元世捨て人の気ままな旅路(艦隊これくしょん編)   作:神羅の霊廟

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三大将が動き出す

 

 「お帰りなさいませ、提督」

 

 舞鶴鎮守府。大本営に座す四人の大将の中で唯一の女性大将である中川秋穂が率いる鎮守府。中川は今回の大本営での日程が終わってすぐに帰路に付き、夕方になる前には鎮守府に戻ってきていた。

 

 「やっと終わったわ、ある意味忙しかった会議がね」

 「お疲れ様でした。提督、お荷物お持ちします。皆さんもお疲れ様でした、今日はゆっくり休んで下さいね」

 

 相変わらずムスッとした表情の彼女と今回会議に付いて行った艦娘達を一人の艦娘が出迎える。CA(キャビンアテンダント)のそれにも似た青を基調とした制服を着たその艦娘『高雄』は会議から戻ってきた中川達に恭しく礼する。

 

 「高雄、私がいない間に何かあった?」

 「いえ、これと言って報告する程の事は特に。強いて言えば、退屈過ぎて妹の愛宕がパンパカ騒いていたくらいです」

 

 中川は「そう」とだけ言って荷物を高雄に預ける。他の艦娘達もそれぞれの荷物を持って部屋に戻っていく。中川も高雄を連れて一旦自室へ戻り、荷物を部屋へ投げ入れた。そしてその足で執務室へ行き、業務机に置かれた放送機器に手を伸ばす。

 

 「業務連絡、業務連絡。駆逐艦初春と駆逐艦初霜はすぐに執務室まで来なさい。繰り返す、駆逐艦初春と駆逐艦初霜はすぐに執務室まで」

 

 それだけ言いソファにドッカリ腰掛ける。ふと見ると高雄が手際よく持って帰ってきた荷物を整理している。

 

 「高雄、それ後回しにすれば良いわよ。これから大事な話をするから」

 

 中川の言に反応し、高雄は神妙な面持ちに。途中だった荷物の片付けを止めて中川の隣に座る。

 

 「珍しいですね、提督からそんな話が出てくるだなんて」

 「今回の会議とは別の件で話があるのよ。初春と初霜はその件で今呼んだの」

 「彼女達を呼ぶ…宿毛湾で何かあったのですか?」

 「彼女達が来てから話すわ。それより何か飲み物用意しといてくれるかしら」

 

 

 それから三分。

 

 「失礼します。駆逐艦初霜、お呼び出しを受け参上しました」

 「駆逐艦初春、参ったぞ」

 

 二人の駆逐艦娘が執務室に入ってくる。一人は足元近くまで伸ばした藤色の髪とノースリーブタイプのセーラー服が特徴的の艦娘。一人は紺のブレザーとプリーツスカートに白のカッターシャツを多少着崩した学生風の艦娘。

 

 「よく来たわね。取り敢えずそこに座りなさいな」

 

 中川に促され二人は彼女の向かいのソファに腰掛ける。そして中川が話を始めるーー

 

 「赤城。貴女も扉の側に隠れてないで入って来なさいな」

 

 と思ったら、扉に向かってそう言った。高雄達が揃って扉に目を向けたのとほぼ同じくして、扉が開き赤城が入ってきた。頬がハムスターみたく膨らみ、その手にはバケツ一杯のお菓子が。恐らく会議から帰ってきてすぐ鎮守府併設の酒保で買い込んだのだろう。

 

 「はいはいっと…あ、提督もいります?」

 「後で。それよりもどうせだから貴女も座りなさい。立ち食いは感心しないわよ」

 

 そう言って赤城を半ば無理矢理座らせ、高雄が持ってきたお茶を啜り、改めて話を始める。

 

 「さて、何から話そうかしら…いえ、単刀直入に言うべきかしら…そうね。初春、初霜。貴女達二人に私から特別任務を与えるわ」

 「特別任務…ですか?」

 

