元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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 第十九話、箒sideです




絡まれまして

 「貴様!僕と演習で勝負しろ!」

 

 開口一番。目の前に立つ男は決めポーズをしながら箒を指差して高らかに言った。男の背後には数人の艦娘が控え、敵意を露にしている。一方箒の表情は明らかに苛立っており、文月に至っては「フーッ」と猫の威嚇のように髪を逆立てている。

 周囲の提督や艦娘は野次馬となって興味深そうにその様子を観察し、箒の向かいにいた中川は頭を抱えていた。

 

 この状況になるには、時間を三十分程巻き戻さねばならないーー

 

 

 

 

 

 遡る事三十分前。

 

 「……」

 「むぃ~」

 

 箒達三人が泊まる部屋に来客があった。定藤と中川、そしてピンク色の髪に水色の長袖服とセーラー服の艦娘である。定藤は部屋に上がるや否や、そのピンク髪の艦娘に文月の諸々を念入りにチェックするよう命じた。最初文月は怖がっていたが、箒が手を繋いであげたお陰で今はリラックスしている。

 

 「明石、どうだい?」

 「もうちょっと待って下さいねぇ~。まだ全部見れてないんで」

 

 定藤に明石と呼ばれた艦娘は、文月の頬をムニッと引っ張って観察している。他にも腕や足を触ったり、血や皮膚を採取して比較用の検体と比べてみたりしていた。明石の艤装は世話しなく稼働し、明石の作業をサポートしている。やがて明石は「ふぅ」と息を吐いて作業の手を止めた。

 

 「んー、やっぱり身体は一般的な個体と変わらないですかね~。血も皮膚も私の保管してる検体と変わりありません。こんな娘が深海棲艦化しているとは考えにくいですね」

 「けど演習の時に身体や艤装の一部が深海棲艦のそれになってたのは貴女も見たでしょ?それでいて深海棲艦になってないのはおかしくないかしら?」

 「そうなんですよね、妙な話です。となると……文月ちゃん、ちょっと艤装を見せてくれない?」

 「うん、良いよぉ」

 

 文月は艤装を簡易展開して身体から下ろし、その場に並べた。と、素早く明石の手と明石の艤装のクレーンが伸びて文月の艤装を持ち上げ、ちょっとずつ解体していく。

 

 「あー!文月の艤装がー!」

 「あー、大丈夫大丈夫。終わったらちゃんと元に戻すからね」

 

 明石は文月を宥めながら艤装のパーツを一つ一つ丁寧に検査する。主砲や魚雷管、それに爆雷ホルダーなど、艦娘の艤装を構成する様々なパーツを念入りにチェックしていた。こうして検査する事十分。

 

 「駄目だ、艤装も特に問題なし。何の情報も出てこないなんて……」

 

 結局艤装を解体しても何も出てくる事はなく、頭を抱えながら明石は文月の艤装を元のように組み直して返却した。そして検査内容を逐一レポートに纏めていく。一つの抜けもなく、綿密に。

 

 「うーん、余計に分かんなくなっちゃった。身体に影響なし、艤装にも異常なし。となれば後は何だろう……?」

 「数ある明石という個体の中でも飛び抜けた解析力を持つ、大本営所属の貴女でもこれを解明出来ないのね……」

 「仕方ありませんよ、中川大将。そもそも情報が少なすぎるんです、手探り状態からのスタートなんですから」

 

 レポートを読み返しながら明石は唸る。艦娘を形成する身体と艤装は隈無く調べ尽くした。しかし異常も影響も全くなし。となれば他に考えられるものは無いだろうか。

 

 「せめて文月ちゃんが狂化した際の事を思い出してくれれば、それだけで一歩進みそうなんですが……」

 「ん~、まだ思い出せないのぉ」

 「これですもんね」

 

 文月を撫でながら明石はため息一つ。

 

 「唐突に改二になったのも驚きですけど、それは既に改二に改装できる練度だったと考えるとあり得ない話ではないんですよね」

 「実例があるのか、明石?」

 「はい。特に四大鎮守府の娘達は半分以上がその類いで、戦闘中に突如改二になってます」

 

 「そうか……文月、何か思い出せる事はないか?どんな小さな事でも良い、何かないか?」

 「んーとねぇ……」

 

