元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第十二話、箒side

 胸糞表現あります、無理な方は読むのをお控え下さい。




たとえ弱くても

 時刻は正午を過ぎ、会議は一旦ストップして休憩時間となった。受け取った資料をファイルにしまい、箒は一先ず文月と合流する為艦娘の控室に足を運んだ。すると控室からは既に沢山の艦娘が出てきており、それぞれが仕えている提督の元へ小走りで向かっていた。

 

 「あ~しれいか~ん」

 

 その中から一際気の抜けた声が聞こえる。見ると文月が小さな手を懸命に振りながらこちらへ走ってきていた。そのまま文月は箒に抱き付き「えへへ~」と可愛い笑みを見せる。

 

 「しれいか~ん、あたししれいかんや神通さんの言う事ちゃんと守っていい娘にして待ってたよぉ、偉い~?」

 「ああ、偉いぞ文月。さぁ、お昼ご飯にしよう」

 「は~い」

 

 箒は文月と手を繋ぐと二人揃って食堂へ向かった。

 

 

 

 

 正午を過ぎたばかり故か、二人が到着した時には食堂は沢山の人で混雑しており、厨房では十数人のコックが忙しなく動いて料理を提供していた。

 

 「ほぅ、やはり広いな。そしてこの混雑……料理も期待できそうだな」

 「良い香り~。あたしお腹ペコペコ~」

 

 二人は目の前にできた列に並び、順番が来るのを待つ。ふと箒は食堂の机が並ぶ方を見た。

 

 (……なんだこれは?)

 

 箒の目線の先では、異様な光景が広がっていた。席に座ってご飯を食べているのは提督や大本営で働く職員だけ。艦娘はと言うと、提督の後ろに立って眉一つ動かさず静止している。

 

 (一体なぜこのようなーーああそうか。認識の齟齬か)

 

 初めて鎮守府に来た時、箒は五十鈴や響と言った一部の艦娘に食事を提供した(龍田に妨害されて全部台無しになった)が、その時彼女達は食事の何たるかを知らないと言った。つまりこの世界の艦娘は、自分達も食事が出来る、美味しいという感情があるという事を知らないのだろう。ならばこの異様な光景も納得できる。

 

 「しれいかん、なんで皆ご飯食べてないのかなぁ?ご飯って美味しいのに……」

 

 文月もその光景が気になったのか、小声で箒に聞いてきた。

 

 「文月。お前達は私に会うまで、食事の何たるかを知らなかっただろう?それまでは燃料や弾薬の補給が食事のようなものだったのだろう?恐らく『艦娘に食事は必要なし』という考えが提督や艦娘に染み付いているのだろうな」

 「ふみぃ……よく分かんないなぁ」

 「癖のようなものだ。文月、お前は『その喋り方を今すぐ止めて普通に敬語で話せ』と言われて、すぐに変えられるか?」

 「う~ん……できないかもぉ」

 「だろう?それと同じだ。一度根付いた癖は、簡単には取り払えないのだ」

 

 そんな事を話していると箒達の順番が回ってきたので、箒は鶏天定食を、文月はハンバーグランチをコックに注文した。コックは何やら怪訝そうな表情をしていたが、箒が一睨みするとすぐに営業スマイルに切り替えて厨房に注文を通した。そして料理を受け取ると、二人は食堂の一番奥の席に陣取った。

 

 「いただきます」

 「いただきまぁす」

 

 二人揃って手を合わせて食前の挨拶をし、昼食を食べ始める。文月は口元がソースで汚れるのも構わずハンバーグにハグハグかじりついた。

 

 「こらこら、落ち着いて食べろ。はしたないぞ」

 

 ナプキンで文月の口元を拭いてあげながら定食の鶏天に手を付ける箒。サクサクと衣の食感が心地よい。ふと周りを見渡すと、食堂にいた提督も艦娘も、果てはコック達まで皆一様に箒達を見ていた。それほど艦娘が食事をしているのが珍しいのだろう。そして聞こえだす提督やコック達のヒソヒソ話。「何故艦娘に食事をさせているのか」だの「これだから何も知らぬ一般上がりは……」だの聞こえてくる。提督達の後ろに立つ艦娘達もまた、食事をしている文月を見て驚き、そして非難の視線を向けてきた。

 が、箒はそれを全て無視し、文月に至ってはそもそも声や視線に気づいてないのか相変わらずハンバーグにかじりついている。

 

 「ご馳走様でした」

 「ご馳走さまぁ~」

 

 やがて全て食べ終えると、二人揃って食後の挨拶。そして食器を返却口に置くと、仲良く手を繋いで食堂を出ようとした。

 

 「待ちなよ、君」

 

 と、二人を呼び止める声。箒が目を向けると、食堂の出入口付近に座っていた一人の提督が立ち上がって箒の前に立ち塞がった。顔立ちの良く、軍服の上に高そうな装飾品を沢山下げた二十代とおぼしき男の提督は、箒に向かって気味悪い笑みを向ける。

