元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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臨時演習(前)

 

 演習場は静まり返っていた。単独演習の時の喧騒は何処へやら、今は観客席に座る提督や艦娘の一人として声の一つ発さず、演習場を見つめている。彼らの目線の先には、演習の準備をしている蛭間達和歌山鎮守府の面々の姿があった。

 

 「良いかお前達。徹底的に敵を潰せ。練度、経験、装備、どれを取っても私達の方が圧倒的に上だ。私達の実力を、今この場に集まった提督や艦娘、そしてーー対戦相手の奴等に見せつけてやるんだ!」

 『はっ!』

 「うむ、良い返事だ。霧島、演習での大まかな動きはお前に一任する。旗艦として存分にその頭脳と手腕を振るってこい」

 「お任せ下さい。この霧島、提督に完璧な勝利をお届けします」

 

 今回旗艦として演習に参加する戦艦『霧島』が模範とも言える綺麗な敬礼で応える。他の艦娘も同じように敬礼した。

 

 「よし!では私は待機場から観戦している、しっかりやってこい」

 

 蛭間は高らかに言うと、待機場へ歩いていった。彼と入れ替わりに、霧島達の元へ六人の艦娘が歩いてくる。六人は霧島達の前に綺麗に整列し、揃って敬礼する。

 

 「え~と……今回旗艦になった望月で~す……よろしく~」

 「よろしく……あら、かの少佐殿は不在なのかしら?」

 「もう待機場に行ってま~す。もう演習での大まかな指示は受けてるので~」

 

 伸びやかな口調で話す望月。やる気の無さを具現化したような彼女に霧島の頭には青筋が浮かぶ。が、それを隠して話を続ける。

 

 「そうですか……しかしよく少佐はこの演習を受ける気になりましたね。勝てる要素など一つとして無いのに」

 「あ~……あの人も同じ事言ってた。練度や経験考えればまず勝てない演習だって」

 「あら、分かってらっしゃるのね。勝てる演習ではないと。ですが……だからと言って私達は手を抜くつもりはありませんよ?」

 

 鋭い目で望月を睨む霧島だが、望月は涼しい顔。

 

 「だろーね。ま、やれるだけやってみるよ」

 

 そう言うと望月は他の五人を連れて演習の準備に入る。艤装をチェックし、動作に問題が無い事を確認した上で海面に降り立ち、一先ず演習場内をぐるりと回り始める。

 

 「あら、あらあら……完全にこの演習を捨てる気でいるのかしら?」

 

 その様子を観察していた霧島に後ろで待機していた陸奥が話し掛ける。

 

 「十中八九そうでしょう。先程司令も言ってましたが、練度、経験、装備。どれを取っても私達が上。勝てないのは明白でしょう」

 「まぁそうよね。ま、気楽に行きましょ」

 「はい。比叡お姉様と天城さんもよろしくお願いします」

 「勿論!司令に良いとこ見せるんだから!」

 「はい。一空母として、最大限役目を果たさせて頂きます」

 

 比叡と天城はそう言って演習の準備を始め、霧島と陸奥もそれに倣う。そんな中、一人望月達を観察している艦娘がいた。

 

 「……」

 

 先程箒に演習参加艦娘の用紙を渡しに行った大鳳だ。望月達の動きを注視し、観察している。目線の先では、後方にいた大鯨がバランスを崩して転び、迅鯨が巻き込まれて転げていた。「ふえ~ん!」という声も聞こえる。

 

 「何か気になるのか?」

 

 それを見てか、唯一会話に参加していなかった日向が大鳳に声を掛ける。

 

 「いえ……ただ、何か違和感を感じてます」

 「彼女達にか?」

 

 大鳳は望月達に目線を向けたまま首を横に振る。

 

 「彼女達は気にするまでもないですが……問題は、彼女達を指揮する篠ノ之少佐です」

 「篠ノ之……ああ、最近元帥が直々にスカウトしたという一般出身の提督だったな。どうかしたのか?」

 「……日向さん、これから言う事はあくまで私の推測に過ぎません。心して聞いて下さい」

 

 いつもより鋭い目で話す大鳳に一瞬ビビる日向だが、取り敢えず頷き、心を落ち着けて話を聞く事にする。

 