 箒に聞かれ、文月はうんうん言いながら考えている。と、文月は何か思い出したような顔になった。

 

 「しれーかん、あのねぇ……声が聞こえたの」

 「声?どんな声だ?」

 「んとねぇ、あたしみたいな声だったの。何て言ってたかは分かんないけど……」

 「声、か」

 

 声。文月にしか聞こえないという声。誰の声なのか、何を伝えたいのか、何故文月にしか聞こえないのか。どれも答えは出ないまま更に疑問は増えていく。箒達もうんうん唸り始める。と、「グゥゥゥ~」と誰かのお腹の鳴る音が聞こえた。

 

 「しれーかん、あたしお腹空いちゃった……」

 「む……もうお昼前なのか。元帥、一先ずここで切り上げませんか?」

 「そうさね、ずっと唸ってても何も動きゃしないしねぇ。少し休憩といこうじゃないか」

 

 すると部屋のドアがノックされた。

 

 「神通です。定藤元帥はおられますか?」

 「あたしはここにいるよ。どうかしたのかぇ?」

 「元帥にお客様です。至急お戻り下さいますよう」

 「はいよ。中川、篠ノ之少佐、私は一旦これで失礼するよ。明石、引き続き文月の検査を任せたよ」

 

 定藤はそう言うと神通と共に行ってしまった。その場には箒達四人が取り残される。

 

 「しれーかん、ご飯食べよぉ~」

 「そうだな、私も腹ペコだ。中川大将と明石もご一緒にいかがですか?」

 「私は構わないけど……明石、貴女は?」

 「私も大丈夫ですよ~」

 

 四人は連れ立って食堂へ向かう。その道中、中川はずっと箒と文月を交互に見ていた。

 

 (……一体何をしたらこんな化け物みたいな駆逐艦が完成するのかしら。それに元帥がスカウトしたって言うこの一般上がりの小娘……一体何を考えて提督をやっているのかしらねぇ、読めないわ)

 「何か?」

 「……貴女、一つ聞いて良いかしら?」

 「何でしょうか?」

 

 中川は箒に鋭い目線を向けながら聞いた。

 

 「率直に答えて。貴女、『艦娘』ってどう思ってる?」

 

 箒の目の前に立ち塞がりそう聞く中川の目は真剣そのものだった。

 

 「どう思ってる、とは?」

 「そのままの意味よ。元一般人として艦娘と交流して、貴女は何を思ったのかしら?」

 

 箒はそう聞かれて考え込む。中川は真剣に、文月と明石はやや心配そうな表情で箒の答えを待つ。少しして、ようやく箒が口を開いた。

 

 「……まだ私はーーいえ私達は、艦娘の事を一割も知らないな、と思いました」

 「へぇ……それは何故かしら?」

 「曖昧なんです。艦娘がどういう存在であるのか……人間と同じだと言う人もいれば、兵器と同じだと言う人もいます。人間なのか、はたまた兵器なのかーーそこの境界線が曖昧なんです」

 「具体的には?」

 

 中川は更に踏み込んで聞く。

 

 「彼女達は、見た目は何処にでもいる普通の女の子、ないしは女性です。だから普通に街中を歩いてても艦娘とは気付かれにくいでしょう。しかし内包する力は人間のそれとは明らかに違う。普通の成人男性でも苦労するような重たい物でも、彼女達は楽々と運べる。どんな重傷でも、ドックに入ればあっという間に元通り。そして何よりーー深海棲艦という化け物相手に悠然と立ち向かい、そして勝利を納められる。少なくとも人間と同じとは言いにくいですね」

 「成る程。では彼女達は兵器かしら?」

 「いえ、そうとも言いにくいです。確かに彼女達は兵器と言える物ーー艤装を装着出来ます。そしてそれを使って深海棲艦に立ち向かう事が出来ます。しかし彼女達には、命令する者に逆らう意志がある。それを伝える言葉を話せる。そしてーー私達に反旗を翻す事も出来る」

 

 中川達の表情が一瞬だけ青くなる。しかしあくまで冷静になって箒の論を聞く。

 