 初霜は神妙な面持ちで中川を見、対照的に初春は興味なさそうに頬杖ついて話を聴いている。

 

 「そう。任務の内容は簡単…篠ノ之箒少佐の身辺調査よ」

 「篠ノ之…確かつい最近、私達が所属している宿毛湾泊地に新しく着任した提督ですね」

 「そう。貴女達二人、近い内に出向を切り上げて宿毛湾に戻す予定よ。そして彼女ーー篠ノ之少佐の下で戦う傍ら、彼女に関する情報を出来るだけ多く集めて来なさい」

 「情報と言うと、例えば?」

 「彼女に関する事なら何でも良いわ、とにかくひたすら集めなさい。で、集めた情報は逐一私に報告するように」

 

 任務内容を中川が説明している間、初霜はきちんと耳を傾けていたが、初春はやはりというか頬杖ついて聴き流しているようだった。中川と高雄は呆れて頭を抱え、赤城は我関せずとお菓子を貪っている。気づいて初霜が姉の脇腹に手刀を入れる。

 

 「ほばぁ!?何をするか初霜!」

 「何をするかじゃありません!提督の話をちゃんと聴いて下さい!姉さんったらもう…!」

 「分かった分かった…して提督よ。何故にそなたはその新参者に興味を示すのかのぅ。妾には分からぬ」

 

 初春は持っていた扇子をバッと開きながら聴いてくる。ちなみに開いた扇子には何故か『理解不能』という文字が。初春の純粋な疑問に対し、中川はこう答えた。

 

 「興味とかじゃないわ。あれはそう…危険視してるって表現が合うわね」

 

 その返答に、お菓子を貪る赤城以外の艦娘は表情が険しくなった。

 

 「この際だからはっきり言っておくわ。貴女達二人の新しい提督はね、海軍にとって有害性のある存在よ。海軍全体を引っ掻き回し、統率を乱しかねない人物なの。だからこそ大人しい今のうちに手綱を握っておかないと駄目なのよ」

 「ふむ…しかし提督よ。それほどに危険ならば、呉の瀬尾大将にお任せすれば良いではないか。呉に任せればその新参者も大して脅威にはなるまいて。何も妾達が首を突っ込まずともーー」

 「…瀬尾のオッサンも全力で匙を投げたのよ。一人じゃ無理だって」

 

 頭を抱えながらボヤかれたその報告に初春達は「はい?」と言いたげな表情に。海軍という輝かしい職の裏で暗殺等の汚い仕事を一手に引き受け、海軍という一組織のバランス取りを担ってきた瀬尾が匙を投げた。彼女達からすれば信じられない事である。初春の扇子には今度は『そんなアホな』の文字が。

 

 「あの小娘、只者じゃないのよ。瀬尾のオッサンが送り込んだ諜報員を全員戦闘不能にして送り返したり、仕掛けた盗聴器を全部見つけて破壊した上で私達の前で返却してきたり…」

 「…本当なのですか、それ。にわかには信じ難い事ですが」

 「高雄の疑問も最もよ。けど事実。挙げ句の果てには、斎藤のジジイんとこの『狂犬』と『紅速』、それに『無双の忍』をまとめて相手して、善戦どころか勝ってるのよ。私だって嘘だっ!て叫びたいくらいよ」

 

 中川から齎される情報の数々に頭痛を覚え始めた三人。艦娘、しかも横須賀どころか全国の鎮守府にその名を轟かす猛者を相手に勝つとは…最早その提督は正しく人間なのか?とすら思い始めていた。実際問題箒は既に人間ではなくなっているので、強ち間違いではないが。

 

 「ムグムグ…提督、『あの事』は話さなくて良いのですか?」

 

 と、我関せずを貫いていた赤城がここで話に入ってきた。お菓子を食べながらなので緊張感は皆無だが。

 

 「…本当は話すべきではないのだけど、彼女に接触する以上、知っておくべきかもしれないわね。海軍ーーというより艦娘に関する禁忌の情報を」

 

