元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第15話 箒side


演習(後)

 最初に聞こえてきたのは あたしと同じ声

 

 「起きて」「起きて」って 何回も何回も聞こえてきたの

 

 だからあたし 顔を上げてみたの

 

 そしたら みーんな真っ暗で どこを見ても真っ黒

 

 けど声だけははっきりと聞こえてきた

 

 「起きたね」「起きたね」って 今度は聞こえてきた

 

 よいしょって起き上がったら 真っ黒の中から誰かがひょこって顔を出してきたの

 

 あたしびっくりしちゃった

 

 だって あたしそっくりの顔した娘が二人いるんだもん

 

 一人はあたしとは服が違った

 

 あたしは黒セーラー でもその娘は白セーラー

 

 背負ってる艤装もあたしのとは全然違ってるの

 

 背もあたしより高くて 大人っぽくて

 

 格好良いなぁ 可愛いなぁ って思ったの

 

 もう一人は顔はあたし でもあたしじゃないの

 

 なんかね 凄い真っ黒なの 全身真っ黒で だけど真っ白で 角みたいなのがあって

 

 艤装まで真っ黒なの でも真っ白なの

 

 でもね あたし怖くなかったの 

 

 格好良いなぁ 可愛いなぁ って思ったの

 

 でね その二人がね 文月に手招きするの

 

 「こっちにおいで」って言って

 

 あたし迷ったの どっちにしようかなって

 

 だってね 大人なあたしに手を伸ばすとね

 

 真っ黒なあたしが悲しい顔するの

 

 真っ黒なあたしに手を伸ばすとね

 

 大人なあたしが悲しい顔するの

 

 どうしてそんな悲しい顔するの?って聞いてみたの

 

 そしたらどちらのあたしもこう言ったの

 

 「貴女に選ばれなくて、悲しいの」って

 

 あたし分かんなくなっちゃった

 

 どっちのあたしの手を取ろうかなって

 

 どっちの手を取るのが良いのかなって

 

 そしたらね

 

 いつの間にか箒お姉ちゃんが後ろにいたの

 

 それでね 文月にこう言うの

 

 「無理に選ぶ必要はないんだ。どっちも欲しいなら、どっちも選べば良いんだぞ」って

 

 そう言われて二人のあたしを見たら 二人とも笑って手を差し出してきたの

 

 だから文月ね どっちの手も取ったの

 

 そしたらね パアッて眩しいのがきたのーー

 

 

 

 

 「ほわぁ……!」

 

 すっかり様変わりした自分の姿をあちこち見、その海面に映った自身を見、文月は感嘆の声を挙げた。

 未改装の時は黒セーラーだったが、今は白セーラーに紺のパーカー。拳銃型の単装砲は連装砲に変わり、他にも色々変化していた。心なしか背も伸びた気がする。

 

 「すっご~い!文月、大人になっちゃったぁ!」

 

 無邪気にぴょんぴょん跳び跳ねて喜ぶ文月に対して、相対する時雨や観客、それに実況は唖然とするばかりだった。

 

 (あの短時間で何が……!?それにあの姿は……まさかこの土壇場であの娘は、改二に辿り着いたって言うのかい!?)

 

 普通なら有り得ない光景に、時雨の表情は驚きと焦りに支配される。文月を包んだ白と黒の光と翼、そしてその中で一生懸命に動いていた大工姿の妖精ーーもしそれが本当に改二へのステップだったのだとしたら、自分は意図せず改二に至る手伝いをしてしまったのと同義になる。

 

 「よぉ~し!今度は文月の番だよぉ!」

 

 その声に思考を現実に戻された時雨は、急いで戦闘態勢に入る。生憎砲弾と魚雷は先程の攻撃で全て使いきってしまった。となれば勝つ手段はただ一つ、接近戦以外にない。そう考えて時雨は文月を見据える。

 と、突然文月が何かを投げ付けてきた。時雨がそれをキャッチすると、投げ付けてきたそれは、本来は対潜水艦用に利用される機雷だった。何故こんな物を投げ付けてきたのだろうーー二つ飛んできたそれを掌に乗せながらそう考えたその一瞬が、大きな隙となってやって来た。

 

 「がっ!?」

 

 突然新たに何かが飛んできたかと思うと、時雨が持っていた機雷を弾き飛ばした。機雷は爆発こそしなかったものの、弾き飛ばされた勢いそのままに時雨の肩にぶち当たり、強烈な痛みを呼び込む。機雷を乗せていた手も激痛が走り、両手の主砲はボロボロで使い物にならなくなっていた。何事かと時雨が文月を見ると、彼女が持つ主砲から煙が細々と出ていた。

 

 (僕が掴んだ機雷目掛けて砲撃したってのかい……!?なんて娘なんだ……!)