 「ただの兵器だと言うのなら、使える限界まで使い潰されて、使えなくなったらゴミ箱行き。それに対する文句など出る筈もない。しかし彼女達はそれに対して文句を言える。命令に逆らえる。最悪、人間を見捨てて深海棲艦とーーなどと言うのは考えすぎでしょうか」

 

 言い終わって箒が中川を見ると、中川はすっかり肩を落として「はぁ~……」とため息をついている。文月はビクビクしながら箒にしがみついており、明石は戦々恐々して箒を見ている。

 

 「えっと……中川大将?それに二人とも、一体どうした?私何かマズイ事を喋ったか?」

 「(……随分達観した娘だこと)はぁ……もう良いわ、充分よ。それで纏めると、貴女から見て艦娘とは何か?答えてみなさい」

 

 中川に問われ、箒は答えた。

 

 「艦娘とは『艦娘』という未開の種族なのでしょう。それ以上でも、それ以下でもない。今はそう結論付けて私自身を納得させてます」

 「そう……それが現時点での貴女の出した答え、という事ね」

 

 箒は小さく頷く。と、傍でしがみついていた文月が更に箒にしがみついてきた。涙目で箒を見上げて「見捨てないで」と必死にアピールしてくる。箒は文月をそっと抱き上げると、優しく頭を撫でてあげる。

 

 「大丈夫だ、私はお前達を決して見捨てたりはしない。決してな」

 「……ほんと?」

 「本当だ。たとえ何があろうと、お前は宿毛湾鎮守府のーー私の艦娘だ」

 「……ふぇ」

 

 文月は箒に抱き付いてグズグズ泣き出してしまい、箒は「よしよし」と文月をあやす。一見親子のようにも見える光景に、明石はほっこりとし、中川は「やれやれ」といった表情。そんな事を話していると、いつの間にか食堂に辿り着いていた。

 

 「ほら文月、食堂に付いたぞ。何でも好きな物を頼むと良い」

 「……ハンバーグ。トロトロが入ったの」

 「チーズ入りのやつだな、分かった」

 

 箒は文月を抱き上げたままいつものように注文を行う。やはりシェフ達からは嫌な視線を向けられるが、中川が一緒と気づくと慌てて営業スマイルになる。中川と明石も定食をそれぞれ注文し、揃って席についた。食前の挨拶も忘れず行い、食事を始める。

 

 「そう言えば明石。お前普通に食事しているが、私達のように色々言われたりしないのか?」

 「あー……私は大本営勤務で、普段からここを利用してるから、文句とかはあんまり。確かに私も艦娘ですけど、修理とか開発がメインの非戦闘員ですから」

 「そうか。やはり他の提督達からすれば、私達は異端なのだな」

 「異端とかで纏められるものじゃないと私は思うのだけど……」

 「あはは……」

 

 そんな会話をしつつ食事を続ける箒達。と、そんな彼女達にズカズカと近寄ってくる人物がいた。

 

 「叔母上!何故そいつと仲良く食事などしているのですか!そいつが私に対して行った事をもうお忘れになったのですか!?」

 

 全身包帯だらけのその男は中川と目が合うなり箒を指差して文句を言ってきた。男の周りにいる数人の艦娘も、箒に敵意を向けてくる。

 

 「忘れる訳ないでしょ。私が彼女といるのは、それに関して話をしていたからよ。分かったら戻りなさい」

 「しかし……!」

 「しかしも案山子もないの。これは命令よ」

 「たとえ叔母上の命令であろうと、今回は退きません。そもそもこの私を怪我させておいて、処分が厳重注意だけとはおかしくないですか!?」

 

 男はなおも退かず中川に食ってかかる。しかし中川は至って冷静に答える。

 

 「聞けば貴方、最近ここでのセクハラが問題になってるらしいわね。今回の処分もそれを鑑みての決定よ。貴方も私の後継者を称するなら、それなりの自覚を持ってほしいものだわ」

 「ぐっ……」

 「まったく……あら、そう言えば篠ノ之少佐には紹介してなかったわね。『蛭間征治(ひるませいじ)』、私の甥で階級は少将。和歌山鎮守府所属で、昨日貴女にセクハラして投げ飛ばされた男よ」

 

