元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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楽しき談話 めんどい因縁

 

 「ふぅ…」

 

 部屋の畳に敷かれた布団に文月を寝かせ、箒はようやく一息つく。先程まで「しれいかんどこぉ~」と顔をぐじゃぐじゃにして泣き叫んでいた文月を必死になってあやしていた箒。それがようやく泣き止み、泣き疲れたのか文月はそのまま眠ってしまった。泣きじゃくったせいか眼は紅くなっており、眠りながらも手は箒の着る軍服の袖を掴んで離さない。

 

 「やれやれ、疲れた。後は五十鈴からの定例報告を待つだけか」

 

 昼下がりの部屋、箒のそんな呟きが聞こえる。演習後の会議は恙無く終わり、神通は定藤の仕事を手伝うと言って何処かへ行ってしまった。お陰で残りの時間は丸々暇になり、箒は胡座をかいて頬杖を付きながら黄昏ていた。

 

 「ここを出るのは明日の昼あたりか。この三日間、本当に色々あったな」

 

 他の提督との顔合わせに始まり、文月が参加した単独演習、その最中に起こった文月の『狂化』への目覚め、食堂ではセクハラしてきた蛭間を投げ飛ばし、医務室で宿毛湾所属艦娘と雑談。並べるとなかなかカオスな内容だが、とにかく濃密だった。そして自分と他の提督達の艦娘に対する考え方の違いというものを思い知った。

 

 「出来る事なら、面倒事は避けたいものだがなぁ…私と他の提督とでは、明らかに考え方に違いがある。これが軋轢にならなければ良いが…いや、文月の事もあるしもう今更か」

 

 半ば諦めの表情で箒は独り言をブツブツ呟く。と、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

 「誰だ?」

 『多摩だにゃ。入って良いかにゃ?』

 「おぉ、多摩か。鍵は開いてるから入って良いぞ」

 

 箒がドアに向けて声を掛けると、「にゃあ」と言いながら多摩が入ってきた。後ろには天龍と龍驤もいる。

 

 「お邪魔するにゃ…って、文月寝てたのかにゃ」

 「あぁ。お前達は医務室にいなくて良いのか?」

 「出歩く許可は取っとるから大丈夫や。にしても…」

 

 龍驤が眠っている文月を覗き込みながら言う。

 

 「文月の事、職員達のひそひそ話で耳にした時はまさかと思うたけど、間違いないんやな。すっかり格好が様変わりしとるわ」

 「む、もう噂になっていたか。まぁあれだけ目撃者がいれば当然か」

 「うちらもびっくりしたで。文月が単独演習でいきなり改二になって、しかもとんでもないパワー発揮して横須賀の時雨を倒したなんてなぁ」

 

 龍驤はケラケラ笑いながら言い、その言葉に多摩と天龍も頷く。この三人も箒も単独演習を観戦していなかったので、それぞれが文月の事を聞いた時は酷く驚いたものだ。

 

 「文月の体の方は大丈夫なん?」

 「本人は特に不調とかは訴えてないし、一先ずは大丈夫だろう。暫くは様子見するつもりだ」

 「そか」

 

 龍驤は納得したような表情で頷き、箒にしがみついて眠る文月の頭を優しく撫でてあげた。天龍と多摩も文月に近づき頭を優しく撫でる。と、

 

 「…うみゅ?」

 

 可愛い声を上げて文月が目を覚ました。寝惚け眼をゴシゴシ擦り、ゆっくりと顔を上げると、龍驤と目が合った。

 

 「…龍驤、お姉ちゃん?」

 「しまった、起こしてもうたか。おはようさん、文月」

 「ふぁぁ…おはよぉ~」

 

 大きな欠伸をしながら、文月は龍驤にぎゅーっと抱き付いてきた。驚きながらも龍驤はそれを優しく受け止める。

 

 「おっとと…なんや、背丈伸びても甘えん坊なんは変わらんなぁ。つーかもう背丈抜かされたんちゃうかなぁ、これ」

 「同じくらいじゃないかにゃあ。あ、龍驤、次は多摩の番にゃ」

 「あ、ずりぃ!じゃその次は俺な!」

 

 多摩と天龍が騒ぐ。と、文月がようやく二人に気づいて、まずは多摩に抱き付いてきた。

 

 「猫ちゃんだぁ~…久しぶりぃ~」

 「だから多摩は猫じゃないって…やれやれにゃ」

 「ほな語尾を改めんかい」

 「多摩のアイデンティティーだから無理にゃ」

 