 

 「……何のご用ですか?」

 「用?それは君一番理解してるんじゃないのかい?艦娘に食事を取らせるなんて、随分とふざけた事をしてるんだね。人間の真似事を艦娘にさせて楽しいかい?」

 

 それを聞き、箒は(やれやれ)と内心だるそうにしていた。恐らくさっきの光景が気に入らなくてちょっかいを出そうと呼び止めたのだろう。艦娘達はともかく周りの提督達は止める風でもなくただそれを見ているだけなので、彼と同じ思考なのだろうと箒は読んだ。チラリ彼の軍服を見ると、どうやら目の前の提督の階級は少将らしい。

 

 「逆に聞きますが、艦娘に食事をさせる事が何か問題になるのですか?」

 「なるとも。僕達他の提督を不快にさせるっていうね」

 

 そう言って男は箒を睨み付ける。と言っても、目線は箒の体の一部分ーー豊満な胸に行っているのがまるわかりではあるが。

 ふと文月を見ると、繋いだ手を更にギュッと握り締めて心配そうに箒を見ていた。箒は「大丈夫」の意味も込めて文月の頭を撫でてやる。それで文月が少し落ち着いたのを確認し、箒は改めて目の前の男に向き直る。

 

 「その程度で不快感を覚えるとは、ここにいるのは随分狭い心をお持ちの方ばかりなのですね」

 「……何だと?」

 「そうでしょう?『艦娘が食事をしている』という下らない理由で貴殿方は不快感を露にしているのですよね?その程度の事もスルー出来ないとは、なんとまぁ薄っぺらい心の持ち主のようで」

 

 箒の挑発も含めた言葉に、食堂全体に殺気が籠る。

 

 「……僕は優しいからねぇ、誠意を見せてくれるのなら、君のその暴言を許してあげなくもないよ?」

 

 若提督も平静を装ってはいるが、額にはハッキリと青筋が出ている。

 

 「ちなみに誠意とはどのような?」

 「決まってるよ……こういう事さ!」

 

 若提督はなんと公衆の面前で箒の豊満な胸を鷲掴みにした。周りからは「おお……」と声が上がる。誰も注意しない辺り、黙認されているのかもしれない。

 

 「うーん、なんとも柔らかい……素晴らしい体をしているねぇ、君」

 「セクハラですよ、これは」

 

 ご満悦な表情で箒の胸を揉むセクハラをする若提督。箒の注意にも全く耳を貸さない。箒は心中殴りたい衝動を必死に抑えている。

 

 「まぁ簡単に言うとだね、僕の妻になりたまえ。そうすれば許してあげなくもないよ?」

 「……私は既婚者なのですが」

 

 箒は左手の薬指の指輪を若提督に見せながら言う。その額には青筋が出始めていた。

 

 「へぇ、ますます気に入ったよ。だったらそんな馬鹿な奴とはさっさと別れて僕と一緒になると良い。何一つ不自由のない生活が待っているよ?」

 

 若提督は箒の胸を揉みながらその肩に腕を回す。周りの提督は羨ましそうにそれを見ているだけで、助けようともしない。

 

 「お断りします。ボロ雑巾の如くこきつかわれて捨てられる未来が見えるので……というかそろそろ人の胸を揉むのを止めてくれませんか?」

 「だったら抵抗の一つでも見せたらどうなんだい?抵抗しないって事はこういう事しても問題ないって事なんだろう?」

 「もし私が抵抗の一つでもしたら、貴方はそれを上官に対する暴力とみなすつもりでしょう?そしてそれを傘に私に従うよう命令する。下らない魂胆が見え見えですよ」

 

 できる限り冷静になり、落ち着いた表情を繕って若提督に渡り合う。流石の若提督もイライラを隠せなくなってきたのか、同じくその顔には青筋が出始めていた。

 

 「ハッハッハ、随分と面白い事を言うんだね、君は。益々君の事が欲しくなったよ」

 

 そう言いながら若提督は後ろから箒を抱き締めるような態勢になる。そして箒の耳元でヒソリと囁いた。

 

 「ねぇ、別れちゃいなよ。奥さんにばかり働かせる『愚かで無能な』人とはさぁ」

 

 愚か、無能ーーその言葉を聞いたその時……箒の中で何かがプチンと音を立てて切れた。同時に文月も身の危険を感じたのか、手を離して箒から距離を取る。

 

 「……るな」

 「ん~?今何て言ったのかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 「私の旦那を……私の愛する夫を……私の前で二度と馬鹿にするなッ!!」

 

 

 

 

 

 

 箒は自らの胸を鷲掴みしていた若提督の腕を千切れん程に掴むと、そのまま豪快な一本背負いで投げ飛ばした。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 投げ飛ばされた若提督はそのまま食堂の出入口から飛び出して背中から壁に激突し、頭から地面にずり落ちてそのまま気を失った。投げの勢いを物語るかのように、若提督が激突した壁は大きな皹が入ってしまっている。