 中川は涼しい顔で男ーー蛭間を紹介する。明石は吹き出しそうな笑いを必死に堪えており、文月は警戒心を露に、箒はそれを宥めつつ蛭間に頭を下げている。最悪な紹介をされた蛭間はご立腹のようだが。

 

 「そんな自己紹介がありますか!明石も笑うんじゃない!」

 「貴方には良い薬よ。これを期に少しは大人になって欲しいものだわ」

 「ぐぐぐ……ま、まぁ良いです。今日は文句を言う為に来た訳ではないですからね」

 「だったら何の用なの?」

 

 中川が聞くと、蛭間は格好よく箒を指差して言い放った。

 

 「貴様!僕と演習で勝負しろ!」

 

 そして冒頭に戻るのであるーー

 

 

 

 

 

 「蛭間、何のつもり?元帥の命令で、篠ノ之少佐及び彼女の連れた艦娘への接触は一部の提督を除いて禁じられてる筈よ」

 「そんなの関係ありませんね!私はこいつに酷い目に遭わされたんです!しかも私が被害者なのにこの仕打ち!これくらいの我が儘が通っても良いでしょう!?」

 

 何を言っているのかさっぱり分からない。箒達の表情はまさにそれであった。中川は再び頭を抱えてため息一つ。蛭間の後ろからは艦娘達が「そーだそーだ!」だの「提督の言う通りだー!」と訳の分からない肯定をしている。

 

 「はぁ……ルールは決めてあるの?貴方は一艦隊分艦娘がいるけど、篠ノ之少佐はそこまで連れて来てないわよ?」

 「大本営に余ってる艦娘で補填すれば良いでしょう?それなら演習も出来るし、大本営で着任を待っている艦娘達の練度上げも出来る。一石二鳥じゃないですか」

 「元帥の許可は取ってあるの?いくら非公式とは言え、許可なくして演習はーー」

 「面白そうじゃないかね」

 

 食堂の入り口からの声に箒達が目を向けると、定藤が「良い事を聞いた」というような表情で立っていた。

 

 「元帥……」

 「篠ノ之少佐、お前さんの所は出撃はともかく演習はまだ未経験だろう?なら今の内に慣れておいた方が良い。今後も練度上げを進めていくというのなら尚更ね」

 「どうだ?元帥の許可も出た、ここまで来て断るなんて事はしないよなぁ?」

 

 蛭間の含み笑いに箒は嫌な予感を覚えた。しかし仮にも相手は上司。しかも定藤は許可を出した。断る事は難しいだろう。

 

 「……分かりました、お受けします」

 「素直でよろしい。では後程演習場にて」

 

 そう言うと蛭間は艦娘を連れて鼻歌混じりに食堂を出ていった。蛭間がいなくなると、箒と中川は揃ってため息。

 

 「……私の甥が重ね重ね迷惑掛けるわね、篠ノ之少佐。それにしても元帥!何故許可を出したのですか!」

 「ん?まぁ先に言っていた通りさね。篠ノ之少佐には演習というのがどんなものか肌で感じてもらいたいのさ」

 「本当にそれだけですか?何か企みでもあるのでは?」

 「まさか。本当にそれだけさ」

 

 定藤はそう言うと箒に向き直った。

 

 「さて、篠ノ之少佐。少佐には申し訳ないんだけどねぇ、昨日の間に大本営に残ってる艦娘を幾ばくか大将達の鎮守府に振り分けてしまってね、もうあまり数が残ってないんだよ。幸い一艦隊は編成出来るけど、実質一択になるよ」

 「はぁ……分かりました、その艦娘達に会わせてもらえますか?」

 「はいよ。じゃあちょっとこっちにおいで」

 

 定藤に招かれて箒達は工廠へと向かう。

 

 

 

 

 

 工廠では多くの職員や妖精が世話しなく動いていた。戦艦用であろう巨大な主砲や潜水艦用に作り替えられた魚雷発射管、ソナーや電探があちらこちらに置かれている。

 

 「立派ですね、うちの工廠と違って。見た事もない物ばかりだ」

 「そりゃそうですよ、大本営の工廠にはありとあらゆる艤装が集まります。中には試験運用中の物だったり、新型が混じってたりするんですよ!それを間近で見ると本当ワクワクします!」