 軽口を龍驤と叩き合いながら多摩は文月をヨシヨシと撫でる。一通り満足すると、今度は天龍に抱き付いてきた。

 

 「天龍ちゃんもぉ~、久しぶりぃ」

 「おう!文月も元気そうで良かったぜ」

 「お怪我、大丈夫なのぉ?」

 「へへ、心配ねぇよ。怪我もだいぶ治ってきて、近い内にそっちに戻れる事になったからな!しかも、三人揃ってな!」

 「ほんとぉ!?良かったぁ!」

 

 三人が戻ってくる事が嬉しいのか、文月は更に天龍に引っ付いて甘え出す。

 

 「ほう、それは良かった。これで少しは戦力が充実するというものだ」

 「んー?それどういう意味や?」

 「私が宿毛湾に着任する前に、鎮守府が深海棲艦の襲撃を受けてな。その時は一人の轟沈も出さず何とかなったが、人員不足が浮き彫りになっていたんだ」

 「なるほどなぁ。宿毛湾は元々数が少なかったけど、うちら修理組や出向組を抜くと更に数が減るもんなぁ」

 

 龍驤はうんうんと頷きながら机に置かれた水のペットボトルを掴み、蓋を開けてそれを一気に飲み干す。箒も机の上に用意された竹細工の篭から煎餅を取り、封を開けて齧り付く。文月もお腹が空いたのか、箒に倣って煎餅を篭から取り食べ始めた。

 

 「おいおい、良いのかよ?それ提督用のお菓子だろ?」

 「私は別に構わんぞ。食べたいのならお前達も食べると良い」

 

 そう言って箒は煎餅を差し出した。天龍達は遠慮気味にそれを受け取ると、封を開けて食べ始める。一口齧ると、そこからは脇目も振らずに食べ始めた。

 

 「んで?新しい提督は、一体うちらに何をさせるつもりなんかなぁ?」

 

 徐ろに龍驤が箒にそう尋ねた。彼女の質問に、煎餅に夢中だった天龍と多摩も目線を箒に向ける。

 

 「あぁ。まず龍驤だが、隼鷹達空母の育成をリハビリがてら頼む。怪我が完治して早々申し訳ないがな」

 「あいよ。まぁ宿毛湾じゃうちが空母ん中で練度高いしなぁ、妥当やろな」

 「天龍と多摩もリハビリからだな。特に天龍。私の剣術を覚えたいというなら、万全な体調でスタートせねばならんぞ」

 「うえ~…早く戦場に立ちてぇのによぉ…」

 「お前が戦場で活躍する為のリハビリなんだ、我慢してくれ」

 

 天龍は「ちぇっ、分かったよ…」と不満そうに了承。多摩も小さく頷いた。

 

 「ただリハビリとは言ったが、多少駆け足になるだろう。私が着任してからずっと遠征と訓練ばかりやっているから、任務が山と溜まっているのでな」

 「なんや、任務進めてないんかいな。多少は進められたんとちゃうん?」

 「私は一般上がりの素人でな、提督の仕事については何も分からん。故に着任してしばらくは五十鈴から教育を受ける時間に費やしていたのだ」

 

 多摩と天龍は何の事やら分からない表情だったが、龍驤は「なるほどなぁ」と一人納得していた。

 

 「本来なら軍学校で習う事を、つい最近まで五十鈴の指導の下必死に詰め込んどったんやな。提督の業務の何たるかを理解した上で提督の業務を行う…なるほど、そら任務が進まん訳や」

 「その間は五十鈴や龍田に代理で鎮守府を運営してもらっていてな。たしか任務は提督である私でなければ受けられなかった筈だったか」

 「せや。提督がきちんと任務を受注せんといけん、うちら艦娘が任務受注しても達成した事にはならんのや」

 

 龍驤の説明に二人が「なるほど」という表情になる。(…お前達は知っていなくては駄目なのではないか?)というような表情でいると、机に置いていたスマホが鳴り、箒はすぐに電話に出た。

 

 「もしもし」

 『もしもし提督?五十鈴よ。定例報告するわ』

 

 電話の主は五十鈴だ。懐からメモ帳とボールペンを出し「頼む」と一言紡ぐと、五十鈴は今日の報告を始めた。彼女が報告してくる内容を逐一メモ帳に記していく。

 

 「ふむふむ…分かった、報告ありがとう。あぁそうだ、今龍驤達がいるんだが、電話を変わろうか?久々に声を聞きたいだろう」

 『あら、そうなの?じゃあ変わってくれるかしら』

 