 

 驚愕しながらも時雨は態勢を立て直し文月を再び見やる。が、その目線の先に既に文月はいなかった。

 

 (何処に行ったーー)

 

 そう考える隙もなく、時雨の腹部に強烈な痛みが襲う。いつの間にか限界まで接近していた文月に膝蹴りを叩き込まれたのだ。膝蹴りの衝撃で体は「く」の字に曲がり、更に肺の中の空気が一気に押し出され、一瞬酸欠状態に陥る。

 と、今度は延髄に衝撃が走った。「く」の字に折れ曲がった時雨の延髄に、文月が一切の容赦なく肘を落としたのだ。その衝撃に意識が飛びそうになるもなんとかガッツで耐え抜く時雨。しかし体は耐えきれずその場に倒れてしまう。とそこへ間髪入れず蹴りが顔面に的確に入った。思い切り蹴飛ばされて時雨は海面を転がっていくが、何とか立ち上がって再び構え直す。既に顔も制服も艤装もボロボロだが、それでもなお時雨は立つ。

 

 「これでも食らえぇ~!」

 

 すると文月が、今度は魚雷発射管から魚雷を一本引き抜いて、ダーツの要領で時雨目掛けて投げ付けてきた。突然の事に時雨は咄嗟に魚雷を上空へ向けてレシーブする。上空へ打ち上げられた魚雷は、少しして時雨の頭上で爆発した。何とか対処する事が出来て内心ホッとする時雨。しかしふと文月を見ると、彼女はニッコリ笑っていた。何故ーーと考えたその時。

 

 時雨の足元で、魚雷が爆ぜた。

 

 

 

 

 (僕がやったのと、同じ戦法を……!)

 

 魚雷が諸に直撃し、時雨は爆風で宙を舞った。そのままバシャリと大きな音を立てて海面に落ちる。なおも時雨は立ち上がろうとするが、脚部に魚雷が直撃した影響か両足からは止めどなく血が流れ、立ち上がる事すら儘ならない。

 

 (動け……動いてくれ……!僕はこんなところで止まる訳にはいかないんだ……!もっと上へ行かなきゃいけないんだ……!僕は白露型駆逐艦二番艦の時雨……!横須賀の誇り高き駆逐艦なんだ……!)

 

 そう自分に言い聞かせて必死に立ち上がろうとする時雨。出血が酷くなろうとお構い無しに、必死に足を動かして立ち上がろうとする。

 

 そんな彼女の脳内に甦るのは、まさに生存競争とも呼べる地獄の日々ーー。

 

 

 

 

 

 

 今思えば 建造されてからずっと 戦いの日々だった

 

 僕が建造された時は 既に深海棲艦はほとんどの海を制していて

 

 早急に海を取り戻さなければ危険な状況だった

 

 とにかく何としても勝たなければいけない

 

 勝って海をあいつらから取り戻さなければいけない

 

 そんな使命感が 心のどこかにあった

 

 僕を建造した提督は とにかく個々の実力を重視してた

 

 いつも言っていた

 

 「どんな艦であれ強くなければ価値はない」って

 

 その言葉通り 弱い艦は置いて行かれ 邪魔者扱いされ やがて淘汰された

 

 弱ければ たとえ火力の高い戦艦でも切り捨てられた

 

 強い艦だけが生き残る そんな場所だった

 

 嫌だった 艦としての生を否定されてしまうのは

 

 嫌だった 弱い艦と呼ばれるのが

 

 嫌だった 誰にも必要とされずに捨てられてしまうのが

 

 だから 必死になって訓練した

 

 血反吐が出る程自分を追い詰め続けた

 

 ひたすらに強さを追い求めた

 

 全ては 僕が生き残る為に

 

 生き残る為なら たとえ姉妹でも容赦しなかった

 

 助けを求めてきても 迷う事なく蹴落とした

 

 そうして掴んだ 他の追随を許さない 強さと誇り

 

 僕は負けない 勝ち続けるんだ

 

 今までも そして これからも

 

