元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編) 作:神羅の霊廟
「はーっ…はーっ…」
辺りに静寂が広がる。夕立は荒い息を必死に整えている。そして彼女が持つ12.7cm連装砲B型改二の砲塔から昇る白煙。自身のクナイで磔にされている川内は呆然とし、夕立の妹の江風は先程姉に突き飛ばされた挙げ句頭を打って気絶している。
「はーっ…はーっ…グッ…!」
未だ整わぬ息を必死に押し殺しながら向けた目線の先にはーー
「…愚か者が」
彼女ーー篠ノ之箒が、砲撃前と変わらぬ表情で立っていた。砲撃は運良く外れたようで、箒はクナイの傷こそあれど砲撃による怪我は一つもない。まぁ実際は外れたのではなく、箒が普通に避けただけなのだが。
(う、嘘だ…ほぼ零距離だったんだよ…?零距離の砲撃を、彼女は避けたの…?あちこちクナイが刺さったあの状態で…?)
川内は砲撃の瞬間の一部始終をその目ではっきりと見ていた。だからこそ、箒が夕立の砲撃を避けてみせたその光景を未だ信じられずにいる。
実際にどうやって避けたかというと、あの時箒は砲撃の瞬間に素早く左手を伸ばし、夕立の連装砲の砲塔部分を持ち軽く外側へ引っ張ったのだ。これにより照準がズレて砲撃が外れたのである。夕立からすればこれは運が良かったと言えるだろう、何せ守るべき人間(箒は既に人間ではないのだが)を自らの手で○してしまう所だったからだ。とうの夕立はそんな事考える余裕などある筈もなく、ただ呆然とへたり込んでいる。
「気は済んだか?」
そんな彼女に箒は平然と声を掛ける。ビクッと身を震わせ、青くなった表情で箒を見上げる夕立。さっきまでの殺気は鳴りを潜め普通の表情になっているが、その顔は夕立にとっては恐怖でしかなく、ガタガタ震えるばかり。そんな状態の夕立へ箒はズカズカと近寄っていく。そして彼女の前にしゃがみ込む。磔状態の川内はそれをハラハラしながら見つめるしかない。
と、しゃがみ込んだ箒は、夕立の砕けた左手をそっと両手て優しく包んだ。ふわり…と暖かく心地よい感覚が拳を包む。そして包んだ手を広げると、砕けた筈の拳は元通りに治っていた。
「ぽっ…!?」
驚いて思わず左手を握ったり開いたりする夕立。手は一体どうなっているのか完治しており、元のように動かせる。ふと全身を見ると、あれだけ動き回って泥だらけだった制服もすっかり綺麗になっており、艤装の掠り傷も綺麗さっぱり取れている。
顔を見上げて箒を見る。先程までの無表情から、今は夕立を慈しむような優しい表情に変わっていた。唖然とした表情の夕立の頭を優しく撫でる箒。続けてこう言った。
「あまり斎藤大将に迷惑をかけないようにな。あの人は上手いこと隠してはいるが、内心ではお前達を大切に思っている人だ。お前達がこんな事で怪我したと聞けば必ず悲しむぞ」
そう言って箒は立ち上がり、今度は川内の方へと歩いていく。そして彼女を磔状態にしていたクナイを全て壁から引き抜き、また自身に刺さったままのクナイも引き抜いて綺麗に拭き取り、それらを彼女に返却。更に磔から解放された川内の両手を優しく握り締めると、ふわり…と暖かい感覚が川内を包み、同じように川内の制服も綺麗になり、身体や艤装の傷もすっかり消えていた。
「ではな。治したとはいえまだ不完全だ、今日はしっかり身体を休めるようにな」
そう言い残し箒はさっさと夜の闇に消えてしまった。
「…」
箒が去ってからも、二人は呆然として動かなかった。目の前で起こった事象に思考が追い付いておらず、周辺が騒がしくなり始めたのにも気づかない程に。先程の夕立の砲撃音によってか、提督や艦娘だけでなく陸軍所属の憲兵達まで集まってきた。