 食堂にいた提督や艦娘は唖然としており、声すら出てこない。中には飲み物を飲もうとしてその光景を目にし、飲み物を入れたコップを傾けたまま呆然となってしまって飲み物が盛大に零れてしまっている提督もいた。

 

 「ハァ……ハァ……」

 「……しれいかん、大丈夫?」

 

 膝をついて肩で息をする箒に、文月が駆け寄って心配そうにしている。箒は「大丈夫だ」と言って無理に笑顔を作って文月の頭を撫でた。

 

 「お部屋、戻る?」

 「そう、だな……一旦落ち着きたい」

 

 文月の肩を借りて立ち上がり、箒はフラフラと歩き出した。その後ろを心配そうに文月が追い掛けていく。残されたのは、未だ気絶している若提督とあの光景を目にした提督達や艦娘。いつもは騒がしい食堂が、今だけは音という存在が無くなってしまったかのようにシーンとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラフラと部屋に舞い戻ってきた箒は、部屋に上がるなり壁に寄り掛かってずり落ちるように座り込んだ。文月は自分の荷物をゴソゴソ漁ると、中からミネラルウォーターを出してコップに注ぎ、箒に差し出した。箒は「ありがとう」と弱々しく言ってそれを一気に飲み干す。

 

 「しれいかん……」

 「……心配かけたな。もう大丈夫だ」

 

 箒は弱々しい笑みを見せながら文月を撫でる。しかし文月はまだ心配そうにしている。

 

 「情けない姿をみせてしまったな……やはり私はまだまだ弱いなぁ……これしきの事で熱くなってしまうとは……」

 「……」

 

 箒は悲しそうに言葉を紡ぎだす。

 

 「……弱くないもん」

 「……え?」

 「しれいかんは弱くないもん!」

 

 文月が声を大にして叫ぶ。その目には大粒の涙が浮かんでいた。

 

 「しれいかんはあたし達を助けてくれた!あたし達を守ってくれた!あたしや朧ちゃんや皆を強くしてくれた!そんなしれいかんが弱い訳ないもん!」

 「文月……」

 

 掌から血が滲む程に強く手を握り締めて叫ぶ文月。そこにあるのは、箒に対する確固とした信頼。それが嬉しくて、箒にもまた静かに涙を流す。そして文月をそっと抱き寄せて優しく包み込んだ。

 

 「文月……ありがとう」

 「しれいかん……泣いてるの?」

 「あぁ……嬉しくて、な」

 

 泣き笑いを見せながら箒は文月を優しく撫でる。文月もお返しとばかりに箒をギュッと抱き締め返す。牙也とは違う、文月のほんわかとした性格を彷彿とさせる穏やかな暖かさを感じながら、箒は嬉し涙を流し続けた。

 

 

 

 

 

 

 「しれいかん、大丈夫?」

 「あぁ、もう大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」

 

 しばらくしてお互いようやく泣き止み、まだ自身を心配してくれている文月に箒は笑顔で応える。文月もまた「良かったぁ」と安堵の笑顔を見せた。

 

 「……そう言えば文月、トーナメントの方は大丈夫なのか?」

 「ほぇ?」

 

 文月が時計を見ると、時刻は1320になるところだった。

 

 「ふわぁ、もう行かなきゃ!1330に集合って言われてた!」

 「そうか、じゃあ早く行って来なさい。私の事はもう良いから」

 「はぁい」

 

 文月は急いで制服にピンバッジを付け、簡易モードになった艤装を付ける。

 

 「……文月」

 「なぁに、しれいかん?」

 

 そして部屋を出ようとした文月を箒は呼び止め、もう一度優しく撫でてあげた。

 

 「良いか、文月。トーナメントの結果がどうなろうと構わん……お前が今出せる全力を相手に思い切りぶつけてくるんだ。そして……決して無茶だけはしないでくれ」

 「はぁい」

 

 相変わらず気の抜けた返事で応え、文月は部屋を飛び出していった。本当に分かったのだろうか、と箒は心配でならない。

 

 「さて、会議までまだ時間がある。私はどうするか……」

 

 会議再開は1600。時間はまだあったので、何をしようかと考え込み、そしてある事を思い出した。

 

 「そう言えば、この大本営に何人かうちの艦娘がここに預けられていたな。ちょっと会ってみるか」

 

 以前五十鈴と龍田に宿毛湾泊地所属の艦娘のリストを見せてもらった時、その中に数人ほど修理で大本営預りとなっている艦娘がいたのを思い出した。せっかく大本営に来たのだし、試しに会ってみよう。そう思い立って、箒は彼女達を探しにまた大本営を歩き回る事になった。

 

 この選択が、後にちょっとした運命の出会いを呼ぶのだが、それはまた追々。

 

 

 

 

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