元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編) 作:神羅の霊廟
艦娘という存在とは
「よっと」
遡る事数分前。五十鈴達が交戦していた海域からそれほど離れていない海上に、ジッパーの形をした裂け目ーークラックが現れた。そしてそこから一人の女性が飛び降りてきた。
「おっと……ここは海上か?」
白髪ポニーテールに蒼と薄緑のオッドアイ。そして見覚えのある白を基調とした制服。そう、篠ノ之箒だ。
「この世界は一体何なのだろうな。なぁ牙yーー牙也?」
箒は返事を求めるが、反応がない。辺りを見回しても、箒以外には誰もいなかった。考える事数十秒、そして箒は一つの結論に至る。
「……もしかして、別々の場所に飛ばされたのか?」
元々二人そろってクラックに飛び込んだのだ。本来なら二人共同じ場所に現れるのが自然だろう。それで離れ離れになってしまったというのなら、それ以外には理由はない。
「念話も反応なし。かなり遠くに牙也はいるようだな……仕方ない、ひとまず陸地を探すか」
当てもない状態を理解した箒は、取り敢えず上陸の為陸地を探す事に決めた。早速背中から蔦を伸ばし、レーダーの如くピコピコ動かす。
「……向こうは微かに潮の香りが薄い。取り敢えず向かってみるか」
そしてある一方に目をつけ、その方向へ海面を走り出した。
そうして走る事数分、
「む?」
箒の目の前に何やら見覚えのある怪物が現れた。それは鯨のような見た目で、巨大な口からは砲が見え隠れしていた。それが全部で十体ほどいる。が、箒にはまだ気づいていないようだ。
「こいつは確か、『深海棲艦』……という事は、この世界には『艦娘』がいるのか?」
『深海棲艦』ーーそれは突如海から現れた厄災。漆黒を基調とした体や艤装に、鯨や人形の姿を持つ。神出鬼没に現れては海を行く船等を手当たり次第に沈めていく。その目的は依然として不明。
『艦娘』ーーそれは突如海から現れた希望。かつての世界大戦において活躍した軍艦の特性を持ち、様々な艤装を用いて深海棲艦と戦う少女、ないしは女性達。こちらも何故現れたかは依然として不明。
箒は以前牙也と共に艦娘と深海棲艦が存在する世界を訪れた事があり、一応はそれらの事を理解していた。
「真偽を確かめねばならんが……まずはこれを突破せねばな」
箒は剣と銃が合体したような見た目でマスカットの意匠を凝らした武器『マスガンド』を取り出すと、目の前の敵へ向けて海面を走り出した。そして手前で大きく足を踏み込み、
「とうっ!」
大きく跳躍した。そして空中から敵に向けてマスガンドの銃弾を次々と放った。駆逐艦達はようやく気づいたのか砲を向ける。が、それよりも早く銃弾が駆逐艦達の眉間あたりに着弾し、爆発。銃弾を受けた駆逐艦達は十体全て沈んでいった。
「ふむ、まぁ駆逐艦程度ならこんなものか。さて、先を急ごう」
駆逐艦の残骸をその場に残し、箒は海面を更に走り抜けていった。
その後も箒は次々と深海棲艦と接敵し、その度に撃破していった。駆逐艦をはじめ軽巡洋艦や重巡洋艦、空母に戦艦。様々な種類の深海棲艦が箒の行く手を塞ぐが、箒の前には壁にすらならなかった。向かってくる敵艦を、箒は次々と撃ち抜き、斬り捨て、叩き潰していった。時にやって来る魚雷は海面を斬り裂くという離れ業で対処し、空母がとばしてくる飛行機は、飛行機より高空からクラックを使って無花果型の手榴弾『イチジグレネード』を大量投下する事で纏めて吹き飛ばす等、予想もしなかった方法で切り抜けていく。あまりの無双ぶりに、終いには恐慌状態に陥り逃げ出す艦も現れる程であったという。
「よし、粗方片付いたか。先を急ごう」