 箒は「分かった」と言い、スマホをスピーカーモードにして机に置いた。

 

 『もしもし龍驤?聞こえてる?』

 「おー、聞こえとるで五十鈴」

 「多摩と天龍もいるのにゃ」

 「五十鈴ー、元気にしてるかー?」

 『えぇ。お陰様ですこぶる元気よ、他の娘達もね。怪我の具合はどうなの?』

 「だいぶ良くなったで。近い内に三人揃うてそっちに戻れるかもなぁ」

 『あら、良かったじゃない!貴女達が戻ってくるって知ったら皆喜ぶわ!』

 

 スマホの向こうの五十鈴は嬉しそうだ。共に戦う仲間が復帰するのは当然嬉しい事だろう。

 

 「せやから隼鷹達に伝えといてくれや、そっち戻ったらしこたまシゴいたるってな」

 『えぇ、伝えとくわ。隼鷹は渋い顔しそうだけど』

 「カカカ、すぐにその面から渋さが消えるわ。腕落としとったらどうしたろかなぁ…」

 『程々にね』

 

 五十鈴はスマホの向こうで苦笑している。と、スマホの向こうからガタガタと何かが動く音が聞こえた。そして「あら、起きたの?」という五十鈴の声。誰かが寝ていたのだろうか、と箒達が不思議そうにしていると、音の主と思しき人物の足音が聞こえた。

 

 『…てーとく?』

 「なるほど、その声は山風か。私達の声で起こしてしまったみたいだな、すまん」

 『…ん。五十鈴さんのお手伝い、してて…あたしは先にお手伝いが終わったから』

 『お疲れみたいだったから五十鈴が仮眠を勧めたのよ』

 

 山風は起き抜けのようで口調がトロンとしている。

 

 「そうか、お手伝いか。お疲れ様山風、大変だっただろう」

 『ん…大丈夫。てーとく、明日帰る、んだよね?』

 「あぁ。何もなければ明日の夜にそっちに帰る予定だ」

 『分かった…早く帰ってきてね?てーとくのご飯、恋しい、の』

 

 ご飯が恋しいとはどういう事か。箒が首を傾げていると、スマホの向こうて五十鈴がクスクス笑っていた。

 

 『いやね、会議の前日に貴女が五十鈴達に渡した料理のレシピ本あったでしょ?あれを見ながら皆で代わる代わる食事を作ってたんだけどね…昨日一日で失敗が連続して食堂が大惨事になっちゃって、今他の娘達が大掃除してるのよ』

 「大丈夫なのか?」

 『あんまり…大丈夫じゃないわ。阿武隈は火力強過ぎて火柱上げて厨房の天井焦がすし、三日月は熱々のお鍋を素手で掴んで火傷するし、隼鷹は泥酔しながら調理して味付けめちゃくちゃにするしで、もう散々よ。慣れない事だから皆苦労してるわ』

 

 五十鈴の口からため息が零れる。取り敢えず隼鷹は帰ったら速攻ブッ飛ばす、箒はそう心に決めた。

 

 「そうか…こうなるのを予測出来ていたら、料理の作り置きでもしておくべきだったな。すまない」

 『貴女が謝る事じゃないわよ。それに皆、料理作るのを楽しんでるのよ。今までにない経験だって』

 「はっはっは、それは良かった。ならば今の内にしっかり失敗しておくと良い。それもまた経験だ」

 『えぇ、そうさせてもらうわ…っと、呼ばれたからそろそろ切るわね』

 「あぁ、分かった。お休み」

 

 電話が切れ、箒は一息つく。自分がいない間の鎮守府は何やら変な意味で騒がしかったようだが、とにかく皆平穏に過ごしていたようで安心した。ふと見ると、龍驤は怪訝そうな目つきて箒を見ている。

 

 「ほぉ~ん、料理なぁ…キミ、随分と変わっとるなぁ。艦娘には食事なぞいらん言われるんが世の常やろ」

 「私は艦娘の事をまだよく理解出来ていないのでな。色々試してみて、良い影響が出れば続けるし悪ければ止める。実験…という言い方は流石に失礼だが、まぁ物は試しというやつだ」

 「ホンマに必要なんかなぁ?ウチらは戦う為に生まれた存在やで。人の真似事なんかさせて怒られはせんのん?」

 「まぁ良い顔はされんだろうな。が、あんな激戦に彼女達を送り込んでおいて何の報奨もなし、というのは流石に酷だろう。そう思わないか?」

 