 横須賀鎮守府の誇る 艦娘の一人としてーー

 

 

 

 

 

 と、パシャッパシャッと海面を歩く音が鼻歌混じりに聞こえてくる。辛うじて動く顔を上げると、

 

 「ふんふんふ~ん♪」

 

 文月がスキップしながらこちらへ近付いて来ていた。そして時雨の目の前に立つと、そのまましゃがんで彼女の顔をジーッと覗き込んできた。表情は相変わらず純粋無垢な笑顔である。時雨からすれば、それが非常に恨めしく思えた。まるで勝ちを確信しているような余裕の表情。諦めろと言わんばかりの屈託のない笑み。追い詰められた時雨には、それが腹立たしかった。

 

 「……僕を笑いに来たのかい?」

 

 自虐的な笑みをしながら時雨はそう聞く。しかし文月はそれを聞いてコテンと首を傾げた。

 

 「笑えば良いのぉ?」

 「笑えば良いじゃないか……あれだけ大言を吐いておきながら、君に無様にやられてる僕をさ……それとも、無様過ぎて笑えないかい……?」

 

 そう吐き捨てる時雨に、文月は「えぇ~?」と不思議そうな表情を見せ、「う~ん」と少し考えてからこう言った。

 

 「笑わないよぉ。文月はねぇ、そんな事で貴女を笑う悪い娘じゃないもん!」

 

 満面の笑みでそう答える文月。それが時雨は気に入らなかった。

 

 「はっ、随分と優しい心を持ってるんだね……けどね、戦場ではそんな物ーー」

 「でもねぇ~」

 

 時雨の言葉を遮るように、文月は右手に持った主砲を時雨に向けて構え直す。と、満面の笑みの下にあるつぶらな瞳が何故か片目だけ段々と黒ずんできた。何が起きているのかと時雨は目を見開いて文月を見る。

 

 「あたしはねぇ~、これでも怒ってるんだよぉ?だってーー」

 

 

 

 

 ーー箒オ姉チャンノ事、貴女サッキ馬鹿ニシタデショ?

 

 

 

 

 「……ッ!?」

 

 ドス黒いほどに重い声が響いたまさにその時、時雨は確かに見た。文月の隣に立って同じように主砲をこちらに向けてくる、彼女そっくりだが無表情な深海棲艦の姿を。

 その深海棲艦はかつて時雨がとある海域で邂逅した『駆逐棲姫』と呼ばれる深海棲艦の中でも特に『鬼級』『姫級』に分類される存在のように真っ白な体だが、全身を真っ黒なオーラのようなものが守り、更に所々艦娘であった頃の名残を残した深海棲艦特有の真っ黒な艤装を背負っていた。

 その深海棲艦は文月に倣って同じように主砲を向けていたが、やがて主砲を向けたまま文月の方へと歩み寄っていく。そして彼女の肩にそっと手を置くと、その体が段々と文月と同化していった。そして体全てが同化し最後は頭部だけという時、その深海棲艦は時雨に向けて口をパクパクさせた。声には出なかったが、時雨にだけは何と言おうとしていたのか理解出来た。

 

 ーー覚悟してネ。

 

 深海棲艦はそのまま文月と同化して消えた。観客や実況はまだ文月の事で騒いでいる。先程の深海棲艦は自分だけにしか見えていなかったのだろうかーー時雨の全身に悪寒が走る。

 

 (何だったんだ、今の……とにかく今は、目の前の彼女を倒す事を考えてーー)

 

 そう決めて時雨は文月を見やる。が、何を感じたのか両足の激痛に耐えながら咄嗟にその場から飛び退いた。途端にさっきまで自身が立っていた場所が大きく爆ぜた。見ると文月の主砲から煙が細々伸びている。

 

 (くっ、本気で僕を仕留めに来てるね……!今の状態でどこまで食らい付けるか……)

 「アッ、避ケラレチャッタ。デモ、逃サナイヨ?」

 (ッ!さっきと口調の雰囲気が変わってる……!?まさか、さっきの深海棲艦がーー)

 

 だがそんな事を考えている隙もなく、時雨の周囲に次々と砲撃が撃ち込まれてきた。砲弾が海面に着弾する毎に水柱が高く上がる。激痛に耐えながら回避を繰り返す中、時雨はある違和感に気づき始めていた。

 

 (くっ、何なんだこの威力は……駆逐艦なのになんて強烈な威力の弾を撃ってくるんだ……!?)