 そう前置きして中川が語り出す。この三日間の間で起きた、海軍を揺るがしかねない出来事を。

 

 

 

 

 「はあッ!?そんな大事な情報をずっと隠してきてたの!?バッカじゃない!?」

 

 時を同じくして、佐世保鎮守府。四大将の一人、薙淳一郎が統率するこの鎮守府でも、薙達が鎮守府に戻って来てすぐ箒に関する事で話し合いが行われていた。薙の話を聴いていた艦娘『霞』が大声を上げて薙に罵声を浴びせている。

 

 「霞、落ち着いて下さい。話はまだ途中ですよ」

 「あんたはもっと焦りなさい、不知火!私達の存在意義そのものに関係する事なのよ!?こんな話が国民に流れたら、それこそ海軍の存続すら危ぶまれるでしょうが!押され気味で戦線も安定してない現状に、プラスアルファでこの話が流れてみなさい!海軍が立ち行かなくなるわよ!」

 

 机をバンバン叩いて叫ぶ霞。彼女は佐世保鎮守府内では不知火に次ぐ実力を持つ歴戦の艦娘で、今まで多くの作戦に旗艦として参加し多大な戦果を上げている。また鎮守府のご意見番としての側面もあり、薙や多くの艦娘が彼女に意見を貰いに来る等信頼は高い。

 ちなみに先程まで薙が話していたのは、大本営で起きた艦娘の深海棲艦化現象、『狂化』についての話。それが実際に今回の会議の場ーー厳密にはそこで行われた単独演習の場で起きてしまったという事実。自分達艦娘の立場を揺るがす出来事にキレまくりの霞は更に薙に噛み付く。

 

 「どーすんのよこのクズ!というかそんな問題抱えた奴なんかさっさと切り捨てなさいよ!なんで放置する方面で事を進めてるのよ!?」

 「放置はしませんよ。既に事を進める準備を始めています。その一歩として…霰君、君には宿毛湾泊地へ戻り、彼女の情報を掻き集めて逐一報告してもらいたいのです」

 

 そう言い薙は喚く霞の隣に座る艦娘『霰』に目を向けた。

 

 「霰が、スパイ…するの?」

 「スパイ…まぁスパイではありますね。ただし彼女ーー篠ノ之少佐を刺激しないようお願いします。彼女は一度敵とみなした者は徹底的に消しに掛かるでしょうから」

 「何を馬鹿な事ほざいてんのよ!そんな危険な任務を霰にやらせる気なの!?巫山戯ないで!霰にやらせるくらいなら私が行くわ!」

 「駄目です。貴女を含め他の艦娘が出ては、逆に篠ノ之少佐に海軍に対する猜疑心を持たせる事になります。霰君にこの任務を任せる理由はそこにもあるんですよ」

 「どういう意味よ」

 

 言っている意味が分からない霞に対し、薙は続けた。

 

 「霰君は元々宿毛湾泊地からここに出向している身です。いくら彼女であっても、本籍が自分が運営する泊地の艦娘を受け入れ拒否する事は絶対にしません。受け入れざるをえないのです。つまり、向こうの本心に関わらず安全に情報収集者を紛れ込ませる事が出来る…無理矢理感はありますがそういう事です」

 「ふーん。クズなりにちゃんと考えてるのね…そういう事なら仕方ないわ」

 「でもさー司令、そのシノノメ、だっけ?その新しい宿毛湾の司令ってそんなにヤバい人なの?」

 

 霞が取り敢えず薙の説明に納得してソファに座り直すと、今度は不知火の隣に座る狐色ツインテールの艦娘が質問してくる。

 

 「…聴きたいですか?『陽炎』。彼女ーー篠ノ之少佐がどれだけ恐ろしいか」

 

 前屈みになってそう聴いてきた薙に陽炎は少し臆したが、興味あるのは間違いないので小さく頷いた。一応霞と霰にも確認を取り、了承を得る(不知火は既に知ってる)。

 