それでいて箒本人は疲れている風でもなく、むしろ余裕綽々で、しかも無傷なのだから、どれだけ彼女が強くなっているかが良く分かる。
「まだ陸地は見えんなぁ……私はだいぶ沖合に降り立っていたのだろうか……ん?」
引き続き箒が陸地を目指していると、遠目に誰かが見えた。数えるに六人はいるだろうか。その内ツインテールの女の子と銀髪の少女の二人は動けるのか、残りの四人を曳航する為に紐で互いの体を結んでいた。
「艦娘か?見覚えのある者もいるが、取り敢えず……おーい、そこの二人!ちょっと待ってくれないか!」
箒は急いでその二人を呼び止めた。と、その二人は振り向くと同時に艤装の砲を箒に向けてきた。かなり警戒している様子だ。
「……ふぅ、久しぶりに深海棲艦を相手したな。ところでお前達、何処の鎮守府の艦娘だ?」
箒は二人の艦娘であろう女の子達に問い掛ける。
「あんた何者?人間?」
「だとしたら私達のように海面に立てるのはおかしいよ……もしかして新種の深海棲艦かい?」
深海棲艦扱いされ、箒は少しムッとした表情になる。
「奴等と私を一緒にするな、侵害だ。少なくとも、私はお前達の敵ではない。むしろ奴等から攻撃を仕掛けてきたのだ、私はそれに応戦しただけだ」
箒が説明すると、二人は驚いた表情を見せる。
「応戦って……あの数を一人でかい!?」
「それで無傷って……あんた本当に何者!?」
「私か?そうだな……元人間、と言うべきか」
箒は余裕綽々の笑みでそう答えた。二人は顔を見合わせて呆然とするばかり。
「それよりも、彼女達を早く連れて帰った方が良いのではないか?大怪我していると見えるが」
「……はっ!?そうだったわ、急がないと……!」
二人は我に返り、急いで曳航用の紐を引っ張る。しかしツインテールの女の子は三人分の紐をくくりつけているせいか、思うように前に進まない。
(重そうだな。これではいつ陸地に辿り着けるか分からぬ……私も手を貸すか)
箒は早速背中から蔦を沢山伸ばし、その三分の二を使って 大きめの籠のようなものを作り上げた。そして曳航されている四人を纏めて残りの蔦で持ち上げ、籠の中に寝かせた。急に起こった出来事に、またもや二人は驚き呆然となる。
「これで良し。四人は私が連れて帰ろう、二人は周辺の警戒を頼む」
「え、えぇ……」
「……本当に、貴女は何者なんだい?」
「言っただろう、元人間だと。さ、敵の援軍が来る前に戻らなければ。案内してくれ」
納得いかない表情の二人だったが、ともかく四人の安全を優先すべきと考えたのか、先行して進んでいく。箒もまたそれについて行くのだった。
こうして海を進む事数時間。ようやく三人は鎮守府の港へ辿り着いた。そこは陸上にポツンと建物が二つ三つほど建てられただけの小さな島であった。
「はぁ、ようやく戻ってこれたわ……」
「生きて帰ってこれたのが不思議なくらいだね」
「ふむ。ところでお前達。この子達は何処へ連れて行けば良い?」
箒は蔦の籠に寝かされた四人を指差して聞く。
「向こうに修理ドックがあるわ、そこへ運んで。響、補給がてら案内してあげなさい」
「了解。五十鈴さんは?」
「私はあいつへの報告が必要なの、補給したら執務室に行くわ」
「そう、か……気をつけて」
「五十鈴だったか、私はどうすれば良い?」
「四人を運び終わったら貴女も執務室に来てちょうだい。詳しい説明に貴女が必要なの、行き方は鎮守府内に地図がいくつかあるからそれを頼りにして」
「分かった、ではまた後で」
「えぇ。響、お願いね」
「了解。こっちだよ、ついてきて」
「ここだよ。さ、皆を運びいれて」
修理ドックのある建物に到着した箒は、響の招きで中へ入る。そこには通常の物よりやや大きめの風呂が四つあった。
「ここに一人ずつ寝かせれば良いのか?」
「そうだよ。後は妖精さんが全部してくれるから」
(妖精?)
