元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編) 作:神羅の霊廟
「ぺっぺっ……あー、海水飲んじゃった」
口元をゴシゴシ擦りなから望月がぼやく。先程の戦艦四人の砲撃で起こった水飛沫を顔に受けてしまったのだ。砲撃は直撃こそしなかったものの、六人を怯ませるには充分過ぎる威力だ。次は確実に当ててくるだろう。
「はーい被害報告ー」
「うぅ……大鯨、中破しちゃいました……ごめんなさい……」
大鯨の服は長鯨と同じようにボロボロになっていた。直撃こそ回避出来たが、痛い被弾だ。
「大鯨さん中破ねー。まぁ直撃で一発大破よりはマシかぁ。他は大丈夫?」
望月の気が抜けそうな口調の質問に対し、他の四人は「問題なし」という仕草で応えた。
「ん、了解。多分次は艦載機来るだろうから、初雪と潮は対空の準備しといて。大鯨さん達はまだ動けるよね?」
「だ、大丈夫です!」
「了解了解。んじゃ、行くよ」
望月達は輪形陣のまま再び後退を始める。
「ん……敵艦隊、再び後退を始めました。まだ健在のようです」
天城の報告に霧島の表情が曇る。霧島の計算ではこの演習、先程の三発目を放った時点で片が付いている筈だった。しかし現状、敵艦隊は中破2小破3損害軽微1とまだ健在だ。
「珍しいな。お前の計算に狂いが生じるとは」
「ええ……これ程までに計算の外れる時は今までありませんでした」
「どうする?このままこの位置から砲撃を続けるか、それとも接近を試みるか……」
日向に聞かれ、霧島は考え込む。確かにこのまま現状の位置から砲撃や航空戦を仕掛けるだけでも自分達は勝てるだろう。しかし蛭間が望んでいるのは完全勝利。敵に何の抵抗もさせる事なく蹂躙した上で勝つ事だ。ただバカスカと当たらぬ砲撃を繰り返すだけというのはナンセンスだろう。
「……敵艦隊との距離を詰めます。砲撃の命中率が低い以上、接近して確実に当てなければなりません」
「妥当だな。取り敢えず距離を詰めたら追加で艦載機も飛ばすか」
「お願いします。陣形複縦陣に変更、前進します」
霧島は陣形を複縦陣に変えて望月達への接近を試みる。先頭に大鳳と天城、次いで霧島と比叡、そして陸奥と日向といった風に並び、前進する。
「大鳳さん、敵艦隊の様子は?」
「変わりません、先程と同じように輪形陣でゆっくり後退しています。迎撃は無いと見て差し支えません」
「了解……最大船速で距離を詰めます!続いて!」
霧島の指示の下、六人は最大速で距離を詰めていく。戦艦や空母は駆逐艦と比べれば船速は遅く、本来なら全力で追い掛けたところで駆逐艦に追い付ける筈もないが、相手は現在比較的ゆっくりのペースで後退を続けている。ならば戦艦や空母の全速力でも充分追い付ける。
「敵艦隊、船速変わりません!」
「このまま一気に中距離まで詰めます!詰まり次第艦載機を飛ばして下さい!」
敵の状況の確認もそこそこに、霧島は更に指示を出す。全速力で行軍しつつ、大鳳と天城、空母の二人と改装航空戦艦という特殊な艦種となった日向が艦載機発艦の準備に入る。
「まもなく敵艦隊との距離、中距離に入ります!」
「了解!大鳳さん、天城さん、日向さん、艦載機発艦を!」
「はい!第二次攻撃隊、発艦始mーー」
その時、大鳳と天城の足元が爆ぜ、大きな水柱が上がった。
「んぉ……水柱確認。見事に当たってくれたね」
遥か遠くで上がった水柱を確認し、望月は鼻をフンスと鳴らす。やはり篠ノ之少佐に言われた通りに動いて正解だったとそう確信した。あの人は他の提督とは明らかに違う。
「命中……ぶい」
「や、やりました!」
初雪も水柱を確認してVサイン。してやったり、という表情だ。潮もまだオドオドしているが、表情は少し嬉しそうだ。
「ほ、本当に一矢報いたんですね……」
一方潜水母艦の三人はここまで上手く事が運んだ事に驚いている。潜水母艦は攻撃手段は精々小口径主砲での砲撃くらいで、それも駆逐艦にも劣る威力しか出せず、雷撃も出来ない。出来るとしたらあとは潜水艦のサポートくらいだった。それ故今までの自分達は潜水艦以外の艦娘と演習に参加した際は精々逃げ回る事しか出来なかった。