 「まず先程の『狂化』の話で話題に上がった宿毛湾泊地の文月ですが…現状の練度が250です」

 

 いきなりのぶっ飛び発言に陽炎と霞がソファから転落。

 

 「ちょ、ちょっと司令!冗談とか嘘はつける範囲でつくものなのよ、分かってる!?」

 「私も不知火も冗談であって欲しいと思っていました」

 「に、250ですって!?不知火、あんたそんな法螺話信じてるの!?」

 「不知火も最初は何の冗談かと思いました…ですがこれは練度測定器で出された紛れもない事実。信じるしかありません」

 「ていうかケッコン(仮)は!?練度99以上になるにはそれが必須でしょうが!?」

 「その常識すら完全無視されています。恐らく狂化は、そういう常識すら正面から破壊する現象のようで…」

 

 薙と不知火から齎される度肝を抜く情報の数々に霞は頭痛を感じていた。しかし話はこれで終わらず「この話にはまだ続きがあります」と薙が続ける。

 

 「ちなみに少佐に尋ねたところ、少佐が凡そ三週間前に宿毛湾泊地に着任した時点で文月の練度は30だったそうです。そこから単独演習までの三週間の間で、少佐は文月を練度99まで仕上げたそうです」

 「三週間で練度を約三倍に…頑張れば出来そうだけど、かなりブラック運営になるわね」

 「…陽炎。確かに私は今、『三週間の間で練度を30から99まで上げた』と言いました。実はそれ、厳密に言うとちょっと違うんですよ」

 「どういう事?」

 

 陽炎が頭に?を浮かべて尋ねると、薙からまたとんでもない返答が飛んできた。

 

 「詳しく尋ねたところ…少佐が文月の育成に使った期間は、会議前の『一週間だけ』だそうです」

 

 その返答の意味が分からずまた?を頭に浮かべる陽炎だったが、薙の今までの言葉を脳内で反芻した後、

 

 「はぁぁぁぁぁ!?」

 

 叫びながらまたソファから転落していた。派手に転落したのでスカートの中のスパッツとお気に入りの白の下着が見えてしまっていたが陽炎はお構い無し。その向かい側では、用意された紅茶を心を落ち着かせる為に飲んでいた霞がその話を聴いて思い切り紅茶を吹き出し、霰が慌てて吹き出した紅茶を拭いていた。

 

 「たった一週間で練度99!?どんな無茶苦茶な育成したら一週間で練度99まで行くのよ!?てか、残りの二週間は何してたのよ!?」

 「提督業の何たるかを勉強するのに費やしていたと。その間の運営は宿毛湾に残っていた艦娘達に一通り任せていたと聴いています。また本来なら遅くとも三週間前に会議と演習に関する書類は届いている筈なのですが、彼女の場合は司令官交代のゴタゴタもあって書類の到着が会議の一週間前と遅れていました。ですから育成期間が短かったのは仕方ない事ですが、果たしてどのような育成法を試したら一週間で練度99になるのか…見当も付きません」

 

 陽炎は頭を抱えて項垂れるしかなかった。

 

 「ごめん司令。もう聴かない。今メッチャ私の脳がキャパオーバーしてる」

 「そうですか…ちなみに少佐曰く、もう一人『朧』という艦娘も文月と一緒に育てていたらしく」

 「もう聴かないって言ったでしょ!?止めてよこれ以上私の脳に負担強いるの!」

 

 佐世保鎮守府所属、駆逐艦陽炎。陽炎型のネームシップで不知火に勝らずとも実力はあるのだが、ここでは他の艦娘だけでなく薙にすらイジり要員にされがちな残念な娘である。

 

 

 

 

 「…さて、お前達がここに呼ばれた理由は分かっているな?」

 

 また場所を変えて、横須賀鎮守府。こちらの執務室には、鎮守府を運営する斎藤史龍が目の前に立つ四人の艦娘ーー川内、夕立、江風、そして時雨に鋭い目を送っていた。

 