 「恐らく篠ノ之少佐は、この演習……勝つつもりでいます」

 「何?」

 「少佐にメンバー用紙を渡して帰ろうとした時、少佐の話し声が聴こえてきたんです。曰くーー『勝ち方にも色々ある』と」

 「うむ、それが?」

 「少佐は、別角度からの勝利を目指しているのではないでしょうか?たとえば、B勝利ーー所謂戦術的勝利を狙うとか……」

 「まさか。彼女達は練度が軒並み低いのだぞ、B勝利ですら難しいだろう」

 「はい、あくまで可能性です。ですが……」

 

 大鳳はそこまで言って再び望月達を見やる。今度は最後尾の長鯨が転び、ドミノ倒しのように他の五人も転けてしまっていた。「ごめんなさ~い!」という声が聞こえる。

 

 「……見れば見るほどあり得ないと思ってしまうな。大鳳、お前は何を根拠にそう考えた?」

 「……篠ノ之少佐の目、でしょうか。何と言えば良いのでしょうか、戦闘中の私達に似たそれでした」

 「ふむ……まぁ気にかけておく事にしよう。大鳳、あまり考え過ぎるなよ」

 

 そう言うと日向も演習の準備に入った。大鳳も演習の準備に入る為艤装の準備をする。その反面目線は艤装ではなく、現在蛭間達がいるであろう待機場へ向いていた。

 

 (……何か嫌な予感がします。杞憂であれば良いのですが……)

 

 

 

 

 

 「……ふむ、まぁそういうものか」

 

 こちらは待機場。演習場全体を見渡せる特等席から、箒は望月達の様子を観察していた。艤装は異常なしのようだが、航行が見ていて危なっかしい。特にさっきから後方を進む潜水母艦の三人が何度も転けており、その度に「ごめんなさい!ごめんなさい!」という声が聞こえてくる。

 

 「大本営で置物状態で放置されて訓練が出来なかった影響か。さて、あれでどこまで食らい付いていけるやら」

 「本当にそう思ってるのかい?」

 

 その声に振り向くと、箒の後ろにはいつの間にか蛭間がいた。笑みを含んだその顔は、明らかに箒を見下していた。

 

 「本当に、とは?」

 「君だってわかってるんじゃないのかい?僕と君とでは、経験も練度も装備も劣っているという事がさ」

 「ええ、理解してますよ、充分に……それが?」

 

 平然とした表情で返す箒に内心イラつきながらも、蛭間は冷静を装って続ける。

 

 「はぁ……本当に君は馬鹿なんだね。やはり一般上がりだからか……いいかい?予め君には渡したし、さっきも言ったけど、僕の艦隊の練度は軒並み80くらいだ。それに彼女達が装備した物はどれも最新式の砲や艦載機。文句の付けようのない実力も持ってる。ここまでは分かるね?」

 「ええ、勿論。それで?」

 「対して君が指揮する艦娘はどれも練度が低く、尚且つ装備も大本営で野晒しにされていたジャンク品。整備したとは言え、それでも限度がある。隙どころか勝てる要素すら一つもない。であるにもかかわらず、君は無謀にも僕に演習を挑みに来た。ただただ無様に負けるのを、この観衆に見せる為にね」

 

 つらつらと語る蛭間を前に、箒は内心呆れていた。そもそも演習を挑みに来たのは蛭間からであり、立場的に断れないと見て箒は演習を承諾したのだ。それがいつから自分が演習を挑みに来た事に置き換えられているのだろうか。

 また艦娘や装備に関しても、箒は最低限の人数の艦娘と装備しかなく、逆に蛭間は謀ったかのように充実した艦隊を揃えている。

 この理不尽な有り様をどう表現すべきなのだろうか。箒はそんな事を考えながら、蛭間の自慢話を右から左へ聞き流していた。

 

 「つまり君はこんな無意味な演習を行わず、僕の前に屈して謝罪するべきなんだよーーねぇちょっと、さっきから聞いてる?」

 

 蛭間が気づいて問い掛けるが、箒は「聴いてますよ」と適当に応えておいた。するとまた蛭間の自慢話が始まる。また右から左へ聞き流しながら、その目線は演習場の望月達、そして同じように演習の準備をする霧島達へ向けている。と、

 

 「そのくらいにしておきなさいな」

 

 待機場のドアが開いて中川と定藤が入ってきた。箒と蛭間は素早く立ち上がり、入ってきた二人に敬礼する。

 

