんだい、篠ノ之少佐?」

 

 話を振られた箒は(また面倒事か……)と頭を抱えながらも立ち上がった。

 

 「はい、妖精との会話も可能です。はっきりと、という訳ではありませんが」

 「ほほう!それは益々珍しい。どうだね篠ノ之少佐、私の下で働く気は無いかね?」

 

 初老の男のその質問を皮切りに、今度は箒の取り合いが始まった。私の所へ、いや私の所へ、いやいや私の所こそ相応しい、等々。本人の意思など露知らず、主に先頭に座る勲章持ちの提督達による貴重な逸材の奪い合いは熱を帯びていく。

 

 「だから黙るんだよ、馬鹿者共」

 

 再び定藤元帥の圧を籠めた一言。

 

 「今日はそんな事の為にお前さん達を呼んだんじゃないよ。勧誘なら終わってからにしな。本人が受け入れるかは別だけどね」

 

 そう言って定藤元帥は積み上げられた資料をいくつかのブロックに分けると、それぞれを職員に渡して提督達に配るよう命じた。

 

 「今配ったのは、今回この会議を招集した所以でもある『北方海域攻略作戦』に関する資料だよ。ここにいる全員が参加する訳じゃないが、皆一通り目を通しておくれ」

 

 提督達は皆配られた資料を黙読し始める。箒も資料を渡されると、それを同じように黙読し始めた。と言っても、すぐに理解出来るような内容ではなかったが。

 

 (……まったく分からん。ここにいる提督達はこういう資料の読み方等を学校で学んで熟知しているのだろうな)

 

 一般上がり故の理解の遅れを痛感しつつ、箒は引き続き資料を読み、元帥や職員の説明を聴く。

 

 「今日はこれを元に、進撃・撤退及び補給ルートの確認、それと予想される敵戦力について話し合っていこうかね。まず横須賀の所が提案したルートだがーー」

 

 

 

 

 

 

 (……まだかなぁ)

 

 一方こちらは控え室で待機中の文月。神通にここで待つよう言われて来たが、今の文月は非常に退屈していた。何せ控え室にはフローリングこそあれど他は十数個の椅子しか家具がなく、暇潰しになるような玩具もテレビも無かった。箒のお陰でゲームや玩具による暇潰しを覚えた文月にとっては、まさに地獄でしかなかった。

 唯一の救いが部屋の角に置かれたウォーターサーバーであり、喉が渇くであれ渇かぬであれこれを飲むだけでも少しは気が紛れる。

 

 (……やる事ないなぁ)

 

 と言っても暇である事に変わりはなく、文月は部屋の窓から外の景色をボーッと眺めてばかりいた。知り合いや姉妹艦がいれば少しは会話の一つでも出来ただろうが、生憎控え室には知り合いも姉妹艦もいない。と言うかそもそも、会話という概念すら無くなったのかというレベルで控え室は静かだった。

 更に追加で言ってみれば、控え室はあちこちで殺気が飛び交っていた。今日この大本営に来ている艦娘は、基本的に会議に参加する娘か、もしくは単独演習に参加する娘のどちらかしかない。現在会議中である事を考慮すると、今この部屋にいるのは全員単独演習に参加する艦娘となる。

 

 「……」ギロッ

 「……」ジロッ

 「……」ビクビク

 

 戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦。様々な艦がの艦娘が、それぞれが狙いを定めた者に殺気を飛ばし合う。殺気を飛ばす艦娘ばかりではなく、中には殺気に気圧されて震え上がっている艦娘もいた。恐らく初参加だったり、以前経験して痛い目をみている娘なのだろう。

 

 しかし文月はそんな状況を気にするでもなく、ただボーッと窓の外を眺めていた。部屋を飛び交う殺気を敢えて無視しているのか、そもそも殺気に気づいてないのか。それが分かるのは文月本人だけである。

 

 「失礼します」

 

 急に控え室のドアが開き、そこへ入ってきたのは、単独演習の受付をしていた大淀だった。何やら大きな紙を持っており、部屋にいた艦娘達がそれに目が釘付けになっている。

 

 「えー、今回の演習のトーナメントが確定しました。皆さんそれぞれで確認をしておいて下さいね」

 