「川内!夕立!一体何があった!?」
聞き慣れた声にようやく思考が戻り、二人が振り向く。そこには険しい表情でバタバタと走ってくる自分達の仕える提督、斎藤の姿が。その後ろには中川や瀬尾、薙の姿もある。と、彼を見て緊張の糸が切れたのか川内はその場にへたり込み、夕立は前のめりに倒れそうになったところを斎藤に支えられる。慌てて斎藤が抱き起こすと、夕立は気を失っているようだった。近くにいた憲兵に声を掛け、夕立と江風を医務室へ運ばせる。
「川内…話してもらうぞ。一体ここで、何があったのか」
そして川内に向き直り事情を聞くと、川内は「あはは…」と自嘲気味に笑いながら今回顛末を事細かに話した。今回の単独演習での時雨の敗北に納得いかず夕立と江風が半ば暴走気味に箒に喧嘩を売りに行った事、十分くらい戦ったが自身のクナイ攻撃以外は全く攻撃が当たらなかった事、逆に三人揃って箒に制圧されてしまった事。因みにその時負った怪我を箒が一瞬で治した事は言わなかった。どうせ信じてもらえないだろうから。
「…」
話を聞き終えた斎藤は何とも言えない渋い表情だった。頭を抱え考え込む彼を川内は申し訳なさそうに見上げる。
「…今日は取り敢えず部屋に戻れ。お前達三人への処罰は横須賀に戻り次第追って伝える」
辛うじてそう言うと、川内は「了解…」と言ってフラフラと帰っていった。その後ろ姿を見送り、斎藤はため息一つ。
「…また篠ノ之少佐絡みか。あの小娘は問題を起こさなければ気が済まんのか?」
「問題を起こしている、というよりは問題の原因そのものと化してますよね、彼女」
「目の上の瘤どころの話じゃないわよ、彼女。ほっといたら本当に何しでかすか分かったもんじゃないわ」
呆れながらも斎藤達は今回の件を艦娘同士の喧嘩と結論付け、周りにいた人達全員をさっさと撤収させた。ガヤガヤ騒ぎながら撤収していく人々を遠目に、斎藤はまた考え込む。
「薙…やはりお前の言う通り、私が彼女の手綱を握っておくべきのようだな」
「えぇ。彼女、放置すると海軍という組織を壊してしまいそうですから…物理的に」
「とんだじゃじゃ馬を押し付けられたものだ…只でさえうちの艦娘達はじゃじゃ馬揃いだと言うのに…」
「誰の手綱を握ると?」
突如背後から聞こえた声に思わず振り向くと、いつの間にそこにいたのか建物の壁にもたれた箒が腕組みをして立っていた。一瞬ビビる斎藤達だったが平静を装い咳払いをする。
「…川内から話は聞いた。こちらの艦娘が先にちょっかいを出したと」
「えぇ。うちの文月が倒した艦娘…時雨の敵討ちとか言ってましたね。彼女達は時雨の姉妹艦なんだとか言ってましたが」
鋭い目で斎藤を見据える箒。斎藤は「分かっている」と言いまたため息をつく。
「川内達は責任持ってこちらで処分しておく。それで構わないか?」
「はい、それで構いません。私にそこまでの権限はありませんから」
「本当に良いのですか?貴方は一応被害者側ですから、何かしら処罰に関して口出し出来る立場と思いますが」
薙が尋ねるが、箒は首を横に振る。
「彼女達の敵討ちという言い分も分からない事はありません。時雨を倒したのはうちの文月。そしてその文月を育てたのは私。恨まれても仕方のない事です」
「でも提督である貴女に手を出した事は事実よ。それは決して覆らない」
「えぇ。ですから…『相応の』処罰を彼女達に与えてくれるのでしょう?斎藤大将」
にこやかに尋ねてくる箒にまた一瞬ビビる斎藤達。なるべく冷静を保ち質問に答える。
「ああ、そのつもりだ。それは約束する」