 

 明石が得意気に説明する。定藤はというと、近くを歩いていた男性職員に声をかけて何かを伝えていた。職員は急いで工廠の奥へと走っていく。するとその職員は奥から六人の艦娘を連れて戻ってきた。

 

 「篠ノ之少佐、この六人が今残ってる艦娘だよ」

 

 箒の前に横一列に並び、揃って敬礼をする艦娘達。疲労している様子はなく、至って健康そうだ。

 

 「潜水母艦『大鯨』です……どうか、よろしくお願い致します」

 「迅鯨型潜水母艦一番艦『迅鯨』です。よろしくお願いします」

 「同じく二番艦『長鯨』です!よろしくお願いします!」

 「『初雪』……です。よろしく」

 「んぁ~……『望月』で~す。よろしく~」

 「あの……その……綾波型駆逐艦の、『潮』です……えっと、もう下がっても良いでしょうか……?」

 

 「皆、よろしく。私は宿毛湾泊地の篠ノ之箒だ。ところで今回呼び出された経緯は何となく分かるか?」

 「あ、はい。何でも、私達居残り組で演習を行うとか……先程職員さんが話してくれました。それで一時的に貴女の下に入る、と……元帥、間違いありませんか?」

 

 代表して迅鯨が遠慮気味に発言する。

 

 「ん、それで問題ないよ。篠ノ之少佐は一般からの着任でまだ知らない事が多い。お前さん達、しっかりサポートしておくれ」

 『はい!』

 「元帥、サポートする側は私なのですが……」

 「それじゃあたしはこれで。少佐、編成が決まったらこの用紙に書いて提出しておくれ。あたしはいつものように執務室にいるからね。明石、彼女達の装備は少佐と話し合って決めておくれ」

 「分かりました!」

 「元帥、流石にスルーは……」

 

 定藤は用紙を一枚と艦娘達のデータが記されたファイルを箒に渡すと、手を振りながら工廠を出ていった。箒は頭を抱え、明石は苦笑い。と、中川も踵を返した。

 

 「私もこれくらいにするわ。あの子のセコンドに入らないといけないからね」

 「はい。ここまでありがとうございました、中川大将」

 「……また機会があれば、私の艦娘とも演習出来れば良いわね」

 「その時を楽しみにしています」

 「……可愛げのない娘だこと」

 

 中川はボソリと呟いて工廠を後にした。中川がいなくなると、箒は改めて六人に向き直った。

 

 「さてと……まずはお前達の事を知らなければならんな。駆逐艦三人は大体分かるが、潜水母艦とは聞いた事がないな」

 

 基本的な艦種は五十鈴の授業で習ったが、潜水母艦は説明されなかったので箒には分からない。それを聞くと、今度は代表して大鯨が進み出た。

 

 「潜水母艦は、簡単に言えば潜水艦のサポートが主の艦になります。潜水艦は艦の性質上、最低限の量しか武装や食糧を載せられないんです。私達潜水母艦は、そんな潜水艦への補給が出来る艦なんですよ」

 「ふむ。つまり三人は本来なら潜水艦とセットで運用すべき艦なのか」

 「そういう事になりますね。ですが現状、潜水艦は潜水艦のみでの運用で事足りる状況が多く、私達の出番はほとんどありません……」

 

 大鯨達はションボリ。活躍出来る場が無いというのは、艦娘からすればかなりの苦痛とも言えるだろう。

 

 「載せられる装備は?」

 「自衛用に小口径の主砲は積んでますが……後は副砲や偵察機、機関部強化系の装備や潜水母艦専用の装備くらいですね。他にもありますが、主な装備はそれくらいです」

 「機関部強化と言うと……タービンか?」

 「そうです、一つ載せておけばそれだけでも機動力が高くなります」

 

 箒は「そうか」と短く返すと、受け取っていたファイルを開いた。ファイルには大鯨達六人のデータが事細かに書かれており、ご丁寧に運用法や装備の内容、練度まで記されていた。練度は望月が14で六人の中では最大、次いで大鯨の10、他は軒並み一桁だった。

 

 「さて、何に重点を置くべきか……ん?」

 