しかし今はどうだろうか。砲撃や艦載機の攻撃から逃げ回る事はいつもと同じだが、それは先程の一撃を確実に当てる為の策の一つ。そう聞かされた時は疑心暗鬼だったが、今は実感出来る。自分達は、きちんと役目を果たせているのだと。
「んー、ここからだと向こうの被害が分からないのがきついね~。まぁ当たっただけでも良しにするかぁ」
「これでまた逃げ回る時間を稼げる……それで良い、と思う」
「よーし、そんじゃまた逃げ回ろうかな。命中したら後は時間まで逃げ切れば良いって言ってたしね」
望月達はまた後退を始める。その間望月は考える。
(しっかし篠ノ之少佐は凄いねぇ……自ら提示した策が、こんなに綺麗に枠に嵌まるなんてさ。何もかも分かってたのかなぁ、提示した時点で)
望月の中での箒の評価は、『何処にでもいるような一般上がりの提督』から『数々の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の提督』へと大きくグレードアップしていた。
ふと望月は制服のポケットを探り、メモ書きを取り出す。そこには自分達がこの演習でどのように動くべきなのかを事細かに記してあった。
(……このメモ書き通りに進んでる。あの提督なら信じて良いかもね、これからの展開も)
霧島達は狼狽していた。何しろ先頭を進んでいた空母二人の足元で突然爆発が起こったのだから無理もない。空母二人の回りは煙で覆われ、目視での確認は出来ない。
「大鳳さん、天城さん、被害報告を!」
霧島が大声で呼び掛けるが、反応はない。安否確認の為、四人は急ぎ両腕で煙を振り払って二人を探す。と、さほど遠くない場所に二人を見つけた。爆発の衝撃で吹き飛ばされていたようだ。
「くぅ……!」
「大鳳さん!大丈夫ですか!?」
四人が大鳳に駆け寄る。大鳳の服と艤装は大きなダメージを受け艤装の一部は内部が露出している始末。近くには天城が倒れており、同じように服も艤装もボロボロだ。
「私は何とか中破で耐えられましたが、天城さんが大破……戦闘続行は不可能です」
「なんてこと……!一体何があったの!?」
「分かりません……突然の事で、私にも何が何だか……」
大鳳は比叡の肩を借りてフラフラと立ち上がる。天城は戦闘続行不可能と判断されたのか、待機していた救護班が担架に乗せて運ばれていった。それを見送り、霧島は歯噛みする。
「こんな……こんな事、私の計算では……!」
「霧島、どうするの!?航空戦力が減っちゃったら、向こうの艦隊倒すのも難しくなるよ!只でさえ主砲が全然当たってないのに!」
「落ち着け、比叡。霧島、どうする?接近を続けて中距離を維持しつつ攻撃するか、今いるこの位置から攻撃するか……」
日向に聞かれ、霧島は頭をフル回転させて考え込む。今回航空戦力は蛭間の意向で主に天城に重点的に乗せて演習に挑んだ。勿論大鳳や日向も艦載機を積んではいるが、天城程ではない。それが今、航空面において主戦力の天城が離脱し、戦力が大幅に減少する事態となった。こうなった以上、最早航空戦力で敵艦隊を撃破するのは無理と言っても良い。
ならば砲戦はどうかと聞かれると、こちらもまた霧島の計算において撃破出来る確率は低かった。何しろ演習開始から今まで命中率が異常に低いのだ。
おもむろに大鳳を見る。彼女は陸奥に支えられようやく立っている有り様だ。艤装はまだ動くだろうが、戦闘続行は難しいだろう。
悩みに悩んだ末、霧島は決断した。
「……現行の位置からの砲撃に変更します。これ以上の彼女達への接近は危険と見ました」
「そんな……!命中率低いのに、まだ遠距離から攻撃するの!?」
「恐らく……演習開始から今に至るまでに、既に私達の進行方向には第二・第三の罠が仕掛けられています。それを態々踏みに行く危険な行為は出来ません。それは私達を敗北へ導く悪手です」