「では、後の事はよろしくお願いいたします。それでは」
そう言いお辞儀すると、箒は四人の大将の間をすり抜けるように通っていく。と、ふと何か閃いたのか、箒は瀬尾の前で立ち止まる。
「瀬尾大将」
「何かね?」
不思議そうにする瀬尾に対し、箒は胸元をゴソゴソ漁ると、その豊満な谷間から小さなビニール袋を取り出して瀬尾に渡した。
「これは?」
「貴方へお返しします。設置するのでしたら、もう少しバレないように設置すべきでしたね」
その言に瀬尾は直ぐ様ビニール袋を開く。その中には、粉々に砕かれた盗聴器の残骸が山となって入っていた。途端に瀬尾は青褪める。
「何故…!」
「あぁそれから、私の事を間者に命じて色々お調べになられているようですが、これ以上は調べない方が宜しいかと。『知らぬが仏』…もしこれ以上踏み込むのでしたら、その時は…もしかしたら、『血を見るかも』、しれませんよ?フフフ…」
悪戯っぽく微笑み、そのまま箒は夜の闇に消えてしまった。彼女がいなくなった途端、瀬尾が膝から崩れ落ちる。青褪めた顔に手を当て「ハハハ…」と乾いた笑いをこぼす。
「まさか泊地どころか宿泊部屋の盗聴器まで見破るとは…やはり只者ではないようですな」
青い顔のまま瀬尾はスマホをポケットから出して電話を始める。
「あぁ、仁科ですか?命令です…諜報員をすぐに宿毛湾から退かせなさい。これ以上の詮索は危険です、命にーーいやそれだけではない、呉鎮守府の存亡にかかわる」
『え!?それはどうして…!』
「詳細は戻り次第話します。大至急撤収させなさい」
電話口から何かまだ聞こえるが、それだけ言って瀬尾は電話を切りため息をつく。
「まったく…こんな事、鎮守府発足以来初めての事ですよ」
「優秀な人材を抱えたお前でさえ全力で匙を投げるか。まぁある意味正解だろうな、今回は本当にーー」
そこまで言葉を出して斎藤が黙る。顎に手を当て考え込む仕草。
「どうかしたの?」
中川が尋ねると、斎藤は神妙な面持ちで話し出す。
「…お前達は覚えているか?四ヶ月前の『あの妖精』の言を」
斎藤のその言に、他の三人の表情は真剣なものとなる。
「えぇ、覚えてるわ…まさか彼女がそうだと言いたいの?」
「確証はない。が、タイミングが良すぎる。可能性としておくのも一考だ」
「確かに…明確には話しませんでしたが、『あの妖精』の語った内容と彼女…一致する箇所が多い」
四人は様々な考察を交えて話し合う。あの日の出来事を思い返しながらーー
四ヶ月前。
いつものように大本営での会議後に集まり談笑していた四人の前に、突如その妖精は現れた。
『はじめまして』
黄色いリボンで留めた茶色のおさげの上から被った白い帽子にセーラー服、そして両手でぶら下げた猫。何を考えているのか分からない笑み。あまりにも不気味なその妖精を前に四人は息をのむ。そんな四人の気持ちを知ってか知らずか、妖精は『まぁまぁ落ち着いて』と諭す。
『お困りのようですね。海域解放が進まず、提督や艦娘が育たず、しかも運用方法で内輪揉め。さぞお疲れの事でしょう』
笑みを崩さず淡々と話す妖精に、また四人は息をのむ。
『ですがご心配なく。これより半年経つか経たぬか…その辺りに、現状を打破出来る者が現れます。その者は皆様方とは異なる理に腰を下ろせし者…その者が智を振るえば千の艦娘を動かし、勇を振るえば万の深海棲艦を滅ぼしましょう』
「馬鹿な…そんな者がいる筈が」
『いるのです。いずれ近い内に…その者はふらりと現れます。必ずその者と手を取り合い、深海棲艦を滅ぼすのです』
そこまで言うと、妖精は四人が何か言いかけるより早くスッと消えてしまった。あまりに突飛な出来事に、四人は暫く何も言えずに呆然とするばかりであったーー