 考え事をしていると、背後に誰かの気配を感じ、箒は振り向く。そこには茶色みのあるショートボブの黒髪にヘッドギアを付けた小柄な艦娘が何かが書かれた用紙を持って立っていた。

 

 「お前は?」

 「はい。私は装甲空母『大鳳』と申します。蛭間少将の遣いとして参りました」

 

 箒に似た真剣な表情をしながら、大鳳はそう挨拶して持っていた用紙を箒に差し出した。

 

 「これは?」

 「今回の演習における私達和歌山鎮守府の艦隊構成を記した物です。蛭間少将が貴女にお渡しするようにと」

 「そうか、態々すまないな。では拝見させてもらう」

 

 箒は用紙を広げて内容を確認する。

 

 

 

 和歌山鎮守府 演習参加艦娘

 

 旗艦 霧島改二 練度86

 

    日向改二 練度83

 

    陸奥改二 練度86

 

    比叡改二 練度85

 

    大鳳改 練度78

 

    天城改 練度80

 

 

 

 用紙には艦隊構成だけではなく、ご丁寧に彼女達の装備まで書かれている。流石におおっぴら過ぎではないかーー箒は疑問に思い、大鳳に尋ねた。

 

 「良いのか?事前にこんな物を私達に見せて。これでは対策して挑みに来いと自ら言っているようなものだろうに」

 「ご心配なく。そのような事で負ける程ショボい鍛え方はしておりません。特に私達空母は、舞鶴鎮守府の赤城さんに鍛えて頂きましたので、そうそう負ける事はありません」

 

 大鳳は自信満々に語る。それだけ実戦を重ねてきたのだろう、彼女の言には重みがあった。

 

 「……分かった、ありがたく使わせて頂く。蛭間少将によろしく伝えてほしい」

 「承りました。それでは私はこれで」

 

 綺麗な敬礼をして、大鳳は駆け足で工廠を出ていった。箒は大鳳から受け取った用紙を見ながら考え事をしている。そして駆逐艦三人を呼んだ。

 

 「望月、初雪、潮。お前達三人は対空はどうだ、得意な方か?」

 「んぁ……あたしは対空演習した事あるからそれなりには出来るよ~。けど練度低いし、あまり期待はしない方が良いかな~」

 「……同じく、私も」

 「あの、その……私も、です……」

 

 箒はそれを聞くと「そうか」と一言、そしてまた用紙に目を落とす。すると何を思い付いたのか、明石を呼んで何か耳打ちした。

 

 「大マジでやるんですか?はっきり言って勝てる要素一つもないですよ?」

 「あぁ、その通りだ。万に一つも勝てる要素はない。だからこその彼女達の装備でもある。私は考え方を変えてみる事にした」

 

 箒の真剣な表情に、明石も「……分かりました、準備します」とため息をつきながら工廠の奥へと消えていく。呆れてはいるが、足取りが軽やかなので内心ワクワクしているのがバレバレだ。と、おずおずと大鯨が進み出て箒に話しかけてきた。

 

 「あの……私達、この演習に勝てるとは思いません。今からでも棄権するというのは……」

 「それは無理だろうな。蛭間少将がそれを聞いてくれるとは思えん」

 「しかし……私達がこの演習に負けたら、貴女の名誉に傷を付けてしまいます。私達にはそれが耐えきれません……」

 

 すると箒は大鯨の肩に手を置いて言った。

 

 「大鯨。私はな、名誉・名声がほしくて演習をするのではない。ましてや勝利する為に演習をする訳でもない」

 「え?」

 「私はな、お前達艦娘の事をよく知る為に演習をするのだ。お前達がどのような特性・特徴を持っているのか、どんな欠点・弱点を持っているのか。それを理解する為の演習なのだ」

 「は、はぁ……」

 「口では理解出来ずとも、実際にこの目で見れば理解出来る事がある。私は一般上がりの素人だからな、誰よりも多く艦娘の事を知らねばならん」

 

 更に箒は「それと」と付け加えた。

 

 「戦いというのはだな、ただ漫然と勝てば良い訳ではない。勝ち方にも色々あるのだ。まぁ私を信じて演習に臨むといい」

 

 そう言う箒の表情は不敵で、何か企んでいるようだった。

 

 

 

 

 

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