霧島の言葉に比叡は黙り込む。確かに霧島の言う通り、あの罠を仕掛けるには相応の距離と時間が必要だ。自分達が攻撃し続けている間に、彼女達は必死になって罠を仕掛けていた。そう考えると既に自分達の周囲は罠だらけ、という事になる。
「これ以上の接近は逆に私達を追い詰めます。そうなれば……勝利すらも出来なくなります。幸い全体的な被害はあちらの方が大きいですから、このまま砲戦をするだけでも勝てはします。が……」
そこまで言って霧島は口をつぐむ。蛭間の前にて完全勝利を約束したにもかかわらず、この状況は非常に最悪であった。蛭間の期待を裏切ってしまった事に、霧島は涙を流す。
「……分かった。霧島がそう決めたのなら、私もそれを信じるよ。二人もそうでしょ?」
比叡がそう声を掛けると、日向も陸奥も静かに頷いた。そして肩を落とす霧島の頭をクシャリと撫でると三人は揃って前に出る。
「比叡お姉様……お二人も……」
「霧島は大鳳をお願い。日向、陸奥、当てに行くよ!」
大鳳を霧島に預け、三人は横一列に並び立つ。そして全主砲を望月達に向けた。完全勝利が出来ないのなら、せめて確実な勝利を掴もう。三人は目を鋭くして狙いを定める。
「……撃ちます。当たって!」
そして比叡の号令と爆音と共に、三人の主砲が火を噴いた。綺麗な放物線を描きながら砲弾は飛んでいき、敵艦隊付近で大きく爆ぜた。
「……彩雲より報告!敵艦隊大破2、命中しました!」
飛ばしていた彩雲からの報告を大鳳が三人に伝える。
「よし!このまま押し込むよ!」
比叡達は次の弾のリロードに入る。ようやく砲撃が命中した、ならばこれを逃さない手はない。追撃を掛けるべく、急ぎ次弾装填を進めていく。
「うぅ……ごめんなさい、油断しましたぁ……」
「後は頑張って下さい……すみません」
救護班に連れられて、服と艤装がボロボロになった大鯨と迅鯨が離脱する。三度後退の最中、敵の砲撃が潜水母艦の二人に命中、大破と判定された。これで益々不利のなった状況だ。
「う~ん、さっき命中したので気が抜けてたかぁ……気合い入れ直さなきゃなぁ」
「望月……次、もう来てる」
「え、もう?回避!」
残された四人が一斉に回避行動を取ると、四人の周囲が水柱に包まれる。それが収まり砲撃が来た方向を見ると、遠くに戦艦が三人並び立っていた。その後ろにぼんやとだが二人程見える。
「う~ん、一人姿が見えないなぁ。向こうも一人減ったかな?だとしたらラッキー」
「望月……早く後退する」
「はいはい、分かってるよ」
四人は改めて後退を始める。と、それを追い掛けるように今度は艦載機が飛んできた。しかしその数は最初よりも遥かに少ない。
「対空戦闘、始め~」
相変わらず気の抜けた声で指示を出し、飛来した艦載機を撃ち落としていく。今度はさほど苦労せず対処が出来、被害も抑えられた。
「はい終わり。後退を続けるよ」
望月がそう言ってまた後退しようとしたその時、
『演習終了です!双方共に撃ち方を止めて、艦載機は呼び戻し着艦準備に入って下さい!』
大淀の声が演習場に響き渡った。望月達の目は点になる。
「え?もう演習終わり?まだ時間とか余裕あるでしょ」
「篠ノ之少佐か、もしくは相手方の提督が止めた……んだと思う」
「お、終わりました……疲れた……」
潮と長鯨はその場にへたり込み、ふぅと息をはく。初雪はそんな二人に「大丈夫?」と声を掛けに行った。望月はというと不完全燃焼気味のようで、顔をムスッとさせていた。
見ると相手方の艦隊も大淀の声を聞くや否や艦載機を呼び戻して着艦させ、早々に引き上げていく。その表情は皆沈んでいた。
観客席もまたザワザワと騒がしい。やけにアッサリとした終了に怒号が飛び交い、望月達を蔑む声も聞こえる。しかし望月達はそれを気にする事もなく演習場を去っていった。
今回の演習の結果は以下の通りである。
和歌山鎮守府艦隊 篠ノ之臨時艦隊
霧島 望月 小破
比叡 初雪 小破
陸奥 潮 損害軽微
日向 大鯨 大破離脱
大鳳 中破 迅鯨 大破離脱
天城 大破離脱 長鯨 中破
B 戦術的勝利 C 戦術的敗北