箒が不思議に思いながら四人を艤装を付けたままの状態で風呂ーーいや修理ドックに寝かせると、何処からともなく小人のような何かが数人現れて、ドックをうろちょろし始めた。そして力を合わせて四人から艤装を外し始めた。
「なるほど、この小人みたいなのが妖精か」
「……!妖精が見えてるのかい?」
「あぁ、見えてるが……そんなに珍しいのか?」
「うん。私達艦娘は、この子達ーー妖精との繋がりが不可欠なんだ。けど、妖精は常人には絶対に見えない。見えるとしたら、それは提督の素質がある人だけなんだ」
「つまり妖精が見えてる私は……」
「そういう事だね。さ、後は私と妖精さんでやるから、貴女は五十鈴さんのところへ行って」
「そうだな。では頼むぞ、響」
「了解……あれ?私名前は教えて……」
「さっき五十鈴と名前で呼び合っていただろう」
「あぁそっか。じゃあ貴女は?」
「……箒だ。篠ノ之箒」
「分かった。じゃあ箒さん、また」
「あぁ」
箒は五十鈴と合流する為修理ドックを出ていった。それを見送り、響はその場に一人座り込む。
(篠ノ之箒さん……彼女には妖精が見えていた。もしかしたら、これからの私達の力になってくれるかもしれない……)
「瑞鳳さん、隼鷹さん、龍田さん、文月。もうすぐだよ」
響はドックに寝かされた四人にそう優しく声をかけるのだった。
「さて、執務室は……と、ここか」
ドックを出た箒は、そのまま執務室へ直行した。あまり五十鈴を待たせるのも失礼だと考えたからだ。五十鈴の言っていた通り、内部に張られていた地図を頼りにして執務室前までやって来た箒は、早速中へ入ろうとドアをノックしようとした。その時、
『この愚か者が!!』
何かを叩く音が執務室内から響いた。同時にに何かが倒れる音も聞こえる。
(取り込み中か?)
『誰とも知れぬ輩に助けられただと!?馬鹿も休み休み言え!深海棲艦共と戦えるような奴など、貴様ら以外に誰かいるというのか!おめおめ逃げ帰って来ておいて、言い訳がそれか!?』
『五十鈴はこの目で見た通りの事を話してるだけよ……信じられなければ、本人から聞けば良いじゃない……!』
『貴様ァ!』
中から五十鈴の声ともう一人、男と思われる怒号が響く。そしてまた何かを叩く音。
『しかも勝手にドックを使いおって!いつワシが使用許可を出した!?』
『ドック使わないといけないくらいの重症たったのよ!?使用許可なんか待ってられないわよ!』
『貴様等の怪我なぞほっといても治るだろう!必要ないわ!』
『まだ分からないの!?そんなんで治るように五十鈴達の体はできてないのよ!』
『この、まだ言い訳を並べるかぁ!』
(……これは、そろそろ止めなければな)
五十鈴が危険と判断した箒は、意を決してドアをノックした。
コンコンコンーー
『誰だ、こんな時に!』
『っ、多分、五十鈴が連れてきた客よ……ここに来るよう伝えてたの……入って』
『貴様、勝手に……!』
五十鈴の許可が出たので、箒は室内へ入った。
「失礼するぞ」
室内に入ってすぐ、箒は室内の様子に渋い表情を見せた。
室内はきらびやかな装飾や調度品で豪華絢爛に飾り付けられ、正面の壁には誰とも知らぬ巨大な肖像画が存在感を示すように置かれている。床は高級と見てすぐ分かる絨毯が敷かれており、そこには顔を叩かれたのか頬が腫れた五十鈴が倒れていた。そして正面の机にもまた多くの調度品が置かれ、机の横には白い軍服を着た40代とおぼしき小太りの男が立っていた。
「五十鈴、大丈夫か?」
その男を無視し、箒は五十鈴に近寄る。五十鈴の周りは叩かれた際にぶつかってしまった為なのか、机の上に置かれていたのであろう書類が沢山散らばっている。
「えぇ、大丈夫……殴られただけよ、これぐらい何ともないわ」
「頬が腫れているぞ、早く治療した方がいい」
「お気遣いありがと」
「フン、化け物に治療だと?そんな物必要ないわ!どうせすぐ治るのだ、ほっといても問題なかろうて!ほれ、さっさと書類の続きをやらんか!」
軍服の男は喚き散らし、五十鈴の腕を掴んで無理やり立たせようとする。がそれは箒の手刀によって阻まれた。