 

 そう、先程から文月が放ってくる砲弾の威力が桁違いなのである。普通なら駆逐艦の主砲の威力などたかが知れているのだが、この文月が先程から放ってくる砲撃は通常の戦艦の威力を優に越えるレベルの威力、それが駆逐艦の砲から次々放たれてくる。

 更にその異常さを増長させたのは、文月の容姿だ。先程まで普通だったその容姿は、攻撃を重ねる毎に段々と深海棲艦の要素が混じった姿へと変貌し始めていた。髪は色を失い青白くなり、艤装も何処となく深海棲艦を思わせる見た目に変貌した。

 明らかに異常な状況に、観客も実況の面々もようやく異変に気づき始めた。

 

 「はぁ!?なんだよあの威力、長門さんと同じくらいかそれ以上じゃねぇのか!?」

 「馬鹿な……駆逐艦の分際で、この長門に匹敵する火力だと……!?一体どうなっている……!?」

 「駆逐艦のくせに凄いね~。けど何か怪しくない?」

 「怪しいとか怪しくないとかそう言う問題じゃねぇだろあれ!明らかに異常だって!よく見ろよあの姿だって!」

 

 実況席の艦娘がざわついている中、一人演習の様子を冷静に観察している艦娘がいた。

 

 「あの様子は……」

 

 舞鶴鎮守府の艦娘『赤城』である。明らかに様子のおかしい文月を遠目に観察しながら、隣で騒いでいる長門達には目も暮れず考え事をしていた。

 

 (……彼女のあの恐るべきパワー、そして変わり行く容姿、覚えがあります。十中八九間違いないですが、私の知る『あれ』とは何かが違う……もう少し見てみましょうか)

 

 

 

 

 

 

 演習場はあまりにも一方的な状況が続いていた。前述した通り既に弾薬も魚雷も使いきってしまっている為、時雨は何とか接近戦に持ち込もうと奮闘しているものの、先程から絶え間無く降り注ぐ砲撃の雨と唐突に沸いてくる魚雷に苦しめられ、反撃も儘ならない有り様。劣勢は誰が見ても明らかだった。と、

 

 「あれぇ?あれあれぇ?」

 

 主砲の様子がおかしいのか、文月が困った表情を見せる。トリガーを引いても主砲はうんともすんとも言わない。よく見ると主砲から火花が散っていた。どうやら酷使し過ぎて故障してしまったらしい。

 

 (まだ改二に慣れ切ってないのか……なら今しかない!)

 

 好機。そう直感した時雨は、接近戦に持ち込む為一気に文月との距離を詰めに出た。足はそろそろ限界が近付いている、ならば今しか仕留める好機はない。足からの出血なと気にもせず、時雨は文月へ接近を試みた。文月はまだ主砲に目がいっており、時雨の接近に気が付いていない。このまま接近して一気に畳み掛ければ、どんな形とは言え勝利をもぎ取れるーー時雨はそう確信して拳を握り締めて構える。そして未だ気づいていないであろう文月へパンチを放った。

 

 (入った!)

 

 文月はまだ気づいていない。それにここまで接近されれば流石の彼女も避けたりガードしたりは出来ないだろう。そう確信して振るったパンチはーー

 

 

 

 スカッ

 

 「!?」

 

 虚しく空を切った。突然文月の姿が目の前から掻き消え、更にほんの一瞬だが腕にズシリと重い感触がやって来た。

 

 「どこに……!?」

 

 急に目の前から消えた文月、腕にズシリと来た重い感触。そこから導き出される結論は、

 

 「上か!?」

 

 時雨が頭上を見たその時、空から何やら細長い物が沢山降ってきた。そして降ってくるそれの隙間から時雨が見たのは、

 

 「バイバイ」

 

 そう言って故障した主砲を投げ付けようと構える文月の姿だった。そしてこのタイミングで時雨はようやく降ってきた物の正体が魚雷である事に気が付いた。しかし気付いたところで後の祭りーー

 

 

 空中に跳んだ文月の主砲が時雨に向けて投擲された時、その主砲は遂に爆発、そして時雨の周りに散らばった魚雷の一つが誘爆、更に他の魚雷に続けて誘爆して大爆発を引き起こした。時雨の全身を覆い尽くす程の爆発はおよそ一分続き、やがて爆発が収まると、爆発による煙の中から全身黒焦げ状態の時雨が姿を見せた。その場に立ち尽くす彼女の艤装は無惨に破壊されて中の機械が露出し、制服も焦げたり所々燃え尽きたりして見るも無惨であった。そして文月が海面に着地すると同時に時雨が海面に倒れ伏した。