「あの時はまさかと思っていたが…あの妖精の言が現実味を帯びてきたようだ」
「では…いよいよ動き出すのですか?」
「うむ。この期を逃してはならん、すぐにでも元帥に奏上し動かなくては」
「でも貴方、先に硫黄島の攻略があるでしょ?」
走り出そうとした斎藤を中川がそう言って諫める。斎藤は立ち止まり、また頭を抱えた。
「…まずはそちらが優先か。瀬尾、日進と矢矧を借りたいのだがいけるか?」
「ええ、大丈夫ですよ。作戦の日を教えてくれればその日に間に合うように向かわせますが…あの二人だけで大丈夫ですか?手早く済ませるなら戦艦もお貸ししますが」
「今回戦艦は必要ない。報告によると、硫黄島に巣食う姫級は装甲こそ薄いが異次元級の回避力を持っているとの事だ。ならば火力ゴリ押しよりも、手数多めで行く方が良い。幸い練度は十分にある、ヘマをせん限りは軽巡メインでも撃滅は出来よう」
斎藤の説明に瀬尾は納得の表情。
「で、だ。瀬尾、お前はこのまま彼女を放置するつもりか?」
「まさか。間者で駄目なら別の手段を使うだけですよ、お誂え向きの逸材がうちにはいますから」
そう言い不敵な笑みを見せる瀬尾。瀬尾の企みを察したのかつられて斎藤達も笑みを見せる。
「そうか…ならば私もそれに便乗させてもらうとしよう」
「なら私もそうさせてもらうわ。あの娘に俄然興味が沸いてきたし」
「ではそれぞれで彼女の逆鱗に触れず、かつお互いを邪魔しない程度に探りを入れる事にしましょう。彼女に関する新しい情報は私達全員で常に共有するという事で良いですね?」
薙の提案に頷く三人。そして善は急げと、四人はそれぞれの鎮守府へ電話を掛け始めた。
その様子を鋭い目で見つめる燕を彷彿とさせる姿の怪物が物陰におり、それが踵を返して夜の闇に溶けていった事に気づく事もなく。
「…と、いうのが私が盗み聞きした内容です」
波止場へ続く一本道。そこを腕組みをして悠然と歩く箒に、先程の燕の怪物が数歩後ろを歩きながら報告している。
「そうか。まぁあの方々がそう簡単に諦めるとは思っていなかったが…御苦労だったな、『エファジェ』」
箒はそう言いその怪物ーー『エファジェ』を労る。エファジェは「…いえ、王妃様の為なら」と返し恭しくお辞儀する。
「しかし宜しいのですか?あの者共は王妃様の秘密を丸裸にせんとしております。お望みでしたら今のうちに闇討ちするという事も出来ますが」
「それは無しだ。確かに私達の秘密に踏み込まれるのはこちらとしても不味い。が、あの方々はこの世界において重要の役割を持つ。『深海棲艦を撃滅する』という役割がな。だからこそ、多少の悪巧みには目を瞑らなくてはならん」
そこまで言って箒はまだ理解できていない様子のエファジェに向き直り、話を続ける。
「エファジェ。私達は本来この世界に存在する事、そしてこの世界に過干渉する事は禁忌だ、その理由は分かるな?」
「はい、それはもう…もし過干渉すれば、本来その世界に訪れる筈の未来が変わってしまうが為…」
「そうだ。確かにあの方々を秘密裏に始末すればそれ以上秘密を探られる事は無い。が、それは対深海棲艦における大事な人材を意図的に喪失させる…つまり過干渉と同義だ」
「あの者共を始末すると人類と艦娘が深海棲艦に敗北する未来に変わってしまうと、王妃様はそうお考えなのですか?」
「私が言いたいのはそういう事だ。まぁ未来が見える訳ではないから断言は出来んがな」
立ち止まり軽く伸びをしながら箒はそう言う。