 「ほっほ。若いのは良いもんだねぇ」

 「自慢話は結構だけど、残りは後でゆっくり語りなさい。今は演習でしょう?」

 「失礼しました、元帥。そして叔母上。今日は僕達の研鑽の成果を存分に見ていって下さい」

 「ええ、しっかり見させてもらうわよ」

 「中川の教え子がどれだけ育ったか楽しみさね。どうだい、お前達も久々に演習してみてはどうさね?」

 

 定藤が後ろに向けて呼び掛けると、二人の艦娘が顔を出した。一人は目映い程に美しい焦げ茶色の髪に美しい程に白い肌、紅白のセーラー服といった見た目で淑やかな印象を受ける艦娘。もう一人はそれとは対称的に褐色肌の金髪で眼鏡を掛け、更にアレンジされた儀礼用軍服を着込んだ豪放磊落な印象を受ける艦娘。

 彼女達を見た時、蛭間は思わず「おぉ……」と口から感嘆の声が出ていた。

 

 「ご冗談を、元帥。私達二人が出ようものなら、ここに溜め込んである資材のほとんどを吹き飛ばしますよ?」

 「違いないねぇ。けど最近は訓練ばかりで退屈してるんじゃないかい?」

 「フッ……この武蔵、多少実戦に出ていないだけで鈍るような体ではないぞ、元帥よ」

 「大和に武蔵……大本営直属部隊が誇る最強の二角が観戦に……!なんと光栄な!」

 

 定藤はそれぞれ『大和』『武蔵』と呼ばれた艦娘と軽口を叩き合い、蛭間は感激のあまり涙が零れている。一方箒は顎に手を当てて二人を観察していた。

 

 (……練度は160ーーいや170くらいか?相当実戦を積み重ねてきたのだろうな)

 「それで元帥よ。そこにいるのが以前話していた新任の提督か?」

 

 と徐に武蔵が箒を指で差しながら聞いてきた。

 

 「そうさね、彼女がこないだから宿毛湾に着任した篠ノ之提督だよ」

 「ほう」

 

 武蔵が箒に近寄っていく。そして箒の前に立つと、徐に箒の腕や腹筋を触り始めた。

 

 「細身ながら随分鍛えているな。何かスポーツでもやっていたか?」

 「剣道をやっている。朝の素振りは日課だ」

 「ハッハッハ、それは良い。どうだ、いつか私と組手でもやらないか?」

 「止めなさい武蔵!」

 

 大和に諫められ、武蔵は「じ、冗談だ」と言って引き下がる。箒は迷惑そうな表情だ。

 

 「すみません、武蔵は血の気が強いもので……気を悪くしたのなら謝罪します」

 「いや、別に……」

 

 箒はそう言って顔を伏せる。

 この時大和は艦娘ーーしかも海軍では知らぬ者はいない大和型戦艦の武蔵から組手を挑まれた事に迷惑していたと考えているが、実は箒は武蔵と組手が出来る折角のチャンスを大和に止められた事に迷惑していたのである。まあそんな事は箒以外知る由もないが。

 

 「まったく……おや、そろそろ始まるようだね。では観てみようじゃないか?」

 

 定藤の言葉に、全員の目線は演習場に向けられる。

 

 

 

 

 

 「えー、それではこれより演習を開始致します」

 

 演習場のちょうど中央には蛭間の艦娘と箒が臨時で率いる艦娘が整列していた。二艦隊の間には、単独演習の際受付をしていた艦娘『大淀』が立ち、マイクを持って説明をしている。

 

 「勝利条件及び敗北条件等は通常の演習におけるルールに則って行います。また使用する弾や魚雷についても同様です。何か質問はありますか?」

 

 大淀が双方に問うが、双方共に質問は無く全員揃って首を横に振る。

 

 「分かりました、では両艦隊は所定の位置について下さい」

 

 大淀が指示を出すと、双方は大きく距離を取ってスタート地点に並ぶ。互いの艦隊の距離はおおよそ中距離。大淀も陸地に近い所まで下がり、双方が準備が済むのを待つ。そして待つ事数分、双方の陣営から準備が出来た事を示す信号弾がほぼ同時に上がった。

 

 「双方より信号弾を確認。演習を開始します!」

 

 

 

 

 

 

 

 「演習開始ですね……日向さん、天城さん、大鳳さん、お願いします」

 「任せろ」

 「天城、参ります!」

 「航空機、発艦!」

 

 霧島の指示を受け、空母と航空戦艦の三人が弓やボウガンを空へ向け放ち、艦載機を発艦させる。青々とした空を綺麗な編隊で飛んでいく艦載機。

 