 「うん、分かってる…私達の処分内容でしょ?」

 

 川内が言うと「そうだ」と彼は返す。

 

 「夕立、江風。お前達二人は今回の単独演習の結果に納得いかず、篠ノ之箒少佐に襲撃を仕掛けた罪。川内はそれを知りながら二人を止めなかった罪がある」

 「うん…それは認めるけど、なんで時雨もここに?」

 

 川内が時雨を指さしながら言う。時雨はあの後緊急で専用ドックに運ばれ治療を受けた。幸い必死の治療の甲斐もあり早くに目覚め歩けるまでには回復したが、艤装は文月によって無惨に破壊されてしまい現在大本営の明石に預けられ修理されている。

 

 「今回お前達三人に罰を与えるにあたり、時雨を主に夕立と江風のストッパーとして呼んだのだ。別に今回の演習での敗北に関して何かペナルティを与える訳では無い事を時雨は理解するように」

 

 時雨は小さく頷いた。

 

 「ではお前達三人への罰は…」

 

 斎藤は一旦言葉を切り、一度深呼吸した。こんな罰を本人的には与えたくないのだが、そうしなければならない。まして箒の前で三人の厳罰を約束したのだから尚更だ。斎藤は決心して罰の内容を話す。

 

 

 

 「硫黄島攻略作戦の後、お前達三人は篠ノ之少佐が硫黄島鎮守府(仮)に移籍するタイミングで彼女の傘下に入れ。そして私が認可するまでの間、彼女に関する情報を集めてくる事。それがお前達への罰だ」

 

 

 

 「…え?」

 

 思わぬ罰の内容に三人はキョトン。時雨もビックリして斎藤を見ている。

 

 「そして時雨。お前もこの三人に付いていけ。そして三人を見張る傍ら、彼女の指導を受けてこい」

 「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 ここで川内が口を挟む。一定期間営巣行きだとか暫く出撃訓練禁止といったキツイ罰を予想していた三人は、斎藤から与えられた考えもしなかった罰に困惑している。

 

 「何か文句があるのか?」

 「い、いや文句って言うか…篠ノ之少佐の傘下って、それって実質的な左遷って事?」

 「左遷…確かにそう思われても仕方ないだろう。だがその実情は違う。お前達も思い知らされただろうが、彼女ーー篠ノ之少佐はかなり危険な小娘だ。今後あの小娘が何をしでかすか誰にも予想出来ん。だからこそ、お前達にあの小娘を監視し何かあれば即刻私達に伝達する役目を与える。そういう事だ」

 「表向きは左遷だけど、裏を返せば諜報任務という訳だね」

 「その通りだ。中川、瀬尾、薙も宿毛湾泊地から出向している艦娘を使って諜報任務を任せる事になっている。彼女等と連携して任務にあたれ」

 

 斎藤の命を受け四人は揃って敬礼。と、

 

 「提督、一つ質問しても良いかな?」

 

 時雨が思い出したかのように尋ねてきた。

 

 「なんだ?」

 「今回の任務、諜報任務だよね。考えたんだけど、諜報なら呉の瀬尾大将が既にやってるんじゃないのかな?どうして関係ない横須賀や舞鶴、それに佐世保も協力する事に「0だ」え?」

 

 質問を遮るように斎藤の口から出た0という数字。何を意味しているのかと四人が頭に?を浮かべていると、斎藤が今回の経緯を説明し始めた。

 

 「約三週間前…篠ノ之少佐は適任者が来るまでの繋ぎとして着任していた亜道と代わる形で宿毛湾泊地に着任した。勿論瀬尾もその情報を聴きつけて直ぐ様諜報員を宿毛湾へ送り、自身も少佐に関する情報を様々な伝手から集めようとした。が…何も出てこなかった」

 

 四人の表情は忽ち「え?」とか「はい?」みたいな表情に。

 