そもそも箒達は別世界からやって来た異端の存在であり、この世界の人間達や艦娘達は決して知らぬ力を所持している。それは下手すれば世界のパワーバランスすら崩壊させてしまう程の強大な力。そんな物が世に解き放たれでもすれば、世界中がそれを奪おうと躍起になるだろう。そうなれば最悪世界が滅ぶ。
箒達はそれを望んではいない。寧ろ自分達が余所者だと理解しているからこそ、極力それを行使しないよう努めている。自分の力のせいで世界を一つ壊してしまう事が単純に嫌だからだ。
「私達の力は、最初こそ繁栄を齎すが、やがて必然的に滅亡を齎す禁忌の泉。他人に奪われる事があってはならん。表面の安全な箇所だけ情報を開示し、後は気取られぬよう封印する。それが善策だ」
「なるほど、理解しました」
エファジェ本人は納得いかない表情だったが、エファジェなりに箒達の事を考えているのだろう。
「さて、ところでエファジェ。兄のエフィンムとは交信出来たのか?」
箒は気になっていた事を聞いてみると、エファジェは首を横に振る。
「まだ交信は出来ておりません。ただもしこの世界に神王様や兄上がいないのであれば、そもそも交信自体が出来ません。ですが交信の為の波動は正しく機能しておりますので、間違いなくこの世界におられるのは確信しております」
「だろうな。私も牙也の力の波動をヒシヒシと感じている。この世界に来ているのは正しいだろう。場所までは分からぬが」
「私が至らぬばかりに…申し訳ございません」
そう言ってため息一つつく箒。察してかエファジェは平身低頭謝罪すると、箒は「止めろ」と言わんばかりに首を振る。
「謝ってどうにかなるものではないのだ。だが可能性があるのなら…0%になるまでやり続けるしかあるまい。頼むぞ」
「はっ」
エファジェは頷くと、箒の影に潜ってその場から消えた。エファジェを見送った箒はふと真っ暗になった空を見上げる。その先には三日月がうっすらと輝き、地を照らしていた。
「牙也…お前は今、何処で何をしているのか。あぁ…早くお前に会いたいものだ」
ポツリと呟き、箒はその場を離れようとする。と、
「〜♪」
「?」
微かだが何処からともなく歌声が聴こえてきた。静かな道に細々と響く淡く透き通った歌声は、箒の心を動かすには十分過ぎるもの。直ぐ様箒は歌声のした方向ーー波止場へと歩を進めた。歌声に導かれるように自然と早足になる。早鐘の如く心の臓が鼓動を打つ。この歌声の正体を早く知りたいと脳が叫ぶ。歩を進め近付く程にその歌声は鮮明に聴こえ、箒の心を打つ。
そして遂に、箒は波止場に出た。
「〜♪」
波止場に出た箒の目の前で歌声を響かせていたその人物。
柿色のセーラー服と黒のミニスカート、同じく黒の長手袋。美しい黒髪を左右に団子の形に纏めたその少女は、波止場に悠然と立ち美しい歌声を響かせていた。現役歌手も驚くであろうその歌声は、ビブラートやこぶしが効果的に乗ってより美しさを際立たせる。時に歌声に合わせて艶やかに舞う仕草も見せる。箒はその歌声や所作に目を奪われ、声も出さずに見つめていた。
やがて歌が終わると、満足したのか少女は「ん〜」と体を伸ばす。終始見惚れっぱなしだった箒は、自分でも意識せぬ間に思わず拍手を送っていた。拍手に気づいたのか、少女がバッと振り返って箒と目が合った。
「ご、ごめんなさい!ご迷惑おかけしました!」
少女は慌てて謝罪してその場を去ろうと駆け足で箒の横を通り過ぎようとする。そんな彼女の腕を箒は掴み、自身へ引き寄せる。困惑する彼女へ、箒は彼女の肩に手を置いてただ一言。
「お前、うちの鎮守府に来ないか?」
「ほへ?」
これが、後に『戦場の歌姫』の二つ名を与えられた軽巡艦娘『那珂』との初邂逅となった。