 「さて、向こうはどう出てくるか……」

 

 それを見つめながら日向が呟く。

 

 「当然対空砲火くらいはしてくるでしょう。問題はその後です」

 「私達相手にどんな戦法を見せてくれるのかしら?まさか航空戦だけで終わり……なんて事はないわよね?」

 「それは無いと思いますがーー敵艦隊発見!これより航空攻撃を開始します!」

 

 そんな事を話していると、ギリギリ目視出来る地点に水柱が上がった。次いで艦載機の妖精から天城に通信が入ってくる。

 

 「こちら天城、現状報告をーーはい……はい、了解しました。一度戻って来て下さい、次いで第二陣を展開します」

 

 通信を終え天城は霧島に目を向ける。

 

 「第一陣の攻撃完了しました。あちらの被害は損害軽微1、小破3、中破1です」

 「思ったより向こうの被害が少ないですね……了解、引き続き第二陣の発艦準備をお願いします。比叡お姉様、陸奥。私達も動きますよ」

 

 霧島達戦艦も単縦陣で動き出す。その顔に決して慢心は無い。長年共に歩んできた蛭間に勝利を捧げる為、彼女達は歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 「お~、早速飛んできたね。初雪、潮、行ける?」

 

 空の向こう側から列を成して飛んでくる艦載機を見つけ、望月はいつもの口調で二人に聞く。

 

 「ん……大丈夫。訓練した通りにすればいける……多分だけど」

 「が、頑張ります!」

 

 初雪もいつも通りの口調で応え、潮はビクビクしながらも主砲を構える。

 

 「ん、分かった。大鯨さん達も大丈夫?作戦は頭に入ってる?」

 「は、はい……あの、本当に大丈夫でしょうか?」

 

 大鯨が心配そうに望月に聞く。後ろにいる迅鯨や長鯨も彼女と同じ表情だ。しかし望月は気にする様子もなく話す。

 

 「だーかーら……言ってたでしょ、あの人も。大丈夫だってさ。信じようよ」

 

 望月はそう言うとまた空に目線を向ける。敵の艦載機は目前まで迫っていた。

 

 「おーし、じゃあ作戦通りよろしくねぇ~。対空砲火、始め~」

 

 気だるげそうに望月が合図を出し、望月、初雪、潮の三人は一斉に対空砲火を始めた。一方その間潜水母艦の三人はひたすら回避行動。艦攻と艦爆、更に艦戦が次々と飛来し、六人を襲う。

 

 「さっすが実力のある人達は違うね~、なかなか落とせない……おっと」

 

 爆撃の雨や艦攻の魚雷を避けつつ、対空砲火を行う駆逐艦の三人。しかし練度の差を埋めるには至らず、次第に対応が後手に回り始め、徐々に被弾が増えている。

 やがて襲来した艦載機が去り、ふと望月が自身の艤装を見ると、演習用砲弾が当たっていたのか艤装が凹んでいた。どうやら避けきれずに被弾していたようだ。

 

 「ありゃ、いつの間に被弾してたみたい……おーい、皆は大丈夫かなぁ?」

 「ん……こっちは大丈夫。ちょっと被弾しただけ」

 「わ、私も大丈夫です!」

 

 他の二人にも通信で確認を取る。初雪も被弾したようで少し口調が重い。潮は大丈夫そうだ。

 

 「ん、二人はまだ大丈夫そうだね~。大鯨さん達は?」

 

 望月が呼び掛けると、少し間をあけて返答が来た。

 

 「こちら大鯨です。私は艦爆の攻撃を受けましたが損害軽微。ですが、長鯨さんが……その、迅鯨さんを庇って中破判定です……迅鯨さんも小破判定を受けました。ですが航行は問題ありません」

 「うぅ、ごめんなさい……」

 「そ。まぁ大破判定が一人も出なかったのが救いかなぁ……よぉし、次に行くよ」

 「……上手くいくでしょうか?」

 

 迅鯨が望月に聞く。正直なところ、迅鯨達潜水母艦の三人は、最初の対空戦闘において自分達は中破、ないしは大破してしまうだろうと思っていた。しかし実際は長鯨が迅鯨を庇って中破した事を除けば良い結果だ。

 とは言え依然不利なのは変わらない。こちらは幾分のダメージを背負って、反対に向こうは無傷のまま砲雷撃戦に入る。まず勝てる演習ではないのは誰の目で見ても明らかだろう。大鯨と長鯨も同様の考えなのか、心配した表情である。