 そう言って大淀は持っていた紙を広げて壁に張り付け、そのままサッと出ていった。途端にそのトーナメント表に大勢の艦娘が集まり、トーナメントの確認を始める。反応は様々で、ガッツポーズしたり呆然としていたり、はたまた絶望のあまり泣いていたりと喜怒哀楽がこれでもかとはっきり分かる光景だ。

 やがてある程度人混みが晴れると、ようやく文月はトーナメント表を確認しにやって来た。

 

 「んぅ~……あ、あった!」

 

 トーナメント表の文月の名前はトーナメントの一番左端にあり、演習相手の名前の欄には『横須賀鎮守府所属 時雨』とあった。

 

 「やぁ。君が僕の演習相手かい?」

 「ふみ?」

 

 すると突然後ろから声を掛けられた。振り向くと、声の主はセーラー服を着て三つ編みセミロングの黒髪から獣耳状の外ハネが特徴の艦娘だった。

 

 「だぁれ?」

 「僕は時雨。君の演習相手さ」

 

 時雨は自己紹介してから右手を差し出して握手を求めてきた。文月はキョトンとしながらトーナメント表を見返す。それで納得した表情を見せると、同じように右手を差し出して握手に応えた。

 

 「あたしぃ、文月って言うのぉ。よろしくぅ~」

 

 ニパッと笑顔を見せながら文月も自己紹介。時雨も同じく笑顔を返し、握手を続ける。

 

 「君は今回が初参加なのかい?」

 「んぅ~……あたし、ここに来るのも初めてなの~」

 「そうなんだ、じゃあ僕の事も、ここに集まってる娘達の事も知らないみたいだね。それは可哀想に……」

 「ほへ?」

 

 何の話をしているのか分からず、文月はまたキョトン。すると時雨は文月の肩に両手を置いてこう言った。

 

 「文月ちゃん。君はこの演習、棄権した方が良い。何も知らずに僕達に挑むのは、どう考えても自殺行為だよ」

 「???」

 「その証拠に、ほら見て」

 

 そう言って時雨が指差した先に、何やら紙に何かを記入している艦娘が数人いた。誰も真っ青な表情で必死に紙に記入している。

 

 「あの娘達が書いてるのは、棄権届だ。相手が相手だから、敵わないって分かってるからこその判断だよ。周りを見回してみて。君以外に棄権届を書いてない娘がいるかい?」

 

 そう聞かれて文月が回りを見ると、冷ややかな目線を送ってくる一部を除いた自分以外の艦娘は皆棄権届を書いて一目散に提出しに行っている。

 

 「書いてない娘いるよ~?」

 「彼女達は僕と同じ横須賀鎮守府か、それ以外の鎮守府ーー呉、舞鶴、佐世保の艦娘。君よりも圧倒的に強いんだよ」

 「強いの~?」

 「何年も深海棲艦と戦い続けてるからね。だからこそ、経験の少ない君達と戦うのははっきり言って無意味なんだよ」

 

 時雨の眼は、さっきよりも鋭くなっていた。

 

 「それに君を見た感じ、まだ君は改装すらやってないみたいだね。それで改二改装を済ませてる僕に敵うと思わない方が良いよ」

 

 そして更に眼を鋭くして言った。

 

 「もう一度言おう。君は棄権した方が良い。どう足掻いても結果は知れてるんだ。あのトーナメントに名前が載っただけでも素晴らしい事なんだ、寧ろ誇って良い。それでもやるって言うなら……僕は容赦しない」

 

 時雨は文月の肩から手を離すと、集まっている同じ鎮守府の艦娘の元へ戻っていった。そしてペチャクチャ会話を始める。

 

 「……?分かんないなぁ。なんでまだ演習してないのに、結果が見えてるんだろ?」

 

 違う、疑問に思うべき箇所はそこじゃない……

 

 「……しれーかんまだかな~」

 

 文月はまた窓の外の景色を眺め始める。まるで先程の時雨の話などどうでも良いかのように。

 

 結局文月は締め切りになっても棄権届を書いて提出せず、演習参加が確定した。トーナメント表では唯一、横須賀・呉・舞鶴・佐世保の艦娘以外の鎮守府から参加となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

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