「何をする、貴様ァ!このワシを誰だと思っている!?」
「部下の扱い方も知らんばかりか部下に仕事を押し付けるような、無能を地で行く哀れな男」
喚く男を箒はバッサリと切り捨てた。
「で、五十鈴。こいつは何だ?」
「これでも五十鈴達の司令官よ。親の七光りって分かる?」
「なるほど、それだけでよく分かった」
「そんな説明があるかァ!ワシはこの宿毛湾鎮守府司令官の亜道義治だぞ!ひれ伏せぃ!」
亜道という男は箒に向かって更に喚く。が箒は意にも介さず、未だ五十鈴を気にかけている。
「くそっ、このワシを散々無視しおってーーむ?」
と、亜道はふと箒の隅々を観察し始めた。そして観察が終わると舌なめずりをする。
「五十鈴、貴様はもう下がれ。ワシはこの女に話がある」
「はぁ?仕事はどうするのよ?」
「そんなもの明日で良いわ!とっとと下がれぃ!」
「はぁ……分かったわよ」
五十鈴はフラフラ立ち上がり、箒の横を通って執務室を出ていく。
「全く、いつもワシに口答えしおって……化け物が。貴様、とっととそこへ座れ」
亜道はブツブツ言いながら箒に座るよう促し、執務室備え付けのキッチンへと消えていく。心底イラッとしながらも、箒はそれを必死に隠しながら客用のソファに座った。
(目が眩しい……豪華絢爛過ぎて逆に酔うぞ……)ウップ
部屋の豪華さに箒が気分の悪さを覚えていると、亜道がキッチンからカップに淹れた紅茶を持ってきた。それを箒の前に乱暴に置く。そして自身もソファにドカッと座り込んだ。
「ふん、奴の客と言うが、貴様は何者だ?場合によっては……」
「貴様は部下を助けてもらっておいて礼の一つも出来ないのか?礼儀の一つも知らないとは、呆れるな」
箒の一言に亜道はたじろぐが、
「ふん、あれはワシが『使ってやってる』だけだ、部下などではない。故に礼など必要ないのだよ」
「なるほど、つまらん屁理屈か。聞くだけ無駄たったな」
箒は呆れた表情で出された紅茶を飲む。
「で、私が何者かだったな。一言で言えば、私は深海棲艦の敵だ」
「ほぅ。ではあの数の深海棲艦を倒したというのは貴様の事か」
「そうだ」
「なるほどなるほど。ならば聞こう、ワシらと共に奴等深海棲艦と戦わんか?一人でずっと戦い続けるのはちと無理があろうて」
「断る」
亜道の誘いを箒は速攻で断った。
「何故だね?ワシらと共に戦えば、すぐに奴等などこの世界から駆逐出来よう」
「残念だが、私は信用出来ぬ者の近くで戦う気はないのでな」
「何?貴様、ワシが信用出来ないと言うのか?」
「出来ん。そもそも彼女達に対する扱いも雑を通り越して下手くそな奴の下でなど、私は戦いたくない」
「ハッ、化け物の扱いなどあれで充分よ!むしろワシらに使ってもらえる事を奴等は感謝すべきだ!」
「なるほど。ならばますます貴様と共に戦うのが嫌になった」
箒は非常に不機嫌であった。あまりにも自分勝手で、かつ自分こそ正しいと思い込んでいる目の前の男に、箒は嫌悪感しか沸かなかった。
「貴様、もしやあの化け物共に情が沸いているのではあるまいな?」
「情?」
「知らぬようだから教えてやる。奴等は深海棲艦と同じ化け物よ。人間の姿をしていようとも、その中身は人間とは違う。やろうと思えばワシら人間など一捻りできる化け物よ。そんな奴等を、何故ワシら人間と同等に扱わねばならん?」
箒は亜道の言葉を静かに聞き、そして考えていた。
「フッ、ワシの正論に言葉も出んか。まぁあんな化け物に情の沸く阿呆だ、理解できる筈もないか」
亜道が得意げにしていると、
「ならば一つ聞いて良いか?」
ここで箒が口を開いた。
「フッ、今のワシはすこぶる機嫌が良い、なんでも答えてやるぞ?」
亜道のその言葉に、箒はため息を吐きながらこう問い掛けた。
「もし仮にあの者達が化け物だとしよう……それならば、その化け物を好き勝手に扱える貴様等は、あの者達と同じ化け物ではないのか?」
いかがでしたか?質問、意見は常時受け付けてますのでジャンジャン送って下さいね。