「こんな……こんな事が……!」
待機場では、演習の結果に蛭間がワナワナと肩を震わせていた。蛭間の脳内ではこの演習、全くの無傷で完勝する筈だった。しかし蓋を開けてみれば思わぬ抵抗を受けたばかりか、大鳳の中破や天城が大破離脱するという全く想定していなかった事態が起きている。定藤や中川に良い格好を見せる筈が、最悪の赤っ恥という結果に終わってしまった。
その後ろでは定藤が「ほっほ」と笑い、中川はため息一つつき、大和・武蔵姉妹は予期せぬ結果に呆然としている。
「元帥、どうして切りの悪いあのタイミングで演習終了の旨を伝えたのですか?」
ふと中川が定藤に尋ねる。時刻はまだ15時半過ぎ、演習を終わるには早すぎる。しかし定藤は演習を終了させた。
「なんでってそりゃあ、あのまま続けてもどうせ結果は変わんなかっただろうしねぇ。続けるだけ時間の無駄さ。けど二人には良い薬になったろう」
「そうですか……しかし分からない事があります。天城達が第二次攻撃隊を出そうとした時のあの爆発……あれが演習結果を運命付けた、と言っても過言ではないでしょうが……一体あれは?」
「さぁ、何だったんだろうねぇ……篠ノ之少佐に聞けば何か分かるーーおや、少佐の姿が見えないねぇ」
演習観戦に集中して誰も気づかなかったが、いつの間にか箒の姿が待機場から消えていた。代わりに箒が座っていた場所にはメモ用紙が残されている。大和が手に取ると、「少し席を外します」とだけ書かれていた。
「……まぁ何も言うまいて。じきに戻ってくるさね」
定藤はため息をつきながら言う。と、ガチャリと待機場の扉が開いて、霧島と望月が入ってきた。
「お疲れ様だったねぇ、霧島や。望月もお疲れ様」
「……お疲れ様です」
「お疲れ様で~す」
沈んだ返事の霧島と、いつも通り伸びやかな返事の望月。望月が定藤の前まで来ると、定藤はその場にしゃがんで望月の頭を優しく撫でて労った。望月は少し恥ずかしそうだ。
一方霧島は未だワナワナしている蛭間へ近付き、深々と頭を下げた。
「申し訳ございません、提督!最初あのような大言を申しておきながらこの結果……お詫びのしようもございません!」
謝罪する霧島。蛭間から返答はない。と、
「申し訳ありません、今戻りました」
箒が戻ってきた。途端に蛭間が勢い良く立ち上がったかと思うと、ズカズカと箒に近寄り制服の襟を鷲掴んだ。
「蛭間!」
「提督!」
「篠ノ之箒!貴様一体どんな卑劣な戦法をとった!?一体あの駆逐艦共に何を吹き込み、どんな卑怯な手段を使った!?」
中川や霧島の制止も聴かず声を荒げて箒に噛み付く蛭間だが、箒は涼しい顔。反対に襟を掴む手を払いのけ、襟を正してから言った。
「卑劣?卑怯?ならばその言葉、目的に反した艦娘の運用をする提督達や外海で暴れる深海棲艦に対して言ってみれば如何ですか?」
「な……!?」
悪びれもせず平然と言ってのける箒に蛭間は一瞬たじろぐ。その瞳は、深海の底のように真っ黒だった。
「篠ノ之少佐、説明しておくれ。お前さんが一体、この娘達に何を命じたのか」
定藤が進み出て箒に説明を求める。今回の演習はあまりにも疑問点が多い。本来なら箒が率いた艦隊は圧倒的大差で負けて然るべきなのだが、彼女達は全滅を免れたばかりか敵艦隊に一矢報いて見せた。普通では考えられない事である。故に定藤はどんな方法で蛭間の艦隊に立ち向かったのか興味があった。
「何を、と言われましても……」
「お話中のところ失礼します。篠ノ之少佐はおられますか?」
箒が言い澱んでいると、神通と明石が待機場へ入ってきた。二人とも何か困ったような表情だ。
「どうした、神通?」
「それが、篠ノ之少佐が戻ってこない事を心配してか、文月ちゃんが泣き出してしまって……私達だけでは手に負えず……」
「わかった、すぐに向かう。案内してくれ」
箒は「失礼します」と一言定藤に言うと、急いで神通と共に待機場を飛び出していった。
「愛されてるねぇ、篠ノ之少佐は。艦娘に」
「はい。ですが演習の件ははぐらかされてしまいましたが……望月、明石、貴女達は何か知ってるんじゃないかしら?」