 「少佐の出生、出身地、家族構成、履歴情報。他全てを洗ったが、彼女に関する情報は何も出てこなかった…つまり0だ。瀬尾が送った諜報員も、全て戦闘不能にされ送り返された。盗聴器も全て破壊された。つまるところ…事前情報が何もない。今回の諜報任務も、最早完全なノープラン状態だ」

 「事前情報無しってどんな縛りプレイなのさ…てか元帥はそんな怪しさ満点の人材をよく採用したね」

 「うむ、聴けば妖精達に強く推されたそうだ。この娘なら必ず期待以上の結果を持って帰ってきてくれるからとな。妖精達の推薦にゴリ押しされる形で採用となった経緯がある」

 

 これには川内達も納得せざるをえなかった。彼等提督や彼女達艦娘にとって、妖精の言は天啓に近い。一度妖精が何か喋ろうものなら、その言は必ず後に何かしらの影響を及ぼす。他の誰よりも信頼性が段違いなのだ。

 

 「何でも良い、どんな手段を用いても良い…とにかく一つでも多くの情報が欲しい。お前達にはあの小娘に関する情報を出来る限り多く集めて欲しいのだ。ただし…小娘の逆鱗に触れぬ範囲でな」

 「えぇ〜…そんな退屈な任務やるっぽい?つまんなーい!」

 「別に出撃や訓練を制限する訳では無いのだ、向こうでは小娘に怒られない限りは好きに動いてくれて構わない。何なら…あそこの鎮守府をこの横須賀と同じ色に染めてくれても良いのだぞ?」

 

 斎藤の言に、四人の表情は明るくなる。

 実を言うと、この四人は横須賀鎮守府の艦娘の中でも特に気性の荒い艦娘で、川内が「夜戦だぁぁぁぁ!!」なんて叫びながら毎晩鎮守府内や鎮守府近海を大暴れし、時雨、夕立、江風の三人が呼応してそれに続くというのが日常なのだ。

 度々こんな事を四人揃ってやってくれるものだから他の艦娘には呆れられ、最早スルーされる程に定着したそれを、箒の下でもやる気のようである。何せ最近は他の艦娘にスルーされるせいで退屈していたから、新たな遊び相手が作れると内心大喜びしている。

 

 「分かったな?では確かに命令は伝えた。出立の日付は後日また連絡する。それまではいつも通り過ごしてくれ」

 

 そう伝え四人を退出させた。自分以外誰もいなくなった執務室を見渡し、斎藤は座ったまま片手後手で窓を開け煙草に火を付けて吸う。ふぅと一服し、天井へ向けボヤく。

 

 「…あぁは言ったが、果たして情報と言える情報をどれだけ集められるやら。あの小娘は異常なまでにガードが固い。何か特殊な力でも働いているのか…それとも強力なボディガードでもいるのか…まぁどちらでも良い。私の役に立ち、私の道を邪魔しないのなら別にどうなろうと構わん。精々皆の興味を受け続ければ良いのだ」

 

 そう言い捨て煙草を灰皿に押し付け火を消す。と、扉の向こうから「提督、いるか?」という声が。

 

 「長門か。何か用か?」

 

 声に呼ばれ斎藤は執務室を出ていく。窓を開けっ放しになった執務室に静寂が走る。

 

 いや、開けっ放しの窓枠に降り立つ鳥ーー否、鳥に似た赤黒い何かがいた。それはキョロキョロと執務室全体を見回し、何かを探しているように見える。やがて執務室に置かれた立派な桐箪笥に目を付けた。その桐箪笥の一番上には精巧な戦艦の模型が鎮座している。そこへ移動すると、模型を埃や傷から防ぐガラスのガードに雫を一滴垂らした。すると雫が人の目のようになりギョロリと辺りを伺う仕草をした、と思うと目はすぐに消えてしまった。それを確認し、偽の鳥は窓から飛び立っていった。

 

 一体それが何だったのかーーそれを知るのは、彼女以外存在しない。

 

 

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