 

 「んー、まぁ駄目だったらその時はその時。気楽に行こうよ、迅鯨さん」

 「……上手くいくなんて、思ってない。上手くいけば、ラッキー。私的には、それで良い」

 

 しかしそんな迅鯨達とは裏腹に、望月は涼しい顔。初雪は初雪で諦め顔。潮はと言うと相変わらずアワアワしており、落ち着きがない。

 

 「さぁて、次の艦載機が来る前に動くよ。皆、作戦通りによろしくね」

 

 望月を先頭に、彼女達は敵艦隊から距離を取るべく移動を試みる。陣形はスタート時の単縦陣から中破した長鯨と小破の迅鯨を囲うように輪形陣で行く。演習はようやく本番に移ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 「霧島さん、彩雲より通信です。あちらの艦隊が後退を開始しました。陣形は輪形陣です」

 

 その様子は大鳳が飛ばしていた索敵機『彩雲』によって把握されており、大鳳は速やかに霧島に報告する。

 

 「ええ、見えています。はっきりとね……比叡お姉様、陸奥、日向!砲撃戦用意!昼戦の間に仕留めます!」

 『了解!』

 

 霧島の号令を受け、戦艦達は一斉に主砲を望月達へ向ける。その艤装に乗るは、本来なら大和型戦艦に積まれる46cm砲。砲塔がガコンと大きな音を立てて旋回、望月達を捕捉する。

 

 「主砲、敵を追尾して……!撃て!」

 

 霧島のその声と共に、四人の戦艦の主砲が火を吹いた。凄まじい轟音と共に放たれた砲弾は、弧を描くように飛んでいき、後退する望月達の周囲に大きな水飛沫を上げて着弾した。

 

 「挟射弾です!直ちに修正を行います!」

 

 それを受け、直ちに動く霧島達。次に望月達がどう動くかを予測、砲塔の角度を素早く修正、そしてリロード。リロードでそれなりに時間を要したが、それでも素早く準備を整えた。

 

 「第二射、撃て!」

 

 そして再び霧島の号令で主砲から弾が放たれる。また弧を描くように飛んでいき、大きな水飛沫が上がる。

 

 「どうかしら?」

 

 陸奥が顎に手を当てながら様子を見る。水飛沫は収まり、段々と様子が分かってきた。

 

 「大鳳、向こうの様子は?」

 「……中破1、ですね。他はさっきと変わりません」

 「外しましたか……もう一度修正します。大鳳、天城さん、追加の策敵機を飛ばして敵艦隊の状況把握をお願いします」

 

 霧島は眼鏡をクイッと上げながら艤装の妖精達に指示を飛ばす。陸奥達も妖精に指示を出し、次こそ命中させんものとしている。大鳳と天城は策敵機を飛ばす。

 

 「私達の信頼する提督の栄華の為……貴女達には無様な敗北を与えましょう」

 

 霧島は眼鏡の裏にある瞳を鋭くさせた。

 

 

 

 

 

 「フッフッフ、順調に進んでいるな」

 

 演習の様子を観戦しながら、蛭間は満足そうに笑みを見せる。現状演習は誰が見ても蛭間の艦隊が優勢だ。箒の艦隊は初っぱなの対空戦闘以後は目立った動きを見せておらず、しかも被害が大きいのか早くも後退を始めている。

 もしここから接近を試みようものなら、霧島達戦艦の砲撃や大鳳達空母の攻撃が襲ってくる。しかも相手の艦隊は既に中破が二人。その状況での接近は不可能に近い、寧ろ自殺行為だろう。

 ふと隣に座る箒を見る。相変わらず彼女は目を鋭くして演習を観戦している。何を考えているかは分からないが、こんな状況でもまだ勝てると思っているのだろうか。

 次いで定藤達の方もチラ見する。定藤も中川も顎に手を当てて演習を観戦している。大和型の二人も同様だ。

 

 (私と私の率いる艦娘達の実力を今ここにいる提督達や叔母上、元帥に存分に見せつけよう。そうすれば私の地位や未来は安泰も同然……フフフ)

 

 心の中でそんな事を考えながら蛭間は観戦を続ける。

 

 しかしこの時点で既に、箒がとある策を望月に命じていた事を感づく者はいなかった。そして演習は更に進んでいくーー。

 

 

 

 

 

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