 そう言いながら箒は片手でスマホをつつき、空いた左手で煎餅を齧る文月を優しく撫でる。

 

 「それで報奨が人の真似事かいな…温い人やな、キミ」

 「温くて結構。彼女達にとって良い影響が出るならば、私は許される範囲内で何でもやるつもりだ」

 「それ多分科学者がよく使う言葉やろ」

 

 呆れ顔で龍驤がぼやく。と、彼女の手首に付けた時計がアラームを鳴らした。

 

 「ありゃ、『帰れ』コールや。もう医務室に帰らなあかん」

 「えー!?もうかよ、まだ寛ぎてぇのによ~」

 「しゃーないて、ウチらは怪我人なんやから。いつまでもウロチョロされたら医者が困るんやろ」

 「しょーがねぇなぁ…ほら多摩、帰るから起きろよ」

 「にゃ」

 

 退屈からか寝そうになっていた多摩を起こし、三人は出入り口へ向かう。外は既に日が落ち欠けていた。

 

 「ほなウチらはこれで。また戻る時になったら連絡が来るやろから、そん時にな」

 「あぁ、またな」

 「ばいばぁい」

 

 三人はゾロゾロと部屋を出ていった。二人だけになった部屋に静寂が訪れる。ふと文月を見ると、また欠伸をしている。

 

 「夕飯までまだ時間はあるし、もう一眠りするか?」

 「うん…あたしまだ眠いよぉ…」

 

 文月は敷きっぱなしの布団にモゾモゾと潜り込んだ。綺麗に敷かれた布団からピョコッと顔だけ出す。

 

 「しれーかんも一緒に寝る?」

 「や、私はそこまで眠たくないからなぁ…少しその辺を歩いてくる。夕飯になったら起こしに来るから、それまでゆっくり眠ると良い」

 「はぁい、おやすみぃ~…」

 

 文月はそのまま力尽きるかのように眠ってしまった。スヤスヤと寝息をたてる文月を優しく撫で、箒は文月を起こさないよう忍び足で動く。そして部屋の電気を静かに消して音を立てぬようそっとドアを開けて部屋を出る。

 

 (さて…私は私のすべき事をするとしようか)

 

 念のため部屋のドアには鍵を掛けておき、箒は何処かへと歩きだす。と同時に、箒の影がゆらりと動いたかと思うと影が箒から離れて動き出し、そのまま何処かへ消えた。

 

 「…」

 「…」

 

 箒がいなくなり、日が落ちて暗くなった廊下に、二つの影が動く。その影は暗闇の中しきりにハンドサインを出しながら箒を追い掛けていった。辺りが暗くなり始めたせいで箒の影が動いた事には勿論気づきもせず。

 

 

 

 

 すっかり暗くなった大本営の敷地内を歩く箒。周囲に街灯もなく、頼りは通り掛かる近くの建物から偶に漏れ出ている明かりのみ。暗すぎて足元も覚束ない中を箒はズンズン進んでいく。と、途中でその足が止まり、目線だけが左側にある建物と建物の間に向く。そこへ向け箒はどこからいつの間に取り出したのか、コンバットナイフを一本投げ付けた。音もなく投げられたナイフは勢いよく建物の壁に突き刺さった。途端に何かが建物と建物の間から飛び出す。

 

 「ちょ、危ないなぁ!?本気で仕留める気だったでしょ!?」

 

 建物の影から出てきてそう文句を垂れたのは、口元と首周りを白く長いマフラーで隠したツーサイドアップセミロングの女子。一瞬キョトンとした箒だったが、彼女の容姿を見るなり何か思い出したように訊ねた。

 

 「お前…神通の姉か妹か?」

 「え、分かるの?もしかして私の名前も知ってる?」

 「いや知らん」

 

 箒の即答にズッコケる女子。よくよく見れば確かに神通のそれに似た柿色の改造セーラー服を着こなし、どことなく印象も神通に近い。女子は「何よそれ…」とぼやきながら立ち上がる。

 

 「おほん。私は川内型軽巡洋艦の『川内』!横須賀の艦娘で名目上は神通の姉だよ」

 

 Vサインしながら改めて自己紹介する川内。横須賀ーーつまり斎藤大将の部下にあたる艦娘という事か。箒は一言「ふむ」と呟いてまた聞いた。

 

 「それで?斎藤大将の部下のお前が、私に何の用だ?」

 