 

 観客は誰一人として言葉の一つすら出てこない。まぁこんな結果を予測するなど出来る筈もないのだから当然だろうが。

 そんな中気を失った時雨に歩み寄る文月の目は変わらず黒ずんでおり、冷めた目線で時雨を見下ろす。何か声を掛ける訳でもなく、ただ無機質な漆黒の目で時雨をジーッと見つめるだけ。それがまた不気味さを醸し出していた。

 一方実況席は大騒ぎであった。

 

 「嘘だろ……時雨があんな簡単に……」

 「一体何なのだ、あの駆逐艦は……!?明らかに異常だ!あんな駆逐艦は今まで見た事がない!」

 「なんて末恐ろしい駆逐艦なのね……!絶対狙われたくないの……!」

 「いや~、久々に面白い駆逐見たね~。今度はあたしが挑んでみよっかな~、ねぇ赤城さんはどう思う~?」

 

 北上が赤城に問い掛けるが、赤城はブツブツと呟きながら考え事をしているのか、北上の声が聞こえていない。

 

 「ちょっと赤城さ~ん?聞こえてる~?」

 「え?あぁすみません、ちょっと考え事をしてました」

 「へ~、赤城さんが考え事なんて珍しいね~。何かあったの?」

 「いえ……ただ、あの娘の異常なまでの強さの原因に、一つ思い当たる事がありまして」

 

 赤城のその一言に長門達の目が釘付けになる。

 

 「ドーピングとかじゃねえの?」

 「いえ、ドーピングによる自己強化は私達艦娘にはリスクが高過ぎます。それにあの駆逐艦の小さな体では副作用に耐えきれないでしょう。今回の現象はもっと根本的な部分に原因あり、とでも言いましょうか……」

 「根本的……?何だそれは?」

 「それはですねーー」

 

 

 

 一方、この試合をハイライトで観戦した定藤達も大騒ぎであった。

 

 「馬鹿な、あり得ない!時雨はこの私が手塩にかけて育てたこの日ノ本一の駆逐艦だぞ!それをあんな……!」

 「異常……いえ、それすら生ぬるいわね。あれはまさに『怪物』……忌々しいわね、しかもあの新入りが勤める宿毛湾の艦娘だなんて……!」

 「あんな駆逐艦が今まで陽の目を見ずにいたとは驚きですな。我々は惜しい人材を見捨てた……悔しい限りです」

 

 大将達が騒ぐ中、定藤だけは試合のハイライトを見てからずっと腕を組んで下を向いていた。

 

 「元帥、どうかなさいましたか?」

 

 気になった神通が定藤に問い掛けると、ようやく定藤が気づいて顔を上げた。

 

 「……まさか再び出てきてしまうなんてね。あの異常さを秘めた艦娘が」

 「元帥……?何かご存知なのですか?」

 「あぁ、そうさね。龍瀬、篠ノ之少佐を探して大至急ここへ呼んでおくれ。武藤、すまないけど単独演習は中止するさね、関係各所へ連絡を。それとあの文月をここへ連れて来ておくれ。篠ノ之少佐が一緒だと言えば、あの娘はついて来てくれる筈だよ」

 

 定藤の命で龍瀬と武藤が敬礼もそこそこに慌てて部屋を飛び出していく。

 

 「元帥!?まさかあの駆逐艦を自らお調べになるのですか!?」

 「その通りさ、中川。神通、悪いけど『練度測定器』を工廠から借りてきておくれ」

 「わかりました」

 

 神通も部屋を出ていくと、瀬尾が体を机から乗り出して尋ねてきた。

 

 「元帥。あの駆逐艦の事、何か知っているのですか?」

 「駆逐艦の事というよりも、駆逐艦に起こった現象を知っているのさね。まぁあたしが以前見た時のそれとは異なる箇所もあるけどね」

 「現象……?それは一体……」

 「それはだねぇーー」

 

 

 

 

 

 「ーー『狂化』さね(ですよ)」

 

 定藤と赤城。二人はほぼ同じ刻に、同じ結論に達していた。

 

 

 

 

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