中川が尋ねると、望月が「まぁね」と言って話し始めた。
「篠ノ之少佐は今回の演習、対空を重視してた。空母の航空攻撃さえ凌いでしまえば、ちょっとでも油断しない限り他は然程苦にはならないって」
「苦にならない……それはつまり、戦艦の攻撃は対策はしてなかったと?」
「んにゃ、そうじゃないよ。対策しないんじゃなくて……対策は必要ないって言ってた。どうせ戦艦の攻撃はほぼ100%当たらないからって。そう言い切ってた」
と、それを聞いた蛭間が今度は望月へズカズカと近寄りその肩を掴んできた。
「当たらない、だと?しかもほぼ100%で……?何故彼女は……篠ノ之箒は何故、それが分かっていた!?答えろ!」
「お、落ち着いて下さい蛭間少将!」
明石が二人の間に割って入り、今度は彼女が説明を始めた。
「演習の前に、蛭間少将は大鳳さんに命じて演習に参加する艦娘と彼女達の装備のリストを届けさせてましたよね?」
「む……まぁそうだな。それが鎮守府同士の演習におけるルールだからな。勿論私も篠ノ之少佐から今回の演習に参加する艦娘と装備のリストを受け取っているが……それがどうかしたか?」
蛭間が尋ねると、明石は一瞬躊躇いの表情を見せたが、すぐにその表情を隠して話を続けた。
「彼女ーー篠ノ之少佐は、渡されたリストを一目見た後に何かメモを書いて望月ちゃんに渡してました。多分そのメモ書きに答えがある筈です」
「メモ書きだと?」
蛭間が望月に目を向けると、望月は「これでしょ」と言ってポケットからメモ書きを出して蛭間に見せた。蛭間は「貸せっ!」と言ってそれを奪い取り、メモ書きを読み始める。霧島も横からそのメモ書きを覗き込む。途端に二人の表情は驚愕と唖然に変わった。
「なんだこれは!双方の艦隊の行動パターンからその後の展開まで、全てあの演習で起こった事と寸分の狂いなく同じではないか!」
「そんな……全て見透かしていたというのですか、あの提督は……」
「あたしも最初は半信半疑だったよ。でも後退中にこっそり投げておいた魚雷がストライクしたので確信したよ、篠ノ之少佐は他の提督とは別の土俵にいるってね」
「魚雷……?天城さんと大鳳さんを襲った爆発は魚雷だったのですか!?」
霧島が更に驚いて尋ねてくると、望月は頷いて説明した。
「そだよ。霧島さん達の砲撃が着弾した時の水柱を壁にしてこっそり投げておいたのさ。勿論篠ノ之少佐の策でね。んであたし達は後退しつつ、投げておいた魚雷の射線上にそっちから近付いてくるよう仕向けただけ。でもラッキーだったね、あの魚雷で空母二人仕留められたのは」
「しかし本当に魚雷なら、いくら霧島達であっても気づく筈じゃないのかい?」
定藤が聞くと、望月は首を横に振って応えた。
「気づけない程に焦らせたんだよ。あたし達がひたすら後退と回避に集中してたのもその為。霧島さん達はあたし達を全滅まで追い込もうとしてた。だから攻撃がなかなか当たらなければ霧島さん達は焦って、確実に当てられる位置まで移動する筈……少佐はそう読んだんだって。まぁ航空攻撃は避け切れなかったけど」
「なら砲撃はどうなんだい?ほぼ100%当たらないというのは……」
「さぁ、それはあたしも知らない。でも少佐の事だし、何かしら根拠はあったんでしょ。明石さんは何か聞いてる?」
「あー……私もそれとなく聞いてみたんですが、答えてくれませんでした。でも確信のある表情でしたよ」
「……私達は、篠ノ之少佐によって良いように踊らされていた、という事ですか」
霧島はポツリと呟いて項垂れる。蛭間もフラフラと椅子に座り込み頭を抱えてしまった。声を掛ける者はおらず、部屋は静寂に包まれる。
「……しばらくそっとさせてあげようじゃないか。声を掛けて怒らせるよかマシさね」
定藤がそう言ってそそくさと部屋を出、後を中川、大和、望月、武蔵、明石が追い掛ける。蛭間と霧島だけになった部屋の中で、二人は静かに涙を流し悔しがるのであった。
今回より箒sideと牙也sideの投稿がランダムになります