 問い掛けに川内は「いや~、ははは」と笑いながら答える。

 

 「私がって言うより…後ろの二人がね、貴女に用があるって」

 

 川内が言い終わるが早いか、箒の背中に何かが押し当てられる感触があった。感触から察するに、それは艦娘の艤装の砲塔部分だろうか。

 

 「…動くなっぽい」

 「動いたら、お腹がドカンと吹っ飛ンじゃうよ?」

 

 チラッと後ろを確認すると、砲塔を構えるのは亜麻色のストレートヘア(先端のみ桜色)に犬耳のような癖っ毛が特徴の艦娘と、赤紅色の髪を三つ編みに纏めた艦娘の二人。箒はそれが誰なのか分からず「はて…」という表情。

 

 「その二人は時雨の妹の『夕立』と『江風』だよ。あんたのとこの文月が単独演習でボコした娘の妹さ」

 

 川内の説明を聞き、箒はなるほどと思う。部屋を出た時からずっと後をつけられていたように思えたが、そういう事だったか。

 

 「私への用件は、姉の仇討ちか?」

 「そうっぽい。あのちっこいののせいで、時雨は大怪我で苦しんでるっぽい…」

 「あンな勝ち方、江風達は認めないもンね!時雨姉があンな事になっちまった以上、仇は江風達が取らなきゃ気が済まないのさ!でもあいつには見張りが付いてて手が出せない…だから」

 「だから…私を標的にしたと」

 

 箒が代弁すると、江風は小さく頷き砲塔を箒に向ける。

 

 「ちっこいのには元帥さん達が付いてるから、手を出したら提督さんに迷惑かけるっぽい…だから貴女に代わりに痛い目に遭ってもらうっぽい!」

 

 夕立もそう言って砲塔を向けてくる。何とも理不尽極まりない理由と思考回路だ、と箒は呆れ顔。川内が止めようとしないあたり、彼女も肯定的なのか、それとも彼女達の気が済むように上手くやろうとしているのか…とにかく彼女は動く気配すらない。呆れ顔のまま頭を抱え、嘆息。

 

 (どうせ私をボコボコにした後で、脅迫するなり何なりして今回の事を口封じするつもりなのだろうな。やれやれ、どこまでお気楽な脳なのやら…その後何が起こりうるか考えずとも分かるだろうに)

 

 哀れな娘達だ、と心中ため息をつく箒に、夕立と江風はまだ噛み付いてくる。

 

 「黙ってないで何か言うっぽい!あ、もしかして怖くて足が竦んで動けない?」

 「ま、当然だよな!何せあたしらは誇り高き横須賀の艦娘だかンな!ビビって当然だよな!」

 『アハハハハ!!』

 

 そう言って高笑いする二人。

 

 

 刹那、二人の頬を一陣の風が突き抜けた。

 

 『ッ!?』

 

 突然の事に二人は少しも動けず、砲塔を構えたままその場に立ち竦む。気づけば二人の頬には一筋の傷が出来、そこから血がツゥと流れ落ちる。川内も川内で、あの一瞬に一体何が起こったのか目を見張る。

 

 「…遺言はそれだけか?」

 

 その声に三人の目線が一つの方向へ向く。目線の先には、いつの間に持っていたのか打刀を抜いた箒がいた。手に持った刀の切っ先を夕立達に向け、ただ一言そう言い放った彼女の眼は、深海の如く黒く染まっていた。

 一瞬に変わった空気に、三人の体を大量の冷や汗が伝う。

 

 (ウッソでしょ…ただの人間がこんな濃密な殺気飛ばせるなんてさぁ…ホントこの人何者なのさ?)

 (な、何…!?夕立、今一瞬、この人が『怖い』って感じたっぽい…!?どうして!?)

 (う、動けねぇ…!嘘だろ、今あたし…この人が提督以上に恐ろしく感じる!)

 

 周囲の空気は静かながらとても重く、濃密な殺気が三人の全身を覆う。手が震える。足が竦む。脳には絶えず『危険』の信号が飛ばされ、アラームがけたたましく鳴り響くかのようだ。そして殺気の中心にいる存在ーー箒は、恐ろしい程に無表情だった。無表情のまま、箒は三人に言い放つ。

 

 「…ゴチャゴチャ御託はいらん。三人共、私の命を刈り取るつもりで来い。あぁ心配するな…手加減なら『私が』してやる。私は今頗る機嫌が悪いからな。本気でやると…お前達を『消して』しまいそうなんだ」

 

 

 

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